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2006年6月 1日 (木)

阪神・阪急統合とコーポレートガバナンス

5月30日の講演には、たくさんの方にお越しいただき、ありがとうございました。時節柄、やはり大証のコーポレートガバナンス報告書関連の質問が多かったですね。提出期限ギリギリまで真剣に思い悩んでいらっしゃった担当者の皆様方、お疲れ様でした。(といいながら、ホッとする間もなく総会対応の時期なんですよね・・・)

5月は会社法、金融商品取引法などの講演の準備で忙しくしておりましたが、その間に阪神・阪急統合、TOB開始ということで(村上氏も日本に帰国されたことから)統合は秒読みの段階に入ってきたような雰囲気ですね。こういった企業買収にからむ企業価値に関わる問題の場合には、すぐに「素人考え」の疑問が湧いてきます。(同じような疑問を抱く人がいるのか、いないのか、そのあたりがいつも興味津々なんですが・・・・・)

まずはなんといっても「45%の取得をめざす」阪急HDのTOBです。なんで45%なんでしょうか?特定株主である村上ファンドだけ応募してくれ、というサインなんでしょうかね。5月29日の阪神阪急合同のリリースによりますと、阪急HDは一般株主向けに「これは特定の株主様に向けてのTOBですから、いちおう株主平等のために買い付けの上限は設けていませんが、がんばって統合後も企業価値を上げますので一般の方々は株式交換まで持ち続けてくださいね。これからも阪急HDの株主様としてよろしく!」と明らかに公表しております。しかし、これはどう解釈したらいいのでしょうか?阪神の一般株主向けに「これからもっと価値が上がりますからTOBには応じないでください」といいながら930円で村上ファンドへ「買いますよ」と提案しても、村上ファンドだって「これから価値が上がるんだったら、その分プレミアムをつけてよ」といったことになるんじゃないでしょうか。これが上限もつけてあるようなTOBであれば、この930円は村上さん向けにプレミアム付きですよ・・・とでもいえそうですが、いちおう阪神の一般株主様にも募集はかけているわけですから、そういった理由はつけられませんよね。この阪急HDのリリースを前提にして、村上ファンドが930円で応じてしまったら、ずいぶんと村上ファンドのほうが「ナメられてしまった」ことにならないでしょうか。阪神、阪急それぞれが専門家の意見をもとに株式交換比率を検討されたようですので、この930円というのも企業価値を合理的根拠によって算定したのかもしれませんが、そういった価値の問題抜きにして、このリリースをどう解釈したらいいのか、本当に930円で村上さんはTOBに応じるのか、私には理解できません。

それから、5月29日の阪神現経営陣による取締役選任議案のお知らせのリリースですが、これも違和感を抱いてしまいます。村上ファンドは16名の取締役の半数である8名について取締役選任の提案をするはずですが、これは「経営支配」なんでしょうか?アメリカだったら過半数の社外取締役が業務執行取締役を監視するのが当たり前でしょうから、とりあえず村上さん側は、阪神電鉄グループをそういったアメリカ型のコーポレートガバナンスでやっていこう、といった提案をしただけだと思うのですが、そうではないんですかね?むしろ半数ちょうど、ということでしたら、アメリカのガバナンス形態からすれば現経営陣を尊重した「穏健派」に属するはずです。ファンドの性質上、真意は別のところにあるかもしれませんが、ともかく村上さんのこれまでのリリースに「ぶれ」はないはずです。阪神の現経営陣が「現場を知り尽くした人たちによる経営こそ必要」と強調されていますが、それであれば、そういった人たちがこれからも業務を執行していけばいいわけでして、なぜ監視役としての取締役という立場でいなければいけないのか、その理由はどこにも記載されていないようです。私はべつに村上氏を応援する気持はまったくありませんが、なぜ阪神グループにはアメリカ式のガバナンスを導入してはいけないのか、まさに「コーポレートガバナンス報告」が求められているわけでして、真正面から反論をしていただかないと説明責任を尽くしたことにはならないように思うのですが、いかがでしょうか。

おなじく、先のリリースに関しての疑問として、阪神側が上程する16名の取締役選任候補者ですが、もしひとりでも就任できない人があれば、全員が就任しない旨、各自の意思が明確に確認されているそうです。普段ならこれでもいいとおもいますが、この10月には国土交通省による省令(鉄道事業安全法による)で、取締役のなかに、安全管理統括責任者をひとり就任させなければならず、10年ほどの鉄道安全業務に執務した人であることが要求されるそうです。本当に、この省令制定の予定を知りながら、上記のような提案をするのでしょうか?村上ファンド側が経営参加するんだったら、現取締役の方々は、残された会社の安全運行業務については関与しない、という態度と受け取ってよろしいのでしょうか?私の常識がまちがっていればよいのですが、普通の近隣住民や乗客、一般投資家の立場からすると、「カケヒキ」にもほどがある、といった感覚にならないでしょうか。

ほかにも、そもそも阪神と「敵対的買収防衛策のコンサルタント」として契約していた大和證券SMBCが、阪急のTOBの公開買付代理人になっていますが、これは利益相反行為には該当しないのですか?ホワイトナイトを見つけてきたとか、阪急と阪神は友好的買収であって同意があればかまわない、といった理屈かもしれませんが、なるべく高い値段で買ってもらおうと努力していた会社を、阪急の一般株主は信用するのかなぁ・・・・などと、疑問点を上げだすときりがないので、このへんでやめておきます。。。

たしかに、条件付き取締役選任議案の上程は村上さん側にとっては劇薬に近いものになるかもしれませんが、その副作用も相当大きいものがあるように、私には思えます。こういった疑問、やっぱり私ひとりだけのものなんでしょうかね?ただ、阪急、阪神の統合に関する対応をみておりますと、村上ファンド問題解決の時点が第一章の結末であって、いよいよ今度は再開発や鉄道業界の再編をめぐって、阪神阪急統合をめぐる関西の熱い第二章が幕を開けることは間違いないでしょう。

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コメント

私見ですが、今回の阪急阪神のTOBは「本当はしたくないけど、大株主様がおっしゃるのだから、やむおえずやるのであって、一種ののるかそるかの賭けみたいなものだからね。」ということを主張して「万策付きましたので」大和証券SMBCもしかたないなあといってますよ・・という意向をもろ出しにしているのだとおもいます。
要するに、この敵対的買収を「やっぱりおかねだったんだ」と世間に思わせるためのアピールとしては毒食わば皿までというところはあるにしろ、ここまで話がこじれたら、これしかやるしかないという開き直りに満ちた苦渋を示して、世論を喚起しているという作戦もあるのではないでしょうか。

投稿: デハボ1000 | 2006年6月 1日 (木) 10時04分

いっそのこと疑問点を全て挙げていただいた方が面白いかもしれません。

いろいろ考えさせられましたが、私見を少し。

買付予定株式数について
 これはやはりキャッシュに余裕が無いためなんでしょうね。
 経営権さえ握れれば株式交換にはキャッシュは要りませんから必要最低限で済ませたいということなのだと思います。
 ただし一般株主への説明がそのまま大株主であるファンドにも妥当することを見落としているのかもしれません。これは公開買付のケースでは良くある矛盾だと思います。
 ただ、ファンド側もそうそう資金を塩漬けにしておくことも出来ませんから、ここは両者我慢比べですね。

ファンド側取締役候補者について
 欧米の独立取締役の基準から言えば特定大株主の関係者は独立性を否定されますので、彼らを独立取締役として扱うことには疑問がありますね。

阪神電鉄側?取締役候補者について
 任用契約を締結することについては職業選択の自由がありますので、別に義務でもなんでもありませんが、「会社を放り出すのか」といった非難は十分に理解できます。
 「全員選任されなきゃヤダ」というのも子供の駄々にしか聞こえません。
 もっとも、現在の実務では経営陣が候補者を用意して株主総会ではその信任を問うのみであったのが、株主側が候補者段階から選任を行うという意味である意味原則に立ち返ったのかもしれません。
 仮に公開買付が流れてこのまま総会に突入した場合にどうなるのかきわめて興味深いですね。個人的にはこっちのシナリオを希望するんですがw

投稿: とーりすがり | 2006年6月 1日 (木) 13時32分

某役所の事件をウォッチしていた関係で、この「阪急阪神」の話題についてはあまり深く突っ込んで分析していませんでしたが、ここまで“興味深い”点が満載だとは・・・(^^;;

個人的に興味深いのは、やはり「取締役選任議案」ですね。従業員(労働組合)はこの「みんな一緒じゃなきゃ、イヤイヤ~」と駄々をこねている役員の皆様をどんな視線で見つめているのでしょうか?(^^;;

私も改めてしっかりとウォッチしてみたい思います。

投稿: Swind@立石智工 | 2006年6月 1日 (木) 23時24分

>デハボ1000さん

おひさしぶりです。ご意見ありがとうございます。そういった意味も多分に含まれているようにわたしも思いますね。
「開き直りに満ちた苦渋」というのは世間に対してだけでなく、阪急HDの株主様への対応も視野にいれているかもしれません。

>とーりすがりさん

いえ、かなり疲れましたです。また小出しに疑問点などをまとめてみたいと思います。
こういったケース、安全統括責任者がいなければ経営が成り立たないので、こういった選任議案は一種の敵対的買収防衛策といえるのかもしれませんね。本当の捨て身戦法ですよね。

>立石さん

こんばんは。コメントありがとうございます。
従業員の方々も、今回の村上ファンド側の提案についてはNOをつきつけておりますので、とりあえずは現経営陣の方針に賛同されていらっしゃるんでしょうね。
うーーーん、でも「一人でも欠けたら、私もやめる」といった条件をつけることが、会社の利益とどう結びつくのか、私にはよくわからないのです。
また遊びにきてください。

投稿: toshi | 2006年6月 2日 (金) 03時11分

お久しぶりでございます。

東京地検、村上ファンドを捜査 証取法に抵触の疑い
http://www.asahi.com/national/update/0601/TKY200606010351.html

影響あるでしょうね。

投稿: pipi | 2006年6月 2日 (金) 03時24分

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