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2006年6月30日 (金)

定款変更議案の分割決議

hardwaveさんも取り上げていらっしゃいますが、今年の株主総会でも、定款の一部変更議案が3分の2の賛同を得られずに否決されたり、賛同見込みがなくて事前に提案を取り下げ(修正?)された上場企業が見受けられたようです。以下は毎日ニュースからの抜粋です。

 会社法で、四半期配当など配当を柔軟に行ったり、取締役の解任要件を厳しくする定款変更などが可能になった。  任天堂は、配当を最終的に決める場を株主総会から取締役会にする定款変更が、必要な3分の2の賛成を得られず否決された。「高い配当を実施してきたことなどを訴えたが、少し及ばなかった。次の株主総会で改めて提案したい」と説明する。ミツミ電機も事前の議決権行使状況から可決が難しいと判断し、提案を取り下げた。  企業年金連合会は配当に関する定款変更議案201件のうち、株主が賛否表明する機会がなく、取締役の権限が強くなりすぎると判断した127件に反対。取締役の解任要件を厳しくする議案19件はすべて反対した。

新しい会社法が施行されて、経営の自由度が増したと言われておりますので、今後も株主総会議案として、「定款の一部変更議案」というものはけっこう上程されるケースが多いと思います。しかし、否決された企業の「結果に関するお知らせ」を読んでみますと、たくさんの定款変更箇所を予定していたとしても、そのうちのたった一つの変更予定条項に一部の機関投資家が納得しなければ、すべての変更部分の「否決」につながりますので、結局のところ「なにも定款を変更できなかった」という結果に終わるわけですね。しかし、この結果については、会社側、株主側どちらにとっても不本意なことになるのではないでしょうか。やはり、こういったときは定款変更議案に関する分割決議というものも考えておいたほうがいいかもしれませんね。とりわけ、実質株主がなかなかつかみづらいような企業においては利用する価値もありそうに思います。

今年3月31日に発表されました「企業価値報告書2006」の63ページ以下におきましても、定款変更議案の分割決議を利用することが提案されておりますし(ただし企業価値報告書では、買収防衛策導入に関する定款変更に焦点をあてておりますが)、実際に2003年の東京スタイルの株主総会においても(MACが暴れていたときでしたっけ?)定款変更議案を4分割にして、それぞれの提案について賛否を表明できるようにしていたようです(ただし議案を一つとして扱った、とのこと)理屈で考えてみましても、一つ一つの定款変更部分をひとつの「議案」として上程することは可能なように思えますが、実務上では総会の議事進行に関してはあまり法律で定められておりませし、一括審理的な発想からひとつの議案として運用されていると考えられます。また、定款変更議案については、会社法施行規則66条1項1号(取締役の選任に関する議決権行使書面の作成手続、個々の候補者ごとに賛否を問えるような形式に関する規程)のような規則もありませんので、一括して議案を上程する、というのも法の趣旨ではないか、と思われます。ただ、こういった理由から通常、一括してひとつの議案として審議されるのであれば、積極的に「ひとつの議案にはひとつの決議でなければならない」といった原則に例外を許さない理由はないわけでして、決議自体を分割して、否決された部分と可決された部分で決議の効力を分けることも、総会の議事運営の裁量の範囲内にあるものとして、法的に可能ではないかと思います。ただし、定款は会社の根本規範として、いろいろな部分で条項が相互に関連しているところもありますので、分割の方法としては、相互に関連性をもたないような箇所で分断しておいて、さらに会社側から株主に対して分割決議を行うことの承認を得た上で、採用すべきではないか、と考えております。

まぁ、そもそもこういったことを考えないで済むように、企業としては総会前に株主の皆様方に十分説明をすることがもっとも重要なことであるのでしょうが。。。

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コメント

定款変更議案の件なんですが、基本的には取締役会(会社・総務部門を含む。)が新会社法施行に伴う変更にまぎれこませて、優位条項を入れようと目論んだことが各社での失敗原因ではありませんか?
やり口がきたなくて、これに対し機関投資家をふくめ、個人投資家も反対したわけで。各社の定款変更議案をみると株主を馬鹿にしているとしか思えない書き方ですし。変更箇所だけ旧来のように抜書きして事前通知しているわけですからね。全文を事前に送って株主にわかるようにすべきですし、再度総会後、全文を登記しなおすべきことがらだとおもうのですが。会社定款は、会社という法人においては、法における憲法と同じでしょう。日本国憲法を、戦後、大日本帝国憲法の修正で処理したようなやり口はあとあと問題を残すわけですから。

そうそう、議案が否決されたにも関わらず、事前に該当議案が可決されたという株主宛の株主総会結果通知が届いた会社があるのですが、これは会社法的にどうなんでしょうか?

投稿: 胡桃 | 2006年6月30日 (金) 23時09分

胡桃さん、おひさしぶりです。
コメントありがとうございます。

おっしゃるところは今後の課題だと思います。せめて、一般株主が一読して変更の趣旨が理解可能な程度に説明をすべきだと思います。
今回の定款変更議案の否決は機関投資家などへの事前説明の不足にあるのではないでしょうか。私が総会に出席した感想からしか説明できませんが、一般の株主の方々は企業不祥事とか、配当の減少などに関しては厳しく糾弾するものの、買収防衛策の導入とか、利益配当処分権限の移譲などといった問題については、よくわからないままに賛成をされていたように思います。総会開催期日が集中していたり、実質株主が判明しにくいといった問題もあるかとは思いますが、おそらく大口の株主らへの根回し不足があったのではないか、と想像しております。
>そうそう、議案が否決されたにも関わらず、事前に該当議案が可決されたという株主宛の株主総会結果通知が届いた会社があるのですが、これは会社法的にどうなんでしょうか?
 マジですか?
 なんとも、不細工な話だと思いますが。
 総会結果報告(本当の)には、どのように説明されているんですかね。
 

投稿: toshi | 2006年7月 1日 (土) 22時55分

toshi先生、
>マジですか?
マジです。金曜に総会があって、当日の夕方の適時開示で定款変更できなかったという開示がでて、土曜に郵便で代行の信託銀行から不細工な話が届きました。あきらかに株主総会前に発送したとしか思えない(笑)。このごろ消印がないので確認がとれませんが。
頭にきたので、日曜に該当社のIR宛にメールを出したのですが、この1週間なんら返事なし。

> 総会結果報告(本当の)には、どのように説明されているんですかね。
この本当の株主結果報告というのはどういうものですか?株主に送られてくる通知ではなくって?会社に保存しておくべき、株主総会議事録ですか?

あと、定款変更議案の件、先生の印象では個人株主は興味を示さないと感じられましたか。う~~ん。たしかにニュースなど見ていると株主優待とか総会後のイベントとかに走っていますですね。これに要したお金は配当に回すべきものなんですがね。

話は変わりますが、やはり昔の総会屋がいなくなったので、機関投資家を含め根回しがおろそかなんでしょうね。上の不細工な件などを含め、昔だといい総会屋のネタですよね。

投稿: 胡桃 | 2006年7月 2日 (日) 01時07分

任天堂も事前に「承認可決」で準備していたのでそのまま送付するみたいですね。訂正版はあとから送付するようです。
https://www.release.tdnet.info/inbs/261d06d0_20060629.pdf

今回の総会では,法改正による読替え部分とそれ以外の部分いくつかに分けて付議した会社がありますね。

東証マザーズ上場企業で,定足数不足で定款変更ができなかったって,おいおい。分割以前の問題です。
https://www.release.tdnet.info/inbs/261d1810_20060629.pdf

投稿: pipi | 2006年7月 2日 (日) 17時25分

>胡桃さん

よく「機関投資家への根回し」とか「事前説明」と言われますが、そもそも実質株主というのは、容易に判明できるものなんでしょうか?私はこのあたりの実務がもうひとつよくわかっていないようです。また、お時間のあるときにでもご教示いただけるとありがたいです。

>PIPIさん
ご教示ありがとうございます。
エントリーにも書きましたが、やはり分けて付議された企業も少しばかり存在するようですね。
東証マザーズの企業の例ですが、代行さんのほうでこういった問題については適切な指導はなされないんでしょうか。分割以前の問題というのは、おっしゃるとおりです。なぜこういったことになるのか、ちょっと私も原因が理解できないです。

投稿: toshi | 2006年7月 3日 (月) 02時18分

>toshi先生
>よく「機関投資家への根回し」とか「事前説明」と言われますが、そもそも実質株主というのは、容易に判明できるものなんでしょうか?

私自身は、研究開発部門が長くて総務関係はまったくの素人なんですが、監査室長とか等会社IRを担当された方によると、定期株主総会などの場合は、株主名簿管理人である信託銀行等から名簿が得られるそうです。株主名簿を閉じて、総会まで日数も十分ありますし。

一方、株主の立場で見れば、ライブドア事件以降、特に村上ファンドの行動から有名になりましたが、金融庁が運営しているEDINETにより大量保有報告書をトレースしておれば、おおよその自社の株がどの大口ファンドあるいは機関等に保有されるか把握できると思います。

ただ、株主名義人と実質株主とが大きく異なるケースも無きにしも非ずですね。しかし、これも、東京証券取引所がインターネットで適時開示を行っている情報をほぼ毎日眺めていますと、上のEDINETから情報を得て、的確な行動をされている企業があります。これは想像ですが、入手ファンドや企業等が複数の場合、登記謄本や名前の出てくる企業の有価証券報告書等を入手し、事細かにトレースをしていくと、実質株主がどの集団に属するかまで絞れると思います。

投稿: 胡桃 | 2006年7月 3日 (月) 21時18分

そうですよね。代行さんの方で事前に把握できなかったのでしょうかね。
議決権行使書面で事前にガッチリ固めると言うのは,持ち合いが崩れてきて難しくなっているのでしょうか。

ところで
「取締役会を設置する」という定款変更議案を否決した場合でも,整備法78条2項は「取締役会を設置する」と言う定めがあると見なしてくれるのでしょうか?

投稿: pipi | 2006年7月 5日 (水) 05時16分

toshi先生

ta28もとい29chです。
2度目のコメントです。

任天堂以外にも間違った内容の決議通知を送付した企業があるようです。探せばもっとたくさん出てきそうですね。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060706-00000306-yom-bus_all

投稿: 29ch | 2006年7月 6日 (木) 21時05分

>胡桃さん

ご教示ありがとうございます。
ご回答いただいた内容をもとに、信託銀行の方などに質問してみましたが、「さあ、なかなかわからないことが多いですね」とさりげない回答でした。企業価値研究会報告2006のなかでも、この実質株主の把握については議論されていますよね。私ももうすこし実務のところを勉強してみたいと思っております。

>pipiさん

これまで株式会社形態であれば、取締役会設置会社を選択したものとみなされるんですよね。うーーん、私はほかの「みなし規定」の扱いと同じで定款に取締役会設置会社とする旨の規定があるものと扱ってよろしいのでは・・と考えておりますが。私が問題点の把握ができていないようであればまたご指摘ください。

>29chさん
TBありがとうございます。
私も本当は趣味や雑感を織り交ぜての楽しいブログを目指すつもりだったんですが、ここまで「マニアック」なものになってしまいますと、かなり路線変更も難しくなってしまいました。。。
これからもそちらで勉強させていただきます。
読売ニュースでもこの問題が6日付けで出ていましたね。謝罪文を送付したとこもあるようですが、そのままのところもあるようです。

投稿: toshi | 2006年7月 7日 (金) 13時52分

ちょっと問題視するコメントをネット上で見つけたもので書き込んでしまいましたが,その後一眠りして考えると,「積極的に賛成する人が2/3いなかった」と言うだけで,「取締役会設置に積極的に反対する人が2/3いた」とは違いますからね。
寝不足でつまらないコメントを付けてしまいました。ついでに整備法78条2項も76条の間違いだし(--;)

投稿: pipi | 2006年7月 7日 (金) 22時28分

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