刑事裁判における民事賠償額判断
とりあえず無事総会も終わりましたので、あまりビジネスに関係のない話題をひとつ。
何日か前の報道(日経ニュース)ですが、傷害事件や横領事件などを中心に、刑事被告人の被害者(被害会社)に対する民事上の損害賠償判決を、刑事事件の裁判の中でやりましょう(付帯私訴)ということで、法務省が導入を検討されているそうです。岡口裁判官もすこし疑問をお持ちのようですが、これって損害額に関する争いがあるケースでは、一般の民事事件で審理する機会は保障されているのでしょうかね?そうでないと、せっかくの迅速な刑事裁判が、民事上の紛争のために長期化してしまわないか、との危惧があります。
また、被害者側、被告人側からの問題点をあげますと、まず被告人側からみると、情状をよくするために示談の努力をするわけですが、こういった損害額確定手続がありますと、被害者側がむやみに示談に応じてくれなくなるおそれがあるのではないか、と思います。とりあえずの示談というのは、刑事事件の判決が出るまでに行うことが、現実の被害救済のためにも有意義な面がありますが、もし被害者側が損害額確定までは民事上の話し合いはしない、と決めたとなりますと、高額の賠償判決は出ても現実には一銭も被害賠償金を手にすることができない、といった事態も考えられます。そのあたりを、実務の運用でどう考えていくか、これからの課題ではないでしょうか。
被害者側からの問題点をあげますと、余罪の被害者の取扱です。傷害事件や財産的犯罪の起訴といったものは、直近の1件を起訴して、それまでの多くの犯罪行為については余罪として情状の点で斟酌するケースが圧倒的ですよね。そういった場合、その直近の1件の被害者については民事的な救済を受けられても、ほかの余罪の被害者については救済は無視される、ということになるのでしょうか。これでは、事件によって、あまりにも被害者に不公平な結果になりはしないでしょうかね。
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コメント
被害者の保護が充実するのはとてもいいことだと思うのですが,刑事と民事の区別がどんどん分かりにくくなりそうですね。
数年前には民事上の和解が刑事訴訟手続でできるようになったり(「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」),先般の組織犯罪処罰法の改正で刑事手続の没収・追徴を犯罪被害者への被害保護に当てられるようになるなど,ずいぶん刑事手続も変わったように感じます(裁判官も弁護士も色々大変そうですね)。
少し前に「民事と刑事のはざま -組織犯罪処罰法の改正について-」というエントリを書きましたので,TBを打たせていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: kitiomu | 2006年6月29日 (木) 01時47分
kitiomuさん
こんにちは。
国選弁護事件につきましても、いよいよ10月から日本司法支援センターが開設されて、そちらに受任手続が移行されますので、ホント弁護士もたいへんだと思います。大阪でも7月11日と13日に新国選弁護受任手続研修会というのが開催されますが、ものすごい申込者の数です。
公判前整理手続や、付帯私訴制度など、きちんと勉強している弁護人にあたる被告人と、そうでない弁護人にあたる被告人でずいぶんと差が出てくるかもしれません。(現実問題として)
組織犯罪処罰法改正問題、ゲートキーパー問題については私も興味を持っておりますので、そちらのブログを拝見させていただきます。
また、遊びにきてください。
投稿: toshi | 2006年6月29日 (木) 12時42分