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2006年6月 5日 (月)

やっと明らかになった(?)村上ファンド事件

(追記あります)

夜になって、東京地検特捜部の考え方が示されたようで、(毎日ニュース日経ニュース)私もやっと「事件のどこが問題なのか」わかってきました。いままでなんだか「自分だけ蚊帳の外」みたいな気持ちで、とても寂しかったんですけど、これで村上ファンド事件を考える足元が固まったような思いであります。

結局、地検特捜部はお昼の村上氏の会見をみて、「まったくデタラメやないか!」と立腹されたんじゃないでしょうか。そもそも、地検のシナリオは、最初から村上氏がライブドアの経営陣を騙すつもりで「一緒にフジテレビの支配権を握ろう」とそそのかした、というものですね。支配権をライブドアと一緒に握ろうなどとは、これっぽっちも村上氏は考えていなくて、当時保有していたニッポン放送株と「その気になった」ライブドアによって株価が高騰する前に買い集めた株をできるだけ高値で売却して利ざやを稼ぐ気持ちしかなかった、ということをこれから立証するわけです。(おそらく当初からライブドア経営陣を騙すつもりだった、といった客観的証拠を、ライブドア経営陣の供述とともに、村上ファンド側幹部からもすでにとりつけているのではないでしょうか)こういったシナリオであれば、当初から申し上げておりますとおり、「ギブアンドテイク」の論点(村上ファンドはライブドアの経営権奪取を支援する、そのかわり村上ファンドは株の一部を高値でライブドアに引き取ってもらう、ライブドアは支援先である村上ファンドに大量買付の意向を明確に伝える)も外形上はっきりしますし、村上氏に最初からライブドアを騙す意思があったかなかったか、といった主観的要件こそ大きな争点になることも明確になりますので、非常に自然な形になりました。ライブドアの経営陣から「支援してください」という言葉を聞いたことが「インサイダー取引疑惑」だったり、言葉を聞いたあとに支配目的であってもニッポン放送株式を大量に取得したことが「インサイダー取引」に該当する、といった報道が当初されていたようですが、地検のように「支配権目的で大量購入なんてありえない、村上氏は最初から利ざや稼ぎだったから、問題なんだよ」と言っていただきますとホント問題点が整理されたような気持ちであります。(「最初からライブドアを騙して、大量購入して利ざや稼ぎが目的だった」というシナリオを村上氏がすぐに認めるかどうかはわかりませんが。でもこういった点を検察が問題視して立件するのであれば、一般の方々にも論点がわかりやすいですし、証券市場における支配権争奪をめぐる適正な競争行為に対する「国家権力介入による萎縮的効果」はかなり薄らぐことになるのではないでしょうか。「村上氏は普通では考えられないような、こんなひどいことをした、だから市場からの退場を命ぜられたのだ」と理由をつけることが可能になったと思われます)

それにしても、証券取引法上の内部者取引の規制条文の解釈はむずかしいですね。「防戦買い」や「応援買い」の場合には適用せず、といった条文の解釈として、(条文で適用除外事由とされている)防戦買いや応援買いのケースでは構成要件該当性はあるが、これらの事由が違法性阻却事由となるということになるのでしょうか、それとも防戦買いや応援買いに該当する事実がないことが構成要件該当性の有無に影響を与えるのでしょうか。法理論的に考えますと、もし防戦買いに該当する事由が存在しないことが構成要件に該当するのであれば、防戦買い目的を有してこたことは故意不存在と結びつくように思われますが、違法性阻却事由だとしますと、判例通説の立場では「違法性阻却事由に関する錯誤」は故意を阻却しない、とされておりますので、当初から応援目的とか防戦目的だった、といった抗弁はなんら故意の成立には影響を与えないということになりそうです。また、共同で支配権を得る目的だった、といった抗弁はどうなるのでしょうか。敵対的買収目的で、複数の企業が共同で買い集め行為を行うことはまったく正当な行為だと思われますが、そういった場合のルールに影響はでないのでしょうか。

当初の報道では幹部を含めて4名が逮捕される、とのことでしたが、結局のところ村上代表だけ、ということになりました。ファンドの顧客との清算業務のためなのか、警察OBの方がいらっしゃるからなのか、それとも昨日、「逮捕は俺ひとりにしてくれ」ということで、インサイダー取引自体は認めるかわりに、幹部逮捕を免れる「司法取引」があったからなのか、は定かではありませんが。

きょうの村上氏の記者会見で、阪神と京阪が統合されることを勧めた理由を述べていましたが、私がエントリーで書いていた理由とまったく同一だったので、思わずビックリしてしまいました。というよりも、関西の人間はどうみても企業価値(シナジー効果)という点からみたら阪神・京阪統合しかありえないと思うんですよね。。。私はいまでも「阪神・阪急統合」は、単なる「村上ファンドへの敵対的買収防衛策」(阪急HDホワイトナイト説)でしかありえないと確信しています。

いつもご意見を頂戴するkitiomuさんが、自身のエントリーで述べていらっしゃるあたりが、検察が本当に言いたかったことではないかなぁ・・・と。ただ、私はまだ「ステークホルダー」という言葉を裸のまま企業価値論のなかで使うことにためらいを覚えているところなんです。どうも「株主主権」という言葉と同じくらいにわがままを内包しているような気がしまして。いちおう「企業価値」=「株主価値」と定義しておいて、「少数株主の保護」とか「株主権の内在的制約」みたいな考え方で利害調整するほうが穏健かなぁ・・・などと考えてみたりしております。

(追記)なんか、とりとめのない話をしておりますが、もうひとつだけ。インサイダー取引にせよ、虚偽の風説、偽計取引にせよ、おそらく今後の証券取引市場において、構成要件該当性の認められる取引事例はたくさん発生すると思います。企業のリスク管理という面からみて、将来のリーガルリスクの発生予測が可能となるように、「ライブドアはここがいけなかった」とか「村上ファンドは特別にここが悪いから起訴に及んだ」といった差別化(区別化)が可能となるような立件をしていただきたい、と願っております。その理由は、また私自身の経験なども交えながら別エントリーで述べたいと思っております。

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コメント

すいません。二重にTBを送信してしまいました。お手数ですが、一方を削除していただければ幸いです。
もう刑法の故意論なんて大昔に置き忘れてしまったので、恥を忍んで質問なんですが、違法性阻却事由に関する事項でも、それを基礎づける事実に関する錯誤(典型的なのは誤想防衛だったと思いますが)は故意の阻却事由になるのが判例・通説ではなかったでしたっけ?
むしろ、そういう意味では、構成要件に位置づけるにせよ違法性阻却事由に位置づけるにせよ、規範に直面するだけの事実の認識があったかどうかがメルクマールになるのかなと思っていました。
ところで、毎日新聞で報道されている検察側のストーリーですが、当時の買付の状況を考えると、このストーリーの現実性には疑問が残るような気がしています。

投稿: 47th | 2006年6月 6日 (火) 00時16分

>関西の人間はどうみても企業価値(シナジー効果)という点からみたら阪神・京阪統合しかありえないと思うんですよね。。。

一つ付け加えるなら、戦時中の強制統合の後、私鉄が東西で再解体されましたが、(名古屋地域はそのままになってしまった)阪急は其のとき京阪電鉄から新京阪線(いまの阪急京都線)をもぎ取ってしまった。
京阪は、正直言って統合に対しアレルギーを持っており、また阪急はそういう経緯もあるからあんまり抵抗感もないという面があります。
近鉄・南海(+JR阪和線)は戦時中の強制合併がうまくいかなかったのでバラけてしまった経緯もありますし、どちらも財政状態の余裕がないから目もくれなかった。・・・という見方(交通史の見方です)もありえます。
長年の企業風土から考えると、こういう蓄積もありうるという話です。ちっとも法律論らしくない話で失礼しました。

投稿: デハボ1000 | 2006年6月 6日 (火) 01時15分

>47thさん
私も「刑法総論」は司法試験委員だった大谷教授のものしか手元にないのですが、違法性阻却事由に関する錯誤というものは最近では「事実の錯誤」ではなく「法律の錯誤(規範性に関する錯誤)」と評価されているようですね。私も47thさんよりももっと前の受験生だったんで、大塚仁先生あたりでは事実の錯誤の範疇にあったと思います。しかしインサイダー取引規制の条文で、こういった議論が出てくるとは思いませんでした。

>デハボ1000さん
いつもありがとうございます。
いえいえ、法律論とか問題ではございません。こういった私鉄変遷の歴史は非常に興味があります。京阪は統合にアレルギーがある、というのもどこかで耳にしたことがありますが、こういった歴史からだとは思ってもみませんでした。それにしても、私は残念です。中之島界隈の発展は梅田開発以上に期待していたのですが。

投稿: toshi | 2006年6月 6日 (火) 02時14分

toshiさん,貴重なご意見をありがとうございました。
私のエントリの背景には,支配株主が少数株主の権利を蔑ろにするという問題のほかに,経営者が株主以外の利害関係人の価値を重視して経営判断しましたと胸を張って(法的な根拠をもって)言えないのは変じゃなかろうかという思いがあります。平たく言えば,「従業員のための会社」とか「消費者にやさしい会社」とか「環境を大事にする会社」の明文化(もしくは法的な位置付けの確認)という問題なのかもしれません。
もちろん,ステークホルダーというマジックワードが非効率な経営の隠れ蓑になる危険性は大きいので,ステークホルダーって何だという議論は必要だと思います。とはいえ,株価という明確な(時に明確すぎる)基準に拠りたいという誘惑は大きいのですが。
余談ですが,私は前田先生説でしたので,故意とは「一般人が当該罪の違法性を認識しうる程度の事実の認識」と習ったような記憶があります(はて証取法事件における「一般人」とは?)
(畏れ多くも本文中でブログを取り上げていただきありがとうございました)

投稿: kitiomu | 2006年6月 6日 (火) 03時00分

私も受験生と予備校講師時代の朧気な記憶なんですが、大谷先生は違法性の錯誤は法律の錯誤としつつ、規範に直面したかどうかを故意とは別の独立の責任要素と考える体系的に非常に特殊な説で、結論としては、大塚先生や前田先生と同じく違法性阻却事由に関する事実の錯誤については(故意ではないが)責任を阻却するということだったような記憶ですが、違いましたら申し訳ありません。
何れにせよ本質ではないんですが、確か訴訟法上も構成要件であれ違法性阻却事由であれ訴追側が合理的な疑いを入れない程度の立証が必要という話だったので、振り分けは結論に余り影響がないのかなと思ったものですから、すいません。

投稿: 47th | 2006年6月 6日 (火) 03時15分

失礼。前田説、大塚説は故意阻却ですが、結論としては、犯罪の成立を認めないという意味です・・・何れにせよテクニカル過ぎる話でした。すみません。

投稿: 47th | 2006年6月 6日 (火) 03時17分

さすがに、kitiomuさんといい、47thさんといい、実務ではあまり触れておられない「刑法総論」でありましても、鋭いツッコミをされるところが法曹の「性(さが)」を感じさせます(笑)
テクニカルな問題はここではいたしませんが、「適用除外」といった形で解説されている諸条件については、どういった枠組みで考えればいいのでしょうね。私も普段あまり刑法理論を真剣に考えていないせいかもしれませんが、違法性阻却事由といった考え方でいいならば、「正当業務行為」など条文で明確にされていない阻却事由との関係からみても「類推」とか「準用」などといった主張方法も考えられるのではないでしょうか。純粋な処罰免除条件として捉えるのであれば、そういったことも困難かとは思いますが。このあたりは、実際の市場ルールの変更によって、条文も変わってくるような場面ですから、「法律を知らない」ということと規範性の欠如ということが直接結びつかないようにも思えますし、どうもよくわからないところですし、どなたかに教えていただきたいところです。たしかに訴訟法上で大きな影響を与えることはないかもしれませんが、公判前整理手続においてあまり恥はかきたくないものですから(笑)

投稿: toshi | 2006年6月 6日 (火) 11時31分

刑法さっぱりわかりませんのでパスしますが・・・。

ステークホルダーについて立法化するとなるとやはりALIの2.01条といった辺りに落ち着くんじゃないかと思います。
あれもあくまで株主の利益を中心に据えつつ、合理的な範囲内で・・・というようにしていますから。

投稿: とーりすがり | 2006年6月 6日 (火) 12時56分

ALI2.01条

(アメリカ法律協会コーポレート・ガバナンスの原理第2.01条)
「会社は会社の利潤及び株主の利益を増進させるための事業活動を行う。これに対し、本来の事業活動とは別に会社の利潤及び株主の利益が増進させられない場合においても人道上、教育上、慈善の目的の為に会社の資源をあてることが出来る」

投稿: unkown | 2006年6月 6日 (火) 14時31分

確かにとーりすがりさんの仰るように,ALIの規定はステークホルダーの利益が明文化されていますね。
八幡製鉄所事件以来,判例・裁判例でわが国の慈善事業や企業献金の問題が柔軟に解決されてきた経過をみると,経営判断の原則の弾力性によってステークホルダー経営が根拠づけられる部分もあるようにも思いました。
toshiさん,コメント欄でのやりとりすみません。これで終わりにしておきます。

投稿: kitiomu | 2006年6月 6日 (火) 15時02分

>とーりすがりさん unkownさん
ご指摘ありがとうございます。
私は初めて知りましたので、なんともコメントできず申し訳ありませんです。ROMされている方には、いろんな方がいらっしゃるようで、ちょっとコワイ雰囲気ですが・・・(^^;) なんせ勉強不足なところが多々あろうかと思いますので、またご指摘いただけますとありがたいです。

>kitiomuさん
お気遣いなくコメントしていただいて結構ですよ。(経済産業省の課長さんのブログみたいに1000以上もコメントがつくのはさすがにマズイですけど。。。(^^;) )

投稿: toshi | 2006年6月 6日 (火) 18時13分

ALIのヤツは邦語なら以下がお勧めです。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4890321098/503-6157051-7359153?v=glance&n=465392
もしよろしければどうぞ。

>八幡製鉄所事件以来,判例・裁判例でわが国の慈善事業や企業献金の問題が
>柔軟に解決されてきた経過

政治献金とその他の寄付行為は分けて考えるべきであろうと思います。

八幡製鉄事件の判決は私は全く評価していません。
そもそも企業の政治活動の自由は公法的な側面において評価すべき問題であって、それを商法(会社法)に持ち込まないでくれと思っています。

憲法上も許されないと思いますけど。

#あの判決で企業の政治献金にお墨付きを与えてしまったことが、
#現在の政治の歪みを生んでしまったわけで・・・

投稿: とーりすがり | 2006年6月 7日 (水) 07時16分

とーりすがりさん,ご丁寧にありがとうございます。企業の政治献金についてはもう少し考えてみることにします。
(コメントへのお返事が遅くなりすみませんでした)

投稿: kitiomu | 2006年6月 9日 (金) 09時00分

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