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2006年6月29日 (木)

「事前警告型」買収防衛策の承認決議

株主総会シーズンもあと一日(29日)を残すのみとなりまして、定款変更議案や、総会決議案として、事前警告型の買収防衛策を総会の決議にはかる企業も飛躍的に増えたようです。以下は新聞報道からの抜粋です。

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買収防衛策導入141社  「事前警告型」が95%

 今年に入り買収防衛策を導入したり導入を表明したりする企業が相次ぎ、既に昨年1年間の5倍を超える141社に達したことが、野村証券金融経済研究所の調査で24日、分かった。うち敵対的買収者の出方を見て対抗策の発動を決める「事前警告型」と呼ばれる防衛策が95%を占め、主流になっている。

 会社法施行に伴い、外資による国内企業買収を容易にする「三角合併」が来年5月に解禁されることなどを背景に防衛策導入企業が続出。経営者の自己保身につながるような防衛策に対する株主の目は一段と厳しくなっており、開催が本格化した株主総会で防衛策導入の是非をめぐる議論が焦点になっている。
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敵対的(と思われる)に買収をかけてきた企業の買収提案と、対象企業の現経営陣が提示する対抗案をじっくり株主が検討する時間を確保する、といった防衛策導入目的はよく承知しているのですが、いまでも、この「事前警告型」のプランへの疑問というのが拭いきれません。東京地裁決定(平成17年7月29日決定、夢真・日本技術開発事件)の存在や、会社法施行規則127条の存在(防衛策の事前開示)から、なんらかの買収防衛策の導入や、それが平時になされることにつきましては、おそらく適法と判断される場合があることは理解できるのですが、「敵対的買収者とのルールを一方的に事前に決める」ということが、果たして株主総会の決議になじむものかどうか、といったあたりがどうも釈然としません。たしかに、企業年金連合会や外国の機関投資家の要望によって、あるいはこれまでの裁判例にしたがって、買収防衛策の導入に株主意思による承認が必要ではないか、との意味合いから総会決議事項として、株主意思を問うことをよしとする判断があるのかもしれません。しかしながら、果たして事前警告型の防衛策導入という事項が株主総会の決議事項たりうるか、といった問題をクリアできたとしましても、そういった決議事項が「公正な決議」といえるかどうか、まだまだ議論の余地があるのではないか、と思っております。

まず、「ルール」というものは、本来、相手方を拘束するものである以上は法律によって決められるものか、契約によって決められるべきものであるはずです。事前警告型の防衛策が、相手のルール違反によってなんらかの相手方に対する権利侵害を正当化するものであるわけですから、法によってそのような権利侵害が正当化されるか、もしくは相手方の事前の承認を必要とするとみるのが正論ではないでしょうか。(事前警告の存在を知りつつ、あえて買収手段に入った相手方の行為を「ルールの承認」とみなすのはちょっと暴論でしょう)そうであるならば、対象企業の株主総会の決議によって、そういった相手方のサンクションを伴うルールを決めて、そのルールに従うことを強要する正当性などあるはずもなく、そのような決議(もしくは定款変更)は公正とはいえないと思われます。また、一歩譲って、総会で承認しているのは「他社を拘束するルール」ではなく、「自社の行動ルール」にすぎない、と解釈できるとしましても、相手方といいましても、その相手方が問題となるのは、たとえば20%の対象企業の株式を取得した場面でありまして、れっきとした「株主」なわけです。対象企業の現時点における多数派株主が、将来登場するかもしれない少数派株主の権利を一方的に制限する(もしくは制限することを承認する)、ということは果たして現時点の多数派株主に許される行為なのでしょうか。これは明らかに株主平等原則に反する行為であって、会社法にいくつか規定されている少数株主の排除規定のように、明文で例外が認められる場合以外には認められないのではないか・・・とも思えますし、「自社の行動ルール」と解釈した場合であってもやはり「公正な決議内容」とは言えないように思います。本来、株主総会で否決されたとしましても、こういった事前警告型の買収防衛策を導入することは可能でしょうが、株主総会で承認を得たことが、発動時における適法性を高めることにはならないだけでなく、そもそもそういった承認決議というものは無効になる可能性もあるんではないでしょうかね?私はこういったM&A関連の専門家でもなく、まったくの素人考えではありますが、どうもそんな気がしてしかたありません。

雑誌「ビジネス法務」(中央経済社)の1月号で、事前警告型買収防衛プランの考案者でいらっしゃる藤縄弁護士のインタビュー記事が掲載されておりますが、そのなかで(14ページ)、「しかし、より率直に言えば、個別企業が防衛策を入れるよりは、代替案が提示される機会を確保するような工夫を公開買付ルールに盛り込む方向に改正するほうが、本来あるべき方向性だと思います。弁護士の仕事は減りますが、立法で手当てしたほうが社会的コストもはるかに安いはずです」、(17ページ)「たとえば、公開買付規制などは、税法と同じくらい頻繁にかわってもかまわない、やってみてダメだったら変えればよい、と私は思っています」と述べておられます。そもそもルールを事前に決めるのが事前警告型の核心部分でしょうが、そういったルールというものは、証券取引法あたりで、きっちりTOBルールのひとつとして規制すべきでなければ、その正当性は認められないのではないかなぁと思うのですが、いかがでしょうかね。

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コメント

toshi先生、はじめまして。いつも拝見しており勉強させていただいております。
私も、この事前警告については相手方を拘束できるようなルールではなくて、あくまでも自社の行動ルールの公表といった意味合いで捉えるべきではないか、と考えております。
ただ、少数株主保護に悖るのではないか、との問題提起ですが、一概に少数株主を迫害しているとまでは言えないのではないでしょうか。やはり、株主は濫用的買収者によって自らの権利侵害を受忍しなければならない義務はないわけですし、誰が濫用的買収者なのか、ある程度の網をかけておく必要もあるのではないかと思います。合理的なルールを決めておいて、そのルールを守らずにTOBをかけてくる敵対的買収者に対しては、その一方的な攻撃をひとまず抑える手段を多数株主が承認(決議)したとしても、それはあながち「不公正」な決議とまではいえないものだと思います。(もちろん、これはあくまでもあらかじめ定めたルール自体が合理的なものであることが前提でありますが)
そのあたり、先生はいかがお考えでしょうか。
また、お時間のあるときにでもお教えください。

投稿: ココット | 2006年6月29日 (木) 13時47分

ココットさん、ご意見ありがとうございます(お返事が遅れましてすいません)
濫用的買収者から会社を保護し、企業価値を高める買収者には適用されない、というのが防衛策の基本であることは理解できます。しかし、その理由であれば、危機対応として、取締役会だけの判断で防衛策を導入することについても正当化できる理論であって(取締役は濫用的買収者が企業価値を毀損することのないよう株主から信認されている)、特別に事前警告をしなければいけないことまでの理論的な基礎にはなりえないと思うのですが、いかがでしょうか。
誰が濫用的株主であるかわからないのであるから、一般的に網をかぶせる、という理屈は、一方においては、企業価値を高める買収希望者に対しても、その規制が及ぶことを認めるわけでありますから、そこまで規制されることが合理性を有しているといえるのかどうか、私はやはり疑問があると感じているひとりです。(見方の違いなのかもしれませんが)
このあたりは、学者の方々の間でも、いろいろと議論がおもしろいところですね。議論の前提などに誤りがありましたら、またご指摘ください。

投稿: toshi | 2006年7月 3日 (月) 02時04分

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