取締役会上程基準は開示すべきではないか
王子・北越のTOB紛争のほうにばかりエントリーが偏ってしまいまして、すっかりパロマ事件に関するフォローをさぼっておりましたところ、ろじゃあさんや、kitiomuさんが立派なエントリーをお出しになっておられて、(しかし、ろじゃあさんのエントリーは過去のパロマの裁判判決にまで遡って新たな問題点を見つけてこられて、スゴイですね。kitiomuさんのエントリーはアメリカの製造物責任論にまで言及されていて、・・・・・こういった労作を無料で読めるのがブログのいいところかな・・などと思いつつ 注 このブログ右のトラックバックをご参照ください)もはや私のフォローさせていただく余地もなくなってしまったような気もしてきました。
ただ、今日(7月27日)あたりの新聞報道を読んでおりますと、パロマは非上場企業ではありますが取締役会を年1回程度しか開催しておらず、経営上の重要事項については実質的に社長に近いごく一部の経営陣によって決められていたようなことが報じられております。(取締役会40年機能せず 「昼食会兼ね取締役会」一転「別室で」 読売)そういえば以前、西武鉄道についても7年間、取締役会は開催されていなかったことが明らかになりましたが、こういった明白な商法違反の恒常化が、取締役間の情報共有化を阻害し、今回の被害拡大につながった、ともいえるのかもしれません。
このブログでは、ちょっと前から「常務会」「執行役員」についてスポットを当てたりしておりますが、「取締役会」については開催したことがない、という企業はそんなにあるわけもないと思いますが、ほとんどの重要案件は常務会や経営会議で審議してしまって、総務部のほうで段取りしてもらった招集通知をもとに、ちょこちょこっと形式的に取締役会を開催してしまっている企業もけっこうあるんじゃないでしょうか。今回のパロマの事件もそうですが、取締役会の意義として、各取締役の監督機能を果たすための情報共有化ということが言われますが、そういった共有化のためには執行担当取締役のきちんとした報告が取締役会でなされることが不可欠だと思われますし、もしそういった情報共有化の努力が取締役会でなされていないとすれば、結局は今回のパロマと同じように、重要な事実を取締役が知らなかった、といった事態が想定され「取締役会が開催されていなかった」ということと、あまり変わらない運用になってしまっているようにも思われます。
金融検査マニュアルなどを見ましても、銀行の意思決定の迅速化をはかるための常務会や経営会議の存在意義は認められておりますし、たとえ会社法に規定がなくても、現実の上場企業における常務会、経営会議が経営効率化のために寄与していることについてはこれを認めざるをえないと思います。この5月に各上場企業から出されました内部統制システムの基本方針におきましても、取締役の職務執行の効率化をはかるために常務会や経営会議で十分審理したうえで取締役会の上程することが書かれておりますし、常務会というものの存在自体、会社法の期待する内部統制システムの整備内容としても認知されたものではないかと考えます。ただ、だからといって取締役会の形骸化を許容するわけにはいきませんので、きちんと取締役会の場において、構成員たる取締役らにおいて重要情報の共有化がはかられているかどうか、チェックできる仕組みというものも、企業不祥事防止(コンプライアンス経営)のためには必要ではないでしょうか。
ということで、私的には、取締役会で何を決めるべきか、何が報告されるべきか、といった上程基準、報告基準なるものを(おそらくこのたびの会社法における内部統制システム整備事項としてそれぞれの企業で決議されたでしょうから、今の時点では各社保有していらっしゃると思いますが)内部統制システムの整備事項として開示すべきだと考えます。開示すべき、ということは、なにも常務会の機能の一部を取締役会に移転せよ、ということではなく、個別の企業が、いったいどういったリスク管理体制を考えているのか、取締役会上程基準をみると評価が可能になるような気がします。もちろん昭和48年の最高裁判例(取締役の監視義務に関する指針となっている判例)同様、取締役の監視義務の範囲が上程基準によって画されるというわけではなく、上程されていること以外に広く及ぶということは認めるのですが、その会社がいったい何を重要と把握して、なにを重要ではないと考えているのか、その経営方針が理解できるでしょうし、また株主や従業員、債権者、メインバンク、消費者など、その企業がステークホルダーに対してどういった優先順位をつけているのか、といった方針についても認識できるように思います。また、それほど詳細な基準でなければ、重要な企業秘密を公開してしまう、といったおそれもないと思います。
このたびの会社法における内部統制システムの整備運用については、そのシステム自体が第三者から「見える、わかる」ものでなければいけないはずですし、経営の効率化(常務会の活用)と、コンプライアンス(取締役会における情報共有化)の調和点を求めるにあたって、取締役会上程基準の策定とその開示は不可欠ではないだろうか、と思う次第であります。(そういえば、このたびの新会社法によって取締役会の存在しない株式会社というものが認められましたが、そういった会社の取締役の監視義務というのは、なにを根拠に認めることになるんでしょうかね?たしかいままでは取締役会の監督機能というところに根拠をもってきましたが、さて善管注意義務かな?いや、それだと取締役会設置会社でも、同じところに根拠を求めないといけないか・・・・・)
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コメント
この間東大でのビジネスローセミナーで日米の役員報酬額の比較をされていましたが、定款自治と言いながら実務上取締役とは何かの議論がはっきりされていないと思います。従業員の最終到達地が取締役で、経営者にはなりえないのが殆どと考えます。そこに責任と監督機能を与える矛盾。本来法律の期待する地点までの制度設計を強制するか、常務会・経営会議の概念規定と取締役会の調和の明確化が必要です。上場会社は経営と執行を分離する方向でしょうが、非上場会社については会計制度・会社法ともに投資家保護の観点が不要な為に看過中と考えます。
投稿: serateru | 2006年7月28日 (金) 09時59分
toshiさん
> kitiomuさんのエントリーはアメリカの製造物責任論にまで言及されていて
とまで仰っていただいた割には大したことを書いていませんでしたので,若干追記いたしました。ご笑覧ください。
製造物責任などを考えると,やはりアメリカの訴訟リスクが高いのは,ディスカバリー,三倍(懲罰)賠償,陪審制の三つによるところが大きいのだろうと思います。日本企業のリスク管理が国境を越えてもきちんと働く体制となっているか,これもまた重要な問題ですね(内部統制との関係も大問題だと思います)。
投稿: kitiomu | 2006年7月28日 (金) 10時32分
toshi先生
はじめてコメントつけさせていただきます。
いつも拝見して、勉強させていただいております。さて、このたびの取締役会の上程基準でありますが、うちの会社(上場会社)は、きちんと文書としてなにを上程するか、なにを報告するかといった規約を定めておりません。ただし、もう20年以上も、歴代の取締役会で慣習として上程すべき内容が暗黙のうちに決まっております。そして、新しい事業展開があった場合も、やはり取締役間で協議をして上程基準、報告基準について合意をしているようです。
内部統制との関係では、上程基準はある、と公開しておりますし、文書化されていなくても問題はないと思っておりますが、今後はこういった規約についてもきちんと文書化しておくべきなのでしょうか。ちなみに公開した際に作成されたと思われる規約についてはほとんど利用されたことはありませんので、現在それが有効といえるかどうかもあいまいなままとなっています。
ご指導よろしくお願いします。
投稿: mana-mana | 2006年7月28日 (金) 11時14分
先日は、ありがとうございました(謎の挨拶)。
さて、本論から離れますが、最後に言われていた「監視義務」の根拠の件、最高裁の判示を読み直す必要がありますが、曖昧な記憶に頼って書くと(をいをい)、たしか他の取締役の不適切な行為を発見すれば取締役会の開催を少々するなどの手段で是正できるからという理由付けで、非上程事項にも監視義務が及ぶという書き方だったと思いますので、非設置会社の場合にも「口頭で注意する、讒言する」などの事実上の手段があれば監視義務は否定されることにはならないはずですよね。監視義務の根拠は取締役会の構成員であることではなくて善管注意義務だと言い切るべきだと考えていますが、教科書的にはむしろ逆の理解が多いようですね。
投稿: けんけん | 2006年7月28日 (金) 19時41分
>serateruさん
こんばんは。いつもコメントありがとうございます。(東大のビジネスローセミナーですか・・、なんかすごそう・・・笑)
社内の取締役と執行役員を合わせて「常務会」とするところもあって、そこで会社の最高意思決定手続が行われている会社って、多いのではないでしょうか?その後に、社外役員も交えて形式的な取締役会が開催されるとなりますと、社外取締役も社外監査役もほとんど意思形成の判断過程には参加できないわけでして、十分な資料もないままに賛否が問われるといった具合です。会社法そのものを改正することがムズカシイとしたら、なんらかの形で一般投資家や会社債権者への開示システムを利用して、実務のあり方を変えていくべきではないかな・・と思うのですが。
>kitiomuさん
コメントありがとうございます。
国外における日本企業のリスク管理といえば、「すき家」のゼンショーが、当面米国牛を使用しないということを発表して、アメリカの店舗においてもオーストラリア肉を使用するとまで打ち出していましたね。普通に自分の国の牛を食べている人たちにまで、危険を警告して輸入牛を食べさせるって、けっこうスゴイことに思えますが。これ、ちょっと議論の余地ありそうです。。。みなさんはどう思われますかね??
>manamanaさん
はじめまして。コメント(といいますか質問)どうもありがとうございます。公開時の規約がその後まったく使用されていないケースというのはよくありますよね。私が社外監査役を務める企業では、今回の内部統制システムの整備にあたって、ひとつひとつISO基準などを参考にしながら更改している最中です。ずいぶんと時間と労力のいる作業です。ところで、私は慣習的なものについても、できれば文書化しておいたほうがいいと思いますよ。エントリーにも書きましたが、会社法における内部統制システムの構築整備というのは、「見える化」して開示することが要請されるわけですから、規約についても、なんかあったときには第三者にもわかる形で準備しておいたほうがへんな詮索をされずに済むように思います。
>けんけん先生
こんばんは。
なるほど、私もブログを書くときはけっこう勢いをつけて書いてしまうもんですから、きちんと最高裁判例を読んでおりません。おそらくけんけん先生のおっしゃるとおり善管注意義務のところから監視義務をもってくるべきなんでしょうね。ただ取締役会を設置するかどうかは定款で決めるべきことでしょうから、たとえ善管注意義務に由来するとしましても、監視義務のレベルといったものは取締役会設置会社と非設置会社とでは、異なるものと解釈していいのでしょうね。
投稿: toshi | 2006年7月29日 (土) 02時10分
一点だけ。
前にもここに書き込ませていただいたような気もしますが、
従来から、有限会社の取締役も監視義務を負うべきだとするのが学説のほぼ異論の無いところでした。
株式会社では取締役会の構成員として、有限会社では業務執行者としてそのような義務を負うべきという
考え方であって、職責・権限が異なるので理由付けが違うというだけのことでした。ご参考まで。
投稿: とーりすがり | 2006年7月29日 (土) 07時36分
昨日つまらぬ枕詞を入れてしまいました。お許し下さい。(窓際から落ちかけているサラリーマンのたわごとです)
投稿: serateru | 2006年7月29日 (土) 12時35分
最高裁判決の該当部分は、「株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適性に行なわれるようにする職務を有するものと解すべきである。」ですね。
なお、法律上の制度ではないですが、東証が導入したコーポレートガバナンス報告書制度では、「経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」の欄において、経営会議とか常務会などの開催状況等を含めて記載すべきことが求められていますね。ここで、どういう経営上の意思決定プロセスであるかが開示されることが求められていると考えていたのですが。
投稿: 辰のお年ご | 2006年7月29日 (土) 13時21分
>とーりすがりさん、辰のお年ごさん
いつもながら、書き足らぬ点フォローいただきまして恐縮です。経営会議や常務会でどんなに立派な決議がなされても、取締役の監視義務とか経営判断原則の根拠事由などの認定に重要な影響を与える事実は出てこないような気がします。やはりたとえ取締役会が形式的なものであったとしても、そこにおける審理過程が開示されるのと常務会のそれとでは違いがあるのではないでしょうか。
投稿: toshi | 2006年7月31日 (月) 02時18分
初めて投稿させていただきます。
今度、私の会社でも執行役員制度を取り入れ、取締役の数を減らし、執行役の登用により若返りを図る、という方向にあるようです。
これまでは他の企業でもこの制度を取り上げる背景と同じであると思いますが、質問させていただきたいのは、
「この取締役の人数の制限(執行役員制度の開始)と、企業買収を防衛することが、関連付けられるのか?」という点であります。
アメリカに長く駐在しておりまして、情報オンチの質問かと思いますが、何卒お教えいただきたく思っております。
宜しくお願いします。
投稿: アメリカ在住者 | 2007年4月24日 (火) 15時45分
>アメリカ在住さん
はじめまして。
昨年の株式総会では、取締役の人数を減少させて余剰枠をなくしてしまうことが、買収防衛策のひとつとして利用されたように記憶しております。ただし、基本的には取締役の人数制限は、意思決定の速度を速めることや、執行と意思決定を明確に分担して、取締役が企業全般を見渡したうえで判断できることから、機関投資家の賛同は得やすいのではないでしょうか。大株主の賛同を得ることが買収防衛につながる、という見方からすれば、これも買収防衛策との関連性はある、といえるかもしれません。
投稿: toshi | 2007年4月25日 (水) 22時51分