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2006年7月21日 (金)

株式会社の体制整備と「執行役員」

最近、いろいろな企業の方からお声をかけていただくようになりまして、社内研修、といいましても、役員セミナーのようなものですが、そういったいわゆる少人数の研修をさせていただくことが増えてきました。(上場企業もあれば、非上場企業もありますが)私のような者でも、企業コンプライアンスに関するなんらかのご助言をさせていただき、役立つものであれば望外の幸せと思い、臆面もなくお引き受けするのですが、経営サイドの方とお話をしていて思うことは、会社法に規定のない「常務会」と「執行役員」というところが、実質的に大きな力を持っていらっしゃる、という「不思議」であります。新会社法も施行されて、巷の本屋さんでは、そろそろ「会社法」のしっかりとした基本書の第二版あたりがたくさん山積みされておりますが、そういった本をいろいろと読んでみましても、この「常務会」「執行役員」というものの実質的な支配力のようなところに触れているものはあまりみかけません。

たしかに、会社法に規定のないものでありますから、基本書においてもそれほど触れる必要がないのかもしれません。しかしこの5月に上場企業各社から開示されました「内部統制システムの整備に関する基本方針」を調べてみますと、けっこう多くの企業が「常務会」「経営会議」「執行役員」といった用語を使って、取締役の職務執行の効率性確保のための体制、法令定款に適合する職務執行確保の体制を説明されておりまして、また、東証コーポレートガバナンス報告書におきましても、このあたりが広くガバナンスのあり方を決定する構成要素として説明されております。そこで、このブログはせっかく「内部統制と企業価値を深く考察する」マニアックな人たちの集う場所ということですから、今後おりにふれて、この「執行役員制度」、「常務会」といったものに、スポットをあててみようと思っております。

といいましても、まだ私自身、人様にご教示できるほど、なにもわかっているものではございません。ただ、上述の内部統制システムの整備に関する基本方針をいろいろと比較してみますと、取締役の職務執行の効率化とか、責任の明確化と謳いながら、実はあまり取締役と執行役員との責任分担の明確化がなされていないのではないだろうか、と思う次第であります。取締役が意思決定機能と監督機能に特化して、業務執行については全ての権限を執行役員に移譲した、という説明がほとんどなされていません。(そういった説明があれば理解できるところなのですが)取締役は執行役員制度を設立した以降であっても、職務執行を担当し、その一部(執行権限の一部?)を執行役員に移譲できる、といったものや、いまでも職務執行は取締役に責任があり、これを包括的に執行役員に委任できる、といったものもありますが、いずれにせよ、業務執行の最終責任者は代表取締役であるとしても、その次の責任者は誰なのか、会社からリリースされた文書を読んでもよくわからないのです。「うちの会社は取締役が執行役員を担当ごとに監督しています」といった説明がないのはなぜなんでしょうか。取締役が経営意思決定と監督に特化しているならば書いてないのも理解できるのですが、職務執行の責任者たる地位を維持しているのであれば、当然に執行役員の職務との管理監督関係がはっきりと示されていなければならないはずです。

このあたりは、執行役員制度を採用するにいたったオモテ向きの理由と、ホンネの理由との齟齬に由来しているところではないかと思うのですが、いずれにせよ、内部統制システムの構築は、会社法の場合は全社的な機関設計に関わるものですし、不祥事が起こってから「オレは責任がない」などと、役員の方々が逃げることは今後かなり難しくなってくると思いますので、このあたりも、会社法には規定はないかもしれませんが、いちおう責任権限の明確化をはかるべきではないかな、と思ったりしております。(このあたり、まだまだ私もよく実務を知らないところもありますので、またご教示いただけるとありがたいです)ライブドアのように「執行役員社長」といった肩書きも時々みかけますし、この執行役員なる地位もしくは肩書きが、対外的にはどのような効果を発生させるのか、といった問題(これはかなり従来の法律問題に近いと思われますが)も今後少し触れてみたいと思っております。

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コメント

いつも拝読させていただいております。
執行役員制度については、先生がおっしゃっているように、オモテとウラの導入事由による結果的な齟齬が大きいように思います。
私もかつての会社で執行役員制度を導入したことがありますが、本質的には単なる役職増加が目的であり、意志決定と監督の分離など絵に描いた餅で終わった苦い思い出があります。

投稿: kaz | 2006年7月21日 (金) 02時04分

私も執行役員制度については、「?」の部分が多いのではないかと感じております。このあたりは、先日のコンプラのエントリでも議論となっている「社内常識」とも絡んで、複雑怪奇な状況になっているのではないかと思います。

私の業務に絡む分野では、「執行役員は従業員(雇用関係)なのか?役員(委任関係)なのか?」ということが常に議論となるところです。高級従業員に過ぎないとすれば労働法の適用を受けることになりますが、執行役員制度の運用実態があまりにマチマチの状況で個別の事象による部分が大きく、なかなか難しいところです。(中小企業の場合は高級従業員として扱うケースが多いのではないかと感じますが・・・)

また勉強をさせていただきたいと存じます。

投稿: Swind@立石智工 | 2006年7月21日 (金) 11時27分

毎日拝見して勉強させて頂いております。一介の自宅待機サラリーマンですが、勤務先は従業員の削減実施時に取締役数を削減するとともに執行役員を導入しました。その後執行役員が取締役を兼務するケースが増えてきました。役員数のカウントは取締役の数ではなく、両方を加えたものでカウントしています。職務分担はどうもなされていません。内部統制等の経営・監査・業務執行の分担をしていく上でメルクマルを教えて頂ければ助かります。

投稿: SERATERU | 2006年7月22日 (土) 14時31分

>kazさん
はじめまして。こちらこそ、よろしくお願いします。そうですよね。どうもマジメに考えますと、この執行役員制度というのは、かなり会社都合の理由で導入されるケースが多いようですね。だからこそ、権力のねじれ現象といいますか、会社法が「機関設計の自由化」と言いながら、実は自由化されずに理想とは遠い実態になっているところが多いように思います。今後とも、またご意見お寄せください。
>立石さん
コメントを読ませていただき、この問題はどちらかというと立石さんのご専門に近いところではなないかと思いました。会社によって、執行役員をたいへんな重責と考えているところと、単なる高級労働者と捉えているところといろいろですね。
基本的には労働基準法の適用のある労働者とみるのが適切なんでしょうかね、法的には。
>SERATERUさん
はじめましてです。
役員数のカウントというのも、なんといいますか、スタンダードがない、ということになるんでしょうか。かなり難しいですね。
私は、いままでは執行役員というのも、けっこう会社都合で考えればいいや、と思っていたのですが、ご指摘のとおり会社法レベルにおける内部統制システムを考えた場合、どうもあいまいなままにはしておけないぞ・・という危機感が少し出てまいりました。なんかあってからでは遅いような気がします。また続編を書かせていただきますので、ご意見のほどよろしくお願いします。

投稿: toshi | 2006年7月23日 (日) 03時38分

大変ご無沙汰しております。

執行役員制度というのは、「経営と執行」の分離という意味で、意味のある仕組みだと思います(仕組みだったと思います)。
現在は、執行役制度というものが法的に用意されているため、
経営と執行の分離を、監査役会設置会社の枠組みで行う場合は、民間の工夫である「執行役員」制度を用い、
経営と執行の分離を、委員会設置会社の枠組み(現行での指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社)で行う場合は、「執行役制度」で行う
という整理もありえます。
(まれに、委員会設置会社の枠組みの中で、執行役のほかに、執行役員を設けている会社もあるようですが)

なんと言いますか、政府や東証には、監査役会というガバナンスの制度設計のあり方が、海外投資家(特にアメリカ)に説明しにくいという考え方がある、
また、人によっては、監査役会という制度設計はガバナンスが弱い、欧米流(特に、アメリカ流)の制度設計の方がガバナンスに優れている、という考え方もあるようです。
このように私は感じております。

しかしながら、世間一般には、欧米流(特にアメリカ流)のガバナンスについて、その制度設計(機関設計)について、意外と把握していないのではないか、と思います。アメリカの会社法でどうなっているのか、会社法の枠内で、どのような制度を作り上げているか、不肖私は別としても、周りの経営幹部の方々におかれても、あまりお詳しくはないようですし、書店でも、「会社法」の本はあっても、「アメリカ会社法」の本はなかなか見つかりません。もちろん、専門家の方々はお詳しいのだとは思います。

少なくとも、アメリカは、
「アメリカの会社法の規制では(州による違いはあるとは思いますが)、どうなっているのか」、また、「ある部分は、会社法ではなく、民間で作り上げられたやり方であるのか」どうか、そういう点、もう少し、周知されてもよいのではないか、と感じていました。

●ダイレクターが何人なのか、また、属性についてどういう規制があるのか、
●オフィサーというのは法的に定めらた役職なのか、
 日本での「執行役員」のように、法律には規定のないが、
 民間の工夫でできた制度なのか、
●オフィサーの階層は、たとえば、CEOとかCFOとかは、
 会社の任意の名前なのか。
 すなわち、日本の「社長」「専務」などが会社法で規定されたもの
 ではないように。

それらの点は、一般的に知られていないようにも思います。

●日本会社法では、「監査役会設置会社ならば、取締役のうち、何名かは代表取締役」、「委員会設置会社なら、執行役の何名かは、代表執行役」、ということが、法で求められています。
 しかし、アメリカはどうなっているのか、CEOやCOOは、代表権のようなものがあるのか、あるのが暗黙の了解なのか(?)
●ダイレクターにより、ボード・オブ・ダイレクターズあると聞きますが、
 これが会社法で求められているのか、任意なのか、
 他にどんなコミッティーがあるのか(オーディットコミッティーなど)、 そして、法で求められているものは何か、

これらも、知られていないようです。


監査等委員会設置会社も、指名委員会等設置会社も、日本独自のガバナンスの制度である、
それゆえ、米国の制度について、それほど周知させる必要はない。
すくなくとも、政府の立場はそうなのかもしれません。

今回、多くの会社が、監査役会設置会社から移行しており、
また、ガバナンス関係の報告書という制度もできることであり、
私としては、米国の制度について、もうすこし一般的に説明されていてもよいのでは、と思っております。

投稿: 浜の子 (長文失礼します) | 2015年6月28日 (日) 02時23分

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