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2006年7月18日 (火)

コンプライアンス経営はむずかしい(パロマ問題)

(7月18日午後 追記あります)

本当は(その3)として、一昨日のお話の続きを書こうかと思ったのですが、「公表」のむずかしさという意味で、パロマ工業問題について(番外編)として触れておくことにします。新聞やニュースでご承知のとおり、死亡事故被害者ご遺族による執念の追跡調査を発端として、パロマ湯沸かし器の安全装置の改造問題が大きな事件に発展してきています。7月14日にパロマの代表者が記者会見した内容が、事実と大きく食い違っていたことを17日の夜にパロマ側が認めたようですから(北海道新聞ニュース)、今後もこの事件は大きなヤマ場を迎えることになりそうです。(とりあえず、まず被害拡大を防止するために、対応機種の点検が不可欠でしょうね)

私がこの事件に対するパロマ側の対応をみていて思うことは、やはり「コンプライアンス経営はむずかしい」ということであります。「コンプライアンス」の意味を法令遵守と捉えているのが現経営陣の方々ではないでしょうか。「死亡事故の原因は安全装置の瑕疵によるものではない、何者かによる不正改造に起因するものである。したがって、製造物責任ではない。過去に損害賠償請求訴訟は起こされたが、勝訴もしくは和解で終了しており、過失もしくは欠陥は認められていない。たとえパロマサービスによる保守管理のなかで不正改造がなされたとしても、パロマとは資本関係のない会社の行ったものであり、管理監督責任はない。事故原因を当初から調査によって確認していたとしても、それは現場の調査であって、経営陣まで届いていなかったため、対策をとることはできなかった」というところでしょうか。事故の発生時期が1980年代から1990年代ということですから、ひとつひとつのパロマ側の公表内容をみるかぎりは、明確な法令違反というものは回避できているようにも思えます。

しかしながら、「コンプライアンス」の意味は単に法令遵守ということではない、社会の公器として、時代の流れのなかで、企業に要請されるルールや常識といったものを的確に理解して、リスクに対応することこそがコンプライアンスの真の意味であると考えるならば、果たして今回のパロマ側の対応が正当なものといえるかどうかは疑わしいように思われます。とりわけ「安全第一」を企業の最大の理念と謳い、安全装置の開発によってここまでの名声を築き上げた企業でありますから、その安全に傷がつくような一大事が発生した現在、あまりにも対応としては遅々としたものではないでしょうか。誰の責任かはさておいて、確認した18件すべての事故に不正改造が関係していることが判明した現時点では、まず今後の被害拡大を最大限の努力によって防ぐ決意を一般消費者に示す必要があるように思います。(パロマのHPをみて、あまりにもサミシイ広報と感じるのは私だけでしょうか

また、たしかに1990年代には「内部統制システムの構築・整備」など企業に強く意識されていたわけではありませんので、「現場の調査内容が経営陣には届いていなかった」と言われてしまえば、「それは法的に善管注意義務違反です」とまではいえないかもしれませんが、しかし、調査の対象は死亡事故ですよね。安全第一をモットーに掲げている企業において、死亡事故調査報告が正確に経営陣にまで届かないということは、常識的にありえる話なのでしょうか。もし経営陣の公表を信じるとしても、それはおおよそ常識からは逸脱した内容だと思われますので、なぜそういった事態になってしまったのかは、きちんと説明をしなければ「隠蔽があった」との疑惑は拭いきれないように思われます。ここのところが、本当の意味でのコンプライアンス経営のセンスではないでしょうか。

さらに、資本関係がないから、パロマサービスの保守管理については責任はない、との答弁ですが、そもそも資本関係にはないとしても、パロマの名称使用を許諾しており、その企業の保守管理によってパロマガス湯沸かし器の安全性神話を長年保持してきたわけですから、いわば保守管理業者の業務によって多大な利益を得てきたことは間違いないわけです。そういったことからすれば、保守管理業務のうえで「不正改造」があったことについて、被害者らに迷惑をかけたことを詫びるべきではないのでしょうか。そもそも、老朽化によって「改造」を余儀なくされたのは、安全装置に技術上の問題点が残っていたわけですから、私からすれば「不正改造」によって安全神話を維持し続けた責任の一端はパロマ本体にある、とさえ評価できるのではないかと思うのですが、皆様はいかがでしょうか。

「公表」の仕方は、あるときは企業の生命を維持し、あるときは断ち切るほど、重要かつ困難なリスク管理です。でも、よくある危機管理マニュアル、といったものはあてにならないような気がします。どんな事態になろうとも、こういったリスク管理を支えるのは「コンプライアンス経営」を経営者自身がいかに考えるか、そのあたりの「法やルールの精神」ではないか、と思います。いま、この時点で一体何をすることが企業価値の毀損を最小限度に食い止めることができるのか、パロマ工業のこの問いに対する答えこそ、企業の真価が問われるところになりそうです。

(7月18日 夜 追記)

たくさんのアクセスを頂戴し、また私の意見に対するご賛同、ご批判のメールを頂戴しております。私のブログをずっとご覧の方々にはご理解いただいていると思うのですが、このパロマ問題を取り上げましたのは、あくまでも公表といった場面における企業コンプライアンスに焦点をあてて、企業対応を検討することに主眼を置いております。決して被害者救済とか、企業擁護といった当事者的発想からのものではございません。したがいまして、どちらかの代理人的な観点から利益擁護のための理屈を考えだすことは目的ではございませんので、どうかご理解のほどよろしくお願いいたします。あと、いまパロマのHPを閲覧しましたら、昨日とは異なる表示がなされておりましたので、本文中の「寂しい」といった表現は訂正させていただきます。

7月 18, 2006 コンプライアンス経営はむずかしい |

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» パロマの死亡事故の件をどう考えるか トラックバック 法務の国のろじゃあ
れいによって、toshiさんのところでもパロマの湯沸かし器の死亡事故の件について [続きを読む]

受信: 2006年7月20日 (木) 03時17分

» この恵庭の事件っていつの判決なんだろうか・・・パロマ湯沸かし器の札幌地裁・高裁判決 トラックバック 法務の国のろじゃあ
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受信: 2006年7月24日 (月) 20時49分

» 「不正改造」を指示する文書が出てきたとの報道が・・・パロマ湯沸かし器事件札幌地裁・高裁判決での事実認定との関係は?(つづき) トラックバック 法務の国のろじゃあ
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受信: 2006年7月24日 (月) 21時49分

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パロマ工業の瞬間湯沸かし器事件の経過を見て,不正改造が発覚した際のメーカーの対応の難しさを感じました。 この事件に関し,法的責任と危機対応の2点について若干考えてみましたので,以下にまとめておきます。 まず最初に法律的な問題ですが,本件でパロマ工業が責任を... [続きを読む]

受信: 2006年7月25日 (火) 02時29分

コメント

おはようございます。
今朝の読売新聞によると、17件の発生事故については事故直後に本社も把握していた、とのことです。(現場担当者だけでなく、本社まで報告はされていたようです)ただし、本社の品質管理室は、製品の欠陥ではなく、不正改造によるものということで経営陣には伝えていなかった、とのこと。いずれにせよ、問題は大きいように思われます。

投稿: unknown | 2006年7月18日 (火) 10時01分

紹介された事案でも、パロマの件でも、取締役の無責任から来るものと思います。複数の取締役がいると言う事は、多様な意見を交わして、最適な結論を導くためのはずですね。特定の取締役(それが社長であっても)にこだわりや強い意見があったときに、異を唱えられない組織になっているのではないでしょうか。そういう事が、問題を大きくしているのではないでしょうか。 
太田典生さんのブログに最近、以下のような記述がありました。 
 「科捜研の女」を見ていたら、警察内部の不祥事を隠そうとして上司から言われて日誌を書き換えた女性刑事が「人は組織からはみ出すのを恐れると、簡単に犯罪者になるのですね」という言葉が耳に残りました。 企業に於ける公害やリコール隠しをはじめとした諸々の犯罪や大阪市役所の同和対策など、皆同じ根です。その人の真の人間性は、ピンチの時に現れます。ピンチの時に、もっともらしい組織の論理にながされず、1人の人間として冷静に善悪が判断できる人になりたいものです。
 5年程前、私がある会社の支店長をしているとき、支店長会議で、ある新製品の発売後1ヶ月余りでクレーム頻発の報告がありました。原因は不明であり、先行発売している外国では同様の問題は発生していないので、回収の決断は出来ないと安全情報部長の判断でしたが、私は、回収を強く主張しましたが賛同者は無く、様子見になってしまいました。私の支店では、営業課長には、積極的になプロモーションは中止させ、業務課長には、回収になった時に即座に対応できるよう代替品を支店に用意するよう指示しました。果たして、1ヵ月後にユーザーから当局に訴えがあり、当局より自主回収を指示され、全国で数ヶ月間回収におわれる日々でした。 この後、製品回収が続き、対応の不手際の責任を取り、安全情報部長一人が辞職されました。
 安全情報部長は、外国にある親会社が製造し、国内の工場で品質点検後に出荷するまでに責任はありませんが、一人責任を取られました。私は、問題が発生しているのに、適切に迅速に対応できないのは、会社の組織システムに問題があるのであるから、一番の責任は社長にあると支店長会議で主張しました。その時、私の真後ろに社長が座っているのも知らずでした。果たして、議論は次の議題に移ってしまいました。
 私の言いたい事は、他人、特に上位者の事を慮って、正しい事や本音を言えない組織では、同じ間違いを繰り返すということです。
 私は、今、ある事件の犯人と間違えられ、濡れ衣を着せられ、一旦は解雇通告間で受けましたが、犯人でないと判明後も、緘口令、出張禁止され、封じ込めにあって、社内で戦っています。
 コンプライアンス経営をさせるのも難しいですね。

投稿: 濡れ衣戦う会社員 | 2006年7月18日 (火) 11時06分

パロマといい、シンドラーエレベーターといい、自社製品事故の初期対応の誤りの教科書事例として残して
おきたい事件が続きますね。
内部統制の体制やリスク管理の面で問題があるのはまず間違いないとして、事故情報に対する経営者の感度
に疑問を感じます。
他社の事故を聞いても「うちは大丈夫」としか思えないんでしょうね、こういう対応をする会社の経営者は。
勤務先で内部統制の整備をおおせつかっている者としては、こういう事例を見ると、「仕組み」の整備もさ
ることながら、経営者、従業員の「感度」のアップの特効薬がほしくなります。

投稿: John | 2006年7月18日 (火) 20時35分

ひさしぶりの投稿です。
「不正改造」以外での死亡事故が多発していたことが公表されましたね。
やっぱりtoshiさんのいわれていたとおり、安全神話は改造によって確保されていた、というところが隠しきれなくなったんではないでしょうか。
いずれ改造した業者から「改造しなかったら老朽化によって作動しなくなるおそれがあった」とか「作動しなかったから改造した」といった事情が出てくることは確実だったと思います。
toshiさんはブログ管理者としての立場上、あまり悪くいうことができないかもしれませんが、これって、いままでの企業不祥事のなかでは、かなり悪質な部類になると思いませんか?本当のヤマ場はまだまだこれから来るんじゃないかと。

投稿: あすくる | 2006年7月18日 (火) 22時34分

>unknownさん
いつも最新の情報をありがとうございます。どうもパロマ問題は事実関係が二転三転しているようで、また今日は動きがあったようですね。もうすこし、展開をみてから、またコメントしたいと思っております。(あっそうそう、何人かのunknownさんがいらっしゃるようですので、もしよろしければ、コメントされる際に、お名前のところに特定できるハンドルネームをいただけませんでしょうか)

>濡れ衣と闘う会社員さん
いつも熱いコメントをありがとうございます。ミナト運輸の裁判を想起させるような話ですね。株主代表訴訟における株主オンブズマンの戦いをみていても思いますが、会社訴訟を勝ち抜くときには、誰か犠牲的精神をもった人の力を借りなければ「山は動かない」のではないか、ということです。アメリカの裁判とは大きな違いがあるように思います。

>johnさん
ついに25件を超える事故、そして不正改造以外の「瑕疵」まで認めるようになってしまいましたね。まさに初期対応のまずさが際立っているようです。ただ、ここまで来ますと、本当に品質管理部から経営陣に情報が届かなかっただけなのか、本当は隠蔽していたのではないか・・・と疑ってしまいますね。もし初期対応がこのように不適切でなければ、そのような疑念も抱かなかったかもしれませんが。
今後ともよろしくお願いいたします。

>あすくるさん
いつもコメントありがとうございます。
そうですね、私はなんとなく、「不正改造」では収まらないような気がしておりました。報道会見をみていて、あまりにも歯切れの悪い発言が目立ったからです。ここのところは、また詳細な報告が出てからコメントさせていただこうかと思っております。もうしばらくお待ちください。
(私ももうひとつ山場がくると思います)

投稿: toshi | 2006年7月20日 (木) 01時35分

toshiさんへ
パロマの件はどうも引っかかるものがあり、引き続き調べてます。
2本、先週の新聞記事に関係してエントリーしましたのでTBさせていただきました。
我々個人としては新聞報道に頼らざるを得ない部分がある一方で、今回のように同様の案件について札幌高裁まで判決が出ている案件(パロマではなく地元の点検業者の責任が認められてます)について経営サイドにコンプラ上の問題としてどう伝えるのかというのは結構意思疎通の問題ではありますが難しいところもあるかもしれません。
せめて新聞記事では民事裁判における判決が出た案件なのか和解に終わった案件なのかぐらいは明確に書いて欲しいと思いますねえ。
それともちょっとろじゃあがこだわりすぎなんでしょうかねえ。
またコメントいただければ幸甚でございます。

投稿: ろじゃあ | 2006年7月24日 (月) 20時48分

toshiさん,パロマ事件について少しまとめてエントリしましたので,TBさせていただきました。
安全神話という「神話」が,本当の安全を脅かすことになったのだとすれば,これ以上に残念な話はないと思います。
社外取締役・監査役という形にせよ顧問弁護士という形にせよ,コンプライアンス経営を浸透させるために弁護士ができることは少なくないと思うのですが,いかがでしょうか?

投稿: kitiomu | 2006年7月25日 (火) 05時35分

>ろじゃあさん

 いつもコメントありがとうございます。
 今回は裁判内容まで精査のうえでのエントリーですね。かなり大作のようですので、拝読させていただき、そちらにコメントをつけさせていただこうかと思っております。
 
>kitiomuさん

 おひさしぶりです。
 さきほど、読ませていただきました。(これも非常に大作ですね)先生のコンプライアンス経営を浸透させるための弁護士の果たす役割というのは、じつは私もいろいろと検討しているところですし、非常に問題の視点が近いところであります。こちらも、また先生のブログのほうにコメントさせていただきます。またご意見を頂戴できれば幸いです。

投稿: toshi | 2006年7月26日 (水) 03時46分

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