買収防衛策と特別背任罪
7月3日の日経朝刊「試される司法第2部揺らぐルール」の記事に、すこしばかり目を引く記述がありました。昨年のことになりますが、ライブドアがニッポン放送側の買収防衛策を「過剰防衛」として刑事告訴してきた場合、受理すべきかどうか、について検察庁内では昨年3月ころに松尾検事総長(当時)が最高検幹部に真剣に問いかけたということでして、その結果「保身目的の買収防衛策で一般株主に損害を与えれば、役員を特別背任罪に問う可能性がある」との結論に達したそうであります。以前からこのニッポン放送の新株予約権発行による防衛策については、すこしだけ刑事責任の可否が問題になっておりましたが、買収防衛策の導入に刑事問題が真剣に検討されていた、という事実には正直ビックリしました。
「保身目的」というのは、(銀行の損失の先送りを目的としたような)不正融資などを行った取締役の刑事問題を問う場合には、会社の損害も比較的顕在化しておりますので、なんとなく理解できるのですが、買収防衛策を導入する場面でも同じような意味で「保身目的」と使用していいのかどうかはすこしばかり躊躇をおぼえます。松尾元検事総長は「株主など国民に大きな影響を与えるルール逸脱には、最後の砦としての刑事制裁が必要になってくる」と検察の姿勢を述べておられます。ニッポン放送ライブドア事件の頃は旧商法の時代でありますし、従前の商法にも刑事罰が規定されていたわけですが、新しい会社法のもとでは、こういった利害関係者間の損害発生の事態に備えて、刑事処分も検討課題になってくるんでしょうか。会社法が旧商法よりも行為規範化してしまい、またコーポレートガバナンス論との関係で、企業の国際競争力アップのための「国策法」的なものになっている、といった一般的な説明内容と、こういった刑事処分適用可能性の拡大、といったこととが、すこしばかり整合しているような気がします。
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コメント
おはようございます。
特別背任に該当するかどうかといったところは、
昨年あたりからいろんなブログで話題になって
いたところですよね。
私は刑事事件の場合、「損害」をどうやって
認定するんだろうかと疑問に思っています。
それとも、具体的な損害は不要で、損害発生の
危険性があればいいということなんでしょうか
どんな買収防衛策にも「保身目的」はかならず
あるわけで、長期でみて企業価値を高める
防衛策か、企業価値を毀損する防衛策か、
刑事事件の裁判官がこの永遠のテーマを判断
するということなんでしょうか。
投稿: unknown | 2006年7月 4日 (火) 10時33分
コメント、ありがとうございます。
そうですね、おっしゃるとおり、刑事事件で「損害の有無」を認定することはかなり困難なところがありますね。
よく、民事事件の確定をまって刑事事件が進行するということもありますので、積極的に「損害の有無」を刑事裁判所が認定するかどうかは微妙なような気がします。
実際に、こういった刑事事件が発生してみないと私もよくわからないですね。
また、遊びにきてください。
投稿: toshi | 2006年7月 6日 (木) 02時58分