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2006年7月16日 (日)

コンプライアンス経営はむずかしい・・・(その2)

先週、たくさんのコメントをいただいた「コンプライアンス経営はむずかしい・・・・」の続編であります。(まだ、コメントにお返事をさせていただいていない方もいらっしゃって、心苦しいのですが)とりあえず、書きたいことが山ほどありますので、(その2)と(その3)に分けて整理してみたいと思っております。実は、前のエントリーには、コメント以外にも、メールもたくさん頂戴いたしまして、コメントもそうですが、基本的にはbunさんの意見への賛成、反対といったあたりで分かれているようです。つまり、有能で実際にも会社の利益を飛躍的に伸ばして、私利私欲もなく会社のために内規違反を犯した者については、最小限度の制裁として、その旨社内にも公表すればいい、という立場と、どんなに私利私欲なく、また会社の業績を伸ばしたとしても、内規違反は厳しく処罰されるべきであり、(私のように刑事告訴も辞さず、といった立場は少数のようですが)しかるべき対応をして、その旨公表すべき(ただし、役員についても問題点を指摘すべき)といった立場であります。単に関係者をまるく収める、といった問題解決型の方法を検討するのではなくて、もっと前向きな方法、つまりこの企業にコンプライアンス経営を浸透させることを目的として、いったいどのような対応をすべきなのか、といった視点から検討しなければならず、そこが一番むずかしいところではないでしょうか。

あれから、私達コンプラ委員会の委員は、さらに調査を進めまして、事件の真相が次第に明らかになってきました。実は取締役会が、支店長の稟議上程を却下したのは、そのセクションを担当する取締役による強い反対があったからでした。「社内の常識」として、この会社の支店長(けっこうたくさんいらっしゃいます)が新規取引の開始を稟議にかける場合には、その担当取締役と内々に相談をして、ゴーサインが出たところで正式な取締役会審査上程、という段取りとなるそうですが、この支店長は担当取締役の能力に疑問を感じており、これまでの社内の常識を無視して、いきなり取締役会審査にかけたところ、これをおもしろく思わなかった担当取締役が待ったをかけて、取締役会で猛反対をして、ほかの取締役もこれに同調してしまった、というのが真相のようであります。おそらく、これまでの社内常識のとおりに、この支店長が担当取締役の顔をたてて事前相談をしていれば、取締役会では問題なく稟議が下りていたものと思われます。

こういった「社内常識」、実際に何の規則性もないわけですが、どこの会社にもあるかもしれません。私が思うに、こういった「社内常識」は悪い面ばかりでもないようです。たとえば、支店長クラスの管理職が、一生懸命アイデアを出して、事業化しようと意気込んで稟議を上げたときに、「いや、この案はまだ早い。もうすこし君の出番が来るまで待て」と落ち着かせて、役員会で無下に却下されてやる気をなくすのを防ぐ、という効果もあります。しかしながら、人間関係から一つ間違えると、今回のように、企業価値を飛躍的にアップさせるようなアイデアが、取締役会で却下されてしまうことにもなりかねないわけです。こういった人間関係のからむ原因事実を、そのまま社内で公表するわけにもいきませんが、やはり内部統制システムの構築といった観点から、取締役会への意思伝達方法、取締役による情報収集方法に問題があったと結論付けることとしました。私として取締役らに提案したのは、そういった「社内常識」は内部統制システム構築といった視点からみて問題があるので廃止すること、そして「社内常識」を廃止することによる弊害については、斬新なアイデアを上程する支店長クラスの者に、書面だけでなく役員会でプレゼンをしてもらって、十分意見交換を行い、「敗者復活の機会」を与えることを保証する、といったものであり、社内への公表も含め、社長にもこれに納得してもらいました。(いろいろと人間関係の面で問題も残りましたが、これを書いていると終わらないので割愛させていただきます・・・)

「公表」といった点から検討した場合、取締役らの反省点としては上記のとおりですが、さて人望の厚かった当該支店長への会社としての正式な対応については、どのように公表すべきでしょうか。現実に会社の業績を向上させた人なんだから、内規違反はあるけれども敗者復活がなければ他の社員にも悪影響が出るのではないか、とも考えら得るような気がします。このあたりについては、(その3)でメールをいただいた方の意見などをご紹介しながら、まとめたいと思っております。

7月 16, 2006 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

おはようございます。
「社内常識」をそのまま調査報告書にかけないものでしょうかね?私はある程度、社内であれば真相を公表したほうがスッキリしていいような気もしますが。それもむずかしいのでしょうか。

投稿: taka-poo | 2006年7月16日 (日) 10時18分

こんにちは。
少し話が逸れるかもしれませんが・・・
役会には、問題がないのでしょうか?
社内常識を無視したから、もしくは、気に食わないからといって、「企業価値を飛躍的にアップさせるようなアイデア」を却下するのは、株主に対する背信行為ではないですか。
だから、取締役も罰せられるべきだと思うのです。
結局、公表の仕方を難しくしているのは、責任を取るべき取締役が責任をとらないからではないですか。

投稿: あほな大学生 | 2006年7月16日 (日) 14時56分

はじめまして。
いつも楽しく興味深く読ませていただいています。
「コンプライアンス経営はむずかしい・・・」シリーズの内容は、本当に考えさせられるところで、経営者として、優秀な社員の存在によるメリットと、公正を徹底するメリットを比較しつつ、「泣いて馬謖を斬る」と考えられるかどうか、という問題かと思いました。
ところで、こうしたかなり内情に属する種類のコンテンツを、先生がこうしたブログで書かれることは、大丈夫なのでしょうか?読者としては大歓迎ですが、「書かれ手」のことを考えると、気になるところです。私の勤務する企業にも社外監査役がいらっしゃいますが、取締役会で問題となった懲戒案件について、ブログや記事等で抽象的にでも言及されていた場合、相当複雑な思いを抱くだろうと思いますので。

投稿: zousan | 2006年7月16日 (日) 23時04分

今回の記事を拝見すると、本質的な問題点は支店長の行為でなく、取締役が稟議を握りつぶすことができる(=中間的な承認権限を持っている)という社則上根拠のない慣習と、担当取締役の主張が大きな影響力を持ってしまい取締役会が合理的な意思決定をする能力を欠いている、という2点だと思います。
(他人の会社の話だと好き勝手言えるという部分があるのですがw)
toshiさんの提案された案はその辺をやんわりと表現した大人の解決策だと思います。

社内には、士気を挙げるとすればいままでの社内常識が間違っていた、ということをはっきりと周知すべきだし、逆に支店長を手続き違反で処分するのであれば(そういう統制が必要な会社もあると思います)、そもそも正式な手続きで当該取引を不適当と判断した取締役会の筋を通して、取引先にも取引中止を申し出るくらいの矜持がほしいですね(リーバイスが児童労働を理由に中国生産から撤退した例もありますし、全くの絵空事でもないかと)

投稿: go2c | 2006年7月17日 (月) 00時56分

いろいろとご意見、ご配慮ありがとうございます。このシリーズの反響はかなり大きいようでして、コメントに回答させていただくことで「おことわり」とさせていただきます。

まずzousanさんに回答いたします。「社外監査役」としての立場はご指摘のとおりマズイと思います。とりわけ私は上場企業の社外監査役ですから、その会社のことは特定できますので、絶対に懲戒案件の審査内容などブログで書くことはできません。(その意味では、これまでのお話が、私の社外監査役企業のことではない、と明言しておきますね)まぁ、コンプライアンス委員会というのは、上場、非上場を問わず、昨今少々大きな規模の会社であれば組織が存在することですし、私もいくつかの会社に出入りしておりますので、内容が具体化されなければ「セーフ」かなと思っております。現に、この会社の役員の方々も、このブログはご覧になっており、いろんな方のご意見を読みながら勉強をされておられます。
企業コンプライアンスを検討する場を作りたいというのが私の希望なのですが、いまの悩みは、こういった題材を検討の場に持ち出せるか、ということなんです。そういったことの是非についてもこういった場で議論していただければ、私にとっては非常に参考になりますんで、またご意見よろしくお願いいたします。

>あほな大学生さん

はじめまして。私は前のエントリーで出てきたbunさんの意見への賛同コメントをみて、私も取締役も、会社の価値向上をはかるべき義務があるわけですから、もしそういった有益なアイデアを出せる支店長、とりわけ大きな結果を出してきた支店長なんですから、こういったアイデアを出せる人間を会社のために有利に使わなければ株主に対する善管注意義務違反になるのではないか・・・と考えました。そういった考えが前面に出てきますと、おそらく支店長へは最小限度の処分、そして取締役としては他事考慮による審査手続に関する不合理性といったあたりを問題にすべきではないか、と思われます。ただ、組織のあり方として、それでうまくいくのだろうか、「企業コンプライアンスと企業価値」の問題点への解決として、株主への背信といった点を強調するだけでいいのだろうか・・・と思い悩むところがあります。このあたりの悩みを(その3)で表現してみる予定にしております。
大学生さんの疑問に真正面から答える内容かどうかはまだわかりませんが、またご一読のうえ、ご意見をお聞かせください。(いままで何度か述べておりますが、私がこのブログを書く動機というものが、企業コンプライアンスと企業価値の関係といったところであります)

>taka-pooさん

いつもコメントありがとうございます。委員のなかで意見のわかれるところです。認定事実を堂々と調査報告書に書くということは、本来必要な場面かもしれません。弱気と思われるかもしれませんが、以下の2点についてもご配慮ください。まずは、この調査報告書は刑事告訴の相当性判断にも利用される可能性があるにもかかわらず、強制捜査権限のない私達のできる範囲での調査証拠に基づく判断です。はっきり申し上げて推測の域を超えない部分もあります。もうひとつは、調査目的は(エントリーの中にも書きましたが)当事者における事件の円満解決を図ることが最優先ではなく、「今後のこの会社におけるコンプライアンス経営のあり方を検討する」ことにあります。その目的達成のために必要な範囲での事実認定を行うのであれば、我々は社内公表であっても謙抑的な表現を用いるべきではないか・・・と思いました。どこかマズイ部分がございましたら、またご指摘ください。

投稿: toshi | 2006年7月17日 (月) 01時11分

>go2cさん

いつもコメントありがとうございます。(コメントの時間がかぶってしまったようです。)リーバイスの例はCSRの研究の際によく登場しますよね。
ご指摘の「取締役会における力学」の点ですが、これは担当を持つ取締役による取締役会、経営管理に徹しきれない取締役会という「日本的な取締役会」の持つ宿命ではないでしょうか。そのセクションで何十年もの経験を持つ「一筋社員」の「あがり」が取締役、という人達で固められてしまいますと、ほかの取締役は、そのセクションのことについてはあまり反対できなくなってしまう、というところはけっこう、どこの企業にも見られるのではないかと思います。うまく回っていれば「効率化を図る」ためには有益かもしれませんが、ひとつ歯車が狂うと、この事例のような場面を作ってしまう危険性をはらんでいるのではないでしょうか。取締役会の牽制機能といいますが、これもどういった牽制機能が適切かは、その企業風土に合ったものを、企業自身で工夫しなければいけないと痛感します。

投稿: toshi | 2006年7月17日 (月) 01時40分

こんにちは。

私は自分がかかわる組織にはそのように処理して欲しいという希望を書いたわけでして、私なら今でもあのように提案しますが、では日本の会社で、あれが一般的になされる提案かというと、実はあまり自信がありません。経験的に申しまして、「宥和的に過ぎる」として提案者(私)が、支店長と通じているのではないかと疑われてしまったりして、提案が握りつぶされて、提案自体すべきだったかどうかという結果になることも少なくないと思います。この辺りは会社の大きさや各取締役の力関係、社風などで大きく違ってくるだろうと思います。

基本的な立場としましては、toshiさんは日頃権力をもったことのない一般の人々が権力を急にもつことの弊害を指摘しておられますが、ご指摘の通りだと思っておりまして、ルールに従って人を裁くということの重みを知らない人は、どうしても他人に対し、あまりにも厳し過ぎる評価をしがちだと思います。また、会社というのはよほど大きな会社でなければ、基本的にはお互いの顔が見える社会で、逐一統制する必要の生じない相互監視などもありますので、日頃無関係な赤の他人同士の権利義務関係を処理する道具であるところの法律のアナロジーで、安易に内部統制をすべきでないのではないかと思っています。

極端かもしれませんが、私が人が人を裁くということについて思うのは、人が人を評価するということが正しく行われることなどおよそあり得ず、そうした正しさの度合いを比較することは最終的には全く不毛で、そうした試みは大抵やり過ぎになる。それで結局、要は社内的に最も問題なく円滑な処理がされさえすればいい、減俸3か月と社内的に発表しておいて、実は実質的な減俸はなかったという嘘もありだろうという立場です。

ただし、今回の記事を拝読しますと、支店長が担当取締役の面目をつぶそうと積極的に動いたことがわかります。この点についてはどうかと思います。せっかく結果を出せる人なのですから、こんな風につけこまれる隙を作ることもなかっただろうと思うのですが、何かあせっておられたのでしょうか。

投稿: bun | 2006年7月19日 (水) 22時55分

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