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2006年7月 6日 (木)

監査役の財務会計的知見(その2)

5月1日のエントリー(監査役の財務会計的知見その1)では、なぜ会社法施行規則は、監査役に「財務会計的知見があるときはその旨」を事業報告書に記載させて、「法務的知見」については記載させないのだろうか・・・会計士さんは会社法が「監査役になってほしい職業」として期待されて、どうして弁護士は期待されていないのだろうか・・・・といった(半分ひがみのような気持から)問題点を指摘させていただきました。(^◇^;)

今月号の「ジュリスト」(1315号)では、「会社法規則の制定」といった大きな特集が組まれておりまして、上村先生、尾崎先生、稲葉先生をはじめとした稲門軍団の諸先生方が、新会社法とその政省令の問題点を鋭く批判する・・・といった内容で完結している、とてもヨミごたえのある論稿集になっております。(この特集記事は1850円で購入するだけの価値がありますねぇ)そして、この特集論稿のなかで、おひとり早稲田大学以外の教授として寄稿されていらっしゃいます中東正文氏(名古屋大学教授)の「株式会社の監査と内部統制」については、もっとも私的に興味のあるテーマでしたので、じっくりと拝読させていただきましたが、そのなかにこの「監査役の財務会計的知見」に関する問題点が指摘されておりました。(ちなみに、会社法施行規則121条8項では「監査役又は監査委員が財務及び会計に関する相当程度の知見を有しているものであるときは、その事実」を事業報告書の内容にすべきである、と定められております。「財務及び会計に関する相当程度の知見というのは、会計専門家としての国家資格を有していることだけでなく、長年経理や財務の職に就いていたことなども含むとされているようですが、ひょっとすると私が保有している公認不正検査士(CFE)の資格なんかも、継続研修の単位が会計士さんと互換性があったりしますので、これに該当するのかもしれません)そして、私の不知を恥じるのみですが、すでに早稲田大学の意見(会社法規則へのパブコメ)として、監査役等に求められるのは法的な思考力であって、法的な視点から財務及び会計に不正な操作が行われているのではないかを監督することが期待されているのであるから、監査役等の資質については法律その他の会社経営に関する相当程度の専門的知見を有している場合も事業報告において開示すべきである、といった主張がなされていたんですね。また、中東教授も同様の意見を述べて、現在の規則に対する問題点として挙げておられます。

そして、この中東教授の論稿では、もうひとつ「会計監査人による監査」のなかで、計算関係書類の監査の実効性に関する(会社法規則の)問題点を指摘されていらっしゃいます。要するに、新しい会社法のもとでは、会計監査人による監査は、事業報告の内容については監査対象になっておらず、もっぱら計算書類の監査のみを担当することになったわけですが、会計関係書類の作成過程を(会計監査人が)検証しないままに、監査を求められた数字や会計処理の適正性をどうやって判断できるのであろうか・・・といった疑問を呈しておられます。もちろん、会社法上の会計監査人設置会社の商法監査と上場企業における証取監査とは異なるわけですから、金融商品取引法24条による内部統制報告実務とは異なる取扱もありうることはわかるのですが、たしかに会社法上の計算書類の作成過程というものは、上場企業の場合は概ね、財務情報の信頼性確保のためのシステムが構築される必要がある、といったところでは類似ではないかと思われますので、事業報告が提出されないで、会計監査人にとって、どうやって計算書類の作成過程の適正性が担保されるのだろうか、との問題点が生じてくるのも当然のことではないか、と思われます。

私もこの「会計監査人による監査における計算書類の監査実効性」については、金融商品取引法との関係から疑問に思っておりましたが、「会社法規則はおかしい」とまでは言い切れないのではないかなぁ、とも考え直しております。といいますのは、さきほどの会社法が期待する監査役像(会計的知見をもった監査役)と、この計算書類に対する会計監査人の監査との規定が連関している、といった考え方も成り立つのかもしれない、と思うからです。会社法が定める内部統制の中身というのは、取締役の職務執行の適正性を確保するための体制整備が中心でありまして、その体制には機関としての監査役や会計監査人の職務執行の仕組みや運用状況も「株主への開示の対象として」含まれているはずです。そうしますと、監査役と会計監査人との「連携」の仕組みや運用状況も評価対象になるはずだと思いますし、もし監査役に会計的知見を有する者が就いているとするならば、そういった連携も充足されやすくなりますし、会計監査人による計算書類の監査においても、(書類作成過程に関する適正性について、会計監査人が監査役に質問するなどによって)監査役の事業報告内容への理解度が生かされることになります。たしかに、個別に規則条文を眺めておりますと、私も同様の疑問を抱いておりますが、それぞれの規則の相互関係を会社法の精神にさかのぼって検討してみると、違う解釈もあるのかなぁとも思えますが、どうなんでしょうかね。。

もちろん、私も法曹ですし、監査役に要求される資質として、法務的知見を要求すべき、といったスタンスのほうが少しだけうれしいのは間違いありませんが、でもなぜ法務的知見が会社の機関たる監査役に要求されるのか、法曹は会社に必要なときだけ「外部の第三者」として関与すれば、その法務的知見は十分会社の要求を満たすのではないか、といった疑問に、現在のところ明確な回答は持ちえておりません。「会計的知見」というのは、やはり企業経営にとっては、会計処理が恒常的な作業であって、会計監査人とは別個に「恒常的に」監視する必要性というものが理解できるように思えます。そのあたりにも、たとえば社外監査役として「法務的知見」と「会計的知見」とでは、開示対象としての価値に差があっても不思議はないといった判断に至る理由があるのかもしれません。

7月 6, 2006 監査役の財務会計的知見 |

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コメント

先日はメールで失礼しました。

ジュリスト7月号、私も読みましたが、またまた上村教授、稲葉教授の怪気炎がすごいですね。
でも、批判はごもっともだと思いますし、こういった批判に耐えることができてこそ、新会社法も世に認められるようになるのではないでしょうか。
私も会社法の講演を何度かしましたが、はっきりいって上村教授と同じ懸念を抱いておりますので、中小企業向けの会社法活用講座しか講演をしません。大企業向けということになると、いつ実務が変わって、「ウソをしゃべった」と苦情を言われるかわからないからです。(笑)

投稿: ココット | 2006年7月 6日 (木) 14時29分

> でもなぜ法務的知見が会社の機関たる監査役に要求されるのか

これは監査役が適法性監査を職務とするからだと思うのですが・・・。
法律も満足に知らない人に監査役になどなってもらいたくないですよね。
譲渡制限中小会社の監査役の職務を会計監査に限定できるのも同じ主旨なんじゃないでしょうか。

ジュリストまだ全部読んでません・・・。
もうすぐ夏休みなのでそこできちんと読もうかと・・・。

投稿: とーりすがり | 2006年7月 6日 (木) 21時31分

>ココットさん

コメントありがとうございました。
なるほど、会社法全体に関する意見を持ち合わせておりませんでしたので、そういった意識で会社法の講演をされる方もいらっしゃるとは存じ上げませんでした。
上村教授が、数名の教授陣とともに法務省へ直談判に乗り込んだ話とか読みますと、「会社は誰のものか」というよりも「会社法は誰のものか」、考え込んでしまいそうです。
今後ともよろしくお願いします。

>とーりすがり さん

いつもありがとうございます。(このエントリーには、おそらくレスをつけてくださるんではないか、と少し期待をしておりました)
「適法性監査」にいうところの「法」とはいったい何を意味するんでしょうかね。「法令遵守」といった場合の「法」なのか、それとも広くルールを指すのか。最近あまり違法性監査と妥当性監査という分類を聞かなくなりましたが、監査の範囲論と専門職による社外監査役の関係について、とーりすがりさんのご指摘をもとに次回、検討してみたいと思いました。
また、ご指摘よろしくお願いします。あっそれからジュリストに関する感想などもお願いします。

投稿: toshi | 2006年7月 7日 (金) 14時01分

おひさしぶりです。弁護士のM・Eです。会計関係書類の作成過程を検証できないことを理由に監査法人が不正は見抜けなかったという会計監査の限界論を安易に援用するような事態を招かないためには、会社法施行規則110条を論拠として会計監査人には環境の整備に努める責務にあることを強調する必要があるとは思います。しかし、監査役の監査環境の整備に関する105条2項では1文「監査役は、その職務を適切に遂行するため、次に掲げる者との意思疎通を図り、情報の収集及び監査の環境の整備に努めなければならない」という文言に続き2文として「この場合において、取締役又は取締役会は、監査役の職務の執行のための必要な体制の整備に留意しなければならない」と規定され、経営者側も監査環境の整備に努めるべき行為規範が定められていますが、会計監査人の110条にはこの105条2項2文に相当する文言がなくため、会計監査人の変面的な努力義務のみを定める規定になっていますので、会社法施行規則の規定だけでは限界があるかも知れません。やはり改正検討課題とする中東教授の見解が政党ではないでしょうか。

投稿: M・E | 2006年7月 8日 (土) 20時51分

>MEさん

どうも、おひさしぶりです。コメント、ありがとうございました。
たしかに、MEさんのご指摘のとおり、施行規則の規定ぶりだけからは限界があるかもしれませんね。このあたりは、監査役協会の実務指針(会計監査人と監査役との連携に関する)などもありますので、また検討してみたいと思います。規則の関係でいいますと、やはり監査役の「会計監査人の内部統制」への判断問題についても、いまだ私は疑問がくすぶり続けております。金融庁の4大監査法人への業務改善指示勧告なども出たところで、もう一度第五弾のシリーズモノをエントリーする予定にしておりますので、またそちらにもご意見をいただければ、と思っております。

投稿: toshi | 2006年7月10日 (月) 02時41分

弁護士のM・Eです。なぜか2回の送信になっており、失礼しました(誤字もありました)。先生にコメントをさせていただいた後、会社法の側で取締役は職務が法令に適合することを確保するための体制を整備することが義務とされており、適法な財務諸表、会計計算書類の作成はこの法令遵守の具体化の1つであることからすると、会社法の規定を理由に、開会監査人は取締役に対峙できるかななどと考え直しております。
 また、金融庁の4大監査法人に対する業務改善指示勧告を踏まえ、このような状況におかれた監査法人による監査における監査の限界論という問題について思うところがありますが、先生のご見解を披露していただければと思います。また、そろりそろりとコメントに参加させていただくようにしますので、よろしくお願いします。

投稿: M・E | 2006年7月10日 (月) 13時28分

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