内部統制の整備と取締役の責任(日本取締役会セミナー)
昨日のエントリーで「パロマ工業問題が大きなヤマ場を迎えることになりそう」と申し上げておりましたが、予想よりも早くヤマ場が来てしまったようです。johnさんがご指摘のとおり、コンプライアンス、とりわけ今回は「初期対応」の重要性についてたいへん考えさせられるところです。ただ、識者の方よりメールを頂戴して思ったのですが、きょうの報道をみましても、まだパロマ経営陣による公表内容に「?」と思われる内容が含まれておりまして、新たに公表された死亡事故など、なにゆえ今頃になって発表されたのか、そのあたりの経緯に関する報告内容を待ってみます。そのあたりが判明しませんと「初期対応」だけの問題かどうか、断言できないようにも思えますね。
ということで少し話は変わりますが、きょう(7月18日)お昼から東京で日本取締役協会「内部統制研究会」主催(第一法規出版協賛)によるセミナー「内部統制の整備と取締役の責任」を聴講させていただきました。以前6月7日のエントリーでこの「内部統制研究会」に非常に関心を持っているということを書かせていただきましたが、きょうが実質的なキックオフミーティングということでして、研究会の方々を含め100名以上の参加者で「ものすごい活気」でした。
率直な感想を申し上げるならば、現在の会社法、金融商品取引法における内部統制実務をリードする方々のお話は非常におもしろかったですし、新幹線代を払ってでも聴講する価値はございました。(おそらく日本取締役協会のHPに内容がアップされることと思います)ただ、この「内部統制研究会」の目標としている「会社法と金融商品取引法における内部統制実務の融合」という点につきましては、まだまだ進むべき方向すら模索中ということで、具体的なヒントは提示されなかったように思います。一般企業が限りある資源を最適配分するために、この「融合問題」は今後の内部統制実務において非常に検討する価値のある問題だと認識しておりますので、今後ともこの研究会の成果について注目していきたいと思っています。あと、少し気になりましたのが、「会社法には罰則がないが、金融商品取引法には罰則がある」といった表現です。たしかに罰則はありますが、これは「内部統制システムを整備しないことによる罰則」ではなくて、内部統制報告書を提出しない、あるいは虚偽の内容の報告書を提出した場合の罰則のことでありますから、「内部統制システムの整備不良」に関して言えば、どちらも罰則はないことになります。(また、証券取引所規則のレベルで申し上げても、財務諸表に不備があれば上場廃止となりますが、内部統制システムに不備があっても上場廃止にはならないはずです なお、grandeさんよりご指摘のとおり、東京証券取引所の「上場制度総合整備プログラムの作成について」におきまして、財務報告に係る内部統制に関する監査意見において、内部統制に重要な欠陥がある旨記載された場合において、当該重要な欠陥があるその翌々年においてもなお改善されず同様の意見が出された場合には、上場廃止することを検討する、とあります とりあえず検討中ということですが、訂正しておきます。)
なお、以下は研究会において聴講した内容(金融商品取引法上の内部統制報告実務に関して)を、私なりに(感想風に)まとめたご報告ですので、内容の真偽に関する責任はすべて私にございます。あらかじめご了承ねがいます。
「やっぱり、内部統制報告実務基準は30ページ、実施基準は200ページを超えるものになるみたい」
「前にブログでワールドカップが終るころには実施基準公開草案が出るみたいって書いたけど、早くても9月ころになるみたい」
「昨年12月の基準案のⅠ、Ⅱ、Ⅲと同じように、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに対応する形で実施基準が出るみたいで、とりわけⅡの経営者評価のところがとても苦労されているみたい。ただし、Ⅲの監査実務については、(取り扱うのが会計専門家ということなので)基準と実施基準とが一体化して作成されているみたい。」
「上場企業を大企業と中小企業に分類して、基準を変えるとか、評価レベルを変えるといったことは一度も部会で議論されたことはないし、今後も検討される気配はないみたい」
「IT統制については、やっぱり経営者がITをコントロールできるかどうか、といった部分が重要になるみたい」
などなど、ほかにもたくさん感想はございますが、こんな場末のブログでも、最近のアクセス数から考えますと関係者の方々にご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんので、このあたりで控えさせていただきます。
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コメント
ご無沙汰しております。ちょうど東京におりましたから参加したかったのですが抜け出せませんでした。
今回のエントリーを拝読しましての最初の感想としましては、「実施基準」「実務指針」の公表遅れがなんとかならないかなぁと。
実務のスケジューリングを考えるとそろそろリミットですから、現場はきついというのが感想です。
USSOXで進めてしまうと、二度手間や不要な作業を行うことにもなりかねませんし。
また、会社法と金融商品取引法の罰則規定ですが、「内部統制の整備不良」という点に関してはありませんよね。
ですから、罰則がないことから、必要性を認識されていない方々もいらっしゃるわけでして。。。
ちなみに証券取引所レベルに関しましては、「財務報告に係る内部統制に関する監査意見」で重要な欠陥の存在が記載された場合には上場廃止とすることも検討中のようです。
東京証券取引所の「上場制度総合整備プログラム(平成18年6月22日公表)」がそれですね。
投稿: grande | 2006年7月19日 (水) 11時05分
>grandeさん
あ、ホントですね。(「上場制度総合整備プログラムの策定について」5ページ)見落としておりました。訂正します。経営者が適正と述べて、監査人が不適正と評価した場合のことを指しているようですが、
経営者がもともと「不適正意見」を述べた場合にはどうなるんでしょうかね?
投稿: toshi | 2006年7月19日 (水) 16時07分
弁護士のM・Eです。監査人の内部統制監査報告書に「内部統制に重要な欠陥がある旨記載された場合で、その翌々年にもなお改善されず同様の意見が出された場合など」とありますので(上場制度総合整備プログラムの策定について9頁)、経営者が不適正意見を述べた場合も同様ではないのでしょうか?。実は明日の講演会でこの東証の整備プログラムの話をしようと思っておりました。
それにしても山口先生の情報網はすごいですね。事前に知っていれば是非参加したかったのですが、残念です。今後、先生のお眼鏡にかなったセミナー等があれば教えてください。
投稿: M・E | 2006年7月19日 (水) 23時01分
MEさん、こんにちは。
毎日かならず「内部統制」「SOX法」「金融商品取引法」でグーグル検索をかけるのが日課になっておりますので、ときどき有益な情報にひっかかるんです。特別な情報網はございませんです。(ちなみに、ME先生の講演も、このグーグルでチェックさせてもらっております)また先生のほうで、有益な情報がございましたら、こちらでもご紹介いただければありがたいです。
投稿: toshi | 2006年7月21日 (金) 01時33分