王子製紙・北越製紙統合問題と競争制限
私は大阪のインディーズ系弁護士ですので、M&Aの専門家でも、独禁法の専門家でもございませんが、たとえばもし私が北越製紙の社外役員の立場であれば、三菱商事と提携したほうが企業価値が向上するのか、それとも王子製紙の子会社となるほうが企業価値が向上するのか、わかりやすい説明を株主に対して行わなければならないわけですし、なにか大きな決断をする場合には、株主の代弁者として行動しなければならないわけですよね。
そこで、どういった視点で検討すべきなのか、ということですが、もちろんTOB価格と時価との比較も大切かもしれませんが、支配権プレミアムはとるべきなのか、それとも一般株主のプレミアム取得の機会を減少せしめても三菱商事との提携をとったほうが有利なのか、そのあたり判断根拠となりうるような、なにかいい基準はないものでしょうか。事前審査制度があるために、独禁法違反に関するリスクはあまりないのかもしれません。しかし、競争制限が製紙業界に及ぼす影響をきちんとみておくことは必要ではないでしょうか。北越と王子が統合されるような事態に至った場合、水平的な競争制限が発生します。しかし、ここ10年ほど製紙業界は値引き競争が激化して値崩れが発生し、どこかの大手製紙会社が音頭をとって、また製品の値上がりを成功させる、といった状況がみられたようでして、競争制限には厳格な対応が必要だったのかもしれませんが、東南アジア経済圏からの輸入が活発化したことで、もはや内需との関係から日本における競争制限だけを規制していても、独禁法のめざす成果を期待することはできなくなってきた、さらに製紙業界全体の活性化のために海外における市場獲得を目的として国際競争力をつける必要性も認められることから、あまり水平的なところでの競争制限的な対応はとるべきではないようにも思えます。
いっぽう三菱商事が正式に北越製紙を傘下におさめて、原料から製品製造、営業までを一気にまとめるような場合には、いわゆる垂直的な合併に近い状況に至るために、北越の経営効率化は格段に高まるものと思われますが、一方で製紙業界に原料供給という面で競争制限が働くこととなり、業界全体の利益という点からはマイナスに働く要素となるのではないでしょうか。今後、中国市場の覇権を日本製紙グループや王子製紙など比較できないほどの大きな欧米企業と争うことになるわけですから、ここはぜひ一企業の内部問題ということではなく、日本の製紙業界の将来にとって北越製紙はどう対応すべきか、という視点も(社外役員にとっては)大切ではなかと思います。このあたりはまったくの素人考えなので、またご教示ください。
きょうもいろいろと動きがあったようですが、まだ今後交渉の経過がどうなるのか予想もつきませんので、備忘録程度に自分なりの問題点と思われる点を書きとめておく程度にしておきます。
| 固定リンク
コメント
ずいぶんご無沙汰していました。現時点では、分かりやすさからは、王子製紙との統合な感じがしますが、市場がどういう反応を今後示すのか興味深いところですね。現在進行形のものについて意見を言うのはなかなか勇気が要るものですが、小職は保守的にちょっとだけコメントを。敵対的なTOBとすでに色づけがされていますが、果たしてそれが適切なのでしょうか?発行価格についても、市場からの強い批判がありそうですね。発行差止の方に進んでいくのかどうか、興味をもってみています。
投稿: 辰のお年ご | 2006年7月26日 (水) 02時18分
コメントありがとうございます。
また、関連エントリーを立てましたので、ご覧いただければ幸いです。
最終的なゴールが和解的統合ということであれば、その中間の出来事として発行差止申立というのもありかな・・と思いますが、いかがでしょうかね?
投稿: toshi | 2006年7月26日 (水) 03時41分
先生が書いておられるように、法律論よりは、企業価値を維持・向上させられるような統合に進めるかという実質論がどうも重要そうですね。その意味で、新株発行差止については、勝算のみならず、現経営陣と裁判上真っ向から対立する主張を展開することによるプロ・コン、他方差止申立を起こして却下された場合の次の策、さらに差止申立をせずにやり過ごした場合のその後の対策、といったところを、考慮しながら進んでいくのでしょうね。水面下での交渉・協議の余地があるのか、その進展の見込みは・・・など外野からの想像では限定されていますが、いずれにしても申立をするのであれば早期がベターでしょうから、ここ数日が第一のヤマ場でしょう。当然、マスコミ等での論調には双方とも大きな関心をもっていると思われます。
投稿: 辰のお年ご | 2006年7月26日 (水) 10時34分