« 売上架空計上事案を考える | トップページ | コンプライアンス経営はむずかしい・・・(その2) »

2006年7月14日 (金)

内部統制報告実務と真実性の原則

(14日午前 追記あります)

「週刊経営財務」の7月10日号では、金融庁総務企画庁企業開示課の課長さんによるスペシャルインタビュー記事が特集されておりまして、世間で注目されている「金融商品取引法」に基づく内部統制報告実務(経営者の評価と監査法人、公認会計士による監査証明)の「基準および実施基準」の公表時期について語られております。そこでは、四半期財務情報に関する監査基準の策定と歩調を合わせて、(努力目標として)年内いっぱいを目途にされているとか。(ん?ということは、実施基準の公表は来年になってしまう可能性もある、ということのようですね。やはりずいぶんと作業量は膨大なものになっているんじゃないでしょうか)

このブログでも先日紹介いたしましたが、やはりアメリカにおきましても、結局のところ中小規模の公開企業にもSOX法404条を適用する方向にあるとのことでして、この課長さんの言によりますと、日本の企業に内部統制報告実務を適用するにあたっては、基本的には事業規模にかかわらず、法律に定めたスケジュールにしたがって、適用する方向で検討されているようです。

中小規模の公開企業でも日本版SOX法の施行が過度の負担にならないように、(すでにご承知のとおり)トップダウン型のリスクアプローチが採用されたり、評価区分が少なくされたり、ダイレクト・レポーティングは採用しない、とされているわけですが、まぁ、それでも「大企業と中小規模の公開企業とで同じレベルの統制システムが要求されるのか?」といった問いには答えられていないんですよね。それで、今後の勝手な予測ではありますが、つぎの四つに分けて検討する必要があるのではないか、と思います。ひとつは大企業も中小公開企業も同じ基準で同じ程度の「監査レベル」を要求する、ふたつめはクリアすべき基準に差をもうけるが「監査レベル」は同等とする、三つめは基準に差をつけないけれども、合理的保証に到達する「監査のレベル」に差をもうける、四つめは基準も監査レベルにも差をもうける、といったところだと思います。(会計士でもないのに、勝手な推測によるものですから、基本的な誤りがあるかもしれませんが・・・・)昨年12月に内部統制部会から出されました「基準のあり方案」を読みましても、このあたりは出てこなかったと思います。

なぜこういったところが気になるかといいますと、そもそも金融商品取引法で議論される内部統制報告実務というのは、財務報告の信頼性確保ということを最終目標としているわけですから、いわゆる「会社の数字が正しいことを担保する」のが目的なわけです。しかし、私が聞きかじった素人知識によると、会計の世界の「数字の正しさ」というのは、絶対的真実ではなくて、相対的真実だということですよね。相対的真実でいい、というのは「誰のための会計制度か」という会計への見方に起因するところと、「おおよそ真実に近ければいい」といった社会的要請からくるところがあると思うんですけど、時間的、予算的制約からくる中小規模の公開企業のシステム構築負担を考えた場合、やはり社会的要請として、大企業とは基準や監査レベルに差をもうけたとしても、「真実性の原則」には反しないと考えられるのではないでしょうか。さかのぼって考えてみましても、「相対的真実」が許容される世界だからこそ、内部統制という概念が会計の世界で生き続け、そして発展してきたわけですし、いわば人間社会がうまく回っていくための「妥協の産物」のようなところがあるんではないかと。ですから概念フレームワークのような理論の産物ではなくて、結論の妥当性から帰納的に考えて、「これくらいのところでシステムを作ってくれたらいいですよ」みたいな判断基準の作り方も十分ありのように考えられるのではないでしょうか。

こういった考え方をしておりますと、今度は「じゃあどこからが大規模で、どこからが中小か」といった仕分けの問題が発生してくるわけでして、それなりに合理性のある区分がなかなか説明のつかないところでありますが、会計の世界における「真実性」をつきつめて考えていくと、内部統制報告実務のあり方にも大きな影響を与える要因が出てくるのではないか、と素人ながらに疑問を抱いております。(あっそうそう、野村総研さんのHPで、IT統制を中心とした日本版SOX法への対応方法が展開されており、示唆に富む提言もなされております。ご興味のある方はご参考にされてはいかがでしょうか)

(14日午前 追記)

7月7日のITコンプライアンス・フォーラム2006における八田先生(内部統制部会長)の講演要旨報告がZDNETJAPANのHPにアップされています。最近は「内部統制議論のひとり歩き」に警告を発する機会の多い八田先生ですが、今回も経営者不在の内部統制論について指摘されておられます。最近の八田先生のご発言からすると、先生は、なんとか会社法における内部統制と日本版SOX法における内部統制との「融合」(融合まではいかなくても、接点を探る)を図ろうと努力されているのではないか・・・と感じるのは私だけでしょうか。

|

« 売上架空計上事案を考える | トップページ | コンプライアンス経営はむずかしい・・・(その2) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 内部統制報告実務と真実性の原則:

» 1.内部統制報告書に関する QandA(前半) [内部統制報告書の基礎が誰でも分かる。]
Q1 内部統制報告書とはどのようなものですか? 金融商品取引法24条の4の4は、「当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価..... [続きを読む]

受信: 2006年7月30日 (日) 18時11分

« 売上架空計上事案を考える | トップページ | コンプライアンス経営はむずかしい・・・(その2) »