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2006年8月31日 (木)

コンプライアンス体制構築と社外監査役の役割

日本監査役協会関西支部の定例講演会(全日空ホテル)で、表記の演題で1時間半、講演をさせていただきました。(正確には「コンプライアンス体制構築と社外監査役・社外取締役」)今年5月に大阪弁護士会の研修で講演させていただいたときもたいそう緊張いたしましたが、650名の先輩監査役の方々の前で講演をさせていただくということで、今年一番の「緊張状態」となってしましました。それにしましても、「コンプライアンス」という表題は集客力がありますね。お越しいただいた監査役の皆様や日本監査役協会の方々のお蔭をもちまして、私もほぼお話させていただきたかったことの90%程度はご理解いただけだのではないか・・・・・と、思っておりまして、ここに厚くお礼申し上げます。

なお、演題の内容につきましては、コンプライアンス経営と内部統制との関係(全社的リスク管理の一貫としてのコンプライアンス経営と監査役の関与)というものが中心でありましたが、私がもっとも申し上げたかったことは「コンプライアンス」の意味の理解につきましては、語る人によってマチマチかとは思いますが、せめてそれぞれの企業で「うちの会社では、なにかコンプライアンス問題になるのか」共通認識をもってもらいたい、といったことでございました。お話のなかでは、平時と有事に分けてコンプライアンス対処法などを紹介いたしましたが、コンプライアンス経営がリスク管理の一貫である以上は、何をもって「リスク」と考えるのか、企業内における「共通認識」は不可欠であります。現代社会においては、法律違反によるペナルティ以外にも、会社の信用を毀損してしまうおそれのある「社会的制裁」といったものはそこらじゅうにゴロゴロしております。うちの企業は、それらの制裁をすべて気にしながら対処して会社の信用を守ろうとするのか、それとも法令違反には慎重に対応するけれども、それ以外の社会的なペナルティに対しては「断固、うちの企業のほうが正しい」と毅然として、株主以下利害関係者には自社行動の正当性につき説明責任を尽くす方針をとるのか、このあたりの企業としての対応方針を十分検討していただきたい、というのが私がもっとも申し上げたいところでありました。

コンプライアンスを曖昧に議論することの弊害→→萎縮的効果

私の講演をお聞きいただいた方はお話申し上げた内容と重複いたしますが、8月31日の日経新聞の朝刊には 証券会社の経営、厳格監視へ(金融庁) や 通信・放送の法体系見直しへ(総務省) といった記事が掲載されていると思われます。いずれもこの「コンプライアンス」を曖昧に理解することによって、企業に萎縮的効果が発生してしまい、企業経営の競争力を阻害することに関係しております。たとえば金融庁の証券会社に対する監視が厳しくなりますと、それに引きづられて証券会社の証券発行企業に対する審査基準も厳しくなるはずでありましょう。もし証券会社から指導を受けたことに反する行動に出たとした場合、発行企業としてはどんな制裁が待ち受けているのでしょうか。その制裁は異議申し立てによって取り消されるものなのでしょうか。抵抗することだけで社会的信用を毀損してしまうものなのでしょうか。「相手の行動に応じて対応する」、これがまさにコンプライアンスの真の意味でしょうし、リスクごとにその評価とその回避策を全社的に検討をしておくことは、いわゆる「コンプライアンス問題」に直面した企業が、必要以上に相手の行動に屈してしまったり、萎縮的になってしまうことを防止するためには不可欠な企業行動だと私は考えております。(なお、本日はこの6月に提訴されました住友金属の株主代表訴訟につきまして、「コンプライアンスと内部統制論との関係」を解説する具体例として掲げさせていただきましたが、株主オンブズマンのHPにその訴状が公開されております。おそらく経営判断の法理との関係や、内部統制構築義務の具体的内容の釈明の関係などから、もっと詳細な主張が追って出されることとなるものと予想されますが、勉強熱心な方は、いちおうご参考にされてはいかがでしょうか)

8月 31, 2006 コンプライアンス体制の構築と社外監査役の役割 | | コメント (5) | トラックバック (1)

2006年8月29日 (火)

内部統制における退職給付債務問題

8月25日の日経情報ストラテジーニュースによりますと、(電通国際情報サービスが)日本版SOX法への対応整備を検討している上場企業300社への調査により、その32%の企業が「SOX法の求める最低限度の要件に合わせた対応」を検討しており、「業務改革や基幹システムの再構築をめざす」と答えた企業はその半分の16%しか存在しないということのようです。(50%程度の企業は対応未定とのこと)やはり内部統制システム整備への費用対効果といった面での一般企業の関心から考えますと、担当者レベルとしましては、どうしても「実施基準が示す最低限度の要件をクリアできる程度の対応でよい」との回答になってしまうのも、なんとなく理解できる気もします。しかし、これはちょっと一般企業の方々が、まだまだ内部統制報告実務の目的を十分理解されていないのではないか、との感想を抱いてしまいます。おそらく、こういった雰囲気が世間に蔓延してしまったことから、「これはマズイ」と実施基準の策定責任者の方々もお思いになったのではないでしょうか。それで、実施基準の作り直しという事態に至ってしまったのではないか、と私はひそかに推測しておりますが。(いえ、これは本当に私の単なる推測ですが・・・)私もこのあたりは講演で何度も申し上げている留意点であります。

そもそも、私の金融商品取引法上の内部統制報告実務に関する理解からしますと、こういった「最低限度の要件クリアでよい」という選択肢と「業務改革をめざす」という選択肢を二者択一に回答を求めること自体が疑問であります。すでに何度かエントリーでも述べておりますが、おそらく「統制環境」「全社的内部統制システム」といった概念は、今後の日本版SOX法の運用場面において大きな役割を演じるはずです。誤解をおそれずに申し上げますと、監査法人さんから「経営者が評価した統制内容は無限定に適切である」との証明をもらえるのは、企業が業務改革に取り組む姿勢が真摯であることが「統制環境」として評価されるためである、と考えられます。したがいまして、この「統制環境作り」といいますのは、なにも実施基準が公表されていないと対応困難、というわけではなく、現段階であっても、十分対策を練ることができますし、なによりも経営陣の方々の認識こそ「統制環境」の要件をクリアする第一歩だと思います。

きょう郵便で届きました「経営財務2784号」の24ページ以下で、会計コンサルティングファームの山口光男氏が「内部統制における退職給付債務問題(上)」のなかで、内部統制システム構築の原点についてお書きになっておられますが、これ、たいへん素晴らしい内容です。いまの日本企業がおかれている現状を認識して、内部統制報告実務がなんのために導入されるのか、その目的をまず第一に明確にされています。そして、その目的達成のために、内部統制の有効性評価方法はどうあるべきかを検討され、その評価分析としての具体的な問題のひとつに表題の「退職給付債務問題」を掲げておられ、非常に説得的であり、また応用のきく方法論を提案されておられます。ひさしぶりに内部統制に関連する論稿として、レベルの高いものを拝読した気分であります。また、私もこの山口氏の見解は大いに賛同するところであります。ちょっと会計士や税理士の先生方以外には、すぐに読める雑誌ではありませんが、もしどなたかお知り合いに「経営財務」をおとりになっていらっしゃる先生方がいらっしゃいましたら、その論稿だけでもお借りしてお読みいただくことをお勧めいたします。

8月 29, 2006 内部統制における退職給付債務問題 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2006年8月28日 (月)

不正会計の予防に向けて(2)

アメリカではスタンフォード大学などの調査によって、株主集団訴訟の提起件数が、ここ10年で最も少ない水準まで下がっているとの報告が出ているそうです。(読売ニュース)この要因として、アメリカの景気好調、といった要因と並んで、SOX法による不正会計防止策の効果が出たのではないか、との意見もあるようです。企業コンプライアンスのために内部統制実務が大きな影響を与える、といった実証がもし本当になされるのであれば、これはまた大きなニュースになるのかもしれません。

さて先日、福岡の法務担当者でいらっしゃるぴてさんからTBをいただきました。じつは私もホンネのところでは「金融商品取引法による内部統制報告実務と監査役の役割との関係」といったところはよくわからないのです。前回のエントリーでご紹介させていただいた月刊監査役8月号の連載記事も拝読させていただきましたが、要は監査役の業務は金融商品取引法のうち、四半期報告書、内部統制報告書そして有価証券報告書が適正に作成されるところの内部統制の構築がもっとも重要なポイントである、といった内容でして、(紙面上の制限のためだと思いますが)それでは具体的にどのように対応すればよいのか、といったところまで突っ込んだ解説はなされておりませんでした。で、今回はちょっとだけ私論ではございますが、金融商品取引法における内部統制報告実務と監査役との関係について述べてみたいと思います。(またまたツッコミドコロの多いテーマだと思われますので、どうかいろんな方からのツッコミを期待しております。)

会社法上の内部統制システムの整備もそうだとは思うのですが、とりわけ金融商品取引法上の内部統制報告実務における監査といいますのは、証取法上の財務諸表監査とは異なり「プロセス監査」なんですよね。数字が正しいかどうか、といった結果の監査とは大きく異なる点ではないかと認識しております。だから前のエントリーでも少し書きましたが、プロセスの監査である以上は基本的に毎日の業務プロセスを監査して、一年間のシステムの稼動状況をチェックしなければ有効性を監査することはできないと思います。いわゆる財務諸表監査における抜き打ちでの試査というのは、過去のある一時点における計算過程の正しさは認識できますが、一年間毎日、同じ過程で数字が算出されていくことについてはなんらの推定も働かないはずです。結果を監査するということであれば、会計基準を変更して適用したり、適用上の誤りを是正することで無限定適正意見を出すこともできると思われますが、プロセス監査の場合には、過去に遡ってプロセスの誤りを修正するということは不可能ですから、いざ監査の段階になって監査人と経営者との有効性に関する評価に食い違いが発生した場合には容易に交渉によって修正を図るということができないはずです。したがいまして、内部統制監査については、おそらく監査報告書作成の時点において混乱が生じないよう、監査人による非監査業務(いわゆる内部統制システムが適正に構築されるよう相談に応じる業務)を行ってもよいことになるものと思われます。

さて、このように内部統制監査に関与すべき公認会計士(監査法人)は、本来ならば毎日監査対象企業に出向いて業務プロセスの状況を記録すべき立場にあるわけですが、もちろんそんなことは出来ないわけでして、四半期報告のために会社に出向くたびごとに、なんらかの記録をとるくらいしか現実には関与できませんよね。したがいまして、ここで「監査に必要な資料を毎日記録した」と同視できる程度のなんらかの「フィクションの世界」が必要になってきます。ここに登場してくるのが、非常に重宝できる「統制環境」とか「全社的内部統制システム」といった概念です。つまり財務報告の信頼性を担保するための、細かい業務プロセスに不備がありその報告の信頼性に疑問がある場合であっても、そういった不備を見つけ出してすぐに是正できるほどの経営陣の力量があると内部統制監査人(監査法人もしくは会計士さん)が認めれば、統制環境の優秀さを考慮して、総合的な判断によって経営者の有効性評価は適正であるとの結論を導くことが可能となってくるはずであります。したがいまして、さきほどの「フィクション」の話ですが、内部統制監査を担当する会計士さんにすれば、監査役と内部監査人との連携によって、自分が毎日業務プロセスを認識していた、と言えるほどの情報共有関係を築くことが可能であれば、そこには「統制環境が極めて良好」といった評価が生まれ、総合的な判断として内部統制が有効に機能しているとの評価を得やすくなるものと予測しております。会社法上の監査役は、会計監査人の監査方針などの相当性を判断する立場にありますが、財務報告の信頼性を確保するための業務監査報告につきましては、内部統制システムの運用状況をきちんと(内部統制監査を兼任している)会計監査人に報告し、また日々の会計監査人からのアドバイスをきちんと業務監査に生かす工夫を行うこと、また外部監査人である監査役と内部監査人との監査に関する連携をきちんと明確にして、これも報告すること、これが監査役と金融商品取引法との関係におきまして、監査役にとって最も重要な役割ではないかと考えておりますが、いかがでしょうか。

さて、金融商品取引法上の内部統制監査人と会社法上の機関である会計監査人とは、概念的にはまったく別個の存在ですし、たまたま証取法上の財務諸表監査人と内部統制監査人とは兼任できるといった実務方針があるために、内部統制監査人と会計監査人とも兼任できるということになったわけでありますが、そうしますと、結論的には会計監査人は内部統制システムが有効と評価されるための相談業務に応じる、といった非監査業務を行うことはできることになります。で、ここまで来るのであれば、いっそのこと会計監査人には非監査業務としての「不正発見義務」まで認めてしまってもいいのではないか、というのが次の論点になってまいります。そもそも、アメリカのSOX法においては、企業会計業務に関与する弁護士には、たとえその企業から報酬を得ていたとしても不正をSECに報告すべき義務が課されておりますし、また日本におきましても、マネロン問題に絡んで、弁護士に被疑者密告義務を課そうとしているところであります。(弁護士会は大いに反対をしておりますが)そう考えますと、会計士さん方が企業から報酬を得ているとしましても、その企業の不正を暴きだして、これを監査役もしくは証券取引等監視委員会に対して告発する義務を付託したとしましても、今のご時世、それほど違和感のあるような結論ではないような気もします。会計士さんの不正発見技術(いわゆるフォレンジック)に関する問題点とか、国家権力の一翼を補完する役割論なども絡みますので、また改めてエントリーしたいと思っております。

8月 28, 2006 不正監査防止のための抜本的解決策 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2006年8月26日 (土)

不正会計の予防に向けて(1)

著名な弁護士の先生方のご推薦をいただき、日本取締役協会の内部統制部会に入会させていただきました。(いろいろとご配慮いただき、厚く御礼申し上げます)さっそく研究会に参加させていただきまして、これまた日本を代表する商社の内部統制システム構築の進捗状況などといろいろと研究させていただき、非常に有意義な時間を過ごすことができました。また、研究会の内容等につきましては、関連エントリーの際にでも、お話できる範囲でご報告申し上げます。

さて、約2週間ほど前に「不正会計の予防に向けて(序)」と題して、企業における全社的リスク管理の一貫として不正会計予防を真剣に考えてみたいと申し上げておりましたが、その続編をすこし検討してみたいと考えております。この問題について本格的に検討する前に、いくつかの問題整理が必要ではないか、と思っております。その一つは、金融商品取引法における内部統制報告実務と監査役との役割関係というものであります。まだ月刊監査役8月号は読んでおりませんが、この月刊誌に森濱田松本法律事務所の著名な先生が金融商品取引法と監査役との役割ということを主たるテーマとして論稿を発表していらっしゃいます。このテーマ、実はいままであまり議論されてこなかったのではないか、と思います。このあたりのテーマについて、私自身が考えている問題整理をこの週末にでも、きちんとエントリーをしておきたいと思います。議論のポイントは、①会社法上の会計監査人と金融商品取引法上の内部統制報告実務に出てくる監査法人(公認会計士)とは基本的に別人である、(たまたま内部統制報告実務のうえでは同一の会計士もしくは監査法人が担当してもいい、ということになっているだけのこと)ということと、②内部統制監査というものは、結果の監査ではなく、基本的にはプロセスの監査であるため、内部統制報告実務において、経営者の有効性評価の内容を監査する人間は「原則としては毎日のプロセスを会社にへばりついて観察していなければいけないのであって」、それが困難ということであれば、誰かの力を必要とすること、③もし、会計監査人である会計士(監査法人)が、会社法からみて「非監査業務」であるはずの「内部統制監査」を同じ人間がやってもいい、ということになれば、これは会社法サイドからすれば異例の事態を認めることになるのであって、もしそういった非監査業務を会計監査人がやってもいいのであれば、監査法人改革の主題ともいえる「不正監査発見業務」というものも会計監査人に求めてもいいのではないか、といった問題が出てくること、こういったあたりでしょうか。

前回のエントリーで今後の内部統制報告実務を議論するにあたり、「統制環境」「全社的統制システム」といった用語がキーワードになるのではないかと申し上げましたが、ここにもそういったキーワードが登場してまいります。もし、ご紹介しました「月刊監査役」8月号でも、私と同じ問題意識のもとで、役割論が整理されておりましたら、「マネしとんちゃうか?」と言われるのも問題でありますので、続編を中止することもありますが・・(笑)

8月 26, 2006 不正監査防止のための抜本的解決策 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年8月24日 (木)

内部統制の費用対効果(その2)

(8月24日深夜 追記あります)

いよいよ東京では「2006内部統制ソリューション展」が始まりましたね(8月23日、24日東京国際フォーラム 日経BP社)。私も実はそのゴールドスポンサーさんが主催されている「内部統制が会社を変える!」の基調講演を8月に2回させていただいております。そんな立場でありながら、非常に恐縮な話なのですが、私もcritical-accountingさんと同様、「日経情報ストラテジー9月号」の「日本版SOX法8つの誤解」という特集記事を読みまして、とりわけ「費用対効果」に関する問題点につきましては、非常に納得した次第であります。(といいますか、私の大阪での講演をお聞きになられた方はご承知のとおり、この「誤解」というところは、ほとんど私の講演内容と同趣旨の指摘ばかりだと思います。まぁ八田教授もこの特集で登場されているわけですから、八田先生のお話や基本書をもとに内部統制を考えてきた者にとりましては当然といえば当然かもしれませんが・・・)ただ、内部統制をITソリューションのビジネスチャンスと捉える企業の方々にとりましても、今後の「日本版SOX法(金融商品取引法およびその実施規則や実施基準)」と「平成18年度情報基盤強化税制」の動向をキッチリ押さえておきませんと、あとでややこしい問題に巻き込まれてしまうのではないか、といった懸念がありますので、たいへんタイムリーな話題(警鐘?)だと思いました。

日本版SOX法、つまり内部統制報告実務(監査証明実務を含む)を策定、導入する責任ある立場の方々にとって、日本の上場企業(規模にかかわらず)にこれを均一に適用させるためには「費用対効果」というものは避けて通れない問題だと思います。ちょうど1年前の2005年8月26日のエントリーにおきまして、この内部統制の費用対効果の問題をこのブログで採り上げました。そもそも日米の企業文化において「業務内容を文書化」することの意義に大きな差があることを訴訟におけるディスカバリー制度を具体例にして説明させていただき、日本の企業ではアメリカほどの文書化が根付くことはないのではないかと問題を提起させていただきましたが、そのアメリカにおきましても、(これも既にブログで紹介いたしましたが)最近、中小の上場企業向けの「統制環境」評価において「なるべく費用がかからないような工夫」が議論されるようになってきました。(このあたりの話題は7月頃の週刊経営財務が詳しいと思います)日本の上場企業のなかで、(アメリカと異なり)「よーいドン!」で一社残らず内部統制報告実務が始まるわけですから、社員30人の公開企業でも経営者が評価可能な統制システムであれば「OK」なわけです。いくら「攻めの内部統制」と謳ってみましても、統制システムに関する開示情報が企業価値を計るモノサシとしての役目でも果たさない限りは、おそらく費用対効果といった見地からは疑問が出てきてしまうわけです。

いろいろと考えてみますと、「法が強制する最低限度のシステム」をクリアすることが目的であれば、その最低ラインを各上場企業が知りたいわけですから、各社統一された基準を適用することにも一理あるかもしれません。しかしながら、「これは最低ラインをクリアすることだけが目的ではありません。こういった作業は業務の効率化を進めることに役立つのです」といわれて、普通にその説明を納得できるでしょうか。「攻めの内部統制(効率化によって他社に差をつける)」につきましては、特別に国家が統制システムの内容を基準として定める必要はないわけでして、古来優秀な中小企業の社長さん達が個人的なノウハウとして持っていた「わが社の秘伝」、つまり個々の企業に合った内部統制システムを模索すればいいわけであります。

投資者保護に必要なレベルの「財務報告の信頼性を確保するための内部統制報告実務」というものが「守りの内部統制」であるならば、システム整備によって他社に差をつける業務効率性を生み出す可能性、というものは「攻めの内部統制」と名づけられてしかるべきと思います。ただし「基準」というものが必要なのは実は守りのほうだけであって、攻めのほうにつきましては、むしろ基準があること(国家がシステムの仕組みを決めること)とは矛盾するのではないでしょうか。ただ、このあたりを巧妙に統一して説明することを可能にしてくれるのがCOSOフレームワークにも登場してくる「統制環境」というたいへん便利な概念ではないか・・・と思ったりしております。私は、今後の内部統制に関するいろいろな議論のなかで、キーワードとして十分使い方に注意すべきなのは、この「統制環境」という用語と「全社的な内部統制」そして「内部統制の限界」という用語であろう、と推測しております。

(8月24日追記)

内部統制関連の情報ですが、どうも内部統制部会による実施基準の公開草案の提出時期がまたまた遅れるようですね。といいますか、ずいぶんと簡略化される実施基準になる、という噂があるようです。このあたりは、会社法における内部統制と金融商品取引法における内部統制報告実務との融合ということを原因とするのか、それとも金融庁における国際会計基準への対応を急務とみてのことなのか、アメリカにおけるSOX法実務の混乱に起因するものなのかはよくわかりませんが。いずれにしましても、今後、この内部統制報告実務に関する最新情報にはくれぐれもご留意ください。

8月 24, 2006 内部統制の費用対効果 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年8月22日 (火)

「アット・ホーム」な会社と内部統制

きょうはある弁護士団体の会社法研究会に参加してまいりました。譲渡制限株式を発行している株式会社には、好ましくない者が会社の株主になることを防止するという趣旨を徹底するために「相続人等に対する売渡請求」制度というものを会社法が新設しているわけでして、これは中小企業の「お家騒動」から会社を守る制度として、非常に有効に使われるものと一般には解説され、また期待されている制度のようです。しかしながら、この5月から今までに、クライアント企業から実際に相談を受けた複数の弁護士の感覚でいえば、「本当にこの売渡請求制度」というのは、期待できるほどの制度かなぁ??むしろ、ひとつ間違えると会社のクーデターを引き起こしかねないリスクを背負い込むことになるようなアブナイ制度なのではないか、との意見が多数を占めていたようです。大企業の子会社あたりにおきましても、株主対策の一貫として、この相続人等に対する売渡請求に関する定款変更を検討されているところも多いのではないかと思いますが、一度「逐条解説 中小企業・大企業子会社のためのモデル定款」(2006年 第一法規出版 浜田道代監修)」の19ページ以下などをご参照のうえ、相続発生後の株式の準共有関係や、定款変更時における議決権保有者の顔ぶれ、(自己株取得ですから)財源規制問題クリアの可否などを十分検討されたうえで導入すべきかどうかを慎重に判断されたほうがよろしいかと思われます。

もちろん中小企業、大企業の子会社が、「アット・ホーム」な雰囲気をかもし出していて、それぞれ社員株主の信頼関係が強い企業であれば「先生、なにゆうてまんねん。そんなクーデターなんて、あるわけおまへんがな。あほくさ・・・」で終わってしまうのかもしれません。しかし、洞察力鋭いbunさんの「人を信じるということ・職場の雰囲気」というエントリーを拝読して、非常に共感を覚えました。私も常々、「アット・ホームな会社」という表現は、どことなく背筋に寒さを覚えておりました。会社という組織が競争を前提としている団体である以上は、アット・ホームな雰囲気などありえないと思いますし、もしそんな雰囲気が職場に醸し出されていれば、それは恐ろしいほどに「和を尊ぶ」自己抑制もしくは、本質の隠蔽がなされている可能性が高いと思ったりするわけです。仕事に対して正直に振舞う人であれば、「あ、あれ忘れてました。来週までには到底無理ですわ」ということで改善策も立てられますが、仕事に対して本当にまじめだったり、協調性をことのほか尊ぶ人の場合には、嘘を嘘で固めて、全体の進行に支障が出ていないふりをしたりするわけでして、内部監査人もそんな姿をみて、「いい人だ」と信用してしまうがために、また監査もずさんになってしまったりするわけです。アット・ホームな雰囲気になじめない人のなかに、仕事ができる人が多い、といったbunさんの指摘にもうなづけるところがありますね。最近よく思うのですが、内部統制というものを、和を尊ぶ日本の企業になじませるのはホントむずかしいところがあるんじゃないでしょうか。内部統制システムの整備のためには、監査する側と監査される側もしくは、共同監査する者どうしの「情報の共有」が不可欠だと思いますが、あんまり性悪説的な発想で対応すると、相互に牽制しあって、情報の共有が困難になる、したがって、ギスギスせずにアット・ホームな雰囲気のなかでそれぞれのホンネで話そうではないか、といった意見もよくお聞きします。しかし、この意見は「人を信用することで、人はなんでもホンネを話してくれる」といったことが真実であることが前提なわけですが、そんな簡単なものではないと思います。人を信用しあって仕事をすること自体は素晴らしいことだとは思いますが、だからといって「人を信用する」というのがどういうことかはわかりにくいことですし、必ずそれで十分な情報伝達が可能になるということはありえない、むしろ内部統制のシステムというのは、いやがうえにも言いたくないことまで情報として伝達しなければいけないよ、というお決まりごとを最初に決めてしまって、それが職場の雰囲気を壊してしまうというのであれば、それもひとつの仕事のスタイルである、と割り切ってしまわなければならないのではないか、と(少し冷徹ではありますが)思うところがありますね。

これから内部統制報告実務を担っていかれる公認会計士の先生方に、一度まじめにお聞きしてみたいです。社長以下、アットホームな雰囲気で和気藹々とした会社と、社内の競争がはげしくて、人の欠点や失敗を思いっきり指摘して、減点主義によって出世の道が決まる会社とではどちらが「統制環境」がすぐれているのでしょうか。いや、私だって「職場の雰囲気が明るい」ほうがいいに決まっているとは思っておりますが、どうも、そこに潜む落とし穴に気がつかずに、人を信用してしまうことの恐ろしさを、ココロのどこかに持っていなければ、内部統制を語る資格がないような気がしてしまいますねぇ。。。

8月 22, 2006 アット・ホームな会社と内部統制 | | コメント (8) | トラックバック (2)

2006年8月21日 (月)

フタタの臨時取締役会における特別利害関係人

1 AOKI・フタタ統合問題解決への雑感

AOKIインターナショナルによるフタタへの統合提案問題も、8月18日の株式会社コナカとの株式交換による経営統合決定(8月19日株式交換契約締結)によって、ほぼ収束に向かいつつあるようですね。株式交換比率からみて、26パーセントほどコナカの株式が希釈化されるわけでして、最低でもコナカ、フタタの統合によって26パーセントほどの収益向上をもたらすシナジー効果を両社が説明できなければいけない、と言われておりますが、こういったシナジー効果に関する説明は今後一般株主に対して行われるのでしょうかね。また、郊外型店舗展開サービス業(私が社外監査役を務める会社もこれでありますが)につきましては、不採算店の統廃合時の「解約損」問題が大きくのしかかるわけでして、これを回避するには「カラオケ店」「ネットカフェ」「中古書店」などの比較的改装に費用のかからない店舗へ業態転換するか、同業他社への転貸に回す以外には方法がありません。したがいまして、AOKIの提案は現実問題として非常に収益確保(損失防止)策として筋が通っておりますので、これを覆してコナカとのシナジー効果に優位性があるとするには相当具体的な本業収益確保に関する説明を要すると思うのですが、そういった説明も公表ベースでは見当たらないようです。コナカとフタタの主力取引銀行である三井住友銀行作成による意見書に重きを置く、というのも、なんとなく公正性に欠けるように思いますし、どうも今回の紳士服業界における統合問題には、透明性に欠けるように思います。M&Aのお仕事に関わっていらっしゃる専門家の方は、今回の問題解決までの経緯について、どのように考えていらっしゃるのでしょうか。どうもこれで沈静化したままになりますと、「敵対的買収防衛策の最大の手段はやっぱり株式持合い」というところに落ち着いてしまうような気がしますが、それで本当によろしいのでしょうか。

2 フタタの臨時取締役会で議決権を行使した取締役は誰?

今年の5月28日に株式会社フタタより大証および福岡証券取引所に提出されました「コーポレートガバナンス報告書」によりますと、現在フタタの取締役は8名いらっしゃいます。読売ニュースに記事によりますと、今回の統合先を決定する8月18日の臨時取締役会には8名のうち5名が議決権を行使する予定であり、3名は議決権を行使しないとされております。つまり会社法369条2項にしたがい、取締役会ではその決議について特別利害関係のある取締役は、議決に加わることができない、といった法文に基づいて、あらかじめ3名は特別利害関係人に該当する(もしくは、該当するおそれがある)として議決権行使の対象からは除いた、ということだと思われます。上の読売ニュースでは、コナカの代表者である社外取締役、コナカより派遣されてきた専務(社内取締役)がその3名に含まれていることが記載されておりますが、あとの1名は誰なのか明らかにされておりません。そこで、これは私の推測でありますが、あと1名はコナカの社外取締役に就任しておられるフタタの常務取締役の方ではないか、と思います。

会社法369条2項によって取締役会で議決権を行使できない「特別利害関係のある取締役」とは、いったいどんな内容が「特別利害関係」事由に該当するのか、いろいろと説が分かれているところであります。(そもそも単に議決権を行使できないだけなのか、その審議にすら出席権がないということなのか、についても争いがありますが)基本的にはその決議内容について、当該取締役が個人的な利益がからむために、会社に対する忠実義務を尽くすことが期待できないような事由かどうか、で判断されるべきだと思われます。統合提案を受けている片方の会社の取締役に就任されている方が、果たして「どっちの会社の統合提案を受け入れるか」といった決議に参加するというのは、厳密には「個人の利益」に関係するものではありません。しかしながら「コナカの社外取締役」という立場は、コナカの株主の利益のために行動しなければならない義務を負っているわけですから、そのコナカの提案している統合案よりもAOKIのほうが優れているといった結論を採択できる期待というのは乏しいはずでありまして、やはり「フタタの株主との関係で、忠実義務を誠実に行使することは期待できない」と結論付けるほうが穏当のように思われます。こういった経緯から、フタタの常務取締役の方は、(自ら非常に重要な立場であるにもかかわらず)議決権を行使しない、といった