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2006年8月31日 (木)

コンプライアンス体制構築と社外監査役の役割

日本監査役協会関西支部の定例講演会(全日空ホテル)で、表記の演題で1時間半、講演をさせていただきました。(正確には「コンプライアンス体制構築と社外監査役・社外取締役」)今年5月に大阪弁護士会の研修で講演させていただいたときもたいそう緊張いたしましたが、650名の先輩監査役の方々の前で講演をさせていただくということで、今年一番の「緊張状態」となってしましました。それにしましても、「コンプライアンス」という表題は集客力がありますね。お越しいただいた監査役の皆様や日本監査役協会の方々のお蔭をもちまして、私もほぼお話させていただきたかったことの90%程度はご理解いただけだのではないか・・・・・と、思っておりまして、ここに厚くお礼申し上げます。

なお、演題の内容につきましては、コンプライアンス経営と内部統制との関係(全社的リスク管理の一貫としてのコンプライアンス経営と監査役の関与)というものが中心でありましたが、私がもっとも申し上げたかったことは「コンプライアンス」の意味の理解につきましては、語る人によってマチマチかとは思いますが、せめてそれぞれの企業で「うちの会社では、なにかコンプライアンス問題になるのか」共通認識をもってもらいたい、といったことでございました。お話のなかでは、平時と有事に分けてコンプライアンス対処法などを紹介いたしましたが、コンプライアンス経営がリスク管理の一貫である以上は、何をもって「リスク」と考えるのか、企業内における「共通認識」は不可欠であります。現代社会においては、法律違反によるペナルティ以外にも、会社の信用を毀損してしまうおそれのある「社会的制裁」といったものはそこらじゅうにゴロゴロしております。うちの企業は、それらの制裁をすべて気にしながら対処して会社の信用を守ろうとするのか、それとも法令違反には慎重に対応するけれども、それ以外の社会的なペナルティに対しては「断固、うちの企業のほうが正しい」と毅然として、株主以下利害関係者には自社行動の正当性につき説明責任を尽くす方針をとるのか、このあたりの企業としての対応方針を十分検討していただきたい、というのが私がもっとも申し上げたいところでありました。

コンプライアンスを曖昧に議論することの弊害→→萎縮的効果

私の講演をお聞きいただいた方はお話申し上げた内容と重複いたしますが、8月31日の日経新聞の朝刊には 証券会社の経営、厳格監視へ(金融庁) や 通信・放送の法体系見直しへ(総務省) といった記事が掲載されていると思われます。いずれもこの「コンプライアンス」を曖昧に理解することによって、企業に萎縮的効果が発生してしまい、企業経営の競争力を阻害することに関係しております。たとえば金融庁の証券会社に対する監視が厳しくなりますと、それに引きづられて証券会社の証券発行企業に対する審査基準も厳しくなるはずでありましょう。もし証券会社から指導を受けたことに反する行動に出たとした場合、発行企業としてはどんな制裁が待ち受けているのでしょうか。その制裁は異議申し立てによって取り消されるものなのでしょうか。抵抗することだけで社会的信用を毀損してしまうものなのでしょうか。「相手の行動に応じて対応する」、これがまさにコンプライアンスの真の意味でしょうし、リスクごとにその評価とその回避策を全社的に検討をしておくことは、いわゆる「コンプライアンス問題」に直面した企業が、必要以上に相手の行動に屈してしまったり、萎縮的になってしまうことを防止するためには不可欠な企業行動だと私は考えております。(なお、本日はこの6月に提訴されました住友金属の株主代表訴訟につきまして、「コンプライアンスと内部統制論との関係」を解説する具体例として掲げさせていただきましたが、株主オンブズマンのHPにその訴状が公開されております。おそらく経営判断の法理との関係や、内部統制構築義務の具体的内容の釈明の関係などから、もっと詳細な主張が追って出されることとなるものと予想されますが、勉強熱心な方は、いちおうご参考にされてはいかがでしょうか)

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2006年8月29日 (火)

内部統制における退職給付債務問題

8月25日の日経情報ストラテジーニュースによりますと、(電通国際情報サービスが)日本版SOX法への対応整備を検討している上場企業300社への調査により、その32%の企業が「SOX法の求める最低限度の要件に合わせた対応」を検討しており、「業務改革や基幹システムの再構築をめざす」と答えた企業はその半分の16%しか存在しないということのようです。(50%程度の企業は対応未定とのこと)やはり内部統制システム整備への費用対効果といった面での一般企業の関心から考えますと、担当者レベルとしましては、どうしても「実施基準が示す最低限度の要件をクリアできる程度の対応でよい」との回答になってしまうのも、なんとなく理解できる気もします。しかし、これはちょっと一般企業の方々が、まだまだ内部統制報告実務の目的を十分理解されていないのではないか、との感想を抱いてしまいます。おそらく、こういった雰囲気が世間に蔓延してしまったことから、「これはマズイ」と実施基準の策定責任者の方々もお思いになったのではないでしょうか。それで、実施基準の作り直しという事態に至ってしまったのではないか、と私はひそかに推測しておりますが。(いえ、これは本当に私の単なる推測ですが・・・)私もこのあたりは講演で何度も申し上げている留意点であります。

そもそも、私の金融商品取引法上の内部統制報告実務に関する理解からしますと、こういった「最低限度の要件クリアでよい」という選択肢と「業務改革をめざす」という選択肢を二者択一に回答を求めること自体が疑問であります。すでに何度かエントリーでも述べておりますが、おそらく「統制環境」「全社的内部統制システム」といった概念は、今後の日本版SOX法の運用場面において大きな役割を演じるはずです。誤解をおそれずに申し上げますと、監査法人さんから「経営者が評価した統制内容は無限定に適切である」との証明をもらえるのは、企業が業務改革に取り組む姿勢が真摯であることが「統制環境」として評価されるためである、と考えられます。したがいまして、この「統制環境作り」といいますのは、なにも実施基準が公表されていないと対応困難、というわけではなく、現段階であっても、十分対策を練ることができますし、なによりも経営陣の方々の認識こそ「統制環境」の要件をクリアする第一歩だと思います。

きょう郵便で届きました「経営財務2784号」の24ページ以下で、会計コンサルティングファームの山口光男氏が「内部統制における退職給付債務問題(上)」のなかで、内部統制システム構築の原点についてお書きになっておられますが、これ、たいへん素晴らしい内容です。いまの日本企業がおかれている現状を認識して、内部統制報告実務がなんのために導入されるのか、その目的をまず第一に明確にされています。そして、その目的達成のために、内部統制の有効性評価方法はどうあるべきかを検討され、その評価分析としての具体的な問題のひとつに表題の「退職給付債務問題」を掲げておられ、非常に説得的であり、また応用のきく方法論を提案されておられます。ひさしぶりに内部統制に関連する論稿として、レベルの高いものを拝読した気分であります。また、私もこの山口氏の見解は大いに賛同するところであります。ちょっと会計士や税理士の先生方以外には、すぐに読める雑誌ではありませんが、もしどなたかお知り合いに「経営財務」をおとりになっていらっしゃる先生方がいらっしゃいましたら、その論稿だけでもお借りしてお読みいただくことをお勧めいたします。

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2006年8月28日 (月)

不正会計の予防に向けて(2)

アメリカではスタンフォード大学などの調査によって、株主集団訴訟の提起件数が、ここ10年で最も少ない水準まで下がっているとの報告が出ているそうです。(読売ニュース)この要因として、アメリカの景気好調、といった要因と並んで、SOX法による不正会計防止策の効果が出たのではないか、との意見もあるようです。企業コンプライアンスのために内部統制実務が大きな影響を与える、といった実証がもし本当になされるのであれば、これはまた大きなニュースになるのかもしれません。

さて先日、福岡の法務担当者でいらっしゃるぴてさんからTBをいただきました。じつは私もホンネのところでは「金融商品取引法による内部統制報告実務と監査役の役割との関係」といったところはよくわからないのです。前回のエントリーでご紹介させていただいた月刊監査役8月号の連載記事も拝読させていただきましたが、要は監査役の業務は金融商品取引法のうち、四半期報告書、内部統制報告書そして有価証券報告書が適正に作成されるところの内部統制の構築がもっとも重要なポイントである、といった内容でして、(紙面上の制限のためだと思いますが)それでは具体的にどのように対応すればよいのか、といったところまで突っ込んだ解説はなされておりませんでした。で、今回はちょっとだけ私論ではございますが、金融商品取引法における内部統制報告実務と監査役との関係について述べてみたいと思います。(またまたツッコミドコロの多いテーマだと思われますので、どうかいろんな方からのツッコミを期待しております。)

会社法上の内部統制システムの整備もそうだとは思うのですが、とりわけ金融商品取引法上の内部統制報告実務における監査といいますのは、証取法上の財務諸表監査とは異なり「プロセス監査」なんですよね。数字が正しいかどうか、といった結果の監査とは大きく異なる点ではないかと認識しております。だから前のエントリーでも少し書きましたが、プロセスの監査である以上は基本的に毎日の業務プロセスを監査して、一年間のシステムの稼動状況をチェックしなければ有効性を監査することはできないと思います。いわゆる財務諸表監査における抜き打ちでの試査というのは、過去のある一時点における計算過程の正しさは認識できますが、一年間毎日、同じ過程で数字が算出されていくことについてはなんらの推定も働かないはずです。結果を監査するということであれば、会計基準を変更して適用したり、適用上の誤りを是正することで無限定適正意見を出すこともできると思われますが、プロセス監査の場合には、過去に遡ってプロセスの誤りを修正するということは不可能ですから、いざ監査の段階になって監査人と経営者との有効性に関する評価に食い違いが発生した場合には容易に交渉によって修正を図るということができないはずです。したがいまして、内部統制監査については、おそらく監査報告書作成の時点において混乱が生じないよう、監査人による非監査業務(いわゆる内部統制システムが適正に構築されるよう相談に応じる業務)を行ってもよいことになるものと思われます。

さて、このように内部統制監査に関与すべき公認会計士(監査法人)は、本来ならば毎日監査対象企業に出向いて業務プロセスの状況を記録すべき立場にあるわけですが、もちろんそんなことは出来ないわけでして、四半期報告のために会社に出向くたびごとに、なんらかの記録をとるくらいしか現実には関与できませんよね。したがいまして、ここで「監査に必要な資料を毎日記録した」と同視できる程度のなんらかの「フィクションの世界」が必要になってきます。ここに登場してくるのが、非常に重宝できる「統制環境」とか「全社的内部統制システム」といった概念です。つまり財務報告の信頼性を担保するための、細かい業務プロセスに不備がありその報告の信頼性に疑問がある場合であっても、そういった不備を見つけ出してすぐに是正できるほどの経営陣の力量があると内部統制監査人(監査法人もしくは会計士さん)が認めれば、統制環境の優秀さを考慮して、総合的な判断によって経営者の有効性評価は適正であるとの結論を導くことが可能となってくるはずであります。したがいまして、さきほどの「フィクション」の話ですが、内部統制監査を担当する会計士さんにすれば、監査役と内部監査人との連携によって、自分が毎日業務プロセスを認識していた、と言えるほどの情報共有関係を築くことが可能であれば、そこには「統制環境が極めて良好」といった評価が生まれ、総合的な判断として内部統制が有効に機能しているとの評価を得やすくなるものと予測しております。会社法上の監査役は、会計監査人の監査方針などの相当性を判断する立場にありますが、財務報告の信頼性を確保するための業務監査報告につきましては、内部統制システムの運用状況をきちんと(内部統制監査を兼任している)会計監査人に報告し、また日々の会計監査人からのアドバイスをきちんと業務監査に生かす工夫を行うこと、また外部監査人である監査役と内部監査人との監査に関する連携をきちんと明確にして、これも報告すること、これが監査役と金融商品取引法との関係におきまして、監査役にとって最も重要な役割ではないかと考えておりますが、いかがでしょうか。

さて、金融商品取引法上の内部統制監査人と会社法上の機関である会計監査人とは、概念的にはまったく別個の存在ですし、たまたま証取法上の財務諸表監査人と内部統制監査人とは兼任できるといった実務方針があるために、内部統制監査人と会計監査人とも兼任できるということになったわけでありますが、そうしますと、結論的には会計監査人は内部統制システムが有効と評価されるための相談業務に応じる、といった非監査業務を行うことはできることになります。で、ここまで来るのであれば、いっそのこと会計監査人には非監査業務としての「不正発見義務」まで認めてしまってもいいのではないか、というのが次の論点になってまいります。そもそも、アメリカのSOX法においては、企業会計業務に関与する弁護士には、たとえその企業から報酬を得ていたとしても不正をSECに報告すべき義務が課されておりますし、また日本におきましても、マネロン問題に絡んで、弁護士に被疑者密告義務を課そうとしているところであります。(弁護士会は大いに反対をしておりますが)そう考えますと、会計士さん方が企業から報酬を得ているとしましても、その企業の不正を暴きだして、これを監査役もしくは証券取引等監視委員会に対して告発する義務を付託したとしましても、今のご時世、それほど違和感のあるような結論ではないような気もします。会計士さんの不正発見技術(いわゆるフォレンジック)に関する問題点とか、国家権力の一翼を補完する役割論なども絡みますので、また改めてエントリーしたいと思っております。

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2006年8月26日 (土)

不正会計の予防に向けて(1)

著名な弁護士の先生方のご推薦をいただき、日本取締役協会の内部統制部会に入会させていただきました。(いろいろとご配慮いただき、厚く御礼申し上げます)さっそく研究会に参加させていただきまして、これまた日本を代表する商社の内部統制システム構築の進捗状況などといろいろと研究させていただき、非常に有意義な時間を過ごすことができました。また、研究会の内容等につきましては、関連エントリーの際にでも、お話できる範囲でご報告申し上げます。

さて、約2週間ほど前に「不正会計の予防に向けて(序)」と題して、企業における全社的リスク管理の一貫として不正会計予防を真剣に考えてみたいと申し上げておりましたが、その続編をすこし検討してみたいと考えております。この問題について本格的に検討する前に、いくつかの問題整理が必要ではないか、と思っております。その一つは、金融商品取引法における内部統制報告実務と監査役との役割関係というものであります。まだ月刊監査役8月号は読んでおりませんが、この月刊誌に森濱田松本法律事務所の著名な先生が金融商品取引法と監査役との役割ということを主たるテーマとして論稿を発表していらっしゃいます。このテーマ、実はいままであまり議論されてこなかったのではないか、と思います。このあたりのテーマについて、私自身が考えている問題整理をこの週末にでも、きちんとエントリーをしておきたいと思います。議論のポイントは、①会社法上の会計監査人と金融商品取引法上の内部統制報告実務に出てくる監査法人(公認会計士)とは基本的に別人である、(たまたま内部統制報告実務のうえでは同一の会計士もしくは監査法人が担当してもいい、ということになっているだけのこと)ということと、②内部統制監査というものは、結果の監査ではなく、基本的にはプロセスの監査であるため、内部統制報告実務において、経営者の有効性評価の内容を監査する人間は「原則としては毎日のプロセスを会社にへばりついて観察していなければいけないのであって」、それが困難ということであれば、誰かの力を必要とすること、③もし、会計監査人である会計士(監査法人)が、会社法からみて「非監査業務」であるはずの「内部統制監査」を同じ人間がやってもいい、ということになれば、これは会社法サイドからすれば異例の事態を認めることになるのであって、もしそういった非監査業務を会計監査人がやってもいいのであれば、監査法人改革の主題ともいえる「不正監査発見業務」というものも会計監査人に求めてもいいのではないか、といった問題が出てくること、こういったあたりでしょうか。

前回のエントリーで今後の内部統制報告実務を議論するにあたり、「統制環境」「全社的統制システム」といった用語がキーワードになるのではないかと申し上げましたが、ここにもそういったキーワードが登場してまいります。もし、ご紹介しました「月刊監査役」8月号でも、私と同じ問題意識のもとで、役割論が整理されておりましたら、「マネしとんちゃうか?」と言われるのも問題でありますので、続編を中止することもありますが・・(笑)

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2006年8月24日 (木)

内部統制の費用対効果(その2)

(8月24日深夜 追記あります)

いよいよ東京では「2006内部統制ソリューション展」が始まりましたね(8月23日、24日東京国際フォーラム 日経BP社)。私も実はそのゴールドスポンサーさんが主催されている「内部統制が会社を変える!」の基調講演を8月に2回させていただいております。そんな立場でありながら、非常に恐縮な話なのですが、私もcritical-accountingさんと同様、「日経情報ストラテジー9月号」の「日本版SOX法8つの誤解」という特集記事を読みまして、とりわけ「費用対効果」に関する問題点につきましては、非常に納得した次第であります。(といいますか、私の大阪での講演をお聞きになられた方はご承知のとおり、この「誤解」というところは、ほとんど私の講演内容と同趣旨の指摘ばかりだと思います。まぁ八田教授もこの特集で登場されているわけですから、八田先生のお話や基本書をもとに内部統制を考えてきた者にとりましては当然といえば当然かもしれませんが・・・)ただ、内部統制をITソリューションのビジネスチャンスと捉える企業の方々にとりましても、今後の「日本版SOX法(金融商品取引法およびその実施規則や実施基準)」と「平成18年度情報基盤強化税制」の動向をキッチリ押さえておきませんと、あとでややこしい問題に巻き込まれてしまうのではないか、といった懸念がありますので、たいへんタイムリーな話題(警鐘?)だと思いました。

日本版SOX法、つまり内部統制報告実務(監査証明実務を含む)を策定、導入する責任ある立場の方々にとって、日本の上場企業(規模にかかわらず)にこれを均一に適用させるためには「費用対効果」というものは避けて通れない問題だと思います。ちょうど1年前の2005年8月26日のエントリーにおきまして、この内部統制の費用対効果の問題をこのブログで採り上げました。そもそも日米の企業文化において「業務内容を文書化」することの意義に大きな差があることを訴訟におけるディスカバリー制度を具体例にして説明させていただき、日本の企業ではアメリカほどの文書化が根付くことはないのではないかと問題を提起させていただきましたが、そのアメリカにおきましても、(これも既にブログで紹介いたしましたが)最近、中小の上場企業向けの「統制環境」評価において「なるべく費用がかからないような工夫」が議論されるようになってきました。(このあたりの話題は7月頃の週刊経営財務が詳しいと思います)日本の上場企業のなかで、(アメリカと異なり)「よーいドン!」で一社残らず内部統制報告実務が始まるわけですから、社員30人の公開企業でも経営者が評価可能な統制システムであれば「OK」なわけです。いくら「攻めの内部統制」と謳ってみましても、統制システムに関する開示情報が企業価値を計るモノサシとしての役目でも果たさない限りは、おそらく費用対効果といった見地からは疑問が出てきてしまうわけです。

いろいろと考えてみますと、「法が強制する最低限度のシステム」をクリアすることが目的であれば、その最低ラインを各上場企業が知りたいわけですから、各社統一された基準を適用することにも一理あるかもしれません。しかしながら、「これは最低ラインをクリアすることだけが目的ではありません。こういった作業は業務の効率化を進めることに役立つのです」といわれて、普通にその説明を納得できるでしょうか。「攻めの内部統制(効率化によって他社に差をつける)」につきましては、特別に国家が統制システムの内容を基準として定める必要はないわけでして、古来優秀な中小企業の社長さん達が個人的なノウハウとして持っていた「わが社の秘伝」、つまり個々の企業に合った内部統制システムを模索すればいいわけであります。

投資者保護に必要なレベルの「財務報告の信頼性を確保するための内部統制報告実務」というものが「守りの内部統制」であるならば、システム整備によって他社に差をつける業務効率性を生み出す可能性、というものは「攻めの内部統制」と名づけられてしかるべきと思います。ただし「基準」というものが必要なのは実は守りのほうだけであって、攻めのほうにつきましては、むしろ基準があること(国家がシステムの仕組みを決めること)とは矛盾するのではないでしょうか。ただ、このあたりを巧妙に統一して説明することを可能にしてくれるのがCOSOフレームワークにも登場してくる「統制環境」というたいへん便利な概念ではないか・・・と思ったりしております。私は、今後の内部統制に関するいろいろな議論のなかで、キーワードとして十分使い方に注意すべきなのは、この「統制環境」という用語と「全社的な内部統制」そして「内部統制の限界」という用語であろう、と推測しております。

(8月24日追記)

内部統制関連の情報ですが、どうも内部統制部会による実施基準の公開草案の提出時期がまたまた遅れるようですね。といいますか、ずいぶんと簡略化される実施基準になる、という噂があるようです。このあたりは、会社法における内部統制と金融商品取引法における内部統制報告実務との融合ということを原因とするのか、それとも金融庁における国際会計基準への対応を急務とみてのことなのか、アメリカにおけるSOX法実務の混乱に起因するものなのかはよくわかりませんが。いずれにしましても、今後、この内部統制報告実務に関する最新情報にはくれぐれもご留意ください。

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2006年8月22日 (火)

「アット・ホーム」な会社と内部統制

きょうはある弁護士団体の会社法研究会に参加してまいりました。譲渡制限株式を発行している株式会社には、好ましくない者が会社の株主になることを防止するという趣旨を徹底するために「相続人等に対する売渡請求」制度というものを会社法が新設しているわけでして、これは中小企業の「お家騒動」から会社を守る制度として、非常に有効に使われるものと一般には解説され、また期待されている制度のようです。しかしながら、この5月から今までに、クライアント企業から実際に相談を受けた複数の弁護士の感覚でいえば、「本当にこの売渡請求制度」というのは、期待できるほどの制度かなぁ??むしろ、ひとつ間違えると会社のクーデターを引き起こしかねないリスクを背負い込むことになるようなアブナイ制度なのではないか、との意見が多数を占めていたようです。大企業の子会社あたりにおきましても、株主対策の一貫として、この相続人等に対する売渡請求に関する定款変更を検討されているところも多いのではないかと思いますが、一度「逐条解説 中小企業・大企業子会社のためのモデル定款」(2006年 第一法規出版 浜田道代監修)」の19ページ以下などをご参照のうえ、相続発生後の株式の準共有関係や、定款変更時における議決権保有者の顔ぶれ、(自己株取得ですから)財源規制問題クリアの可否などを十分検討されたうえで導入すべきかどうかを慎重に判断されたほうがよろしいかと思われます。

もちろん中小企業、大企業の子会社が、「アット・ホーム」な雰囲気をかもし出していて、それぞれ社員株主の信頼関係が強い企業であれば「先生、なにゆうてまんねん。そんなクーデターなんて、あるわけおまへんがな。あほくさ・・・」で終わってしまうのかもしれません。しかし、洞察力鋭いbunさんの「人を信じるということ・職場の雰囲気」というエントリーを拝読して、非常に共感を覚えました。私も常々、「アット・ホームな会社」という表現は、どことなく背筋に寒さを覚えておりました。会社という組織が競争を前提としている団体である以上は、アット・ホームな雰囲気などありえないと思いますし、もしそんな雰囲気が職場に醸し出されていれば、それは恐ろしいほどに「和を尊ぶ」自己抑制もしくは、本質の隠蔽がなされている可能性が高いと思ったりするわけです。仕事に対して正直に振舞う人であれば、「あ、あれ忘れてました。来週までには到底無理ですわ」ということで改善策も立てられますが、仕事に対して本当にまじめだったり、協調性をことのほか尊ぶ人の場合には、嘘を嘘で固めて、全体の進行に支障が出ていないふりをしたりするわけでして、内部監査人もそんな姿をみて、「いい人だ」と信用してしまうがために、また監査もずさんになってしまったりするわけです。アット・ホームな雰囲気になじめない人のなかに、仕事ができる人が多い、といったbunさんの指摘にもうなづけるところがありますね。最近よく思うのですが、内部統制というものを、和を尊ぶ日本の企業になじませるのはホントむずかしいところがあるんじゃないでしょうか。内部統制システムの整備のためには、監査する側と監査される側もしくは、共同監査する者どうしの「情報の共有」が不可欠だと思いますが、あんまり性悪説的な発想で対応すると、相互に牽制しあって、情報の共有が困難になる、したがって、ギスギスせずにアット・ホームな雰囲気のなかでそれぞれのホンネで話そうではないか、といった意見もよくお聞きします。しかし、この意見は「人を信用することで、人はなんでもホンネを話してくれる」といったことが真実であることが前提なわけですが、そんな簡単なものではないと思います。人を信用しあって仕事をすること自体は素晴らしいことだとは思いますが、だからといって「人を信用する」というのがどういうことかはわかりにくいことですし、必ずそれで十分な情報伝達が可能になるということはありえない、むしろ内部統制のシステムというのは、いやがうえにも言いたくないことまで情報として伝達しなければいけないよ、というお決まりごとを最初に決めてしまって、それが職場の雰囲気を壊してしまうというのであれば、それもひとつの仕事のスタイルである、と割り切ってしまわなければならないのではないか、と(少し冷徹ではありますが)思うところがありますね。

これから内部統制報告実務を担っていかれる公認会計士の先生方に、一度まじめにお聞きしてみたいです。社長以下、アットホームな雰囲気で和気藹々とした会社と、社内の競争がはげしくて、人の欠点や失敗を思いっきり指摘して、減点主義によって出世の道が決まる会社とではどちらが「統制環境」がすぐれているのでしょうか。いや、私だって「職場の雰囲気が明るい」ほうがいいに決まっているとは思っておりますが、どうも、そこに潜む落とし穴に気がつかずに、人を信用してしまうことの恐ろしさを、ココロのどこかに持っていなければ、内部統制を語る資格がないような気がしてしまいますねぇ。。。

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2006年8月21日 (月)

フタタの臨時取締役会における特別利害関係人

1 AOKI・フタタ統合問題解決への雑感

AOKIインターナショナルによるフタタへの統合提案問題も、8月18日の株式会社コナカとの株式交換による経営統合決定(8月19日株式交換契約締結)によって、ほぼ収束に向かいつつあるようですね。株式交換比率からみて、26パーセントほどコナカの株式が希釈化されるわけでして、最低でもコナカ、フタタの統合によって26パーセントほどの収益向上をもたらすシナジー効果を両社が説明できなければいけない、と言われておりますが、こういったシナジー効果に関する説明は今後一般株主に対して行われるのでしょうかね。また、郊外型店舗展開サービス業(私が社外監査役を務める会社もこれでありますが)につきましては、不採算店の統廃合時の「解約損」問題が大きくのしかかるわけでして、これを回避するには「カラオケ店」「ネットカフェ」「中古書店」などの比較的改装に費用のかからない店舗へ業態転換するか、同業他社への転貸に回す以外には方法がありません。したがいまして、AOKIの提案は現実問題として非常に収益確保(損失防止)策として筋が通っておりますので、これを覆してコナカとのシナジー効果に優位性があるとするには相当具体的な本業収益確保に関する説明を要すると思うのですが、そういった説明も公表ベースでは見当たらないようです。コナカとフタタの主力取引銀行である三井住友銀行作成による意見書に重きを置く、というのも、なんとなく公正性に欠けるように思いますし、どうも今回の紳士服業界における統合問題には、透明性に欠けるように思います。M&Aのお仕事に関わっていらっしゃる専門家の方は、今回の問題解決までの経緯について、どのように考えていらっしゃるのでしょうか。どうもこれで沈静化したままになりますと、「敵対的買収防衛策の最大の手段はやっぱり株式持合い」というところに落ち着いてしまうような気がしますが、それで本当によろしいのでしょうか。

2 フタタの臨時取締役会で議決権を行使した取締役は誰?

今年の5月28日に株式会社フタタより大証および福岡証券取引所に提出されました「コーポレートガバナンス報告書」によりますと、現在フタタの取締役は8名いらっしゃいます。読売ニュースに記事によりますと、今回の統合先を決定する8月18日の臨時取締役会には8名のうち5名が議決権を行使する予定であり、3名は議決権を行使しないとされております。つまり会社法369条2項にしたがい、取締役会ではその決議について特別利害関係のある取締役は、議決に加わることができない、といった法文に基づいて、あらかじめ3名は特別利害関係人に該当する(もしくは、該当するおそれがある)として議決権行使の対象からは除いた、ということだと思われます。上の読売ニュースでは、コナカの代表者である社外取締役、コナカより派遣されてきた専務(社内取締役)がその3名に含まれていることが記載されておりますが、あとの1名は誰なのか明らかにされておりません。そこで、これは私の推測でありますが、あと1名はコナカの社外取締役に就任しておられるフタタの常務取締役の方ではないか、と思います。

会社法369条2項によって取締役会で議決権を行使できない「特別利害関係のある取締役」とは、いったいどんな内容が「特別利害関係」事由に該当するのか、いろいろと説が分かれているところであります。(そもそも単に議決権を行使できないだけなのか、その審議にすら出席権がないということなのか、についても争いがありますが)基本的にはその決議内容について、当該取締役が個人的な利益がからむために、会社に対する忠実義務を尽くすことが期待できないような事由かどうか、で判断されるべきだと思われます。統合提案を受けている片方の会社の取締役に就任されている方が、果たして「どっちの会社の統合提案を受け入れるか」といった決議に参加するというのは、厳密には「個人の利益」に関係するものではありません。しかしながら「コナカの社外取締役」という立場は、コナカの株主の利益のために行動しなければならない義務を負っているわけですから、そのコナカの提案している統合案よりもAOKIのほうが優れているといった結論を採択できる期待というのは乏しいはずでありまして、やはり「フタタの株主との関係で、忠実義務を誠実に行使することは期待できない」と結論付けるほうが穏当のように思われます。こういった経緯から、フタタの常務取締役の方は、(自ら非常に重要な立場であるにもかかわらず)議決権を行使しない、といったことになったのではないかと推測しております。

ただ、こういった考え方には、「特別利害関係のある取締役」を広く捉えすぎている、といった異論もあるところだと思いますし、もし議決権を排除した取締役のおひとりが、フタタの統合問題で「準主役」を演じておられる常務取締役の方ということでしたら、今後の企業買収実務に及ぼす影響といった点からも、(これを一般化できるものであるかどうか)フォローしておくべき問題点ではないか、と考えている次第であります。

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2006年8月19日 (土)

「内部統制がやってきた」

M・E先生からもご指摘を受けましたように、ブログの写真を変えてみました。これは暫定的なものでして、デジカメでもう少し美しく撮影したものを近日掲載する予定にしております。(押切もえ 山田優ブログのようにたいへん美しいトップページとまではいきませんが)撮影対象の建物は、この9月4日より共用開始となります大阪弁護士会の新会館です。昨日(8月18日)、ご招待を受けまして新会館のレストランの試食会に参加させていただきましたので、すこしばかり他の先生方よりも早く、会館内を周回してきましたが、その折に携帯カメラで撮影してきました。

さて、AOKIとフタタの統合問題につきましては、ほぼ予想どおり現提携先でありますコナカとの統合が発表され、私的には思いっきりツッコミたいところがございますが(しかし、三井住友銀行がどういった内容の意見書をお書きになったのか、非常に知りたいところでありますが、どこにも公表されておりませんよね?)、いよいよ昨日から日経新聞に「内部統制がやってきた」シリーズが連載開始となりましたので、そちらの話題に少しばかりコメントしたいと思います。(最近の日経には「ネットと文明」とか「株主を探せ 5%ルールの壁」など、かなり関心のある連載記事がてんこもり状態で、ホントおもしろいものが多いです)

で、きょうは2回目の連載でして「金融商品取引法上の内部統制報告実務」に関する解説がなされており、内部統制の評価のための想定されるリスクとその対策に関する具体的な表記が紹介されておりました。これ、私が社外役員を務める企業でもいままさに常勤監査役と各担当取締役とが中心になって作成中でありまして、膨大なリスク管理基準が策定されつつあるところです。ただ、このリスク管理基準表というもの、記事のなかで米国SOX法対応の内部統制構築実務に携わった公認会計士の方がおっしゃっているように、管理基準を設定しても、想定した対策が実行に移されていないなど、合格点を出せない状態で終わってしまうことになるケースは十分予想されるところでありまして、対策には工夫が必要かと思います。

その工夫をいいますのは、そんなに難しいものではございません。各業務執行部門におきまして、リスクの洗い出しをして表にまとめる際、そのリスクに3段階ほどのランクを必ずつけておくことです。いちおう重大なリスクのほうからA,B,Cと評価結果を記しますが、その評価につきましては定性的評価として「リスクの発生可能性」、定量的評価として「リスク発生時における企業損害の大きさ」の2面から分析検討を加えるというものです。なぜこういった評価結果を付記すべきかといいますと、以下の3つの利点が考えられるからであります。一つめは、人それぞれによって評価が異なりますので、なぜ想定されるリスクがBになるのか、などそれぞれの現場によって議論が交わされ、その議論自体が全社的なリスク管理に関する意識向上につながるということ。二つめは、弁護士や会計士など、リスク管理に関する専門家の意見を聴取する際、企業側の評価の視点などが専門家サイドにも理解しやすく、有用な専門家意見を述べやすいこと。そして三つめは、リスクの評価に関する社内合意が形成されていくことは、フォレンジック(不正発見)に対する社内のレベルも高くなり、内部統制システムの整備状況とも合わせると、もし企業不正が発生した場合には、その発見や予防に関する費用が低減できる、ということであります。こういった利点があり、リスク管理基準の策定といった管理業務をすこしでも楽しい仕事にするためにも、ぜひ「リスク対策表」の作成にあたっては、こういったリスク評価ランクといったものをお付けいただくことをお勧めいたします。

さらにもうひとつ、こういったリスク管理基準というものは、最初から立派な100点満点のものを作ろうとしないことではないでしょうか。私は「とりあえずできたセクションの部分から、実際に業務執行部門において運用してみる」ことが重要だと思っております。机上で考えていたリスク回避対策が、実際にはまったく役に立たなかったり、教科書的な対策が、実はもっと簡単でかつリスク回避にとって有用な方法があるために変更したほうがいい場合が出てきたりします。そういった経験をまた新たに策定するリスク管理基準の評価に役立てることも可能ですし、運用する経験を積むことも重要だからであります。

ligayaさんのブログ(日本版SOX)からの引用ですが、日経産業新聞の調査によりますと、売上高100億円以下の企業でも1800万円、売上規模が上がると1億円ほどの内部統制システム対策費用を各上場企業は見込んでおられるようです。せっかく莫大な費用を投入して整備運用を行う以上は、それが本当に企業価値の向上に結びつくような工夫を各社で検討したいものですね。

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2006年8月17日 (木)

社外役員の情報開示について

今朝(8月16日)の日経朝刊に「主要100社企業統治報告 社外取締役5割が選任」と見出しをうった記事が掲載されておりまして、この5月から東証で義務付けられました「コーポレートガバナンス報告書」の調査結果に基づく興味深い内容が盛り込まれておりました。社外取締役が100%取締役会に出席されている企業もあれば、26%程度しか出席されておられない企業もあるようで、開示された報酬額(こちらはごく一部の企業ですが)などをみましても、けっこう各企業において社外取締役制度の運用状況はマチマチのようです。(ちなみに、私は社外監査役ですが、昨年の出席率は92%でありました。)

会社法及び施行規則に基づく株式会社の事業報告でも、社外監査役、社外取締役の活動状況が報告の対象とされる内容に含まれておりますし、またこういった証券取引所のガバナンス報告書でも、今後多くの上場企業が毎年の社外役員の活動状況を報告することになると思われます。ただ、私のような現役の社外役員の立場からしますと、「取締役会の出席率」というのは、それだけではあまり社外役員の貢献度を測るモノサシにはならないのではないか、といった疑問を有しております。

もちろん、社外監査役であろうと、社外取締役であろうと役員会への出席率が高いほうが望ましいことは間違いありませんし、今後も出席率を開示することに問題があるわけではありませんが、社外役員はなにも役員会に出席することだけが重要な職務ではないと思いますし、おそらく熱心に社外役員を務めていらっしゃる方々も同様の気持を有しておられるのではないでしょうか。ときには会計監査人との共同作業のために会合をもったり、常勤監査役が言いにくいことを直接社長に進言するために会社に出向いたり、業務監査に必要な情報を得るために関係各部署と連絡を密にしたりと、むしろ「形骸化した取締役会」に出席すること以上に重要と思われる業務に従事している社外役員の方も多いと推察いたします。株主にとって社外役員の情報として知りたいのは、出席率ということ以上に、その社外役員がいったい一年間にどういった活動をして企業に貢献してきたか、ということでありまして、とりあえず役員会に出席しなければ・・・といった義務感を社外役員に植え付けるためには「出席率の開示」も有効かもしれませんが、それ以上のなにものも情報として提供してくれるものではありません。

そもそも社外役員というのは、企業の業務執行部門の情報に疎いわけですから、いちいち社内の役員のように業務担当者を指揮監督できる立場にはありません。その監督に関する限界というものを「内部統制システムの整備運用」によって補完するのが、会社法によって今後のコーポレート・ガバナンスに期待されているところであります。そういったことからしますと、社外役員にも「役員会に出席すること以上に、どうやって社外役員が情報を共有できるか」といったあたりを努力して工夫する必要が出てまいります。たとえば私のような社外監査役でしたら、監査役会でどのように3人の監査役が業務分担の合意を行うか、監査役会にはどういった議題を上程するか、経営会議で出された業務報告事項のうち、どういった事項については事前に社外監査役に報告するか、業務執行部門の内部統制システムはどのように相当性を判断するか、など各企業によって、社外役員が情報不足を補完するための施策というものはいろいろと考えられ、また容易に実行に移せるはずです。そういった施策を考案し、実行しているかどうか、といったところが役員会への出席率などよりも極めて情報開示として価値の高いものではないでしょうか。また、ガバナンス報告書全体に対してもいえることですが、どこの企業の報告書をみても同じ、というものでは株主への情報としてはあまり価値がないわけでして、各企業がガバナンスシステムにどう取り組んでいるのか、個々の企業ごとに説明責任の対象となりうる情報が開示されていることが重要だと認識しております。さらに、(ここまではなかなかやれる方も少ないかとは思いますが)全社的なリスクマネジメントの一貫として、社外役員は敵対的買収防衛に関する「株主の代弁者たる地位」「企業価値を公正な第三者として判断する地位」に立たされたり、株主代表訴訟に至る場面においては、会社が当該取締役を訴えるべきかどうかを会社の利益を考慮しながら判断する立場に立たされます。司法判断が「企業価値」の中身まで審査の対象としないことが予想される以上は、そういった公正な第三者、株主利益の代弁者たる社外役員が、普段からどういった検討をして、どういった手続を経て決断するに至ったのか、そのプロセスこそが最も重要な場面となることは十分予想できるところでありまして、その対応策としても、日常の社外役員の行動といったものがこれからの企業価値(リスクマネジメントとして)を左右するものと思料しております。

もちろん法律家の立場からすれば、社外役員が取締役会に出席することの意義(上程案件への賛成反対の表示意思の確定、経営判断に関する違法性、妥当性監査、他の取締役の職務監督)ということも無視しえないわけであります。しかしながら、このたびの会社法は監査役制度を含めて全社的な内部統制システムが構築運用されることを要求しているわけでして、取締役会に出席することとは別に、より重要な職務として、社外役員に期待されているところが存在することも事実であります。今後ますます社外役員を導入する企業が増えるのでありましたら、出席率といった非常に単純な活動状況に関するモノサシに注目するのではなく、社外役員が全社的な統制システムのなかにどう組み込まれており、この1年、そのシステムは社外役員によってどう運用されたのか、といったところをわかりやすく表現できるモノサシこそ、十分に開示統制をすべきではないか、と思います。少なくとも、私自身は今期に関する事業報告から、そういった「一般投資家、株主の皆様に、他社との違いを理解していただけるような」社外役員の活動内容報告にしたいと考えております。

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2006年8月15日 (火)

弁護士も「派遣さん」になる日が来る?(その2)

昨年7月2日に政府の規制改革委員会の流れを受けて弁護士も派遣業登録が可能になるのではないか・・・といったことを取り上げましたが、福岡の同業者でいらっしゃるロボット軽じKさんより、ひさしぶりにコメントをいただきましたので、すこしばかり続編を書いてみることにいたします。

ロボット軽じKさんもご指摘のとおり、8月12日の日経朝刊によりますと、司法書士、税理士、社労士については、業務の限定は一部ございますが労働者派遣が認められることになりそうです。そういえば昨年は構造改革特区有識者会議で法務省のお役人さんたちが、「弁護士の労働者派遣がなぜ認められないのか?医者でも認められているではないか」と会議の委員の方々にムチャクチャいじめられておりましたよね。でも最終的には、やはり「高度な利害相反の回避義務」が障壁となったようで、今回は弁護士については見送られたようです。つまり、弁護士に労働者派遣が認められますと、派遣元による指揮監督を受ける立場になりますが、いっぽうで派遣先との関係につきましても、弁護士は職務上派遣先のために信頼関係に基づき、最善を尽くす義務が発生するわけです。そういった関係は、利害が対立するおそれのある派遣先と派遣元からの信認を受けていることになりますから、倫理上非常に大きな問題が生じることになるわけです。(もちろん、利害対立が現実化した場合には、たとえ労働者派遣が認められたとしても、辞任するしか方法はないと思われます。どちらかの仕事を継続してしまっては、もう一方より懲戒の申立をされるリスクがあります)ただ、ロボット軽じKさんもおっしゃるとおり、弁護士の人数は今後飛躍的に増加しますし、そのライフスタイルも様々かと思われます。弁護士が途中で辞任する、といったリスクを承知のうえでその専門職としての知的作業を派遣によって賄いたいと考える企業もいらっしゃるかもしれませんし、(規制改革委員会は、小泉首相退任後も元気に活動を継続されるようですから)本当に弁護士が派遣業登録する日がそう遠くない日に到来するのかもしれませんね。

しかしながら「利益相反」に悩むのは「弁護士」という専門職や、株式会社の「取締役」だけには限りません。今後、金融業に関与されていらっしゃる方々は、ますますこの「利益相反行為のグレーゾーン」に悩むことになりそうですね。たとえば金融商品取引法の成立によって、金融商品取引業者は、これまで以上に投資家保護を図る必要が出できます。お金儲けの対象である一般投資家にできるだけたくさんの金融商品を売りたい立場なんですが、一方において顧客を保護すべき高度な説明義務が課されるわけでして、そもそも利益相反関係に立ちながら、どのような営業戦略を立てていけばいいのでしょうか。また、証券会社の引受業務と上場希望企業との関係もそうですね。8月11日の日経朝刊では、日証協が会員である証券会社に対して、引受審査のルールを厳格化することが一面で報道されておりました。主幹事として上場させなければお金にならないのに、一方でその対象企業の引受審査に厳格に対応しなければいけない・・・というのは、本当に審査の厳格化が期待できるものなのでしょうか。本当に「馴れ合い」になったりしないのでしょうか。ほかにも、信託法が改正されて信託スキームが様々な場面で使われるようになりますと、委託者と受託者との間で、さまざまな利益相反関係が発生する事態が予想され、そういった場面における受託者(金融機関もしくはその関連企業)の対応が今後の法施行上の大きな論点になってくると思われます。どこまでが許される利益相反行為で、どこからがコンプライアンス上問題となる行為なのか、現実の金融実務の場面で誰が判断するのでしょうか。こういったリスクの高い分野につきましては、「外注」するのが金融機関の常套手段だとしますと、どなたかに、そのリスクを転嫁することが考えられ、そういったところに法律家の新たな職域が誕生することもありえます。しかしながら、こういった問題に適切なオピニオンレターを書ける法律専門職がいったいどの程度いらっしゃるんでしょうかね?これ、弁護士としてもけっこうリスクの高い(勇気の必要な)職務ですよね。おそらく・・・

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2006年8月13日 (日)

買収防衛策導入と全社的リスクマネジメント

紳士服のAOKIインターナショナルが大証2部のフタタに対して公開買付を行うという報道につきましては、いままで全くこのブログでは触れませんでした。といいますのも、本当に敵対的なのかどうか、よくわからないままですし、フタタのHPでも何も公表されておりません(唯一、大証のHPでAOKIより提案を受けた、との1枚のペーパーが公表されているだけです)ので、問題をどのように取り上げてよいのか、ちょっとわからないままでありました。ただ、フタタの代表者(社長)がAOKIと現提携先であるコナカとそれぞれトップ会談をされたことに関する報道をみておりますと、なるほど公表できるほどに社内での合意形成がなされていないということのようですね。

こういった創業者一族が上場後も経営トップに君臨されている企業の場合、全社的なリスク管理というのは難しい場合もありそうですね。私の予想の範囲を超えませんが、創業者である会長さん(代表者のお父様)は、AOKIの100%子会社になるほうがいい、との考えですが、会社を仕切っておられる常務取締役管理本部長の方は、これからも独立経営しかありえない、コナカの提携案についても十分検討する、(会長さんがAOKIとの統合に前向きとの報道陣からの質問には)会長個人の見解を述べられたのでは?との考えのようで、(社長さんはどっちの意見なのかは不明)社内での意見が未だ統一されていないようです。フタタの社員の方々も、一体この先、どうなるのか不安だと思います。こういったときに事前に買収防衛策がきちんと導入されていれば、すくなくとも誰がどのように買収希望企業の提案を受け止めて判断するのか、ひとつの社内指針になりえますから、社内の意思決定の不統一といった事態も起こりにくいのではないでしょうか。(事前に買収防衛策を導入できるだけの資金を準備できるかどうか、といった問題は別にあろうかとは思いますが)事前警告型防衛策の導入とまではいかなくても、こういった創業者一族の影響度の高い上場企業の場合でしたら、せめて全社的リスクマネジメントの一貫として、敵対的買収時における対応マニュアルのような「社内指針」を作っておくことも一考に値するかもしれません。(作るときに、いろいろと揉めたりするかもしれませんが)

しかし青山商事とAOKIとの差はかなり大きいようですね。店舗網の拡大ということだけでAOKIが青山を追撃できるかといいますと、すこし疑問もありそうです。なんといっても青山は「青山カード」を発行していますから、どの年齢にはどのような服装が売れる(売れている)といった情報が瞬時に把握できるのが強みですね。1年に2回購入する顧客から、数年に一回しか購入しない顧客まで、それぞれにターゲットを絞った営業戦略も立てられますし。普通のクレジットカードで購入しても、個人情報保護の関係で、おそらく他社は売れ筋商品のリアルタイムでの把握ができないのではないでしょうか。あと学生さんの取り込みにも青山商事は成功していますよね。紳士服専門店の「土日チラシ大作戦」から一歩も二歩も抜きん出ているように思えるのですが。私はこのAOKIの提携話を聞いたとき、フタタの持っている福岡の一等地のビルを活用して、いわゆる営業戦略の転換を図るための資金源にしたいのではないか、と思ったのですがどうもそうでもないようです。単なる規模の拡大ということでしたら、フタタにとっての企業価値向上というのはいったいどのあたりにあるのか、ひょっとしてコナカとの提携関係を強めるほうが価値向上につながるのではないか、などとも考えるのですが、そのあたりはどうなんでしょうか。

AOKIに対するフタタの回答期限は14日だそうですが、社内の合意がいつできるのか、ということも踏まえ、もう少し先になりそうな雰囲気ですね。

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2006年8月12日 (土)

皆様、よいお盆休みをお過ごしください。

10月5日から釧路で開催される人権大会のお世話をする関係で、きょう旅行会社の方と打ち合わせをしておりましたら、お盆に海外に出国される方というのは、あまりテロのことを気にせずに出かけられるようですね。しかしあまり気持のいいもんではありませんよね。皆様がたは、どこでお盆を過ごされるのでしょうか?シロガネーゼさんも予想されておられますが、王子・北越の次なる動きも、おそらく21日から始まる休み明けになるでしょうから、まぁすこしばかりココロとカラダを休める時間もあるんじゃないでしょうか。

そういえば、ろじゃあさんもエントリーで書いていらっしゃいましたが、最近ココログの解析が非常に詳しいものになりましたんで、私もこのブログへお越しの方々はどういった地域の方が多いのか解析してみました。やはり圧倒的に東京が多くて65%、つぎが神奈川の15%、そして私のホームであります大阪が第3位で12%という結果になっております。(過去1ヶ月の集計からの分析です)しかしそこからがちょっと不思議な集計結果になっておりまして、4位三重、5位静岡、6位茨城と続きます。これ、もっと長い期間で集計してみても、やはり同じ順位でありまして、兵庫などは10位にも入ってこないんですね。三重、静岡、茨城って、なんででしょうかね( ̄~ ̄;)ウーン どなたか三重、静岡、茨城から閲覧されていらっしゃる方々、なにか理由があればコメントでも教えていただきたいところであります。うーーん、三重というのは、だいぶ昔に刑事事件で津地裁と伊賀上野(上野支部)に通ったことがあるくらいでして、長島温泉にも行ったこともないのですが・・・・・・。実は茨城というところは、生まれて一度も足を踏み入れたこともありませんです。

しかし全国の方から閲覧いただいている、というのは本当にうれしいですね。(といいましても、上位3都府県で9割を超えておりますが・・・・)マニアックな分野でのエントリーばかりですので、あまり読者層の広がりというものは感じませんが、「お気に入り」に入れていただいている方々が3日に一度は訪れていただけるようなブログになりつつありますので、今後とも同じ路線で頑張っていこうと思っております。

とりいそぎ、お盆のご挨拶までにて失礼いたします。m( _ _ )m

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2006年8月11日 (金)

不正会計の予防に向けて(序)

8月10日の日経朝刊の一面に「企業買収急増1月~7月7,8兆円」という見出しがあり、日本でもM&Aが企業の日常的経営手段になりつつある、とりわけルールの整備によってTOBが3兆円レベルにまで活発化してきたとありました。王子と北越、AOKIとフタタのような経営者不同意型TOBも連日新聞紙上を賑わせておりますし、おそらく上場企業の経営者にとっては株価の動向というものがとても気になる時代になってきたことは間違いないようです。こんな株価至上主義のような時代になりますと、日本の経営者としては、最近のアメリカのようにストックオプション付与の時期を操作することによって自分の私利私欲を満たそうといった目的ではなく、「わが社のため、わが社従業員のため」といった愛社精神を満たそうとする(これも名誉欲というものかもしれませんが)目的による不正経理の誘惑は高まっていくでしょうね。ともかく株価を上げて現金価格、株式交換比率を高めるためには、粉飾でもなんでもやってしまおう!といったインセンティブが経営陣にはたらくことは十分予想できるわけでして、経営者の関与する不正経理事件、つまりカネボウ事件のような刑事事件に発展する事例は増えることはあっても、減ることは絶対にありえないと思います。

そこで、株価至上主義の世の中で、どうやって経営者の関与する不正会計の増加を予防していくか、ということを真剣に検討することになるわけですが、いわゆる金融商品取引法における内部統制報告実務(日本版SOX法)や、国際会計基準への適合(コンバージェンス、オフバランス取引のオンバランス化)といったところがどこまで不正経理の予防に役立つかといいますと、かなり悲観的ではないでしょうか。私も会計士の先生方と一緒にシステム導入のお仕事をさせていただいておりますが、そういったシステムの導入が現場における財務情報伝達の誤謬の極小化とか、現場担当者レベルの不正を見抜く手段にはなりえても、経営者自ら主導する不正経理操作の防止にはほとんど無力ではないかと思います。(もちろん業務の効率化のためには大いに役立つことは事実でありますが)これは最近のアメリカにおけるCOSOの中小公開企業向けのSOX法適用ガイドラインなどをみてもわかります。比較的小さな公開企業ですから、SOX法対応の費用にも限りがあるわけでして、法目的を全て満たすというのは現実には難しいわけです。そこで、財務情報の正確性確保のためには、ともかく経営陣が誠実に職務を執行することを信頼することを前提条件として、業務執行担当者レベルでの費用のかからない方法によるシステムの稼動を保証して、現場レベルでの不正防止に尽力しようというのが実態であります。このように財務情報の信頼性確保のために、現場における不正防止に向けられた諸策は検討されておりますが、経営者自らの内部統制違反行為に対してはほとんど有効な方策はありません。日本における内部統制報告実務というものも、おそらく企業の開示情報が正しいということを担保するためにはかなり有効に機能するとは思うのですが、そもそも金融庁企業会計審議会に内部統制部会を発足させる大きな原因となった「経営者関与型の不正経理を防止する」ことには、果たしてどの程度有効に機能するものか、極めて疑わしいところだと思っております。

ということで、そうなりますと、この経営者関与型不正経理の予防ということのためには、もっと他のところで施策を検討する必要があるわけですが、ここで登場せざるをえないのが監査をする人たち、つまり会社法上の監査役(あるいは監査委員会を構成する取締役)やプロの会計監査人たる監査法人(公認会計士)といった立場の方々の権限と責任の問題になろうかと思います。これからますます「不正経理への誘惑にかられる人たち」と向き合っていくのは、こういった立場の方々でしょうから、その「立ち位置」をどうしたら、もっとも効果的に不正経理を予防できるのか、そのあたりが現在、公認会計士・監査審査会や、日本監査役協会あたりで真剣に検討されているところではないでしょうか。

「不正経理」の問題ですから、どうしても矢面に立つのは財務会計的な知見を有しているプロの会計士、税理士の方々だと思います。とりわけ会社の機関とされ、また証券取引法上の監査業務を担う監査法人の方々は、これからのM&A全盛の時代にあって、ますます重要な立場になっていくものと予想しております。現在の会社法では、会計監査人は「不正を発見した場合」の監査役への報告については規定されているものの、不正を摘発する義務(不正発見義務)までは会計監査人の善管注意義務の範囲としては規定されておりません。もちろん証券取引等監視委員会が今以上に強大な権力組織となって、上場企業の不正摘発にバンバン登場するようになれば話は別ですが、昨今の「民間への権限委譲」の発想からするならば、そういった不正摘発権限を証券発行企業に最も近い位置にいらっしゃる会計士の方々と、証券行政の一部を事実上担うこととなる主幹事証券会社のほうへ振り分ける方策がとられるのが現実的ではないかと思います。さて、それでは今後、監査業務に携わる会計士の方々は、こういった不正発見義務というものを職責として負うことになるのか、もしそうなったらどんな問題が発生するのか、そのあたりをまた次のエントリーで考えてみたいと思っております。

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2006年8月10日 (木)

「誰のための会社にするか」

今年の5月4日に、神田秀樹教授の「会社法入門」(岩波新書)を読んでたいへん感銘を受けたという話をいたしました。近年会社法とういものが、国の経済政策の重要な制度的インフラとして、そのあり方が議論されるようになり、会社法の改正もこういった流れの中で行われるようになったということが十分示された内容でありまして、コーポレート・ガバナンスのあり方につきましても、株主主権主義的な要素が多く取り入れられた会社法にふさわしく、「株主すなわち資本市場における投資家の信頼を確保するしくみの構築」と表現されております。(211頁)

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 ところで、同じ岩波新書から、この7月20日に「早く会社法を改正しなければ日本はダメになってしまう。一刻も早く、会社法改正の機運を高めよう」といった趣旨でかかれたコーポレート・ガバナンスに関する本が出版されました。その名も「誰のための会社にするか」(ロナルド・ドーア著)。ご承知のとおり、日本の社会経済構造の研究、日本の経済発展史の研究者であり、何冊も日本の資本主義経済に関する本をお書きになっておられる方です。翻訳文に若干難解な部分もございますが、新会社法制定による急激な「株主主権企業」への傾斜が将来の日本にどのような影響を与えるのかを如実に論証し、「ステークホルダー企業」への変革のための具体策を提示するといった内容であります。おそらく筆者ご自身は、社会民主主義的な考え方を礼賛しているわけではなく、新古典派経済学的な発想とのバランスをとろうとしているものと思われます。

なぜこの本をご紹介したかと申しますと、特別に思想的な部分に賛同するといったものではございませんが、今年に入ってからのホリエモン騒動や村上ファンド事件に続き、今回の王子・北越の敵対的TOBに至るまで、どうも株主主権主義的な発想が日本の世の中では後退しはじめているのではないか、もしくは後退することに賛同する人たちが徐々に増えつつあるのではないか、といった気配が漂い始めており、たとえばもし、今回の王子・北越問題で王子が統合に失敗するようなケースが発生しますと、この本に記載されているとおりの「ステークホルダー企業の勝利」の具体的な臨床例が蓄積されてしまう気がいたします。そこまでは言いすぎとしましても、たとえば敵対的買収によって保身を図ろうという意図をもった人達は、「ああそうだ。M&Aの土俵はひとつではないのだ。フェアバリューなんか、相手が作った土俵なんだから、ここは日本、別の土俵で戦えばいいのだ。」といった気概を持ち、ご自身に都合のいいように、こういった理論を持ち出すことになるのではないか、といったことをすこしばかり邪推してしまいます。昨日、北越製紙が日本製紙との提携に前向きであることを発表し、30億円規模の提携効果(ちなみに、王子製紙との統合案では179億円の減益とか)があることを示しましたが、王子製紙側及び一部の北越製紙の株主は「なんら具体的な統合効果が数字で示されていない。これでは説明責任を尽くしたことにはならない。」と非難されておられました。しかし、北越は机上で精緻な企業価値を算定していないかもしれませんが、従業員との一体感を示し、賛同する提携先を確保し、地域の公共団体や金融機関の賛同をとりつけ、まさにステークホルダー企業としての地位を汗を流して確保することに成功しております。そして、いつの間にか独禁法まで味方につけて、印刷業協会における「王子・北越統合絶対反対声明」まで出されることになってしまいました。別に相手の土俵のうえで闘わなくても、自分の土俵で闘えば勝機は見えてくるといったところでしょうか。もしこれで王子が押し切られてしまった場合には、企業価値研究会でこれまで議論されてきたような「敵対的買収防衛策による防衛」といったところでの対応だけでなく、もっと泥臭いところ、汗臭いところでの経営陣の努力によって、企業の存立を維持できるといった風潮が強まることになるのではないでしょうか。まさにロナルド・ドーア氏が推奨するところの「ステークホルダー企業の勝利」であります。

私自身はどちらかといいますと、ドーア氏の意見には批判的でありますが、株主主権主義にいう「株主」というのも、ひょっとすると案外脆いものではないか、総体としての「株主」の力というものが、本当は虚像にすぎないのではないか、といったところを真剣に考える契機として、こういったステークホルダー企業論についても検討する価値はあろうかと思った次第であります。たとえ東京とロンドンのマーケットが提携したとしても、外国人投資家と日本人投資家との間で、絶対的に変動のない「企業価値」ってあるんでしょうか?日本の伝統や慣習に裏付けられた「公正な企業活動」といったものの意味は、机上の計算ではなんら食い違うことなく、日本の投資家にも外国の投資家にも同じ計算結果をもたらすのでしょうか?(230ページほどの本ですので、一気にお読みいただけるかと思います)

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2006年8月 9日 (水)

北越はパンドラの箱を開けるのか?

(8月9日夕方 追記及び訂正あります)

このブログがホリエモンや村上ファンド騒動のとき以上にアクセスが増えておりますのは、おそらくコメントをいただいております「小僧さん」の存在が大きかったと思います。小僧さんが「休養宣言」をされましたが、おそらくいろんなところで小僧さんの噂が流れてしまっているはずですし、このあたりで暫くお休みしていただいたほうがいいかもしれませんね。(いろいろと盛り上げていただいて、本当にありがとうございました。m(。-_-。)mまた他の話題のときにもコメントいただければ、と思っております)

ということで、私の当初の予想も空しくはずれそうですが(王子と北越の和解的統合)、シロガネーゼさんがコメントされているとおり、ついに北越製紙の独立第三者委員会が買収防衛策発動の勧告決議を下した模様であります。(北越の独立委員会、買収防衛策発動を勧告)しかし勧告という用語も、本件では少しニュアンスが違うような気もしますね。独立委員会のホンネのところは、朝日ニュースから抜粋しますと

北越の独立委員会は「発動を決議する際は、必要性や影響を考慮したうえ、時期について適切に判断すべきだ」として慎重さも求めた。北越の取締役会は「独立委の判断を最大限尊重し、適切に判断していく」としている。独立委の佐藤歳二委員長(北越監査役)は勧告書を提出後、「実行(発動)しなくてもいい状況になれば、なるべくしない方が好ましく、慎重に考えて下さいとクギを刺した」と述べ、あくまで条件を満たしていると判断しただけと強調した。

とありますので、独立委員会では、あくまでも「条件を満たしているから、規則にしたがって勧告しただけ。できるだけ回避策も考えてください」といったところではないでしょうか。

しかしこのまま北越製紙はパンドラの箱(事前警告型買収防衛策の発動)を開けてしまうのでしょうか?買収希望者がグリーンメーラーでないことは明らかですし、防衛策を発動することによって株式の価値を毀損するおそれもあるわけで、ここから先の北越製紙の取締役には非常に高度な善管注意義務を負う状況が予想されます。また、今後の法廷闘争次第では、松下、東芝をはじめ、たくさんの企業で導入されている事前警告型の敵対的買収防衛プランの「切れ味」も問われることになるわけですから、注目度はいままで以上のものになってしまうことは想像に難くありません。こんな重大局面ですから、もうすこし激突回避作戦を練ることはできませんかねぇ(^◇^;) 株主への双方の説明の機会をルール化したうえで、TOB期間の延長をはかるとか。この防衛策発動に関してはどっちかが圧倒的に有利な状況にあるとはいえないと思いますので、おたがいにリスク管理の精神も肝要かと。

そんな悠長なことを言ってられる状況ではない、とお叱りを受けるかもしれませんので、すこしばかり事前警告型買収防衛策発動に関する法律上の問題点を検討してみますと、まず王子側にとっての最初の悩みは、どうやって北越製紙の買収防衛策の発動を差し止めるかですよね。北越の防衛策は新会社法に基づくものですから、基準日株主に対する新株予約権の無償割当による希釈化作戦です。(差別行使条件付き)今度の会社法で認められた「新株予約権の株主無償割当」を利用したものですね。(会社法277条~279条)この無償割当は、株式分割と同様、既存株主に不利益なシステムではありませんので、そもそも発行を差し止めることを認める条文は会社法には存在しないはずです。(会社法210条、247条は適用外)そうすると、北越製紙の防衛策発動を王子製紙は差し止めることはできないようにも思われます。この問題点は、昨年の夢真ホールディングスと日本技術開発との紛争と似ているところがあるように思います。あの紛争のときは日本技術開発の株式分割に対して、夢真が新株発行の差止ができるかどうか、(株式分割について、旧商法には発行を差止めることに関する明文規定がありませんでした)というところが問題でありまして、私は上村達男教授による意見書と同様、差止規定の準用(もしくは類推適用)でいけるという説に与しておりました。ところが東京地裁第8民事部(鹿子木裁判長)の判断では、「株式分割」には不公正な新株発行の差止請求に関する条文は適用されない、といったものでした。そういった判決(決定)例からみると、この新株予約権の無償割当というのも、ちょっと差止請求がしずらいのではないか、という不安がありますね。そうしますと、ほかには6か月以上、王子製紙が北越製紙の株主であるとして、北越製紙の取締役の違法行為差止請求権(会社法360条)を被保全権利として差止を求めるということが検討されるかもしれません。しかしこれも、発動すること自体が会社に重大な損害を与える行為だといえるかどうか、要件該当性の判断にすこし疑問が残りますし、どうなんでしょうかね。もうすこし争点をしぼって、王子製紙による統合提案の直後に事前警告型防衛策を取締役会で決議した点を問題にして、そもそも防衛策を導入したこと自体が会社に著しい損害を発生させるおそれがある、と構成したらどうでしょうか。(このあたりは、王子製紙の法務アドバイザーもしくは野村のアドバイザーの優秀な先生方が検討されるところではないかと思いますが)

いずれにしましても、事前警告型防衛策には上記のほかにも、たくさんの法律上の論点があります。平時導入か有事導入か、一方的に定めたルールに買収希望企業が従う合理性はあるのか、そもそもルールに従わないことだけで発動できる、といった要件は濫用的買収者にのみ限定的に適用されるものであって、市場再編型の敵対的買収者の場合には(グリーンメーラーと推定されるものではないから)適用されないのではないか、それ以外にも株主平等原則違反(差別行使条件について)、権限分配法理の適用の可否などなど。。。これらの論点が「てんこもり」の防衛策発動が、本当に司法判断の俎上にのぼるのでしょうか?パンドラの箱を開けたがっている人たちもたくさんいらっしゃるとは思いますし、来年の外国企業による事業再編型買収時代到来へ向けて本格的に日本企業が動き出すためにはそのほうがいいのかもしれませんが、「本当の企業価値」向上のためには、どっかで和解をしたほうがいいのではないか・・・・・と、まだ情けなくも和解説を希望しているところであります。(いつから私は「買収防衛策謙抑主義者」になったんだろう・・・・・また、防衛策発動が現実化する段階まで、つづく・・・・・・・・あっそうそう、相澤参事官と先週、お話したときに話題になりました「金融商品取引法における内部統制報告実務が会社法の会計監査人制度に及ぼす影響」とか、そろそろエントリーしたいと思っておりますので、という予告だけしておきますね。)

(8月9日追記)

北越製紙は日本製紙との提携を発表しました。ますます和解の道は遠のくようで、これは王子の身の処し方にも影響が出てきますね。

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2006年8月 7日 (月)

王子製紙による北越の株主名簿閲覧請求

(8月7日夕方の追記あります。)

(土曜日にいったんボツネタにしておりましたが、品田さんからご指摘を受けましたので、とりあえず中身をすこしだけ改訂して備忘録ネタとしてアップしておきます。本当に王子製紙による仮処分命令の申立がなされるかどうかもわかりませんし、ツッコミどころ満載だと思いますが・・・( ̄◇ ̄)ゞ )

企業のコンプライアンス経営の理解に役立ちそうだと思い、最近「行動経済学(経済は感情で動いている)」(光文社新書254 友野典男氏著 新書版にしてはかなり分厚いです。950円)という本を読んでおります。いえ、別に行動経済学を一から勉強しようといった殊勝な目的からではなくて、書店でパラパラとめくっているうちに、激しくうなずける場面の多い非常に楽しい本でしたんで、何回か読み直しては参考にしております。コンプライアンスという言葉が、単に「法令順守」ということを意味するものではなく、企業における「公正とは何か」を問うものである、といった認識に立ちますと、企業はその価格、賃金、利益などに関して決定をする際には、取引相手(従業員、顧客等)が、それを公正であると判断するか否かを考慮して、(すなわち公正を一つの制約条件として)行動しなければならない、したがって企業は公的、法的な規制がない場合であっても、単純に利潤追求的行動は許されない、短期には高い利潤が得られるとしても、不公正であるという悪評が立てば、長期的には利潤を失うことになる、といったところが「プロスペクト理論(応用編)」の概念のなかで紹介されております。北米トヨタのセクハラ騒動の和解とか、松下関連企業の「偽装請負」非難への早期対応など、公表ベースでは「うちは違法なことは一切していない」とされながら、企業イメージの低下を回避するために対応策を検討するというのは、経済合理的に考えると(訴訟の勝訴可能性なども検討したうえで)正しい選択とは言えないかもしれませんが、企業コンプライアンスの中身にモラルや公正といった制約条件まで含めたうえで、コンプライアンス重視の企業行動だと認識すれば、解決策としては納得できるものなのかもしれません。おそらく日本の各企業においても、とりわけ大企業においてはこういった対応が増えるようになるのではないか、と予想しております。なんで「脱法行為はしていない」と言いながら、金を払ったんだと株主からつっこまれた場合に、経営陣としては、一種の経済的に意味のあるリスク管理であると反論できそうな気がします。(まだ研究段階なので、私がかならずそう考えるかどうかは別としまして・・・)

ところで、話題の王子製紙と北越製紙とのTOB問題ですが、王子製紙がTOB開始後、文書をもって北越製紙の株主名簿の閲覧を求めたところ、北越サイドは会社法125条3項を理由に名簿閲覧の要求を拒絶したそうです。(産経新聞ニュースはこちら)また、8月7日の朝日ニュースによりますと、王子製紙側は株主名簿の閲覧に関する仮処分命令の申立を検討中との記事が出ておりました。名簿閲覧請求者が株式会社の業務と実質的に競争関係にある場合は、株主名簿の閲覧を拒否できるという規定は、新しい会社法において新設されたものです。この規定が厳格に適用されることになりますと、今回のような事業再編型の敵対的買収が行われる場合には、買収希望会社(もちろん株主でもあるという前提ですが)は、買収対象企業から軽々には株主構成については教えてもらえない、ということになりますね。たしかに条文で明確に株主名簿閲覧を拒絶できる事由として規定されていますので、拒絶されてもしかたないのかもしれませんが、そもそも敵対的買収であることが明確となり、またTOB開始された後であっても、買収を希望する企業がまったく対象企業の株主名簿をみることができない、というのもなんかフェアではないような気がします。そもそも事前警告型買収防衛策の手続ルールでは、買収希望企業が統合提案をすることになっていますが、どんな株主がいらっしゃるかによって、(タテマエのうえですが)統合提案の内容も異なるものになるのではないでしょうか。そもそも「あなたのほうから、どうやって株式の価値(会社の価値)を上げるのか、説明しなさい」と言っておきながら、「ただし株主名簿は見せませんよ」というのはどうでしょうか。投資家をひとつの母集団として、どの投資家に対しても企業価値の中身は同じなのでしょうか。先に掲げた「行動経済学」の入門書には、ケインズの「美人投票ゲーム」に関する紹介がありまして、「グループのひとりひとりが、1以上100以下の整数についてもっとも好きな整数値をひとつだけ選んだ場合に、その選んだ数の平均値の3分の2倍にもっとも近い予想をした者が勝つ」といったクイズが掲載されています。このクイズの回答については、合理的経済人の正答は1になるはずですが、実際にいろいろなグループでこのクイズを試してみると、25から40の間が多かったり、10~15が多かったり、様々な回答が得られるそうです。(こういったことにご興味のある方は、前記「行動経済学」50ページ以下をご参照ください)人間はまったく合理的に行動できないということではなく、限定的合理性を有する場合が多いということのようですね。「企業価値」というのも、現在から将来にわたって、人が会社の成長についてどう思うか、ということうを予測するものでしょうから、これと同じく、北越製紙の株主という母集団にとっての「企業価値」というのがあって、これは一般投資家全般に提案した場合に出てくる企業価値と同じものと言えるのかどうか、ちょっと疑問をさしはさむ余地もあるのではないでしょうか。もちろん、そこに登場する株主は一般個人ではなく、法人でありましょうから、認知心理学的な個人の錯覚とか偏見といったものがそのまま適用される場面とは異なるかもしれませんが、法人であってもかならずしも経済合理的な判断ができるとは限らないと思います。企業価値の算定にあたっての「定性的分析」と「定量的分析」といった分類もみられるところですし、はたして「企業価値とは絶対的なのか相対的なのか」といった議論も(私がまったく無知なだけで)どこかですでになされているのかもしれません。

三菱商事に対する第三者割当によって、王子のTOB成否は非常に微妙になってきたわけですから、実質株主を知りたいとか、少数の株を保有している人についても特定したいといった要請は切実なものがあると思います。さて、もし株主名簿の閲覧認可に関する仮処分が申し立てられる場合に、もうひとつの興味は会社法の強行法規性、任意法規性に関する問題です。125条3項をみますと、法文上では例外なく北越製紙は株主名簿の閲覧拒否が可能なように思えます。ただ、当事者間における様々な事情から、この規定が限定的に適用されるものになるのかどうか、そのあたりも非常に興味の湧くところであります。(なんか当事者じゃないので、ずいぶんとオキラクなエントリーになってしまったような・・・・・・)

(8月7日夕方 追記)

経済法のご専門でいらっしゃる泉水教授が、日本製紙の10%未満の株式取得問題について、独占禁止法の部屋ブログで解説をされています。私も日本製紙の社長さんや報道機関の解説「10%未満としたのは、独禁法に配慮したもの」という意味がよく理解できなかったんですけど、(事後報告が必要といったことだけで、果たして大量取得を10%未満に留めておくための動機付けになるだろうか?)泉水教授の解説を読ませていただき、いろいろと考えを整理することができました。(泉水先生にも、私のブログをお読みいただいているようで・・・笑(=^^=) ありがとうございます)

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2006年8月 5日 (土)

北越製紙に対する敵対的TOB(中間とりまとめ)

最近ココログの有償版では、新しい解析システムが導入されました。とくに商売のためにブログを使っている方でもなければ、「なんでこんなに詳しい分析まで必要なんだろう?」と首をかしげたくなるほど、いろいろな解析ができるわけです。よくお越しになる方はご承知のとおり、私のブログはだいたいエントリーの内容が4つに分かれておりまして、①企業会計モノ②内部統制モノ③企業コンプラ関連、そして④M&Aモノに分類することができますが、いつもダントツでアクセス数が多いのが企業会計モノでして、私の仕事と関係の深い内部統制モノとコンプラ関連が同じくらいのアクセス、そしてアクセス数がもうひとつ、と思われるのがここのところ連日、コメントを頂戴しております「M&Aモノ」であります。どれも社外役員の立場から企業価値を考える、といったコンセプトでして、それぞれの分野ごとにコメントをつけていただける方々がいらっしゃるのは、本当にありがたいですね。内部統制関連と企業コンプラ関連につきましては、ふだん実務経験を積んでいる分野ですので、ブログとはいえ、あまり赤っ恥はかきたくないのですが、企業会計モノとM&Aモノにつきましては、本当にこのブログを閲覧していただいている方々といっしょに勉強するつもりで書かせていただいておりますので、今後とも至らぬ点がありましたら、どんどん指摘していただけましたら幸甚です。最近、メールのほうでカミングアウトされる方がいらっしゃるのですが、「商事法務」やら、「自由と正義」やら、「企業会計」などの雑誌で論文を読ませていただいたような方がここにお越しになることを知りまして、ちょっとビックリしたりもするのですが、「きっと、皆さんも論文の執筆とは違い、気軽に時事問題をあれこれと話したいといった衝動にかられるときがあるんだろう」と気を取り直して、こちらも肩の力を抜いて気軽にブログを続けてまいりたいと思っておりますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします。

ということで、きょう(金曜日)は表面的には動きのなかった王子・北越のTOB問題でありますが、来週月曜日は三菱商事に対する第三者割当の払込が予定されておりますので、ここですこしばかり中間とりまとめ(なんかずいぶんと偉そうな物言いですが、あくまでも自分の頭を整理するためのものであります)をしてみたいと思います。(ただし、毎日新聞ニュースでは、金融機関がどうも様子見を決め込んでいるために、王子製紙はかなり苦しい立場に立たされているといった報道はなされているようです)

いままで敵対的買収事件が世間の話題になるたびに、日本でも敵対的買収時代が到来することを歓迎する向きの方々からは、「能力のない経営者は去れ!」といったフレーズが聞かれましたけど、今回の王子・北越騒動のなかで、敵対的買収時代を歓迎する側からのこういったフレーズはほとんど聞かれませんね。私の記憶では村上さんだけでなく、社外取締役制度の導入など、ガバナンスのあり方に詳しい先生方などからも、よく日本企業の足腰を強くするためには、できのわるい経営者が自然淘汰されるのは当然であって、株主にその真を問う敵対的買収はどんどん行われるべきである、といったお話を聞いたものでした。でも、今回の騒動をみておりまして、ふと思うところは、企業効率化をすすめ、業界トップの収益力を誇る企業を作り上げた経営者であっても敵対的買収によって経営の場から去らなければいけないのでしょうか。どうして去らなければいけないのでしょうか。これから北越製紙のように、「がんばって企業収益力を建て直して、業界トップに並ぶ企業にしよう」といった高い志をもった経営者の人達は、どんなインセンティブをもって経営に臨めばいいのでしょうか。今回、この問題がどういった結論に至るにせよ、この経営者のインセンティブをきちんと説明できることがとても大切なことであり、また私を含めた傍観者の立場からすると、この事件から学ばなければいけない多くのことが、そこに潜んでいるような気がします。

それからもうひとつ、法曹という視点からは、できるなら事前警告型の敵対的買収防衛策の有効性について、独立委員会による発動要件の判断を含めて、司法の場での紛争経験が蓄積されることを期待しておりますが、どうも今回の問題が司法の場で争われた場合、これまでとは違った様相を呈する主張が繰り広げられるのではないか、という予想といいますか、期待感のようなものを抱いております。これまでの敵対的買収に絡む問題では、買収対象企業(つまり防衛策を発動する側の企業)は、企業価値の持続的向上といった内容について、従業員の士気低下とか、地域住民による拒絶反応とか、取引先の離散(これはニッポン放送事件のときでしたっけ?)など、いわゆるステークホルダーの利益を比較的重視した主張を繰り返し、いっぽうの買収企業側は将来における対象企業の価値といったものを現在価値に引きなおして、目の前の株主へ的確な数値でもってシナジー効果による有利性を提示するといった手法と対比されていたと思います。しかしながら、今回の王子製紙の北越株主への統合提案の内容をみますと、買収する王子製紙側のほうから、緻密に北越製紙のステークホルダー重視の姿勢を示して、敵対的買収による手法の正当性を説明しようとしています。また、途中から登場した日本製紙が約10パーセントの株式取得に至った理由についても、やはり「業界の秩序」などとともに、北越製紙の利害関係者への配慮を説明しています。こういった主張が飛び交う紛争のなかにおいて、いったい「企業価値」というものの中身はどういったもので構成されていくのか、ひじょうに興味が湧いてきますし、これまでとは異質な要因によって買収防衛策が認められたり、もしくは否定されたりするのではないでしょうか。そういえば今月号の「月刊監査役」で公表されているシンポジウム「敵対的企業買収の防衛と企業の社会的責任」のなかで、東大の神田教授も「会社の利益」(=企業価値)の解釈として、株主利益最大化だけではなく、株主以外の関係者の利益を考慮することが結局は会社の利益になる、あるいは企業価値という言葉を使うと企業価値を高める結果となるといった解釈もありうるんだ、と説明されていらっしゃいます(月刊監査役8月号 30ページ以下参照)。また同志社大学の森田教授からは、皮肉なことに、最近のアメリカでは敵対的企業買収などの支配権変動時に経営者がステークホルダーの利益を考慮して行為できる旨の社会的責任規定が30以上の州法で立法化されている、といった解説もなされております(同37ページ以下参照)。私自身、ここで企業価値論の結論的なスタンスをあれこれと述べるつもりはありませんが、事業再編型の大きな買収事案を「本格的な敵対的企業買収」の典型とみるのであれば、そこで問われる「企業価値」というものは、ずいぶんと「一般の経営陣でもわかりやすいもの」(少なくとも司法の場で争われるような事態に至るケースにおいて)であり、また「株主にわかりやすいように開示されるべきもの」に変容されていく可能性があるのではないでしょうか。日本の社会に敵対的企業買収の成功事例が増えれば、東京の大手法律事務所が儲けるとか、フィナンシャルアドバイザー業務が各金融機関に広がるといったことが言われておりますが、各企業の経営者たちが、敵対的買収を試みたり、これを防衛したりするなかで、予測可能な基準のようなものが必要となるはずでありましょうから、こういった企業価値の中身をどう捉えるか、といったことは社会資本のひとつとして、できるだけ一般の経営者にもわかりやすいものに収斂されていくべきだと私は思います。

こういった問題意識を持ちながら、来週のこの騒動の行く末を、できるだけ客観的かつ冷静に見守っていきたいと考えているところであります。

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2006年8月 4日 (金)

北越製紙経営陣の「立ち位置」

司法修習生と採用希望事務所との「お見合い会」に行ってきました。(ある親睦団体の役員としてのお世話係としてですが)いやいや、今年の修習生の就職はたいへんですね。なんといっても現行司法試験合格組(現行60期)と、ロースクール卒業組(新60期)という二つのグループがどちらも来年法曹資格を取得するということになっておりまして、お見合い会もこの8月と来年早々に新60期向けに年2回開催ということになります。採用を希望する事務所も、現行司法試験を合格した人達をとるべきか、それともロースクールを卒業した人達を採用すべきか迷っておられるところも多いように聞いています。100名規模の大懇親会でしたが、修習生側の真剣なまなざしがとても印象的でした。

ということで、今週は「紙」のおはなしに終始した感がありますが、速報版でもお知らせしましたとおり、日本製紙の登場で、ますます当事者における最適解の行方が混沌としてきたようであります。こうじまちさんより、「王子製紙側にとって(野村や著名法律事務所がついている以上は)こういった参戦も想定内ではないか」とのコメントを頂戴しておりますが、それはホワイトナイトとしての参戦なのか、それとも業界事情や再編後の自社の不利益を考慮したうえでの一方的な参戦が予想されたのか、そのあたりはどうなんでしょうね。北越製紙側からの要請で、というのはマズイと思いますので、やはり日本製紙側の計算によって防戦買いが行われるといった予想があったのでしょうか。まぁ、いずれにしましても、今回の日本製紙による株式取得が行われた後の、北越製紙経営陣の立ち位置というのもけっこう難しいように思われます。とりあえずは自社の株主価値を最大化するための対応としましては、参入は歓迎するけども、王子製紙と日本製紙のどちらと組んだほうがトクが真剣に検討する必要があるでしょうし、王子のTOBへの対応策をこれまで同様、検討するのみ、ということになるんでしょうね。

なんとなくですが、いまの当事者間の利益状況を勘案いたしますと、この週末か来週早々にでもまた新たな動きがありそうな気配がしますので、とりあえず今夜はあまり深入りの詮索をしないようにいたします。なんかいろいろと予想してみたところで、金曜日の午前中にあっと驚くようなニュースが出てたら、またガックリしてしまいそうなんで・・・・・

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2006年8月 3日 (木)

(速報)ついに日本製紙グループも登場(王子と北越)

王子製紙による北越製紙株式TOBを阻止するために、業界第2位(といっても王子と紙一重ですが)の日本製紙グループが北越株の大量取得を行う方針だそうです。記者会見は5時からとのこと。

昨日のエントリーにも書きましたけど、そりゃそうですよね。王子だけが北越と統合に企業価値を見出すってことはないわけでして、競業他社もやっぱり同じ気持ちでしょうから。野村と王子はどこまで日本製紙の登場を予想されていたのでしょうか。まだホワイトナイトなのか、競合買付なのかはわかりませんが、とりあえず仕事中ですので、速報版ということで。

(しかし、これだけたくさんの当事者を支える法律事務所があるんですね。監査法人やフィナンシャルアドバイザーなどは利害相反とかだいじょうぶなんでしょうか。)

(追記)

さっそく、日本製紙より「当社子会社による北越製紙株式会社の株式取得に関するお知らせ」と題する書面が公表されております。三菱商事による増資後の議決権ベースで10%未満の範囲内での取得を目的としており、王子のように単独での支配を目的とするものではなく、三菱、北越、日本製紙による「ゆるやかな提携」を目標とするもののようです。日本製紙の株式取得の経過はわかりませんが、どうも三菱、北越とは何の意思連絡もなく独断で取得されたようで、今後の本問題の行方はますます混沌としてきたような気もします。昨日の「亀田VSランダエダ」の判定結果、甲子園初日の「横浜VS大阪桐蔭」の組み合わせと同様、世の中、なにが起こるかわかりません。。。この日本製紙の「株式取得の背景」をお読みになって、「胸のすくような想い」にひたった方もいらっしゃるかもしれませんね。

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王子製紙の「経営統合案」への疑問

昨日の「続・王子と北越は本当に敵対的か」には、著名な方々のコメントをたくさんいただきまして、なんとも恐縮しております。(あの方にまで登場いただきましたが、案の定、どちらかの当事者に絡んでおられるようで、予想どおり実質的なコメントはいただけないようですね。実は大王製紙サイドだったりして・・・・・いや、それはないですよね。(* ̄▼ ̄*) こうじまちさんをはじめ、有益なご示唆をいただいたにもかかわらず、まだお返事をさせていただいておりませんが、また追々書かせていただきますのでどうかよろしくお願いします。)本当は「事前警告型買収防衛プランの脆弱性」といったタイトルで、北越製紙の独立第三者委員会委員の立ち位置について考察してみようと思っていたんですけど、王子製紙のHPで「世界第五位の紙・パルプメーカーへの創造 北越製紙との経営統合」といった王子製紙の経営統合案が出されました(8月2日)ので、こっちのほうに興味が出てしまいまして、すこしばかり路線変更といたしました。松下のESVプランを含め、事前警告型防衛策の使い勝手というものが、今回の統合問題のなかで問われるような気配がしてきましたので、そっちのほうもまたエントリーしたいと考えております。

私はM&Aの専門家でもありませんので(って、毎度このフレーズで逃げておりますが(⌒▽⌒ゞ )、こういったときには、素人的疑問をぶつけてみたほうが気楽なものでありますし、ブログを閲覧されている企業価値論素人の皆様にも参考になるかもしれませんので、ちょっとだけ統合案の中身について語らせていただきます。この王子製紙の統合シミュレーション「公開買付開始の趣旨」なるページの解説に、実は私なりの若干の疑義がございます。こうじまちさんや、あすくるさん(あすくるさんは「先生」じゃなかったですよね?)がご指摘のとおり、860円→800円の買付価格変更が、単なる王子から北越への友好的和解案の意味ではないことはよく理解できましたし、納得もいたしました。(ご教示いただき、どうもありがとうございます)ただ、それはいいとしましても、なぜ王子製紙が買収をしかけた後の(買収が失敗に終わった場合の)スタンドアロンの北越製紙が550円や570円の株価予測なんでしょうか?同業者の大手が「これは欲しい」と思った企業ですから、もし王子が失敗したら、ほかの企業だって欲しいと思うのが常識ですよね。たしか王子のフィナンシャルアドバイザーは野村證券だったと思いますが、その野村證券が昨年発行した「敵対的M&A防衛マニュアル」の191ページを読みますと、

「また、効率的な経営をしており、株価はさほど割安でなかったとしても、敵対的買収の対象となるような会社の多くは業界において再編の相手方として適当な規模であったり、統合メリットが生じやすくなるため、新たに別の買収者が現れる可能性が高いのである」「いったん買収の対象となった企業は、狙われやすい企業であると投資家にも社会的にも認識され、投機的な投資家による売買が増加することも含めて株価の変動が不安定になる」

と書かれています。しかしおそらく野村證券が作成のアドバイスをされたと思われるこの王子製紙の統合シミュレーションには、そんな予想による株価というのはどこにも出てきませんね。これは不思議です。買付価格との比較ですから、ここでは純粋な企業価値ではなくて、予想株価との比較を問題にしているわけですから、外部的要因の有無も当然考慮されるはずですが、どうして野村證券さんのお作りになっている本で大きな要因とされている事実に関する説明がないのでしょうか。純粋な企業価値の比較でしたら買手側にはデューデリの限界もあるでしょうが、外的環境に基づく株価予想であれば容易に理由を説明できると思うのですが。

それともうひとつの大きな疑問ですが、製紙業界再編の流れといったものは、このシミュレーションには織り込まれていないのではないか、といった疑問であります。王子側は、北越側に対して、この550円程度になってしまう株価と買付価格との45,4%の価格差を埋めるに値する企業価値の増加予想についてきちんと株主に説明せよ、と迫っているわけですね。でもこの価格差を説明する義務が発生するのは、まずこの550円という株価予想がある程度の「確からしさ」をもっていることが前提のはずです。王子さんは、三菱が24%の株を保有していても、買い付けが成功すると読んで800円の値段をお付けになっておられるわけですから、現在の製紙業界再編の流れをみれば、たとえ三菱商事さんが株式を保有していたとしても、競業他社が同様に統合を打診してくることも当然に予想されるわけです。そのような現状を前提としますと、550円で株価が維持されるというのはおかしいわけでして、もし550円の株価予想が正しいとするならば、「王子と北越でしか、北越の企業価値を上げることはできない。競業他社と北越では北越の企業価値は上がらない」ということが正しいものとして合理的な説明がなされることが先行されなければならないはずです。改めて申し上げることもないかと思いますが、ここで問題になっているのは、北越の純粋な企業価値を数値に表現するのではなくて、公開買付価格との比較における株価予測ですから、支配権プレミアムの有無を論じることは無意味ですよね。そうであるならば、自社と北越という組み合わせだけが、なぜ株価を上昇させることが可能であるのか、そこのところの合理的な説明がなければ、このシミュレーションは破綻するのではないかと考えますが、いかがでしょうか。

いままで日本で登場してきた敵対的買収事案というのは、フィナンシャルバイヤーであったり、新規事業展開のためのスピード経営が目的だったりということでしたが、今回のような本格的な市場再編型の買収とは、すこしばかり企業価値を論じる場合に考慮すべき要素が異なるんじゃないでしょうか。この程度の素人考えによる疑問への回答であれば、王子側も即座に説明も可能でしょうし、ぜひとも北越の独立第三者委員会を構成する社外監査役の先生あたりから、質問を投げかけていただければ、と思ったりしております。

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2006年8月 2日 (水)

続・王子と北越は本当に敵対的なのか?

このブログへお越しの常連の皆様方でしたら、すでにご承知のとおり、8月1日午後7時に王子製紙が8月2日より34日間、北越製紙の株式をTOBにて1株800円にて買い付ける旨発表がありました。(各社報道がされていますが、読売ニュースはこちら    王子製紙による公開買付のお知らせはこちら )いわゆるストラテジック・バイヤー(事業戦略上の買収者)による本格的な敵対的TOBの幕開けとなるような雰囲気が漂っているようで、今後の成り行きがたいへん注目されるところであります。個人的な興味で申し上げますと、北越製紙の事前警告型買収防衛策が果たして使われるのかどうか、そのカギを握る独立第三者委員会3名のうち、2名は北越製紙の社外監査役の方々ということですから、明らかにグリーンメーラーとはいえない王子製紙によるTOBに対して、どういった対応をおとりになるのか、非常に関心のあるところです。しかしながら、こういった本格的なM&A事件が勃発したときには、いつも「あの方」のブログを参考に勉強させていただくのが楽しみでしたが、今回はあの方の所属されている法律事務所も、4当事者(王子、北越、三菱商事、野村)のいずれかのアドバイザーであることは間違いなく、ご登場願えないのが寂しい限りですね。。。(憂鬱・・・・)

統合提案を二度も反故にされた王子製紙ですから、もはや堪忍袋の緒が切れたとばかり、当初の予定を繰り上げてTOB開始に至ったわけですし、代表者も「もはや敵対的と言わざるを得ない」とお認めになっておられるのですから、これはもう「王子と北越は敵対的」としか言いようがないようにも思えます。ただ、この期に及んで私はまだ「本当に敵対的なんだろうか」と逡巡しております。前のエントリーからの話の続きで申し上げると、和解的解決の公算が強いのではないか、と。

当事者でないために、こんな呑気なことを申し上げているのかもしれませんが、北越の業績発表の直後におけるTOB(今後TOBに応募せずに保持することによる株価上昇の見込みが当面なさそうであること、つまりは比較的容易に北越の企業価値を判断できるタイミングでTOBをかけたこと)であることや、三菱への第三者割当を撤回した場合には800円→860円にTOB価格を引き上げるとの条件を付したことなどをみますと、王子製紙としましては、北越製紙の取締役がステークホルダーや株主に対して善管注意義務違反にならずに王子のTOBを成立させる「道筋」を残している、つまりまだ和解的解決に至る可能性をきちんと残しているように思えるのです。(北越側の方には怒られるかもしれませんが)この王子の態度というのは、ぎりぎりまで友好的統合をめざそうとしているところであり、製紙業界の国内的事情(需給関係の安定化の急務)と海外事情(中国市場への日本企業の進出)も併せて考えますと、敵対的買収が「品格のない行為」と受け止められるマイナスイメージはかなり薄まっているように思われます。

一方の北越製紙ですが、なにをもって「価値ある選択」とみるか、であります。はたして敵対的買収を排除して、防衛に成功したとして、それが本当に株主価値の実現に寄与することといえるのだろうか、ということを検討する必要がありそうです。(これは野村證券が買収防衛策導入を検討している企業向きに出版した本からの引用ですが)トムソンフィナンシャルのデータによりますと、2001年から2003年までの敵対的買収事件の結果、全体の46%は買収者へ売却され、20%は第三者へ売却され、34%は独立を維持されたそうです。しかし、この独立を維持した34%のなかには、防衛策の実行としてのリストラやスピンアウト、事業売却(事業分離)なども含まれておりますので、元のままの姿で残っている企業というのは「ごく少数にすぎない」のが現実だそうです。また、たとえ元のままの姿で残ったとしましても、おそらく買収対象企業にふさわしい株主によって株が取得され、株価の安定化にも不安を抱えることになります。残された時間のなかで、従業員や株主にできるかぎり有利な条件を引き出して、TOBに賛同するという「英断」も、こういった買収防衛後のリスクを考えても十分検討に値するのではないでしょうか。もちろん、三菱の出方次第といったところもありますが、競業他社によるTOBですから、めいっぱいのプレミアムがついているでしょうし、垂直的統合をはかるためのカウンターというのも、今回はないと予想します。

北越製紙の外国人持株比率は、ここ3期ほどほとんど変動はありませんが、その比率の高さは上場製紙会社ではナンバー1であります。このまま私の予想がはずれて、本当に敵対的TOBがもつれてしまいますと、安定株主が見当たらず、外国人株主の多い北越製紙の場合には、協力要請をしてもけっこうな数の株主が応募することになるんじゃないでしょうか。以上は私の「素人的予想」でありまして、なんの根拠もないものでありますが、「ホンモノの敵対的買収成功事例」を心待ちになさっている業界の方々が多いなかで、あえて友好的M&Aの結末が全ての関係者にとって最大の利益をもたらすことを再考すべきではないか、との視点から、検討してみたような次第であります。(あっ、でももし司法判断が出てくるような方向に進んだ場合でも、臆面もなくまたなんかエントリーしちゃいますんで、そのへんは優柔不断ではありますが、ご勘弁ください・・・・・・(^^;)

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2006年8月 1日 (火)

会社法における会計監査人の将来像

今年の近畿弁護士連合会の夏季研修(第一日目)では、相澤参事官をお招きして、会社法における内部統制システム整備に関する講演をしていただきました。講演の際にも2点ほど質問させていただいたのですが、いろいろな方のご厚意によって講演終了後1時間ほど、別室にて個人的にいろいろとお話をさせていただく機会を得ましたので、日ごろ疑問を抱いておりました「財務、会計的知見を相当程度有する監査役とは」「COSOフレームワークは会社法における内部統制システムとは無関係なのか」「会社法における会計監査人の将来像とは(相澤氏の個人意見として)」「監査役が報告を受ける会計監査人(監査法人)の内部統制とは」などなど、相澤氏に質問へのご回答をたいへん熱く(文字どおり熱かった・・・)語っていただきました。

表題にあります「会社法における会計監査人の将来像」といったものは非常に新鮮な考え方でありました。なんせ会社法の立案担当官というお立場の方ですので、私がここで「こう言った」「ああ言った」などと無責任にご報告するわけにもまいりませんので、質問へのご回答内容を頭のなかでいったん整理したうえで、また今後のエントリーのなかで私個人の意見などを通じてご紹介していきたいと思っております。

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