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2006年8月 9日 (水)

北越はパンドラの箱を開けるのか?

(8月9日夕方 追記及び訂正あります)

このブログがホリエモンや村上ファンド騒動のとき以上にアクセスが増えておりますのは、おそらくコメントをいただいております「小僧さん」の存在が大きかったと思います。小僧さんが「休養宣言」をされましたが、おそらくいろんなところで小僧さんの噂が流れてしまっているはずですし、このあたりで暫くお休みしていただいたほうがいいかもしれませんね。(いろいろと盛り上げていただいて、本当にありがとうございました。m(。-_-。)mまた他の話題のときにもコメントいただければ、と思っております)

ということで、私の当初の予想も空しくはずれそうですが(王子と北越の和解的統合)、シロガネーゼさんがコメントされているとおり、ついに北越製紙の独立第三者委員会が買収防衛策発動の勧告決議を下した模様であります。(北越の独立委員会、買収防衛策発動を勧告)しかし勧告という用語も、本件では少しニュアンスが違うような気もしますね。独立委員会のホンネのところは、朝日ニュースから抜粋しますと

北越の独立委員会は「発動を決議する際は、必要性や影響を考慮したうえ、時期について適切に判断すべきだ」として慎重さも求めた。北越の取締役会は「独立委の判断を最大限尊重し、適切に判断していく」としている。独立委の佐藤歳二委員長(北越監査役)は勧告書を提出後、「実行(発動)しなくてもいい状況になれば、なるべくしない方が好ましく、慎重に考えて下さいとクギを刺した」と述べ、あくまで条件を満たしていると判断しただけと強調した。

とありますので、独立委員会では、あくまでも「条件を満たしているから、規則にしたがって勧告しただけ。できるだけ回避策も考えてください」といったところではないでしょうか。

しかしこのまま北越製紙はパンドラの箱(事前警告型買収防衛策の発動)を開けてしまうのでしょうか?買収希望者がグリーンメーラーでないことは明らかですし、防衛策を発動することによって株式の価値を毀損するおそれもあるわけで、ここから先の北越製紙の取締役には非常に高度な善管注意義務を負う状況が予想されます。また、今後の法廷闘争次第では、松下、東芝をはじめ、たくさんの企業で導入されている事前警告型の敵対的買収防衛プランの「切れ味」も問われることになるわけですから、注目度はいままで以上のものになってしまうことは想像に難くありません。こんな重大局面ですから、もうすこし激突回避作戦を練ることはできませんかねぇ(^◇^;) 株主への双方の説明の機会をルール化したうえで、TOB期間の延長をはかるとか。この防衛策発動に関してはどっちかが圧倒的に有利な状況にあるとはいえないと思いますので、おたがいにリスク管理の精神も肝要かと。

そんな悠長なことを言ってられる状況ではない、とお叱りを受けるかもしれませんので、すこしばかり事前警告型買収防衛策発動に関する法律上の問題点を検討してみますと、まず王子側にとっての最初の悩みは、どうやって北越製紙の買収防衛策の発動を差し止めるかですよね。北越の防衛策は新会社法に基づくものですから、基準日株主に対する新株予約権の無償割当による希釈化作戦です。(差別行使条件付き)今度の会社法で認められた「新株予約権の株主無償割当」を利用したものですね。(会社法277条~279条)この無償割当は、株式分割と同様、既存株主に不利益なシステムではありませんので、そもそも発行を差し止めることを認める条文は会社法には存在しないはずです。(会社法210条、247条は適用外)そうすると、北越製紙の防衛策発動を王子製紙は差し止めることはできないようにも思われます。この問題点は、昨年の夢真ホールディングスと日本技術開発との紛争と似ているところがあるように思います。あの紛争のときは日本技術開発の株式分割に対して、夢真が新株発行の差止ができるかどうか、(株式分割について、旧商法には発行を差止めることに関する明文規定がありませんでした)というところが問題でありまして、私は上村達男教授による意見書と同様、差止規定の準用(もしくは類推適用)でいけるという説に与しておりました。ところが東京地裁第8民事部(鹿子木裁判長)の判断では、「株式分割」には不公正な新株発行の差止請求に関する条文は適用されない、といったものでした。そういった判決(決定)例からみると、この新株予約権の無償割当というのも、ちょっと差止請求がしずらいのではないか、という不安がありますね。そうしますと、ほかには6か月以上、王子製紙が北越製紙の株主であるとして、北越製紙の取締役の違法行為差止請求権(会社法360条)を被保全権利として差止を求めるということが検討されるかもしれません。しかしこれも、発動すること自体が会社に重大な損害を与える行為だといえるかどうか、要件該当性の判断にすこし疑問が残りますし、どうなんでしょうかね。もうすこし争点をしぼって、王子製紙による統合提案の直後に事前警告型防衛策を取締役会で決議した点を問題にして、そもそも防衛策を導入したこと自体が会社に著しい損害を発生させるおそれがある、と構成したらどうでしょうか。(このあたりは、王子製紙の法務アドバイザーもしくは野村のアドバイザーの優秀な先生方が検討されるところではないかと思いますが)

いずれにしましても、事前警告型防衛策には上記のほかにも、たくさんの法律上の論点があります。平時導入か有事導入か、一方的に定めたルールに買収希望企業が従う合理性はあるのか、そもそもルールに従わないことだけで発動できる、といった要件は濫用的買収者にのみ限定的に適用されるものであって、市場再編型の敵対的買収者の場合には(グリーンメーラーと推定されるものではないから)適用されないのではないか、それ以外にも株主平等原則違反(差別行使条件について)、権限分配法理の適用の可否などなど。。。これらの論点が「てんこもり」の防衛策発動が、本当に司法判断の俎上にのぼるのでしょうか?パンドラの箱を開けたがっている人たちもたくさんいらっしゃるとは思いますし、来年の外国企業による事業再編型買収時代到来へ向けて本格的に日本企業が動き出すためにはそのほうがいいのかもしれませんが、「本当の企業価値」向上のためには、どっかで和解をしたほうがいいのではないか・・・・・と、まだ情けなくも和解説を希望しているところであります。(いつから私は「買収防衛策謙抑主義者」になったんだろう・・・・・また、防衛策発動が現実化する段階まで、つづく・・・・・・・・あっそうそう、相澤参事官と先週、お話したときに話題になりました「金融商品取引法における内部統制報告実務が会社法の会計監査人制度に及ぼす影響」とか、そろそろエントリーしたいと思っておりますので、という予告だけしておきますね。)

(8月9日追記)

北越製紙は日本製紙との提携を発表しました。ますます和解の道は遠のくようで、これは王子の身の処し方にも影響が出てきますね。

8月 9, 2006 王子製紙・北越製紙へ敵対的T0B |

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(日本経済新聞2006年8月23日夕刊) 王子TOB不成立の公算・北越側が5割超を確保  王子製紙による北越製紙の株式公開買い付け(TOB)で、王子への株式売却に応じない北越株主の比率が23日時点で5割を超え、TOBが成立しない見通しになった。大株主の三菱商...... [続きを読む]

受信: 2006年8月24日 (木) 02時37分

コメント

法律問題が“てんこもり”なので、この後、会社法や証券取引法の専門家の方々のご意見が出てくればありがたいのですが。

小職の方からは、理屈だけのコメントを申し上げます。北越製紙の買収防衛策は、実は発動されても機能しない無価値なものなのです。
北越の取りうる防衛策は、「新株予約権の株主無償割当」のみです。取締役会で発行決議される際に、先ず技術的に問題となるのが「割当基準日」をいつに設定するのか、という問題です。
王子製紙のTOB期間中に設定されれば、王子側にはTOBを撤回することが可能です。そういたしますと、新株予約権は決議済みですので、そのまま続行されてしまいます。王子側は、割当基準日後に再度TOBを開始すれば、北越には、もう防衛策として打つ手はないということになります。
では、割当基準日をTOBが終了した後、受渡しが完了する前に設定した場合はどうでしょうか。この場合には、王子側は、TOB価格を新株予約権の権利落ち価格を考慮した価格まで引き下げることで対応するでしょう。そうすることで経済的打撃を回避することができて、再度TOBを開始するのです。
TOB手続きがすべて完了した後、割当基準日を設定し、王子製紙にも割り当てるが、王子製紙だけに権利行使することができない新株予約権を発行した場合は、どうなるでしょうか。この場合は、王子製紙に経済的打撃を与えることができますが、憲法上の財産権の侵害という重大な問題が発生するでしょう。

つらつらと考えますと、実は買収防衛策は機能しないのです。そもそもが買収防衛策は発動するものではなくて、買収側との交渉の道具として使うものとして考えられていたはずです。
北越の独立委員会は、王子側の提案を検討した様子もなく、また安易に買収防衛策の発動の勧告をするなど、独立委員会が全くフィクションにすぎないということを世間に知らせてしまいました。罪深い行為だったと思われます。
他の方のご意見を期待します。

投稿: こうじまち | 2006年8月 9日 (水) 09時04分

おはようございます。
私は防衛策の理屈の部分はわかりませんが、
こうじまちさんの最後の部分に同感です。
ルールが絶対ということであれば、結局
社外監査役が委員になっていようがいまいが
提案者を簡単に排除してしまうことになって
しまいますね。
これでは「株主の代弁者」たる社外役員は
不要ですね。toshi先生はホストの立場上
ある程度フォローされておられますが、
私からみると、単なるフィクションの世界に
すぎないなあと感じました。
日本に社外取締役や社外監査役というものが
根付かないのは、こういったところが
あるからではないでしょうか。

投稿: あすくる | 2006年8月 9日 (水) 11時14分

なかなか、部外者にはコメントしづらい雰囲気になっておりますが。(どうも、おひさしぶりです。コンプラ関連の記事が最近少ないので、最近登場する機会も少ないのですが)
たしか東京証券取引所の会社情報適時開示ガイドブック14ページ以下によりますと、上場企業が敵対的買収防衛策を導入するときには、証券取引所に事前相談をすることがルール化されていたと思います。北越製紙は事前相談のときに「すでに王子製紙から統合提案を受けている」といった事実を秘匿して審査を受けていたと報道されていました。よくわからないのですが、きちんと事実を開示せずに相談を受けて、そのまま発動が認められるというのでは、東証ルールが形骸化してしまいませんかね?秘匿すること自体に、北越経営陣が株主のことを考えて防衛策を導入したとはいえないように思えますが。東証はこの場合は公正な第三者でしょうから。
(また東京へお越しの節はご連絡ください)

投稿: sara.onji | 2006年8月 9日 (水) 13時14分

sara.onjiさん

本事件は、生々しいので確かにコメントしづらい面があることはそのとおりだと思います。小職も思わず、toshiさんのいう“衝動的にカミングアウト”してしまったがために途中で止めるのが難しくなってしまった次第です。
コンプライアンス的に本事件を考えてもいいのではないでしょうか?ハリーポッター的に採点していけば、
①北越側は王子の統合提案を真剣に検討していなかった・・・善管注意義務・・・減点1
②東証の事前相談において、王子側の提案を隠していた・・・誠実義務・・・減点1
③株主意思の確認をする機会もなく買収防衛策を導入した・・・有事での導入・・・減点1
④三菱商事に王子側の動きを知らせることなく第三者割当増資を引受けさせた・・・事実としての有利発行・・・減点1
⑤独立委員会の選任について、北越経営陣の意のままに判断する人をいれた・・・減点1
⑥独立委員会は、経営陣が策定したルールに基づき買収防衛策発動の勧告を行った・・・減点1
⑦経営陣は、株主のTOBへ応じる機会の妨害的行動を行っている・・・減点1

等々、コンプライアンス上の議論も多く出されてしかるべき事件だと思います。

投稿: こうじまち | 2006年8月 9日 (水) 13時50分

toshiさん

利害関係者が増えてきましたので、本日で小職の投稿も終了させていただきます。“衝動的”に色々と勝手なことばかり申し上げてしまいましたが、ブログでのコメントということで、どうぞお赦しください。

投稿: こうじまち | 2006年8月 9日 (水) 17時40分

>こうじまちさん
いつもコメントありがとうございます。そういえば、この話題については小僧さんとともに大いに盛り上げていただいているのは こうじまちさんですよね。「途中でやめるのが難しくなった」などとおっしゃらずに、最後までお付き合いくださいませ。(と書いているうちに、こうじまちさんからコメントが届きましたね。あれま・・・)
このたびは、小僧さんに続いて、非常に残念ではありますが、これもしかたのないことですね。
できれば、このブログは管理人よりもずっとずっとレベルの高いリーガルサービサーの方々の「溜まり場」になりつつありますんで、この話題以外にもまた登場してください。
事前警告型買収防衛策の弱点(のようなところ)についてはTOBとの関係でいろいろと指摘されているようですね。ここのところは管理人としてはなんともコメントのしずらいところです。
北越の第三者委員会については、シロガネーゼさんやあるくるさんもご指摘されておられますが、フォローするつもりはないのですが、独立委員会の委員に選任されて、規則に基づいて行動しなければならない関係から、こういった勧告決定に至るところもやむをえないのかなぁと。ただ、自分がもし独立委員会の委員の立場であれば、決定が出るまでの間は、北越製紙側にも早急に代替案を出すように促し、その間は代表者が個別に株主と接触しないように指導するといったことを実行したいと思います。「独立委員会の存在根拠自体を否定された」とご立腹のようですが、王子側としては存在根拠自体を否定しておかないと、「北越の買収ルールに応じた」と受け取られかねないので、これは王子としての当然の対応だと思いますし、特別腹が立つようなものだとは思えませんでした。
途中で、コメントが入ってきましたので、読みづらいものになっているかもしれませんが、ご了承ください。

投稿: toshi | 2006年8月 9日 (水) 17時43分

弁護士のM・Eです。M&A案件にコメントさせていただくのは初めてですが、私なりにコメントさせていただきます。
第1に、事前警告型防衛策は平時にプレスリリースを行い、自社に対する買収への対応方針を表明することで、買収を企図する者に対して、協議による解決を促すことが主たる目的ですので、有事において有用といえないのではないかと思っています。
特に、北越による買収防衛策の導入は、形式的には、王子による公開買付手続が開始されていない段階での防衛策であるとしても、王子による公開買付の決定を予見して駆け込みで買収防衛策を導入しており、平時における導入と異なり、証券取引法が定める公開買付規制をにらみながらその適法性を検証する必要があると考えられます。
また、私人が勝手に設定したルールが公開買付者を拘束するのか、特に証券取引法が予定するルールを私人が勝手に変えることの適否、あるいは株価が日々転転する資本市場のもとでは、公開買付けの決済期間を短くすることが必要であり、買収防衛策の内容によっては問題があるのではないかという批判もあるところですが、公開買付手続開始後に導入された株式分割の適法性が争われた夢真HD対日本技術開発に関する東京地決の考え方、すなわち、株主に対し必要な情報と相当な熟慮期間の確保を図る仕組みになっていれば適法であるという判示に照らすと、北越の導入したスキームそれ自体は直ちに違法とはいえないのではないかと思います。
 しかし、北越が王子に何処までの情報の開示を求めえるかという点について、北越の防衛策で記載されている情報の範囲(ルール3(2)(b))は、ТОBルールについてワーキンググループで検討した内容に比べると広範囲に過ぎる気がします。
改正証券取引法は、ТОB会社による意見表明報告書と公開買付者に対質問回答報告書を通じて株主・投資家に対し、そのТОBに関する情報開示を拡充することを目的とした規定を定め、その情報については、内閣府令に委ねられているものの、ワーキンググループ報告を参考にすると、①ТОB価格の決定プロセス、②買付け後における対象会社の経営への関与の具体的内容、③ТОB価格の妥当性や利益相反を回避するために採られている方策、④上場廃止とする意思の有無等の情報等が開示の対象となる情報として内閣府令で定められることが予定されているようです。
改正証券取引法が、投資家保護という視点、あるいは公正な手続という観点から、公開買付者と対象者の双方にとって平等、非対称性のない態様で情報提供を受けられるような仕組みを策定するという観点から、上記の情報を選定したと考えられますので、私人が勝手に要求することは、過剰な要求ということになり、公正な手続ルールを逸脱しているということになるのではないでしょうか。
そして、このような改正証券取引法の趣旨は、現行法の解釈に際しても十分に咀嚼されるべきではないかと思います。
王子の8月2日付の経営統合に関する説明資料や、同日付の北越従業員組合の懸念に対する王子の考え方をみると、上記の改正で導入が予定されている情報は既に開示されていると考えられ、現時点で王子としてこれ以上の情報を開示する必要がないという立場をとるとすると、北越が情報の開示を錦の御旗として、これ以上の情報の開示に応じないからといって防衛策を発動することは問題があると思われます。

 第2に、北越の独立委員会の買収防衛策の発動の勧告には客観性、合理性の点から疑問が残ります。
まず、独立委員会は、社外監査役2名と、社外の有識者1名とから構成されていますが、社外監査役も業務執行禁止との関係をどのように理解するかという問題があることはさておいても、社外の有識者は社外監査役と異なり、株主総会による選任手続き、株主に対する関係で善管注意義務、忠実義務等も負担しない、会社法上の責任追及もされ得ない、会社法・証券取引法、あるいは証券取引所の開示規制にもかかっていないわけですので、このような者に独立性を認め、その意見に防衛策の発動の許否を委ねるとしても、それは会社から独立した判断といえるのか、疑問があります。
極論すれば、訴訟を提起された会社が、弁護士との間で委任契約を締結して、弁護士に委ね、弁護士が依頼者である会社の利益の為に弁護活動を行うことと何処に差異があるのかという点です。
 しかも、北越の防衛策では対抗策の導入の判断に際しては、判断の合理性を担保するために、第三者の助言を得ること等が規定されていますが(4(7))、今回の勧告にあたり、第三者の助言を求めた上で勧告する旨を決定した様子は窺われません。自ら設定したルールに従わないことについて北越には説明責任が課されているのではないでしょうか。

第3に、新株の無償割当の差止めは、仮に、被保全権利と保全の必要性があると仮定した場合には、会社法247条の類推適用で認められることになりましょう。
取締役の違法行為に対する一般的な差止請求権(会社法360条、422条)の構成を採るには、不公正発行の場合に、会社の財産的損害を観念することは困難ですので、「会社の損害」についての従来の解釈を変容させる必要があるというか、ロジックをこじつける必要に迫られるような気がします。
247条類推適用説を採る場合の最大の難点は、会社法はファイナンスのための株式の発行と株式の単位の大きさが変わるだけの株式の併合・分割・無償交付とを分けて規定し、新株予約権もパラレルに規定を定めていますが、募集新株予約権については247条の規定があるものの、無償交付ではそれに相応する規定はなく、準用規定もないという点をどのようにクリアするかという点です。この点、立法の過誤と思われますが、立法担当者も、臆面もなく、類推適用できることを解説本で解説しておられます。
また、商法下での事件である夢真HD対日本技術開発について東京地決は類推適用を否定しましたが、夢真の事件は、公開買付の買付条件の変更、撤回の可否が前哨戦で主たる争点となり、金融庁が夢真の公開買付届出書を受理したことで、間接的に公開買付の撤回や買付条件の変更を許容したことで主たる問題は解決され、東京地決も金融庁の対応を前提とした判断をしており、株式分割を認める必要性に乏しかったという文脈で先例価値を評価すべきと思います。


 

投稿: M・E | 2006年8月 9日 (水) 18時29分

これは山口先生が書くべき言葉だとは思いますが、M・E先生どうもコメントありがとうございました。このようなコメントが出てくるのを首を長くして待っておりました。
小僧さんもこうじまちさんも事情があって一時退場されましたが、お二人の色々な問題提起や発言は、M・E先生のような専門家が早く登場してこられることを期待していたためなのでは、と思っています。手前勝手推量ですが・・・

投稿: シロガネーゼ | 2006年8月 9日 (水) 20時11分

個別の案件についてのコメントは差し障りがあるんですが、こうじまちさんの述べられている防衛策の技術的な部分についてちょっと補足を。
買収防衛策はTOBそのものを防止する効果は元々ありません(厳密にいうと、本家のピルではdistribution dateとflip-in eventがずらされている辺りで工夫はあるのですが、アメリカでも実際には使われていないので、日本で導入する際には割愛される場合が多いはずです)。
本来の用法はTOB完了後に発動され、TOBで取得した持分の希釈化です。この場合、たとえTOBで60%を取得したとしても(希釈化比率によりますが)、買収者の持分価値は40%強に希釈化されます。この希釈化の持つ威嚇効果と、売らずに持っていた株主の価値上昇分への期待がTOBに応じないインセンティブをもたらすところが機能としての買収防衛策の効果になります。

投稿: 47th | 2006年8月10日 (木) 03時05分

>こうじまちさん

ご回答ありがとうございます。
参考にさせていただきたいと思います。
「休養宣言」をされたようで、ツッコミをいれるのもどうかと思ったのですが、すべて「減点が1」になっていますが、私はそれぞれに減点の度数が1から3くらいまでに分かれるのではないかと思ったりします。たとえば④から⑦あたりは減点1でもいいと思いますが、①と②あたりは減点3くらいが適当ではないかと。
このあたりは個人的な受け止め方も違うのかもしれませんが。

投稿: sara.onji | 2006年8月10日 (木) 12時16分

(MEさん、シロガネーゼさん、47thさん、ご教示ありがとうございます。書き込みいただいた内容についてはすこしずつコメントさせていただきます)

>募集新株予約権については247条の規定があるものの、無償交付ではそれに相応する規定はなく、準用規定もないという点をどのようにクリアするかという点です。この点、立法の過誤と思われますが、立法担当者も、臆面もなく、類推適用できることを解説本で解説しておられます。

立法担当者は基本的に法の欠陥はないことを前提に解説をされていると思いますので、類推適用というのはご法度かと考えていたのですが、どちらに解説があるのか、ご教示いただけませんでしょうか>MEさん

この点、商事法務1751号では、弥永教授が新株予約権(株式も同様)の無償割当に差止に関する規定が存在しない趣旨から、「差別的行使条件」などが定められているために「実質的には著しく不公正な方法による発行と評価できる場合」あるいは「法令定款に反する発行と評価できる場合」には、210条もしくは247条を類推適用できると解する余地があるのではないか、と述べておられます。実態判断(株主平等原則違反)と入り口の判断(差止め請求の対象となるか)を同時に審理対象とするところに、少し解釈上の疑問も残りますが、実質的には私も類推適用可能とする説に与したいと思います。

投稿: toshi | 2006年8月10日 (木) 18時30分

M・Eです。千問の道標191頁です(ただし、新株予約権の無償割当ではなく、株式の分割や無償割当についてですが。210条を類推適用すると明記しておられます。新株予約権の無償割当については247条の類推適用することが論理的帰結でしょう)。昨日のコメントを作成した時点では記憶でコメントしたため、新株予約権の無償割当についても記述があったという記憶に基づいて記載しておりました。
 ところで、そもそも、企業価値というマジックワード的な言葉であり、法的に機能する場面はあまりないのではないかと思っておりましたが、実際に、ストラテジックバイヤーによるM&Aが展開される局面では殆ど機能しないことが今回の北越対王子のM&Aでは明確となり、今後、別の指標を考える必要があるのではないでしょうか。

投稿: M・E | 2006年8月10日 (木) 22時27分

>MEさん
ご教示、どうもありがとうございます。新株予約権の無償割当の場合にも「実質的に特定の株主に不利益を及ぼす場合」には、210条、247条あたりの類推適用も可能であると解釈できそうですね。ただ、本件のような場合、これ一本でいけるのは敵対的買収防衛策の「中味や目的の公正さ」(たとえば差別的行使条件が平等原則に違反しないか等)に関する論点だけで勝負するときだけ有効ではないでしょうかね。本件ではそもそも有事導入ではないか、とか独立第三者委員会の手続違背とか、いろいろな論点が出てくると思うのですが、株主への取扱ルールと買収希望者の買付ルールのところとでは分けて考えなくてもいいのかなぁと思ったりしております。

>47thさん
むずかしいお立場であるにもかかわらず、一般論の範囲でコメントいただき、感謝いたします。
「パンドラの箱」といった表現を用いましたが、防衛策云々を検討する現場の方々とは少し温度差があるかもしれませんね。証券会社の方にお聞きしましたところ、この事前警告型買収防衛策の買収希望企業(グリーンメーラーではないとした場合)がどの程度の追加費用をもって買付を完了させることができるか、といった試算によると、たとえ20%取得時点で2倍希釈化するとしても、全体で19%程度の追加出資でいいと。もし、47thさんのおっしゃるように、TOB完了後の希釈化ということでしたら、もっと少ない追加出資をもって次の手を打つことも可能になるということなんでしょうか。こうじまちさんもおっしゃるとおり、本当は防衛策というのは、たとえ発動されたとしてもその効果は(無意味とは申しませんが)かなり限定的なものではないかと。おそらく世間の人たちは、もっと敵対的買収防衛策というものの効果は絶大だという認識をもっているのが現状のように思います。また、ほとぼりがさめたころでも結構ですので、いろいろとご教示ください。

投稿: toshi | 2006年8月11日 (金) 12時40分

買収防衛策は、相手が戦略的買い手であった場合には、それほどの効果がないということは、すでに色々な文献に論考が書いてあります。
そもそも論として、防衛策はあくまでも買収者が登場してきたときに、交渉や対抗策を検討するための時間稼ぎを狙うものということのはずです。今回のように交渉が不調に終わり、相手方がTOBをかけてきたときには、どちらを選択するのかを判断するのは、もう株主側に移っているので、せいぜいできることは、両者の提案のどちらが株主にとって有利なのかという判断をさせるための情報提供だけのはずです。ここでの北越の説明資料は不評のようですね。
防衛側の北越「経営陣」は、TOBを不成立させるために、株主を「情」の面で説得し歩いています。これは、別の見方をすれば、他の株主に対する株式売却の機会を経営陣が妨害しているという行為と見られかねません。
三菱商事という、やや不正行為に近い形でホワイト・スクワイヤーを登場させ、日本製紙という「勝手」ホワイト・スクワイヤーも登場し、さらに新潟地元の銀行を押さえてしまっているので、50%超の株式をTOBで取得する可能性は相当低くなっていることは王子側の社長も言っています。
買収側の王子製紙、野村證券と某有名法律事務所は絶対といっていいほど「奇策」をとらず、王道を歩くタイプの人たちです。しかし、相当にあきらめが悪い人たちでもあります。
次なる手が出てくるのは、8月21日からの週でしょうが、衆目の一致するところ、買付比率の下限を35%程度へ引き下げ、TOB期間を数日間延長するというところでしょうか。諸般の情勢は王子側に不利なので、TOB価格の引き上げもないと株主は納得しないかもしれませんね。

全体的には、sara.onjiさんの鋭いツッコミがありましたが、こうじまちさんの指摘したコンプライアンス的観点からも司法の争いとなった場合、北越側は相当に劣勢と感じている人の方が多いようですね。

投稿: シロガネーゼ | 2006年8月12日 (土) 00時17分

>シロガネーゼさん

総括的なご意見、まことにありがとうございます。買付条件の変更という点については、まさにシロガネーゼさんのおっしゃるところが妥当ではないかと思います。47thさんがご自身のブログでフォローできない状況のなか、こういった問題をまともに取り上げてどうなることかと思いましたが、シロガネーゼさんを含め、たくさんの専門家的同業者(らしい?)の方に助けていただいて、本当に感謝しております。せっかくここまで来ましたので、この後もヘロヘロになりながらも、この王子・北越問題は最後までフォローするつもりです。どうかまたご教示お願いいたします。
某有名法律事務所は「奇策」をとらないのですか?うーーん、そういえば、「奇策」が効を奏したら、買収防衛策が売り込めなくなってしまうのでしょうかね。(あんまりいらんこと言わないようにしよう・・・)

投稿: toshi | 2006年8月13日 (日) 02時53分

47thさんのブログに興味深い論考があります。
ライツプランが機能するのか否かということです。論考の中に表があるのですが、じっとその表を見ておりますと素朴な疑問が湧いてきます。
買収者の損失額が右端にあるのですが、この損失額は、逆に言いますと買収者以外の一般株主への価値移転額になるはずです。そういたしますと、当該価値移転額に相当する額は受贈益となり法人課税が課せられることになると思います。個人は、売却するまでは繰り延べられるでしょうが。一方、買収者側の当該損失は、一体どうなるのでしょうか。普通に考えれば評価損ということで損金算入ができません。税務上のバランスが悪いのですが、そうなりますと受贈益課税された分だけ株主価値を毀損するということになります。47thさんは、この辺りの課税関係をどう整理されているのでしょうか。
次なる素朴な疑問は、買収者側が損失を計上せざるを得ないような対象会社の行為が憲法上許されるのかどうかという点です。買収者の属性によっては、結論も変わってくるのでしょうが、これは司法の場で決着せざるを得ないのではないかと思う次第です。
米国でもポイズン・ピルが考案された当初は導入会社側は敗訴していましたが、どこかの州法で Pill validation statutes が制定されて法的有効性が出た後に広まっていったように記憶しています。買収者に対して損害を与える行為ですので、わが国においても法的根拠がないといけないと思うのですが、買収防衛指針だけでは不安があるところです。判例でも、まだ4類型だけしか例示していないようですし。(法務省の名が入っているのに法的根拠になりえないのはおかしいと主張されている大学教授もおられますが・・・)
この辺りも、多分、47thさんのご回答は得られないと思うのですがお尋ねしたいところです。

投稿: シロガネーゼ | 2006年8月16日 (水) 21時37分

>シロガネーゼさん
税の話は、理論的に非常に面白い話があるんですが、ちょっとお答えしにくいところがあるんで、結論だけになりますが、昨年出された国税庁通達の中で一定の要件を満たせば株の譲渡時点まで繰り延べが認められることになっているので、現在公表されているプランでは、その要件を充足するように規定が書かれています。
後段については、財産権保障というロジックを持ち出される方がいらっしゃるのは存じ上げているのですが、そもそも国家の私人に対する憲法規定を私人間の法律関係に適用する根拠がよく分かりません。
あと、アメリカの話でいうと、アメリカ会社法といったときに一番引き合いに出されるデラウェアにはPill Validation Statuteはなく、ピルのスキム自体が違法と判断されたのはDead Hand型のみです。NY,NJはPill Validation Statute導入前に違法とする判決が出ていますが、これもその判決の原文を読むと全面的にピルを違法視するものではありません。
問題は日本の現状をデラウェアに引きつけて考えるのか、NY,NJに引きつけて考えるかということですが、そこを架橋したのが昨年の企業価値研究会の報告書というのが実務の位置付けになっているというところになっています。
と、この辺りまでなら、全く問題なくお答えできますよ。
toshiさんのブログのコメント欄をお借りするのも何なので、また何かご質問があったら、私のブログの方にも是非コメントしてください^^

投稿: 47th | 2006年8月16日 (水) 22時38分

>47thさん、toshiさん
微妙な時期にもかかわらず、ご回答いただきありがとうございました。47thさんのブログへの接続が難しくて、やむを得ずtoshiさんのブログをお借りした次第です。
toshiさん、大目に見てください。

投稿: シロガネーゼ | 2006年8月18日 (金) 08時02分

>47thさん
国税庁通達には不完全なところがあり、そこの点は一般には論じられていないようです。小職の見過ごしであるいは論じている人もいるかもしれませんが。

投稿: こうじまち | 2006年8月18日 (金) 10時15分

>シロガネーゼさん、47thさん、こうじまちさん

いよいよ課税関係の問題に発展してきちゃいましたね。(私のブログは皆様方のコメントで盛り上げていただいておりますので、ご議論はどうぞご遠慮なく)
平成18年の税制改正は行われておりますが、新しい会社法施行に伴う法人税法施行令119条3号、4号あたりの論点について、まだ国税庁の見解というのは出されていないのではないでしょうかね。昨年出された通達は、ライツプラン新類型に関するものまでかと思いますが。これは私の理解不足かもしれませんが、税務上の手当が会社法上の防衛策(とくに新株予約権の無償割当とか、取得条項付新株予約権発行の場合など)については、いまだなされていないように思われますが、いかがでしょうか。
こっから先は、北越製紙の事前警告型防衛策を具体例としてあげて議論をしたほうがおもしろいかもしれません。

投稿: toshi | 2006年8月18日 (金) 13時12分

>こうじまちさん
渡米中で日本の法律文献は商事法務ぐらいしかチェックしていないので、私も文献で論じられているかどうかは存じ上げないのですが、ご指摘の話は何となく察しはつきます(勘違いかもしれませんが^^;)
ちょっとセンシティブな話題になってしまうんで詳しくはコメントできないんですが、ピルの機能面と課税当局のロジックを調和させるためのぎりぎりの線で表現面も含めてああいう形に落ち着いて、その後導入されたピルではそこを意識して規定が工夫されている・・・ということで、もし考えているのが同じポイントなら、この辺りで通じるのではないかと思うんですが、いかがでしょう。
>toshiさん
税の話については理論的には面白い話もたくさんあるんですが、ややセンシティブな面もあるので、私の方はこれ以上触れるわけにはいかないかもしれません(; ;)。ただ、ここでの皆さんの議論は引き続き楽しみにしています。

投稿: 47th | 2006年8月19日 (土) 02時48分

ゲームセットですね。
王子サイドの人間としては非常に残念な結果に終わりそうです。
今回のTOBで両社や日本製紙が取った手法については、碩学の方から様々な検証が
行われるでしょうし、この結果が両社に何をもたらすのかは、今後の企業活動を経て
歴史の審判を待つのみです。

なのであえてその辺りは飛ばして、内部にいる者の視点から今回の結果を生んだ
であろうキーイシュー3点を書いてみます。

1.北越は非常に優れた会社である。
 ここ十数年の国内洋紙事業に関して言えば、北越は文句なしの1等賞です。
技術、営業、設備投資の戦略がほぼ完璧であり、業績も競争力もトップの地位に
登りつめました。だからこそ、三菱商事は大規模な出資に応じ、日本製紙は妨害を
しかけ、既存大株主や地域社会は即座に全面支持に回ったのでしょう。
今後、様々なTOB案件があるでしょうが、今回の北越のように、瞬時に強力なファン
クラブや勝手連が組織されるような事例は、なかなか出てこないと思います。

2.王子はM&Aに慣れすぎていた。
 王子は戦前からM&Aを繰り返してきた会社ですが、統合後の社内融和をきちんと
行い、結果を出してきたことからM&Aはハッピーだと捉える文化があります。
今回は、この基本認識が強すぎたために、結果として北越のステークホルダーに
対する配慮が甘くなったと思います。
旧神崎製紙と合併したときのようなデリカシーがあれば、結果は違っていたかも
しれません。

3.独占禁止法上の問題
 王子にとって、北越は新潟工場だけが魅力だったわけではありません。
白板紙の関東工場や特殊紙の長岡工場も、統合すれば非常に価値ある事業です。
ただ、この分野の統合メリットは、主に寡占化から出てくるものなので、
大っぴらにアピールできず、結果として関東長岡のリストラという北越従業員の
懸念に答えきれませんでした。

それから、今回はステークホルダーに対する充分な説明をする間もなく、日本製紙の
参戦と三菱商事の増資払い込みの時点で結果がほぼ決まってしまいました。
このことは、TOBの行方のみならず、両社の感情的なシコリを解くチャンスまでも
奪われたという点でとても残念です。

ミタル=アルセロールの事例では、TOB表明から長い時間を掛けて丁寧な提案説明が
なされ、反対から一転して友好的な統合となったようです。日本でもTOBの提案、
防衛、妨害などに対してルールがさらに整備され、提案側も被提案側もじっくり
本質議論ができるようになれば良いなと思う次第です。

投稿: 小僧 | 2006年9月 5日 (火) 00時57分

>小僧さん

どうも、おひさりぶりです。最近の王子・北越の報道をみながら、小僧さんがいつ最終コメントを出していただけるだろうか、と期待(失礼)しておりました。王子に近い方でいらっしゃるにもかかわらず、非常に冷静かつ客観的な分析には大きな魅力がありました。きょう、日経の記者さんと話をしていたときにも、小僧さんの「立ち位置」がブログの魅力を引き出していることが話題になっていましたよ。
せっかくですから、私もこのたびの小僧さんのコメントやいままでのものも含めた総括エントリーを残したいと思いますので、またときどき遊びに来てくださいね。「歴史の審判」、これを冷静に分析できる資質を私も備えておきたいと思います。

投稿: toshi | 2006年9月 5日 (火) 02時46分

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