弁護士も「派遣さん」になる日が来る?(その2)
昨年7月2日に政府の規制改革委員会の流れを受けて弁護士も派遣業登録が可能になるのではないか・・・といったことを取り上げましたが、福岡の同業者でいらっしゃるロボット軽じKさんより、ひさしぶりにコメントをいただきましたので、すこしばかり続編を書いてみることにいたします。
ロボット軽じKさんもご指摘のとおり、8月12日の日経朝刊によりますと、司法書士、税理士、社労士については、業務の限定は一部ございますが労働者派遣が認められることになりそうです。そういえば昨年は構造改革特区有識者会議で法務省のお役人さんたちが、「弁護士の労働者派遣がなぜ認められないのか?医者でも認められているではないか」と会議の委員の方々にムチャクチャいじめられておりましたよね。でも最終的には、やはり「高度な利害相反の回避義務」が障壁となったようで、今回は弁護士については見送られたようです。つまり、弁護士に労働者派遣が認められますと、派遣元による指揮監督を受ける立場になりますが、いっぽうで派遣先との関係につきましても、弁護士は職務上派遣先のために信頼関係に基づき、最善を尽くす義務が発生するわけです。そういった関係は、利害が対立するおそれのある派遣先と派遣元からの信認を受けていることになりますから、倫理上非常に大きな問題が生じることになるわけです。(もちろん、利害対立が現実化した場合には、たとえ労働者派遣が認められたとしても、辞任するしか方法はないと思われます。どちらかの仕事を継続してしまっては、もう一方より懲戒の申立をされるリスクがあります)ただ、ロボット軽じKさんもおっしゃるとおり、弁護士の人数は今後飛躍的に増加しますし、そのライフスタイルも様々かと思われます。弁護士が途中で辞任する、といったリスクを承知のうえでその専門職としての知的作業を派遣によって賄いたいと考える企業もいらっしゃるかもしれませんし、(規制改革委員会は、小泉首相退任後も元気に活動を継続されるようですから)本当に弁護士が派遣業登録する日がそう遠くない日に到来するのかもしれませんね。
しかしながら「利益相反」に悩むのは「弁護士」という専門職や、株式会社の「取締役」だけには限りません。今後、金融業に関与されていらっしゃる方々は、ますますこの「利益相反行為のグレーゾーン」に悩むことになりそうですね。たとえば金融商品取引法の成立によって、金融商品取引業者は、これまで以上に投資家保護を図る必要が出できます。お金儲けの対象である一般投資家にできるだけたくさんの金融商品を売りたい立場なんですが、一方において顧客を保護すべき高度な説明義務が課されるわけでして、そもそも利益相反関係に立ちながら、どのような営業戦略を立てていけばいいのでしょうか。また、証券会社の引受業務と上場希望企業との関係もそうですね。8月11日の日経朝刊では、日証協が会員である証券会社に対して、引受審査のルールを厳格化することが一面で報道されておりました。主幹事として上場させなければお金にならないのに、一方でその対象企業の引受審査に厳格に対応しなければいけない・・・というのは、本当に審査の厳格化が期待できるものなのでしょうか。本当に「馴れ合い」になったりしないのでしょうか。ほかにも、信託法が改正されて信託スキームが様々な場面で使われるようになりますと、委託者と受託者との間で、さまざまな利益相反関係が発生する事態が予想され、そういった場面における受託者(金融機関もしくはその関連企業)の対応が今後の法施行上の大きな論点になってくると思われます。どこまでが許される利益相反行為で、どこからがコンプライアンス上問題となる行為なのか、現実の金融実務の場面で誰が判断するのでしょうか。こういったリスクの高い分野につきましては、「外注」するのが金融機関の常套手段だとしますと、どなたかに、そのリスクを転嫁することが考えられ、そういったところに法律家の新たな職域が誕生することもありえます。しかしながら、こういった問題に適切なオピニオンレターを書ける法律専門職がいったいどの程度いらっしゃるんでしょうかね?これ、弁護士としてもけっこうリスクの高い(勇気の必要な)職務ですよね。おそらく・・・
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コメント
いつも勉強させていただいております。
今回「派遣解禁」といわれている税理士・社労士・行政書士・司法書士ですが、あくまでも「各士業事務所or士業法人に対する資格者の派遣」の解禁であって、一般事業所に派遣するというわけではないようです。その意味では「医業職種の派遣」と同じ形ということかな・・・と見ています。(構造改革特区本部のWebに元情報がありましたhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/kouzou2/osirase/060811/060811iken.pdf)
ところで、弁護士や司法書士の訴訟業務と同様、社労士・土地家屋調査士にも「紛争解決手続代理業務」があるため、この点についてどのような手当がなされていくのかが気になるところです。まさか「裁判外」だから「利益相反をそれほど考えなくても良い」ということにはならないでしょうが、どのような手当てを行うのか注意が必要な点だと感じています。
投稿: Swind@立石智工 | 2006年8月16日 (水) 12時52分
この件はすごく興味深いネタだったりするのですが、現状の弁護士会における実務にも影響を与えかねないかもしれないですね。
サービサーの取締役になるような場合でも弁護士会に営業許可申請を出して常議会マターになるわけで、派遣の場合に登録先と派遣先の両方について申請が必要になるのかとか(必要なんでしょうねえ、今の枠組みだと)、今の手続きを前提とすると結構時間や手間を考えても大変ですからねえ。
いろいろこのネタがらみを考え出すとあるのですが今日はこの辺で。
また遊びに来させていただきますです。
投稿: ろじゃあ | 2006年8月16日 (水) 20時37分
>立石さん
いつもコメントありがとうございます。なるほど、そうなんですか。私は一般事業所への派遣とうものだと思っておりました。もしこういった対応であれば、弁護士業に関する派遣登録というものも、少し状況が違うかもしれません。もう少し勉強してみます。
>ろじゃあさん
弁護士会で一生懸命手続を考えて、こういった条件なら派遣解禁を認める、などと何年も議論した末に、いざ制度ができあがると誰も申請してこない・・・といった事態が十分予想されるのですよ、この業界は(って、また一言多いと叱られそうですが・・・)
15日の朝日新聞で、この10月から開始される司法支援センターの常勤弁護士が、当初見込まれた人数の3割にも満たない、との報道がありました。このような事態は最初から予想されていたわけでして、「弁護士の理想と現実」を如実に示していると思います。この派遣問題も、ろじゃあさんがおっしゃるような問題を真正面から議論しておりますと、ホントたいへん根が深いだけに、どうにも前進しないことになるような気がします。
(すいません、グチになってしまったようで)
投稿: toshi | 2006年8月17日 (木) 03時04分