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2006年8月 5日 (土)

北越製紙に対する敵対的TOB(中間とりまとめ)

最近ココログの有償版では、新しい解析システムが導入されました。とくに商売のためにブログを使っている方でもなければ、「なんでこんなに詳しい分析まで必要なんだろう?」と首をかしげたくなるほど、いろいろな解析ができるわけです。よくお越しになる方はご承知のとおり、私のブログはだいたいエントリーの内容が4つに分かれておりまして、①企業会計モノ②内部統制モノ③企業コンプラ関連、そして④M&Aモノに分類することができますが、いつもダントツでアクセス数が多いのが企業会計モノでして、私の仕事と関係の深い内部統制モノとコンプラ関連が同じくらいのアクセス、そしてアクセス数がもうひとつ、と思われるのがここのところ連日、コメントを頂戴しております「M&Aモノ」であります。どれも社外役員の立場から企業価値を考える、といったコンセプトでして、それぞれの分野ごとにコメントをつけていただける方々がいらっしゃるのは、本当にありがたいですね。内部統制関連と企業コンプラ関連につきましては、ふだん実務経験を積んでいる分野ですので、ブログとはいえ、あまり赤っ恥はかきたくないのですが、企業会計モノとM&Aモノにつきましては、本当にこのブログを閲覧していただいている方々といっしょに勉強するつもりで書かせていただいておりますので、今後とも至らぬ点がありましたら、どんどん指摘していただけましたら幸甚です。最近、メールのほうでカミングアウトされる方がいらっしゃるのですが、「商事法務」やら、「自由と正義」やら、「企業会計」などの雑誌で論文を読ませていただいたような方がここにお越しになることを知りまして、ちょっとビックリしたりもするのですが、「きっと、皆さんも論文の執筆とは違い、気軽に時事問題をあれこれと話したいといった衝動にかられるときがあるんだろう」と気を取り直して、こちらも肩の力を抜いて気軽にブログを続けてまいりたいと思っておりますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします。

ということで、きょう(金曜日)は表面的には動きのなかった王子・北越のTOB問題でありますが、来週月曜日は三菱商事に対する第三者割当の払込が予定されておりますので、ここですこしばかり中間とりまとめ(なんかずいぶんと偉そうな物言いですが、あくまでも自分の頭を整理するためのものであります)をしてみたいと思います。(ただし、毎日新聞ニュースでは、金融機関がどうも様子見を決め込んでいるために、王子製紙はかなり苦しい立場に立たされているといった報道はなされているようです)

いままで敵対的買収事件が世間の話題になるたびに、日本でも敵対的買収時代が到来することを歓迎する向きの方々からは、「能力のない経営者は去れ!」といったフレーズが聞かれましたけど、今回の王子・北越騒動のなかで、敵対的買収時代を歓迎する側からのこういったフレーズはほとんど聞かれませんね。私の記憶では村上さんだけでなく、社外取締役制度の導入など、ガバナンスのあり方に詳しい先生方などからも、よく日本企業の足腰を強くするためには、できのわるい経営者が自然淘汰されるのは当然であって、株主にその真を問う敵対的買収はどんどん行われるべきである、といったお話を聞いたものでした。でも、今回の騒動をみておりまして、ふと思うところは、企業効率化をすすめ、業界トップの収益力を誇る企業を作り上げた経営者であっても敵対的買収によって経営の場から去らなければいけないのでしょうか。どうして去らなければいけないのでしょうか。これから北越製紙のように、「がんばって企業収益力を建て直して、業界トップに並ぶ企業にしよう」といった高い志をもった経営者の人達は、どんなインセンティブをもって経営に臨めばいいのでしょうか。今回、この問題がどういった結論に至るにせよ、この経営者のインセンティブをきちんと説明できることがとても大切なことであり、また私を含めた傍観者の立場からすると、この事件から学ばなければいけない多くのことが、そこに潜んでいるような気がします。

それからもうひとつ、法曹という視点からは、できるなら事前警告型の敵対的買収防衛策の有効性について、独立委員会による発動要件の判断を含めて、司法の場での紛争経験が蓄積されることを期待しておりますが、どうも今回の問題が司法の場で争われた場合、これまでとは違った様相を呈する主張が繰り広げられるのではないか、という予想といいますか、期待感のようなものを抱いております。これまでの敵対的買収に絡む問題では、買収対象企業(つまり防衛策を発動する側の企業)は、企業価値の持続的向上といった内容について、従業員の士気低下とか、地域住民による拒絶反応とか、取引先の離散(これはニッポン放送事件のときでしたっけ?)など、いわゆるステークホルダーの利益を比較的重視した主張を繰り返し、いっぽうの買収企業側は将来における対象企業の価値といったものを現在価値に引きなおして、目の前の株主へ的確な数値でもってシナジー効果による有利性を提示するといった手法と対比されていたと思います。しかしながら、今回の王子製紙の北越株主への統合提案の内容をみますと、買収する王子製紙側のほうから、緻密に北越製紙のステークホルダー重視の姿勢を示して、敵対的買収による手法の正当性を説明しようとしています。また、途中から登場した日本製紙が約10パーセントの株式取得に至った理由についても、やはり「業界の秩序」などとともに、北越製紙の利害関係者への配慮を説明しています。こういった主張が飛び交う紛争のなかにおいて、いったい「企業価値」というものの中身はどういったもので構成されていくのか、ひじょうに興味が湧いてきますし、これまでとは異質な要因によって買収防衛策が認められたり、もしくは否定されたりするのではないでしょうか。そういえば今月号の「月刊監査役」で公表されているシンポジウム「敵対的企業買収の防衛と企業の社会的責任」のなかで、東大の神田教授も「会社の利益」(=企業価値)の解釈として、株主利益最大化だけではなく、株主以外の関係者の利益を考慮することが結局は会社の利益になる、あるいは企業価値という言葉を使うと企業価値を高める結果となるといった解釈もありうるんだ、と説明されていらっしゃいます(月刊監査役8月号 30ページ以下参照)。また同志社大学の森田教授からは、皮肉なことに、最近のアメリカでは敵対的企業買収などの支配権変動時に経営者がステークホルダーの利益を考慮して行為できる旨の社会的責任規定が30以上の州法で立法化されている、といった解説もなされております(同37ページ以下参照)。私自身、ここで企業価値論の結論的なスタンスをあれこれと述べるつもりはありませんが、事業再編型の大きな買収事案を「本格的な敵対的企業買収」の典型とみるのであれば、そこで問われる「企業価値」というものは、ずいぶんと「一般の経営陣でもわかりやすいもの」(少なくとも司法の場で争われるような事態に至るケースにおいて)であり、また「株主にわかりやすいように開示されるべきもの」に変容されていく可能性があるのではないでしょうか。日本の社会に敵対的企業買収の成功事例が増えれば、東京の大手法律事務所が儲けるとか、フィナンシャルアドバイザー業務が各金融機関に広がるといったことが言われておりますが、各企業の経営者たちが、敵対的買収を試みたり、これを防衛したりするなかで、予測可能な基準のようなものが必要となるはずでありましょうから、こういった企業価値の中身をどう捉えるか、といったことは社会資本のひとつとして、できるだけ一般の経営者にもわかりやすいものに収斂されていくべきだと私は思います。

こういった問題意識を持ちながら、来週のこの騒動の行く末を、できるだけ客観的かつ冷静に見守っていきたいと考えているところであります。

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コメント

いよいよ「起」、「承」を経て、来週から「転」「結」へと向かう。王子・野村連合軍には第3者の介入は当然の前提としていたことでしょうから、月曜の朝刊にどんな記事が1面に出てくるか今からワクワクしています。ところで、北越のボードが意外にしたたかな役者揃いであったとして、TOB価格を1,200円ほどにして王子の完全子会社にするなんて案を飲ませれば、北越の株主からやんやの喝采を浴びることになるでしょうか。おっと、ここは日本、真夏の夜の夢です。

投稿: CG watcher | 2006年8月 5日 (土) 09時32分

どうもお久しぶりです。
「真夏の夜の夢」ですか・・・・笑
実は私は最初、ホントにそういった事態もありなのかな・・・とも思っておりました。
1200円という価格は別としまして、北越としては腹をくくったのではないかと。ここまで頑張ってくれた従業員の方々や支えてくれた株主のために、ギリギリまで粘って王子と交渉を重ねて(三菱のカードも使って)、最後に王子と和解するといったシナリオであります。しかし、そういったもんではないのかもしれませんね。「俺がこの業界をよくする。俺しかいない」といった信念でここまでやってこられた経営者であれば、そう簡単に軍門には下らないでしょうし、またそういった信念をお持ちだからこそ、ここまで回復させてこられたのかもしれません。しかし1200円という数字がどこから出たのか、すこし気になりますね・・・・笑

投稿: toshi | 2006年8月 5日 (土) 14時41分

>そう簡単に軍門には下らないでしょうし、

その通りです。簡単に軍門下っていては株主に対し説明がつかないし、また経営者としての値打ちも下がります。王子製紙のTOB期間は、9月4日まであります。交渉期間は十分にありますので、ぎりぎりまでお互いの粘り強い交渉は続くでしょうし、また公開買付期間の延長ということももありうるでしょう。
このような歴史的な買収行為は、二段構え、三段構えの作戦があると推測しています。それでなければ、アドバイザーとしての野村證券の役割は十分に果たしたとはいえません。
それにしても、いきなり、「真夏の夜の夢」1200円という極限の数字が出てきたのにも驚きました。1200円で買収した場合、王子側は株主に対して説明できるのでしょうか。野村側では、ぎりぎりの上限価格までシミュレーションを作成していると思いますが・・・・
また、王子と北越(三菱商事)間の交渉が成立したときの日本製紙側の自社の株主に対する説明内容にも関心があるところです。すでに全て検討済みで株式取得に踏み切ったはずでし。

投稿: シロガネーゼ | 2006年8月 5日 (土) 17時01分

盆休みと高校野球の開幕で、王子vs北越(&商事)&日本製紙事件もしばらくは休戦状態になりそうですね。
日経新聞の記事の書き方も当初の「敵対的TOB」という用語に絡むセンセーショナル的報道に重点が置かれ、事の本質の議論からのズレを感じていましたが、漸く軌道修正に入ってきたようです。おそらく、日経の真面目な新聞記者さんの間で打合わせ会議のようなものがもたれた後、論調が変わってきたのではないかと推測しています。そのうち、日経新聞の表現も今回のケースのような場合、「敵対的」という用語から、新しい用語が考え出されて使われていくことになるだろうと期待しています。
また、小僧さんから王子製紙側の考え方の詳細なご説明がありましたので、業界知識も含めて理解が深まり、ブログを読んだ甲斐があったと感謝しています。

投稿: こうじまち | 2006年8月 6日 (日) 11時58分

私は法律の専門家では有りませんので、専門家の方々の議論には中々加われませんが、企業経営者の正義感についてコメントさせていただきます。
買収を提案されている北越の経営者が優れた経営者であるなら、解雇するどころか、逆に合併新会社の社長として遇すればよいのではないでしょうか。そこで働く従業員も同様ではないでしょうか。合併で重要な事は資本の拡大よりも、資源の拡大であり、資源の中でも最も大切なのは人材だと思います。
外国の事例を見ても、今騒がれているミタルとアセロールの合併でも、吸収される側のアセロールからCEOを出す事になるようですね。イギリスの製薬企業のグラクソとスミスクラインの合併でも人事問題で一度は白紙になりながら、1年程して改めて合併決定後の人事で、CEOは吸収される側のスミスクラインから出しています。日本でも、山之内製薬と藤沢薬品の合併後、1年余で吸収された側の方が社長に就任されています。
王子の経営者に私心無く、正義感が有るなら、合併後の社長は北越さんから言えばどうなるのでしょか。

投稿: 濡れ衣と戦う会社員 | 2006年8月 7日 (月) 10時37分

こんにちは。

先生が花火大会のビアガーデンでお話されていた仮処分申請(株主名簿閲覧のほう)が現実化してきたみたいですね。私は否定説でしたが(失礼しました・・・)
しかし条文にああいった形で拒否できるとあって、それでも仮処分が認められるでしょうかね?
またお教えいただければと。

投稿: 品田太市 | 2006年8月 7日 (月) 13時00分

濡れ衣と戦う会社員さんのご指摘ですが、北越から具体的にそういう条件提示があれば、王子は検討に応じ得ると思いますよ。ちなみに、神崎、本州との合併のときは、王子側から社長、神崎本州からは会長という人事になりました。

従業員の処遇については、全て現状維持という提案にしていますが、今以上の待遇を求められれば、それも検討の俎上に乗ると思います。

ゼロ回答から条件闘争にステージが移るのであれば、王子サイドは大歓迎だと思います。それ以前に、王子がもっと良い条件を提示するべきで、稚拙あったというご指摘であれば、それはそうかもしれません。

投稿: 小僧 | 2006年8月 8日 (火) 00時26分

新聞報道の速報版によれば;
北越紙、独立委員会が買収防衛策発動を容認
 買収防衛策発動の是非を検討する北越製紙の独立委員会は8日、王子製紙からTOB(株式公開買い付け)を受け、発動の要件を満たしているとの勧告をまとめ、北越取締役会に提出した。発動した場合は王子が差し止めを求め法的措置に出る見通しのため、北越経営陣は防衛策が攻防に与える影響を見極め、発動の必要性や時期などを慎重に判断する。

 北越の防衛策は全株主に無償で新株予約権を割り当てる内容。買収者の持ち株比率を大幅に低下させる狙いがある。 (21:19)

この報道が事実であるとすれば、経営の知識もなく、また買収防衛策とは一体何なのかという本質的な勉強もしていない人たちで構成された独立委員会が存在するということ自体が、そういう人たちを人選してしまった北越製紙側の痛恨の落ち度となるでしょう。折角の事業経営の良さを自ら傷つけてしまったようです。
明日の新聞でどういう報道がなされるのか分かりませんが、全く残念ですね。
ただ、見方を変えて言えば、米国と違い、わが国では無秩序・無原則な敵対的買収と防衛策の発動が今後、多数出現してしまうという社会的背景があるのかもしれません。裁判所の判例の蓄積がものすごいスピードで進むこともありうるかもしれません。


投稿: シロガネーゼ | 2006年8月 8日 (火) 22時22分

北越のウェブサイトにもリリースが出ていますので、報道は事実のようです。たぶんこれは司法判断を仰ぐことになるでしょう。具体的な争点がタイミングの問題になるのか、防衛策自体の問題になるのか、王子はどのような申し立てをするのでしょうか?

さて新たな動きが出てきましたが、私は明日からしばらくの間、ここへの書き込みが出来ない状況になりますので、一応お知らせしておきます。

投稿: 小僧 | 2006年8月 8日 (火) 22時52分

みなさま、コメントありがとうございます。
どうも私の予想に反して、法廷闘争に突っ込んでいくような気配が漂ってまいりましたです。

せめて和解は無理にせよ、北越は静観したまま、TOBで決着をつけるという方向でいいのではないのかなぁと、外野の人間は無責任に思うところであります。

小僧さん、かなりコメントしずらい状況になってしまったようですが、これまでブログをおもしろいものにしてくださって、ありがとうございました。総括の時期に来ましたら、またコメントできる範囲でなにかツッコミいれてください。
今後とも、どうかよろしくお願いします。

投稿: toshi | 2006年8月 9日 (水) 02時51分

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