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2006年8月17日 (木)

社外役員の情報開示について

今朝(8月16日)の日経朝刊に「主要100社企業統治報告 社外取締役5割が選任」と見出しをうった記事が掲載されておりまして、この5月から東証で義務付けられました「コーポレートガバナンス報告書」の調査結果に基づく興味深い内容が盛り込まれておりました。社外取締役が100%取締役会に出席されている企業もあれば、26%程度しか出席されておられない企業もあるようで、開示された報酬額(こちらはごく一部の企業ですが)などをみましても、けっこう各企業において社外取締役制度の運用状況はマチマチのようです。(ちなみに、私は社外監査役ですが、昨年の出席率は92%でありました。)

会社法及び施行規則に基づく株式会社の事業報告でも、社外監査役、社外取締役の活動状況が報告の対象とされる内容に含まれておりますし、またこういった証券取引所のガバナンス報告書でも、今後多くの上場企業が毎年の社外役員の活動状況を報告することになると思われます。ただ、私のような現役の社外役員の立場からしますと、「取締役会の出席率」というのは、それだけではあまり社外役員の貢献度を測るモノサシにはならないのではないか、といった疑問を有しております。

もちろん、社外監査役であろうと、社外取締役であろうと役員会への出席率が高いほうが望ましいことは間違いありませんし、今後も出席率を開示することに問題があるわけではありませんが、社外役員はなにも役員会に出席することだけが重要な職務ではないと思いますし、おそらく熱心に社外役員を務めていらっしゃる方々も同様の気持を有しておられるのではないでしょうか。ときには会計監査人との共同作業のために会合をもったり、常勤監査役が言いにくいことを直接社長に進言するために会社に出向いたり、業務監査に必要な情報を得るために関係各部署と連絡を密にしたりと、むしろ「形骸化した取締役会」に出席すること以上に重要と思われる業務に従事している社外役員の方も多いと推察いたします。株主にとって社外役員の情報として知りたいのは、出席率ということ以上に、その社外役員がいったい一年間にどういった活動をして企業に貢献してきたか、ということでありまして、とりあえず役員会に出席しなければ・・・といった義務感を社外役員に植え付けるためには「出席率の開示」も有効かもしれませんが、それ以上のなにものも情報として提供してくれるものではありません。

そもそも社外役員というのは、企業の業務執行部門の情報に疎いわけですから、いちいち社内の役員のように業務担当者を指揮監督できる立場にはありません。その監督に関する限界というものを「内部統制システムの整備運用」によって補完するのが、会社法によって今後のコーポレート・ガバナンスに期待されているところであります。そういったことからしますと、社外役員にも「役員会に出席すること以上に、どうやって社外役員が情報を共有できるか」といったあたりを努力して工夫する必要が出てまいります。たとえば私のような社外監査役でしたら、監査役会でどのように3人の監査役が業務分担の合意を行うか、監査役会にはどういった議題を上程するか、経営会議で出された業務報告事項のうち、どういった事項については事前に社外監査役に報告するか、業務執行部門の内部統制システムはどのように相当性を判断するか、など各企業によって、社外役員が情報不足を補完するための施策というものはいろいろと考えられ、また容易に実行に移せるはずです。そういった施策を考案し、実行しているかどうか、といったところが役員会への出席率などよりも極めて情報開示として価値の高いものではないでしょうか。また、ガバナンス報告書全体に対してもいえることですが、どこの企業の報告書をみても同じ、というものでは株主への情報としてはあまり価値がないわけでして、各企業がガバナンスシステムにどう取り組んでいるのか、個々の企業ごとに説明責任の対象となりうる情報が開示されていることが重要だと認識しております。さらに、(ここまではなかなかやれる方も少ないかとは思いますが)全社的なリスクマネジメントの一貫として、社外役員は敵対的買収防衛に関する「株主の代弁者たる地位」「企業価値を公正な第三者として判断する地位」に立たされたり、株主代表訴訟に至る場面においては、会社が当該取締役を訴えるべきかどうかを会社の利益を考慮しながら判断する立場に立たされます。司法判断が「企業価値」の中身まで審査の対象としないことが予想される以上は、そういった公正な第三者、株主利益の代弁者たる社外役員が、普段からどういった検討をして、どういった手続を経て決断するに至ったのか、そのプロセスこそが最も重要な場面となることは十分予想できるところでありまして、その対応策としても、日常の社外役員の行動といったものがこれからの企業価値(リスクマネジメントとして)を左右するものと思料しております。

もちろん法律家の立場からすれば、社外役員が取締役会に出席することの意義(上程案件への賛成反対の表示意思の確定、経営判断に関する違法性、妥当性監査、他の取締役の職務監督)ということも無視しえないわけであります。しかしながら、このたびの会社法は監査役制度を含めて全社的な内部統制システムが構築運用されることを要求しているわけでして、取締役会に出席することとは別に、より重要な職務として、社外役員に期待されているところが存在することも事実であります。今後ますます社外役員を導入する企業が増えるのでありましたら、出席率といった非常に単純な活動状況に関するモノサシに注目するのではなく、社外役員が全社的な統制システムのなかにどう組み込まれており、この1年、そのシステムは社外役員によってどう運用されたのか、といったところをわかりやすく表現できるモノサシこそ、十分に開示統制をすべきではないか、と思います。少なくとも、私自身は今期に関する事業報告から、そういった「一般投資家、株主の皆様に、他社との違いを理解していただけるような」社外役員の活動内容報告にしたいと考えております。

8月 17, 2006 社外取締役・社外監査役 |

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コメント

同感です。
活動内容の開示がモニタリングに対するインセンティブを与えるためには、それがモニタリングという外部から観察の難しい活動に関する適切な代替指標でなければ意味がなく、逆に不適切な指標を選んでしまうと歪んだインセンティブを与えてしまうことになります。
出席率や発言回数というのが、そういう意味で適切な「ものさし」たり得るのかということについては、toshiさんのように現に活動されている方の意見を踏まえて、その意味を考えていく必要があるんでしょうね。

投稿: 47th | 2006年8月18日 (金) 00時11分

ご意見ありがとうございます。これ、また続編を書きますので、また総括的なご意見を頂戴できれば、と思っております。47thさんの在籍される事務所のように、顧問で契約を締結している企業のボードに、どなたか個人的に社外役員として就任される、という微妙なケースなども、ひょっとすると今後開示の対象になるかもしれませんね。むずかしいところですが。
さっそくM&A関連のエントリーをアップしていただき、勉強させていただいております。また、そちらにもコメントさせていただきます。

投稿: toshi | 2006年8月18日 (金) 03時28分

M・Eです。ブログのバックを変えてイメチェンされたんですね。さて、他社との違いを株主に理解してもらう活動報告を行う、とは山口先生らしく高い志ですね。さて、この社外役員の取締役会への出席状況を法務省令に導入しようとしたときに、一番反対の意向を示したのは法務省のОBだったそうで、反対の声を聴いてますます導入のインセンティブが高まったという話を元立法担当者の郡谷氏からお聴きしたことがあります。社外役員が取締役会に出席し、社内役員に社外役員の目を意識させながら意思決定を行うことを続けることでも、透明性・公正性の確保には相当役立つのではないでしょうか。実際自分の体験に照らしても何も発言しない、出席だけするというのは社外役員にとってもつらいものだと思いますが。
 先月、新規に設立されたサービサー会社の取締役に就任し、今までの社外監査役とは別の視点から、コーポレート・ガバナンスの研鑽に努めたいと思っています。
 追伸・来週木曜日、大阪で1時間弱ほどですが、内部統制の講演を行います。

投稿: M・E | 2006年8月18日 (金) 23時16分

>MEさん

こんにちは。
あらたに取締役就任、おめでとうございます。サービサー会社の取締役というのは、大阪でもけっこう仕事量が多いと聞いております。また、いろんな仕事の中身を知るいい機会だとも聞きます。ぜひそういった経験をまたお聞かせください。
うーーん、木曜日は私諸事情で大阪にはおりません。(また、ブログでご報告させていただきます)せっかく大阪で講演をされるということなので、ぜひお聴きしたかったんですが。

投稿: toshi | 2006年8月20日 (日) 11時39分

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