フタタの臨時取締役会における特別利害関係人
1 AOKI・フタタ統合問題解決への雑感
AOKIインターナショナルによるフタタへの統合提案問題も、8月18日の株式会社コナカとの株式交換による経営統合決定(8月19日株式交換契約締結)によって、ほぼ収束に向かいつつあるようですね。株式交換比率からみて、26パーセントほどコナカの株式が希釈化されるわけでして、最低でもコナカ、フタタの統合によって26パーセントほどの収益向上をもたらすシナジー効果を両社が説明できなければいけない、と言われておりますが、こういったシナジー効果に関する説明は今後一般株主に対して行われるのでしょうかね。また、郊外型店舗展開サービス業(私が社外監査役を務める会社もこれでありますが)につきましては、不採算店の統廃合時の「解約損」問題が大きくのしかかるわけでして、これを回避するには「カラオケ店」「ネットカフェ」「中古書店」などの比較的改装に費用のかからない店舗へ業態転換するか、同業他社への転貸に回す以外には方法がありません。したがいまして、AOKIの提案は現実問題として非常に収益確保(損失防止)策として筋が通っておりますので、これを覆してコナカとのシナジー効果に優位性があるとするには相当具体的な本業収益確保に関する説明を要すると思うのですが、そういった説明も公表ベースでは見当たらないようです。コナカとフタタの主力取引銀行である三井住友銀行作成による意見書に重きを置く、というのも、なんとなく公正性に欠けるように思いますし、どうも今回の紳士服業界における統合問題には、透明性に欠けるように思います。M&Aのお仕事に関わっていらっしゃる専門家の方は、今回の問題解決までの経緯について、どのように考えていらっしゃるのでしょうか。どうもこれで沈静化したままになりますと、「敵対的買収防衛策の最大の手段はやっぱり株式持合い」というところに落ち着いてしまうような気がしますが、それで本当によろしいのでしょうか。
2 フタタの臨時取締役会で議決権を行使した取締役は誰?
今年の5月28日に株式会社フタタより大証および福岡証券取引所に提出されました「コーポレートガバナンス報告書」によりますと、現在フタタの取締役は8名いらっしゃいます。読売ニュースに記事によりますと、今回の統合先を決定する8月18日の臨時取締役会には8名のうち5名が議決権を行使する予定であり、3名は議決権を行使しないとされております。つまり会社法369条2項にしたがい、取締役会ではその決議について特別利害関係のある取締役は、議決に加わることができない、といった法文に基づいて、あらかじめ3名は特別利害関係人に該当する(もしくは、該当するおそれがある)として議決権行使の対象からは除いた、ということだと思われます。上の読売ニュースでは、コナカの代表者である社外取締役、コナカより派遣されてきた専務(社内取締役)がその3名に含まれていることが記載されておりますが、あとの1名は誰なのか明らかにされておりません。そこで、これは私の推測でありますが、あと1名はコナカの社外取締役に就任しておられるフタタの常務取締役の方ではないか、と思います。
会社法369条2項によって取締役会で議決権を行使できない「特別利害関係のある取締役」とは、いったいどんな内容が「特別利害関係」事由に該当するのか、いろいろと説が分かれているところであります。(そもそも単に議決権を行使できないだけなのか、その審議にすら出席権がないということなのか、についても争いがありますが)基本的にはその決議内容について、当該取締役が個人的な利益がからむために、会社に対する忠実義務を尽くすことが期待できないような事由かどうか、で判断されるべきだと思われます。統合提案を受けている片方の会社の取締役に就任されている方が、果たして「どっちの会社の統合提案を受け入れるか」といった決議に参加するというのは、厳密には「個人の利益」に関係するものではありません。しかしながら「コナカの社外取締役」という立場は、コナカの株主の利益のために行動しなければならない義務を負っているわけですから、そのコナカの提案している統合案よりもAOKIのほうが優れているといった結論を採択できる期待というのは乏しいはずでありまして、やはり「フタタの株主との関係で、忠実義務を誠実に行使することは期待できない」と結論付けるほうが穏当のように思われます。こういった経緯から、フタタの常務取締役の方は、(自ら非常に重要な立場であるにもかかわらず)議決権を行使しない、といったことになったのではないかと推測しております。
ただ、こういった考え方には、「特別利害関係のある取締役」を広く捉えすぎている、といった異論もあるところだと思いますし、もし議決権を排除した取締役のおひとりが、フタタの統合問題で「準主役」を演じておられる常務取締役の方ということでしたら、今後の企業買収実務に及ぼす影響といった点からも、(これを一般化できるものであるかどうか)フォローしておくべき問題点ではないか、と考えている次第であります。
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