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2006年8月 2日 (水)

続・王子と北越は本当に敵対的なのか?

このブログへお越しの常連の皆様方でしたら、すでにご承知のとおり、8月1日午後7時に王子製紙が8月2日より34日間、北越製紙の株式をTOBにて1株800円にて買い付ける旨発表がありました。(各社報道がされていますが、読売ニュースはこちら    王子製紙による公開買付のお知らせはこちら )いわゆるストラテジック・バイヤー(事業戦略上の買収者)による本格的な敵対的TOBの幕開けとなるような雰囲気が漂っているようで、今後の成り行きがたいへん注目されるところであります。個人的な興味で申し上げますと、北越製紙の事前警告型買収防衛策が果たして使われるのかどうか、そのカギを握る独立第三者委員会3名のうち、2名は北越製紙の社外監査役の方々ということですから、明らかにグリーンメーラーとはいえない王子製紙によるTOBに対して、どういった対応をおとりになるのか、非常に関心のあるところです。しかしながら、こういった本格的なM&A事件が勃発したときには、いつも「あの方」のブログを参考に勉強させていただくのが楽しみでしたが、今回はあの方の所属されている法律事務所も、4当事者(王子、北越、三菱商事、野村)のいずれかのアドバイザーであることは間違いなく、ご登場願えないのが寂しい限りですね。。。(憂鬱・・・・)

統合提案を二度も反故にされた王子製紙ですから、もはや堪忍袋の緒が切れたとばかり、当初の予定を繰り上げてTOB開始に至ったわけですし、代表者も「もはや敵対的と言わざるを得ない」とお認めになっておられるのですから、これはもう「王子と北越は敵対的」としか言いようがないようにも思えます。ただ、この期に及んで私はまだ「本当に敵対的なんだろうか」と逡巡しております。前のエントリーからの話の続きで申し上げると、和解的解決の公算が強いのではないか、と。

当事者でないために、こんな呑気なことを申し上げているのかもしれませんが、北越の業績発表の直後におけるTOB(今後TOBに応募せずに保持することによる株価上昇の見込みが当面なさそうであること、つまりは比較的容易に北越の企業価値を判断できるタイミングでTOBをかけたこと)であることや、三菱への第三者割当を撤回した場合には800円→860円にTOB価格を引き上げるとの条件を付したことなどをみますと、王子製紙としましては、北越製紙の取締役がステークホルダーや株主に対して善管注意義務違反にならずに王子のTOBを成立させる「道筋」を残している、つまりまだ和解的解決に至る可能性をきちんと残しているように思えるのです。(北越側の方には怒られるかもしれませんが)この王子の態度というのは、ぎりぎりまで友好的統合をめざそうとしているところであり、製紙業界の国内的事情(需給関係の安定化の急務)と海外事情(中国市場への日本企業の進出)も併せて考えますと、敵対的買収が「品格のない行為」と受け止められるマイナスイメージはかなり薄まっているように思われます。

一方の北越製紙ですが、なにをもって「価値ある選択」とみるか、であります。はたして敵対的買収を排除して、防衛に成功したとして、それが本当に株主価値の実現に寄与することといえるのだろうか、ということを検討する必要がありそうです。(これは野村證券が買収防衛策導入を検討している企業向きに出版した本からの引用ですが)トムソンフィナンシャルのデータによりますと、2001年から2003年までの敵対的買収事件の結果、全体の46%は買収者へ売却され、20%は第三者へ売却され、34%は独立を維持されたそうです。しかし、この独立を維持した34%のなかには、防衛策の実行としてのリストラやスピンアウト、事業売却(事業分離)なども含まれておりますので、元のままの姿で残っている企業というのは「ごく少数にすぎない」のが現実だそうです。また、たとえ元のままの姿で残ったとしましても、おそらく買収対象企業にふさわしい株主によって株が取得され、株価の安定化にも不安を抱えることになります。残された時間のなかで、従業員や株主にできるかぎり有利な条件を引き出して、TOBに賛同するという「英断」も、こういった買収防衛後のリスクを考えても十分検討に値するのではないでしょうか。もちろん、三菱の出方次第といったところもありますが、競業他社によるTOBですから、めいっぱいのプレミアムがついているでしょうし、垂直的統合をはかるためのカウンターというのも、今回はないと予想します。

北越製紙の外国人持株比率は、ここ3期ほどほとんど変動はありませんが、その比率の高さは上場製紙会社ではナンバー1であります。このまま私の予想がはずれて、本当に敵対的TOBがもつれてしまいますと、安定株主が見当たらず、外国人株主の多い北越製紙の場合には、協力要請をしてもけっこうな数の株主が応募することになるんじゃないでしょうか。以上は私の「素人的予想」でありまして、なんの根拠もないものでありますが、「ホンモノの敵対的買収成功事例」を心待ちになさっている業界の方々が多いなかで、あえて友好的M&Aの結末が全ての関係者にとって最大の利益をもたらすことを再考すべきではないか、との視点から、検討してみたような次第であります。(あっ、でももし司法判断が出てくるような方向に進んだ場合でも、臆面もなくまたなんかエントリーしちゃいますんで、そのへんは優柔不断ではありますが、ご勘弁ください・・・・・・(^^;)

8月 2, 2006 王子製紙・北越製紙へ敵対的T0B |

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コメント

toshi先生、おはようございます。
いよいよこの問題も佳境に入ってきましたね。
またブログも参考にさせていただきます。
ところで、800円→860円の問題ですが、
これは先生のご推理のような「撤退のための
道筋」ではなくて、むしろ当然の提案だと
認識しております。
三菱が607円といった安い値段で第三者割当を
引き受ければ当然に株価が低くなる要因となり
合意を撤回すれば株価は維持される可能性が
高くなりますから、860円もプレミアム価格と
しては妥当かと。純粋に三菱と王子の株価提案
の比較問題ではないかと考えます。

投稿: あすくる | 2006年8月 2日 (水) 09時26分

先生のブログは比較的冷静かつ分析的にTOBの行方を予想しておられますが、市場もTOB撤回を目論んだ値動きになっているようです(2日午前)。北越の臨時取締役会における決議内容によって、また値動きにも影響があるかもしれません。

投稿: unknown | 2006年8月 2日 (水) 11時30分

価格の議論は、あすくる先生の言われるとおりだと思います。王子側は、買収後の株式の将来価値を現在価値に引きなおした800円、860円で北越の株主に対して提案したわけです。したがって、北越の経営陣には、現在価値800円以上の将来価値が三菱商事との資本・業務提携で生まれるという説明義務があり、これを経営を委任している株主に対して行わなければ、善管注意義務・忠実義務を果たしたことにならないということになりましょう。北越の経営陣は、感情的発言が多いようですが、もしアドバイザーがついていたとすれば、北越側のアドバイザーも自らの責任を果たしていないように思われます。王子側は、当初から入念に計画された事業戦略と買収戦略、IR対応を行ってきているので、一層その対比が鮮明となっています。
ところで、今回の投稿した趣旨は、「敵対的」という用語の問題です。王子側は決して「敵対的」行動を北越の経営陣に取っているわけではなく、何とか友好的に話し合いを進めようとしてきています。その行動を「敵対的」と呼ぶのは適切ではないのではないでしょうか。
英語では買収行為を、friendly/unfriendly, hostile, solicited/unsolicited, と用語をそれぞれ使い分けています。このうち、「敵対的」はhostileに相当する用語でしょうが、これは経営陣を入れ替えてしまうときに用いているようです。unfriendlyは対象会社が買収防衛策を用いるときに使われているようです。そして、unsolicited が対象会社の経営陣に対して合併提案を行う際に使われているようです。つまり、王子側の行動は、英語的には、unsolicited merger proposal to directors of the target company, が相応しい表現となりましょう。これを日本語としてどのような用語に引き直すのか、現在、頭を悩ませている次第です。言語創造力の貧困さを感じているところです。

投稿: こうじまち | 2006年8月 2日 (水) 11時43分

市場の反応は公開買付けに対して、積極的評価をしているように見られます。株主が実際に応募するか、と完全に一致するとは限らないわけですが、北越の経営陣にはかなりのプレッシャーとなるものですね。独立路線をとりたいからといって防衛策を発動することは本来認められないのであり、株主価値を高められることを十分説明できなければ、保身と「みなされる」というべきでしょう。同じ話の繰り返しになりますが、非公開化まで進むというのであれば話は別です。現在、投資ファンドがMBOを提案していることは十分ありえるでしょうし、そのような対抗策が現れる可能性は否定しきれないですね、頑な北越の対応を見る限り。その場合、ファンドは経済合理性で見ますので、その話が実現しうるのは、独自路線で価値向上策があることが前提ですが、業績等から外野が推察するとかなり厳しい状況ではないでしょうか。今回は対抗策がすべて保身の防衛に見られる余地が大であるという状況ですから、なかなか北越側は苦しいですね。なお、本論の敵対的か否かについては、北越株主の側から見れば、敵対的なものとはいいがたいように思われます。最後に一言。そろそろ従業員を使った反対表明という対抗策の限界を考える時期ではないでしょうか。

投稿: 辰のお年ご | 2006年8月 2日 (水) 12時52分

北越製紙から「公開買付けの反対に関するお知らせ」が公表されましたので、明日はtoshiさんから鋭く整理されたコメントが出てくることでしょうし、またそれを期待しています。
それにしても、色々と事実関係が明らかになって、北越製紙は「有事」に「株主の意思」を問うことなく買収防衛策を導入したようですし、またフィクションにすぎない「独立委員会」の委員の選任結果についても株主の意思の確認を行っていないことが周知されてきました。また、独立委員会の決議によって買収防衛策の決議を行うこととしていますが、そのプロセスの中で、株主が経営に対し物申す機会も限られているわけです。
客観的情勢や資本市場の反応およびアナリストの評価では、北越製紙の経営陣にとっては、やや分が悪い感じでもあります。
ところで、北越製紙の公表資料の中にコメントしている「株主共同の利益を損なう危険性が高い」ということは、果たしてどのような意味を持っているのでしょうか。「株主共同の利益」という言葉も実はよく分からない概念です。これが、株式対価の総額という具体性を持つならば、株主はTOBに応じることで将来得るべき利益の総額を今、得ることができることになります。100%の株式が王子製紙に移転すれば、「株主共同の利益」は王子製紙側の問題となります。
そして、北越製紙との統合により、王子製紙グループ全体で企業価値の増大を実現することができるなら、王子製紙の株主も大変ハッピーになります。北越製紙側の株主にとっては、その価値増大を現在価値で受け取るわけです。
つまり、北越製紙の言う「株主共同の利益」は突き詰めて言えば、株式対価の額が争点となるということではないでしょうか。買収防衛策も本来的には、株主へのリターンを大きくするためのものであった筈であります。簡単に言うならば、争うべきはTOB価格の妥当性です。
ここでも、「買収防衛策」の意味が歪められているような気がするわけです。もっとも、辰のお年ごさんの言われるように防衛策の発動は大変困難だとは思いますが。

投稿: こうじまち | 2006年8月 2日 (水) 19時57分

ごぶさたしています。
お察しのとおり、はっきりと確認してはいないんですが、多分差し支えありということでこの話題には触れておりませんが、toshiさんの分析とコメント欄を拝見しながら勉強させて頂いています^^
今後とも楽しみにしています。

投稿: 47th | 2006年8月 2日 (水) 23時53分

こんばんは。
山口さんがかねてからご指摘の通り、世間の期待(?)はますます膨らみ、両社の対立感も鮮明になってきました。

私も当事者の一員ではありますが、なるべく冷静に事の推移を見て行きたいと思っております。今回の事案が終われば、また次のM&Aが起こるのが製紙業界の宿命でありますから、自分の中で論点を整理しているところです。このブログも大いに参考にさせて頂いております。

さて、こうじまちさんの
>英語では買収行為を、friendly/unfriendly, hostile, solicited/unsolicited, と用語をそれぞれ使い分けています。
とのコメントには驚きました。私は敵対的、友好的というデジタルなカテゴライズは英語由来だと思っていましたが、本場ではもっとデリケートに扱っているんですね。

今朝のニュースで「王子製紙が敵対的TOBを発動」と聞いた同僚の息子さんは、「お父さんの会社は悪いことをしてるの?」と言ったそうです。買収提案側はジョークとして笑っていられますが、被提案側のステークホルダーと、そのご家族にとっては「敵対的TOB」という言葉がきつく突き刺さっていると思われ、非常に残念です。

今回の事案はunsolicitedであるならば、うーん、適切な造語は難しいですね。たとえば強要的とか?

投稿: 小僧 | 2006年8月 3日 (木) 01時14分

小僧様
>強要的とか?
これも結構マイナスイメージの強い言葉ではなかろうかと。
ただ、今回の件には適合的なような気がします(^^;)。
すいません、個人的な印象でもの言っちゃまずいっすね。

投稿: ろじゃあ | 2006年8月 3日 (木) 02時27分

"unsolicited"に対しては「不招請の」という定訳が一応あったりします。

投稿: とーりすがり | 2006年8月 3日 (木) 07時17分

思いつきで恐縮ですが、
・"unsolicited" 「不招請の」では分かりにくい(マスコミ映えしない)ので、買収に限っては「外部提案型」とか「外部主導型買収提案」ではどうでしょうか? 従来の「友好的・・」のほうは、「共同提案型」「交渉型」などで。あるいは、「非同意型」「同意型」などなど。

・「株主共同の利益」には、提示価格のほかに、買収の手法(強圧性の有無、情報提供の度合い)などの、企業価値(経営の良し悪し)には還元しきれない要素を含めるべきかと思います。

投稿: けんけん | 2006年8月 3日 (木) 10時20分

自らの言語創造能力の貧困さを恥じ入っておりましたので、もしかすれば有識者の方々から反応があるかもしれないと思い投稿しましたが、色々と考えていただきありがとうございました。
小僧さんのコメントを読みますと、やはり「敵対的」という用語の使い方は子供の教育上もよろしくないようで、社会的な配慮も言語創造の上では必要と感じました。
神田教授は、TOBは株主の最終的な判断を仰ぐものなので、一種の「株主総会型」というような考えをお持ちです。けんけんさんのコメントと神田教授の考え方なども参考にして考えたのですが、(これも思いつきの段階ですが)経営陣の同意を得ている「同意型」、「交渉型」に対して、経営陣が未だ同意していない段階でのTOBは直接、株主に対して信認を問うわけですので、「市場型TOB」という用語の使い方は如何でしょうか?

投稿: こうじまち | 2006年8月 3日 (木) 11時08分

管理人不在で申し訳ありません。内部統制に関する講演だったり、司法修習生と採用希望事務所とのお見合いセッティングなど、かなりたてこんでおりまして、まともなお返事をさせていただく時間的余裕がございません。
どうか、ホスト不在にかかわらず、掲示板のように使ってもらってかまいませんので。

投稿: toshi | 2006年8月 3日 (木) 11時39分

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