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2006年8月24日 (木)

内部統制の費用対効果(その2)

(8月24日深夜 追記あります)

いよいよ東京では「2006内部統制ソリューション展」が始まりましたね(8月23日、24日東京国際フォーラム 日経BP社)。私も実はそのゴールドスポンサーさんが主催されている「内部統制が会社を変える!」の基調講演を8月に2回させていただいております。そんな立場でありながら、非常に恐縮な話なのですが、私もcritical-accountingさんと同様、「日経情報ストラテジー9月号」の「日本版SOX法8つの誤解」という特集記事を読みまして、とりわけ「費用対効果」に関する問題点につきましては、非常に納得した次第であります。(といいますか、私の大阪での講演をお聞きになられた方はご承知のとおり、この「誤解」というところは、ほとんど私の講演内容と同趣旨の指摘ばかりだと思います。まぁ八田教授もこの特集で登場されているわけですから、八田先生のお話や基本書をもとに内部統制を考えてきた者にとりましては当然といえば当然かもしれませんが・・・)ただ、内部統制をITソリューションのビジネスチャンスと捉える企業の方々にとりましても、今後の「日本版SOX法(金融商品取引法およびその実施規則や実施基準)」と「平成18年度情報基盤強化税制」の動向をキッチリ押さえておきませんと、あとでややこしい問題に巻き込まれてしまうのではないか、といった懸念がありますので、たいへんタイムリーな話題(警鐘?)だと思いました。

日本版SOX法、つまり内部統制報告実務(監査証明実務を含む)を策定、導入する責任ある立場の方々にとって、日本の上場企業(規模にかかわらず)にこれを均一に適用させるためには「費用対効果」というものは避けて通れない問題だと思います。ちょうど1年前の2005年8月26日のエントリーにおきまして、この内部統制の費用対効果の問題をこのブログで採り上げました。そもそも日米の企業文化において「業務内容を文書化」することの意義に大きな差があることを訴訟におけるディスカバリー制度を具体例にして説明させていただき、日本の企業ではアメリカほどの文書化が根付くことはないのではないかと問題を提起させていただきましたが、そのアメリカにおきましても、(これも既にブログで紹介いたしましたが)最近、中小の上場企業向けの「統制環境」評価において「なるべく費用がかからないような工夫」が議論されるようになってきました。(このあたりの話題は7月頃の週刊経営財務が詳しいと思います)日本の上場企業のなかで、(アメリカと異なり)「よーいドン!」で一社残らず内部統制報告実務が始まるわけですから、社員30人の公開企業でも経営者が評価可能な統制システムであれば「OK」なわけです。いくら「攻めの内部統制」と謳ってみましても、統制システムに関する開示情報が企業価値を計るモノサシとしての役目でも果たさない限りは、おそらく費用対効果といった見地からは疑問が出てきてしまうわけです。

いろいろと考えてみますと、「法が強制する最低限度のシステム」をクリアすることが目的であれば、その最低ラインを各上場企業が知りたいわけですから、各社統一された基準を適用することにも一理あるかもしれません。しかしながら、「これは最低ラインをクリアすることだけが目的ではありません。こういった作業は業務の効率化を進めることに役立つのです」といわれて、普通にその説明を納得できるでしょうか。「攻めの内部統制(効率化によって他社に差をつける)」につきましては、特別に国家が統制システムの内容を基準として定める必要はないわけでして、古来優秀な中小企業の社長さん達が個人的なノウハウとして持っていた「わが社の秘伝」、つまり個々の企業に合った内部統制システムを模索すればいいわけであります。

投資者保護に必要なレベルの「財務報告の信頼性を確保するための内部統制報告実務」というものが「守りの内部統制」であるならば、システム整備によって他社に差をつける業務効率性を生み出す可能性、というものは「攻めの内部統制」と名づけられてしかるべきと思います。ただし「基準」というものが必要なのは実は守りのほうだけであって、攻めのほうにつきましては、むしろ基準があること(国家がシステムの仕組みを決めること)とは矛盾するのではないでしょうか。ただ、このあたりを巧妙に統一して説明することを可能にしてくれるのがCOSOフレームワークにも登場してくる「統制環境」というたいへん便利な概念ではないか・・・と思ったりしております。私は、今後の内部統制に関するいろいろな議論のなかで、キーワードとして十分使い方に注意すべきなのは、この「統制環境」という用語と「全社的な内部統制」そして「内部統制の限界」という用語であろう、と推測しております。

(8月24日追記)

内部統制関連の情報ですが、どうも内部統制部会による実施基準の公開草案の提出時期がまたまた遅れるようですね。といいますか、ずいぶんと簡略化される実施基準になる、という噂があるようです。このあたりは、会社法における内部統制と金融商品取引法における内部統制報告実務との融合ということを原因とするのか、それとも金融庁における国際会計基準への対応を急務とみてのことなのか、アメリカにおけるSOX法実務の混乱に起因するものなのかはよくわかりませんが。いずれにしましても、今後、この内部統制報告実務に関する最新情報にはくれぐれもご留意ください。

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