続・Eメールと堀江氏の刑事裁判
夕方、私が副幹事長をしている弁護士団体の先輩副幹事長よりメールが届きました。「二回試験(司法修習生の卒業試験)で107人も落第者が出た!当会関係事務所でも誰か採用予定者に該当者がいないか確認して」とのこと。いやいや呆然、唖然・・・・・。落第者が107名・・・・・・ですか?(朝日ニュースはこちら)信じられませんです。私のころ(42期)は、不合格者はゼロですし、それが当たり前のような時代でしたので、いくら合格者が3倍程度(1500名)になったとしましても、最高裁は司法修習生に対して厳格になったとしか言いようがありません。とりあえず追試組の方、少しばかりバッチをつけて法廷に立つ日が遅れますが、どうか追試はここ一番、死ぬ気で頑張ってください。
半数程度の方が「刑事弁護」科目で及第点に達しなかったとのことですが、これも意外ですね。「知識」ということよりも「センス(結論の妥当性とか、弁護人としての基本的な訴訟活動のあり方)」に若干問題があった、ということでしょうか。私もあまり「センス」においては偉そうなことは言えない弁護士ですが、先日「Eメールと堀江氏の裁判」をエントリーいたしましたが、ここのところ宮内氏の証人尋問が続いておりまして、やはり前回エントリーでの予想どおり、宮内氏は検察側から事前に聞いていなかったような(堀江→宮内)メールを弁護側から証拠として提出され、どうもうまく証言ができないようであります。おまけにライブドアの不透明な利益の一部を宮内氏が流用していた事実まで認めてしまっており、弁護側としては最高のパフォーマンスを出しているのではないでしょうか。情報通の方の話では、すでに裁判長も、宮内氏の証言に対してはかなり懐疑的に受け止めているようでして、このままだと検察側も苦しいのではないか、と考えても不思議ではないような気がします。
ところで、前回のエントリーでは、「共謀」とは個々具体的な話し合いの内容や、話し合った日時場所の特定、犯行の分担など、詳細な事実認定が必要と書きましたが、もうすこし深く検討したほうがいいようにも思えてきました。「Aをどついたろか」と共謀した甲と乙のうち、乙がAだと思って殴った相手が実は別人であるBだったという場合、はたして謀議に参加した甲には、暴行罪の共謀共同正犯が成立するのでしょうか?甲と乙が「誰でもええから、あそこにいてる奴らの誰かをどつこ」といった謀議だった場合には、乙が誰かを殴って帰ってきた場合に暴行罪の共同正犯が成立することはまちがいないと思いますが、先の例と差異はあるでしょうか。もし差異があるとすれば、たとえ宮内証言がふらふらしていたとしても、検察有利は動かないような気がしますね。
本件は偽計取引とか、粉飾決算が問題となっているケースですから、どういった手法を用いるかということよりも、どんな手段であれ健全な株式市場の価格形成機能を歪めること自体が犯罪性が認められます。偽計という文言からは、その具体的な手法までは特定できませんし、また粉飾決算というのも、その粉飾にいたる方法については具体的に明示されておりません。したがいまして、ある保護法益を侵害することに向けられた共同謀議が認定されれば、その手法についてはそれほど個々具体的な内容まで意思の連絡が認められなくても共謀があった、と裁判所が認定する可能性が十分あるように考えます。これまでの弁護側の戦略はすばらしいと思いますし、100%の力を出し切っていることは当然だと思いますが、宮内氏が主導的な立場であって、堀江氏はスキームを十分理解していなかった、という図式が浮き彫ったとしましても、悲しいかな元来証券取引法上の刑罰規定はいずれも、その構成要件事実があいまいなものであります。したがいまして、市場の価格形成機能を歪める行為によって、ライブドアの利益を図ることが目的とされているのであれば、ある程度あいまいな謀議内容だとしましても、全体としてみると堀江氏にも法益侵害に関する謀議があったと認定されることになるかもしれません。(つまり、先にあげた例でいいますと、誰かあいつらのひとりを殴ろう、と謀議をして、実際にどうやって殴るか、誰を殴るかといったことをそのうちの一人が考えて、これを実行に移したような場合、謀議の内容は曖昧なものかもしれませんが、おそらく共謀共同正犯が成立する、という考え方)
もうすこし、宮内証言の続きを検討してみたいと思います。
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