COSO「中小公開企業向け」ガイダンス
taka-pooさんや、fujiさんのコメントにもありましたように、先日私のブログが日経新聞で紹介されまして、(お蔭さまで)アクセス数も増えたところで、またまたたいへん恐縮ではございますが、ずいぶんとマニアックな話題に戻らせていただきます。いわゆる金融商品取引法における内部統制報告実務(金商法24条の4の4)に関するものでありまして、金商法の立案担当者編著による「一問一答・金融商品取引法」(商事法務)127頁以下においても、「できるだけ速やかにこれらを策定する必要がある」とされている「実施基準」の話題であります。なんだか「内部統制ブーム」が先走っているなかで、真打ちであります「実施基準」が未だ登場しない、というところで、気をもんでいらっしゃる企業担当者の方も多いかもしれません。とりあえず2008年4月以降に開始される事業年度より、この内部統制報告実務が適用されることとなりますので(金商法附則15条)、整備、再構築をできるところからスタートさせている企業が多い、というのが実情ではないでしょうか。
ということで、既に情報通の方はご承知かもしれませんが、2006年7月11日にトレッドウエイ委員会支援組織委員会(COSO)から公表されました「財務報告に係る内部統制ー中小規模公開企業のためのガイダンス」の意義と概要が、内部統制部会の委員でいらっしゃる町田教授のもとで概説されております(月刊監査研究9月号)。これ、休日にじっくり読ませていただいたのですが、おそらく(公開草案のリリースが予定されている)内部統制報告実務の実施基準にも大きな影響を与えるのではないか、とひそかに推測しております。その「推測」の根拠は以下のとおりであります。(なお、これは私ひとりの勝手な推測であります。それ以上のなにものでもございませんので、悪しからず)
1 内部統制部会の委員である町田教授自身が「今後の日本における内部統制報告実務にとって重要な示唆を含むものであるように思われる」と述べていらっしゃること
2 アメリカSOX法の適用にあたって、批判の多かったところを意識しながら、今後適用が開始される中小公開企業向けに、「経営者評価」を特に意識しながらまとめられたものであること
3 そういった意味で、「全公開企業への適用が予定されている」日本の内部統制報告実務に適用することに違和感がないこと(文書化やIT統制などの面において、ギチギチに行為準則が定められたものではなく、各企業ごとに適用可能な程度の柔軟性をもったものであるために、日本の企業文化に合ったSOX法に変容させながら内部統制報告実務を形成しやすいものと思われます)
4 昨年12月に出されました企業会計審議会内部統制部会の「あり方案」の考え方とも合致していること
5 アメリカの大規模公開企業のように、そもそも職種による分業化や専門家が進んでいない日本の企業組織にとっては、「経営者が横断的な監視機能を有していて、比較的財務報告に有能な人材をそろえていない」アメリカの中小公開企業向けのシステムのほうが、組織形態の面からいってもなじみやすいものであると思われること
また、町田教授の説明によりますと、このCOSOガイダンスは、中小公開企業だけではなく、大規模公開企業においても、効率経営を重視する目的で導入することは可能とされておりますので、日本における大規模公開企業への適用を排除するものでもないようです。もちろん、このまま日本の実施基準に落とし込まれる、ということはないでしょうが、そこにリリースされております20の原則と75の属性につきましては、今後の実施基準の解釈にあたってもおおいに参考とされるところではないでしょうか。この原則と属性を検討したうえでの感想としましては、やはり経営者不在での内部統制報告実務というものはありえないわけでして、どの原則、属性を検討しましても、そこには取締役会、監査役(COSOでは監査委員となっております)、外部監査人、内部監査人らの連携と協力というものが中心に据えられていることが理解できます。結局のところ、財務報告の信頼性を確保するために、どこから手を付ければもっとも有効な結果が得られるか、といった観点から選定されたものでありますから、統制環境の有効性確保にもっとも大きな力点が置かれている、というのが私の印象であります。
ところで、この町田教授の論稿は、あくまでも要旨の概説でありまして、詳細なCOSO中小公開企業向けガイダンスの全文につきましては、その翻訳権を日本内部監査協会が取得されたそうです。ガイダンス全文が出版される予定のようですが、(なお、英文のものにつきましてはCOSOのHPから、現在でも有料でダウンロード可能です)内容につきましては非常に興味のあるところでして、おそらく今後実施基準の公開草案が出された際には、その対応方法の具体化に向けて、各社それぞれの実情に合わせる工夫を考えるための参考書として大いに役立つのではないか、と期待しております。なんといいましても、上場企業の経営者は「確認書」の提出が義務付けられるわけですから(金商法24条の4の2ほか)、内部統制の評価の主役は経営者であります。その経営者が頭で考えても理解できないほど難解なものであってはいけないわけであります。
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コメント
先生、ご無沙汰しております。
貴重な情報をありがとうございます。
中小企業版COSOはずっと気になる存在でした。早速、監査研究を取り寄せて読んでみたいと思います。
投稿: ぐっばる | 2006年9月25日 (月) 09時53分
>ぐっぱるさん
こんにちは。いつもコメント、ありがとうございます。おそらく、新会社法による登記解説などでお忙しくされているのではないでしょうか。
私も7月ころから気になっていたのですが、なんせ英文に弱いものですから(笑)、訳文がリリースされるのを待ち望んでいるところです。
実施基準にどれほどの影響を与えるかはさておき、今後の内部統制実務にあり方に参考になることはたしかだと思います。
また、ぐっぱるさんのブログのほうでも、取り上げていただき、研究させてください。
投稿: toshi | 2006年9月26日 (火) 11時23分
MEです。9月中旬にある講演会で金融庁の池田課長のお話では実施基準は10月上旬に公表されるようですよ。また、東証は9月11日、上場制度整備懇談会の初会合を開き、6月22日に公表した上場制度総合整備プログラムの実行計画中の「具体案の策定に向け問題点の整備を行う事項」(フェーズⅡa)とともに「検討に着手する事項」(フェーズⅡb)に掲げられた事項について具体案の策定に向けた検討に着手してますね。このフェーズⅡの項目に内部統制が含まれてますので、内部統制実務の動向にも影響を与えそうです。
遅ればせながら、日本監査役協会が先月、会社法による監査役監査におけるスタッフ業務の見直しー内部統制システム監査を中心としてーを公表していたことに昨日、気がつき、ダウンロードしました。山口先生は当然フォローされているでしょうか。内部統制の動向にますます目を離せなくなっていますね。
投稿: M・E | 2006年9月27日 (水) 22時48分
>MEさん
いつもコメントありがとうございます。
監査役協会のリリースは存じ上げませんでした。早速、明日にでもチェックしておきます。開示課長さんがおっしゃっておられるんですから、本当に10月にはパブコメ案がリリースされそうですね。最近も内部統制モノの講演依頼がありますが、このパブコメ案が出るか出ないかによって、聴講される方の関心が大きく違ってきちゃいますよね。。。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2006年9月28日 (木) 02時30分