証券業界の自主規制新ルール(上場審査基準)
日本証券業協会が新規公開株式の引受審査基準として、24項目をまとめ、2007年には自主規制に関する新ルールを導入する方針だそうです。(日経ニュースはこちら)証券取引所も上場基準を厳格化する、という方針が2週間ほど前に報道されておりましたので、そちらと歩調をあわせるカタチで証券業協会も投資家保護のために上場審査基準の厳格化をはかる、ということでしょうか。金融商品取引法が成立した後の、法律、内閣府令、取引所規則、日証協基準、そして証券会社内規といったものが、幾重にも証券発行企業に重くのしかかってくるでしょうから、とりわけ今後上場を検討している企業にとりましては、これらの上場ルールへの遵守体制を構築するのはひとつの大きな事業といえそうですね。
きょう、大阪のあるコンプライアンス・コンサルタント企業の幹部の方々と夕食を共にさせていただきましたが、この日証協が義務付ける上場審査基準のことも、席上にて話題になっておりました。たとえば「反社会的勢力との関係の有無と排除への取組み」という審査基準ですが、これまでの審査項目でいいますと「スクリーニング」、つまり上場準備企業の役員クラスに、反社会的勢力とのつながりのある人物が存在しないか、関連企業にフロント企業は存在しないか、といったことだけが問題視されていたわけです。しかし今後は「排除への取り組み」までが上場審査の対象になる、ということでして、「反社会的勢力(一般に暴力団、えせ右翼、えせ同和、総会屋などが代表的ですが、そもそも、この反社会的勢力というのが、どこまでの団体を含むのか、ということ自体も問題となります)と密接な関係を持つことの未然の防止対策と、関係が生じた際の断絶体制の構築」が、すくなくとも過去3年から5年にわたって、企業内できちんと整備されているか、ということの審査も新たに要求されるようです。(公開適格性審査)
しかしこの「反社会的勢力との関係の有無と排除への仕組み」という基準はなかなかイメージがつかみにくくてムズカシイ基準ですね。そのコンプライアンス・コンサル企業の方のお話を聞いていて、この基準をクリアするためには、最低限度はまずスクリーニングに関する特殊情報の調査が必要となりますし、また「仕組み」についてはこれも長年の経験に基づくコンプライアンス対応策の設計が必要になってくるようです。「これで万全」といったものは体制として構築できるものではなさそうですので、上場準備企業は、とりあえず最小限度、これだけは反社会的勢力との関係を発生させることを防止するだけの手段となりうる、といえるだけの体制作りにできるだけ早期に対処しなければなりません。そのコンサル企業のノウハウをあまりここで詳細に紹介することはできませんが、お聞きして「なるほど」と思えるところはたくさんございました。なお、そういったノウハウはIT全盛の時代、グーグルで検索して蓄積できるようなものではございません。実際には広範な人的ネットワークの駆使と、現実の修羅場をくぐった経験、専門家集団との協力体制は不可欠ですし、なによりも複数名の社員をクライアント企業に派遣して実際に業務に従事させたり、役員との交流を通じて何ヶ月もその企業の内実を観察するところから始まる、というあたりも徹底されています。こういったプロのコンサルタント業務もたいへんだなぁと思いましたが、今後こういったコンプライアンス体制構築への取組みを始める必要のある上場準備企業も「たいへんかも・・・」と思った次第であります。いずれにしましても、こういった反社会的勢力との関係というものは、ほとんどがまず自社内部における「公開されたくない不祥事」「司法機関以外での解決を必要とする紛争」といったグレーゾーンを企業が抱え込むことに発端があるでしょうから、そういった芽を根絶する体制こそ真剣に検討すべきところでありましょう。
※本日は、このエントリーの話題以外にも、日経朝刊に出ておりました「同和鉱業の長期保有株主優遇策と株主平等原則」問題(やっぱり、私と同じことを考えている方もいらっしゃったんですね。私はいまでも、その経済的利益に関する平等とは別に、支配権に影響を与える優遇策に該当するものと考えておりますし、株式の受給関係を直接企業がコントロールするような方策は、そもそも適正な株価形成機能を毀損するので、自社株買いのように法の予定するもの以外には認められないのではないか、と考えておりますが、どうなんでしょうか・・・)や、富士火災の行動規範の無効確認訴訟問題(これは企業コンプライアンスと行動規範との関係を検討するにあたって非常に興味深いですね)などなど、エントリーを残しておきたい話題が豊富でありましたが、またまた時間が足りなくなってしまいました。。。残念ですが後日、とさせていただきます。
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コメント
こんにちは。
「仕組み」が公開適格を有するかどうか、といった審査基準もさることながら、それが「適格」かどうか、いったい誰が何をみて判断するんでしょうかね?
営業部門とちがって、管理部門の適正といったものはランク付けがとても難しい気がします。いままでのように「○○は存在しない」という消極的な判断要件だけならいいのですが、積極的な要素が判断材料として必要ならば、大いに疑問の出ることころです。
それとも詳細なガイドラインが出るのでしょうか。
投稿: halcome2005 | 2006年9月21日 (木) 11時04分
toshiさん、こんばんは。
日経夕刊、見ました。もう「マニアック」なブログとはいいづらい状況になってしまったんじゃないかなぁ。
なるほど、読む人のことを考えながらブログ更新されているんですね。toshi先生らしいです。
内部統制関連のニュースは今後も増えるでしょうから、また先生の鋭い分析に期待をしております。
投稿: taka-poo | 2006年9月21日 (木) 16時51分
引受審査の24項目が、日証協のホームページにアップされておりました。新聞には一部しか掲載されておりませんでしたので、URLを貼り付けます
「会員における引受審査のあり方等に関するワーキング・グループ」における検討状況(18年9月20日)
http://www.jsda.or.jp/html/houkokusyo/pdf/hikiuke.pdf
投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2006年9月21日 (木) 17時54分
ujiです。私も21日の日経夕刊に葉玉先生と中山先生と一緒に顔写真入りで「ひとスクランブル」で紹介されているの読みました。今後も勉強させて頂きます。
投稿: fuji | 2006年9月22日 (金) 03時33分
>fujiさん
どうもです。
葉玉さん、中山さんといっしょに紹介いただくのにはちょっと役不足ですが、またたくさんの方にコメントいただき、勉強させていただくいい機会にもなりますので、思い切って取材に応じることとしました。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いします。
投稿: toshi | 2006年9月24日 (日) 03時32分