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2006年9月 3日 (日)

同和鉱業の株主安定化策と平等原則

日本郵政も、新しい会社において敵対的買収防衛策の導入(ライツプランだそうですが)を検討している、とのトップの発言がありました。最近はあちこちの上場企業で事前警告型買収防衛プラン導入のお知らせが開示されておりますので、買収提案を受けるような事態にでもならない限りはあまり報道されることもなくなってきましたね。(ちなみに、私の名前も8月29日、ある企業の開示情報(防衛プラン導入のお知らせ)に出ております。いわゆる独立第三者委員会委員でありますが・・・・・( ̄▽ ̄;) 大阪じゃないので、なんかありましたら、けっこうタイヘンですけど・・・)

ところで、8月30日の開示情報によりますと、製錬、環境事業で著名な同和鉱業(株)が、3年間継続して株式を保有した株主に行使を認める条件付きの新株予約権(保有株式1株につき0.05株)を11月に無償割当されるそうです。(同和鉱業・長期株主に新株予約権 読売ニュース こちらは日経ニュース)「株主還元策」ということですが、実質的には「株主安定策による敵対的買収防衛策」といった意味合いが強いのかもしれません。いろいろなブログを拝見しましても、また株価動向を見ましても、株主還元策としては画期的であり注目に値する、とのこと。持株会社制への移行の時期とも合わせた公表タイミングもあって、比較的評判がいいみたいです。

あまり法律上の論点などに触れていらっしゃるブログもなさそうですので、私の理解不足なのかもしれませんが、そもそも「3年間保有した株主だけに行使を認める」という行使条件付きの新株予約権の無償割当というのは、株主平等原則に反することにはならないのでしょうか。会社法では109条で平等原則が規定されておりますが、最近は敵対的買収防衛策(とりわけライツプラン)との関係や、株主優待制度との関係などで、すこしだけ問題になったりするわけですが、企業の資金調達の多様性を重視する立場から、あまり平等原則を厳格に考えることはせずに、合理的な範囲での取り扱い上の差別化は許容範囲にある、とみる見解が通説的だと思われます。ただ、なにが不合理な取扱に該当するか、といいますと、たとえば支配株主が多数決原理を濫用して、少数株主に不利益を与えるような取扱などは、許容されない平等原則(つまり平等原則違反としての不公正発行)に該当する可能性があるようですね。このあたりは昨日発売されました江頭憲治郎教授の「株式会社法」124頁から126頁あたりでも、「株主平等の原則とその限界」「株主の義務-誠実義務」あたりで少し論じられているところであります。そもそも会社法は法定保有期間要件(差止請求権を行使できる株主の保有期間要件など)を個別に規定して、その平等原則の例外を定めているのでありますから、法定されていない場合の持株数に比例しない株主の権利の差別化は認められない、といった理屈も成り立つのかもしれません。

もう少し実質的に考えてみますと、保有期間3年で新株予約権を行使できる、という条件で毎年一回、同じ比率で割当を続行するとして、全株式の半分に該当する株式は流動性があり、半分は支配株主がそのまま保有した場合には、10年後には支配株主は約58%の株式を支配できることになり、20年後には約68%を保有できることになります。たしかに、どの株主でも3年間保有すれば新株予約権を行使することができるわけですから、経済的な利益という面では平等に取り扱われている気もしますが、会社を支配しうる株主とそうでない少数株主とでは支配利益という意味でいえば長期保有へのインセンティブには大きな違いがあるわけでして(そもそも1億円ほどの株式を保有している場合でも、3年度に同じ株価であっても500万円分ですから、これが短期売買を目的とした人たちに長期保有を勧めるだけの動機付けになるのでしょうか。やはり会社支配の意欲が上乗せされていなければそうそう長期保有を決定付ける理由にはならないようにも思えますが)、そうであるならば(これが一回かぎりのお祭り行事ということでしたら別でありますが)この無償割当は少なくとも支配株主による資本多数決濫用のおそれのある制度ではないかな・・・・・とも思ったりします。株主優待制度というものは、あくまでも株主への経済的利益の平等配分の是非が問題となっている点で、また同じく株主還元策といわれている「自社株買い」というのは、あくまでも法令で認められている制度を利用したものである点で、こういった長期保有株主だけに株式を付与する制度とは異なるもののように思いますが、いかがでしょうかね。

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コメント

おはようございます。
この問題について私も今春検討しましたが、法令
違反の懸念があったので、断念しました。
日経の記事を見ますと、経済的・防衛策がらみで
の新規性や珍しさという視点だけで捉えられてい
ますが、法的には疑問です。
確かに、全ての基準日株主に同じ内容の新株予約
権を付与するのですから、数、内容に差別的取扱
をしておらず、新株予約権は株式と異なり行使条
件に厳格な平等原則は適用されないため、平等原
則に反していないと結論付けるのが素直かもしれ
ませんが、個人的には先生の見解同様、支配株主
を優遇する制度でしかないように思います。日割
配当がなくなったり、保有期間条件が法的されて
いる以上、保有期間で別異に取り扱うのは平等原
則の主旨から離れているのではないでしょうか。
企業側からすれば新たな防衛策、株主対策として
株価に対して好影響を出せるならやりたいところ
ですが、この制度は明らかに短期売買をすること
で長期保有に比べ株主価値にとって不利益となり
かねない制度と思います。
本当に適法なら再検討の必要もありますので、も
う少し突っ込んで頂けるとありがたいです。

投稿: 法務次長・課長 | 2006年9月 3日 (日) 08時03分

指摘すべき点のご指摘であり、私も同和鉱業(株)の新株予約権の発行は株主平等の原則からも許容範囲であるか検討が必要と感じます。

例えば、私が思ったのは、要項の5に「新株予約権の行使に際して出資される財産の価額が交付される普通株式1 株につき、1 円とする。」と記載されています。今から3年間、すなわち平成21 年9 月30 日まで株を保有し続けた株主が明らかに有利になると思うのです。

これは、今月末の平成18 年9 月30 日からの保有であることから一見すると平等であると感じられます。しかし、公開会社が株主の株式譲渡に制限ではないが、過度な不利を与えていると思える点があります。又この新株予約券の譲渡は、要項の14で取締役会の承認条件としており、閉鎖会社の新株予約権と同じと感じます。

株主の権利も正当に確立され、株式が自由に売買できることが株式市場の発展と社会インフラの拡充につながることを考えると、私などは同和鉱業(株)の新株予約権の発行は、危ない点を感じてしまうのです。

投稿: 売れない経営コンサルタント | 2006年9月 3日 (日) 11時41分

こんにちは。社外監査役研究の合宿、ご苦労さまです。「独立委員会」の委員ですか・・・、先生勇気あるなぁ。。。(^^;)
この株主還元策、たしかにすこし問題もありそうな気はしますが従前から平等原則との関係では議決権制限株式を用いた防衛策や、差別的行使条件のついたライツプランなどでも「差別化が株式の内容になるのかどうか」といった観点から問題になっていたところですから、そのあたりの議論とはどこが違うのでしょうかね。いずれにしても、こられの問題点についてはまだ結論が出てないい状態にあるものと認識していますが。

投稿: あすくる | 2006年9月 3日 (日) 12時27分

>法務次長・課長さん
はじめまして。コメントありがとうございます。
そうですか、やはり検討されているスキームなんですね。日経にも少し書いてありましたが、3年間常に同じような株価か、もしくは上昇していなければ一般の株主にとっては長期保有すべき動機にはならないように思いますね。(3年というのは長いような・・・)そうしますと、やはり経済的な利益とは別に長期保有の目的を持った株主にはかなり有利な制度になりそうな気がします。
またご意見等ございましたらコメントください。

>経営コンサルタントさん
こんばんは。いつもコメントありがとうございます。新株予約権の譲渡制限の問題は別として、私もすこしばかり違和感を覚える制度です。なんか「こういう理屈だからグレーな部分はないよ」といった解説をいただければスカっとするところもあるのですが(笑)基本的に、こういった問題はどなたかが訴訟で法的にシロクロをつける、といったところまでは大きな論点にはならないのかもしれません。ただ、何も法的に騒がれたりしなければ、ほかの企業も追随して同様の防衛策を導入するということにつながるんじゃないか、といった懸念はありますよね。果たしてそれでいいのかどうか、私ももう少し検討したいところです。

>あすくるさん
属人的な要素に関する差別的な取扱かどうか、といった点ではご指摘の問題と同様ではないかと思っております。防衛策だけでなく、株主優待制度などについても、まだ基本的には決着はついていないのではないでしょうか。昨年、優待制度に関するエントリーをアップしたときにある企業の優待制度を採り上げましたが、実質的には利益配当に近いものもあると思います。
やっぱり「独立委員会委員」はマズイですかねぇ?たしかに問題が発生した場合には、たいへん高度な判断が必要ですもんね。。。また鋭いコメント、お待ちしております。

投稿: toshi | 2006年9月 4日 (月) 00時15分

同和鉱業(株)の新株引受権の行使期間は平成21 年12 月1 日から平成22 年1 月29 日までである。
TOBを平成21 年12 月前にするとするなら、この新株引受権の無効を先ずは訴える。これが一つの訴訟のケースかなと思ったのです。
2段階のTOBとなるから、敵対的買収の場合は、嫌がらせにはなる。一方、同和鉱業(株)にとっては、敗訴して元々と考えて進めるならリスクとまではならないのかな。
ふと、そんなことを思いました。

投稿: 売れない経営コンサルタント | 2006年9月 5日 (火) 01時50分

何度もコメントをして失礼をします。

同和鉱業(株)の新株引受権については、やはりその後も色々思ってしまうのです。

会社法の下での109条他の株主平等原則で、同和鉱業(株)の新株引受権が許されたとしても、証券取引法、金融証券取引法、東証等の証券取引所のルールの上でどうかが、検討の余地があると思ったのです。

同和鉱業(株)の新株引受権が株式の流通に一定の制限を付けることにはなると思います。取引所で売買される商品(金融商品を含め)は、同一商品は同一価値であり、所有権の譲渡等により権利・義務が移転することが上場の前提であると考えます。(株でも内容が異なれば、普通株、優先A、優先Bと商品名が、違ってくる。)

米SECやNYSEだったら、どうするのだろうか?私は、米国という社会はマーケット・ルールが最優先される社会であり、抜け道が存在すれば、それを直ちにルール改正で封じ込める社会と思っている。おそらく、SECやNYSEは直ちに反応するのではないかと思うのです。米国だったら、会社法は州法だから、それを統一なんて考えないだろうし、マーケットに影響を与えないなら、会社法の下では、自由の原則の方が優先されるのだろと思うのです。

東証も自らは動きにくいでしょうが、どうするのかなと、ふと思ったのです。

投稿: 売れない経営コンサルタント | 2006年9月 9日 (土) 11時52分

おはようございます。
この同和鉱業関連のエントリー、解析してみますと、けっこうたくさんの方に読まれていますが、世の中の動きはまったくないみたいですね。(笑)おそらく通常の株主優待制度と同様、ほとんど問題なし、と捉えられているものと思います。証券取引法上や東証ルールとの関係では、そのように捉えられているのではないでしょうか。
私はやはり平等原則との関係では支配権に影響を与えるものである以上、無視できない問題があると思っています。

投稿: toshi | 2006年9月10日 (日) 10時38分

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