敵対的買収への対応策「勉強会」
ある上場企業の「敵対的買収への対応に関する勉強会」に参加してきました。某信託銀行の株式市場部の方々が中心となって、某企業の役員セミナーのようなカタチでたいへん美しいパンフレットを参照しながら約1時間半ばかり講演をされる、といったものであります。結局のところは、これからも敵対的買収については増えることはあっても、減ることはない、したがって役員の皆様方としてはそろそろ買収防衛策を検討してみてはいかがでしょうか、という「売り込み」に近いものでした。そういえば、最近発売されました「企業会計10月号」に「敵対的買収防衛策の再検討」といった特集が組まれておりまして、そのなかに野村証券の方が「個人的意見として」たいへん興味深い論稿を発表されておられます。意見こそ若干異なるものの、勉強会のパンフレットの内容は、そこに記載されている調査内容とほぼ同様のものでした。(どこの金融機関も、ほぼ同じ内容の調査結果とその分析を出しておられるみたいですね。)約3900社ある上場企業のうち、4%程度の企業がこの7月までに敵対的買収防衛策を導入した、ということのようですが、果たして今後も買収防衛策の導入企業は増えるのでしょうか。また、たとえ増えるとしても、どういったカタチの防衛策を各企業が導入されるのでしょうか。
先の野村証券の担当者の方も(個人的意見として)述べておられるように、私自身も今後も買収防衛策を導入する企業の数は「上場企業数全体の半分くらい・・」ということまでは到底増えるものではないと思っております。さりとてこのたびの王子・北越のTOB問題での印象からみて、今後は敵対的買収を仕掛ける企業は、ドライに統合提案を仕掛けてくる可能性もありますので、検討のためにはそれなりの合理的な範囲での時間を必要とすることはたしかでありまして、すべての企業に敵対的買収策が不要となる、というわけでもないように思います。そこでこの「勉強会」を拝聴して思いましたのは、技術的な防衛策の中身をいろいろと役員にレクチャーするよりも、いったいどんな企業であれば今後も敵対的買収防衛策を導入すべきか、ということをレクチャーするほうが、役員のココロをググっと引き寄せられるのではないか、といったことであります。
役員をその気にさせる「買収防衛策」の売り込み方(その1)
まず防衛策導入にあたっては、やはり株主の反応がもっとも気になるところでありますが、先の「企業会計」の論稿によりますと、最近の機関投資家や議決権行使助言会社は、同じプランの買収防衛策であったとしても、その導入企業によって賛同したり反対したり、という風潮があるようです。(松下型プランを例にとって説明されておられます)つまり買収防衛策の導入に関する賛否の判断を行うにあたっては、その防衛プランのスキームだけで判断するのではなく、その企業が通常いかにして企業価値向上策を検討しているか、といった諸策を含めて総合的な判断をされている、というものであります。したがいまして、いくら現在主流の事前警告型防衛プランの中身を解説されたとしましても、「これで万全」ということにはならないわけでして、機関投資家の賛同を得るために、いかにして平時の企業価値向上策を積み上げていくべきか、といったこともアドバイスすべき問題となりえます。そこでまず買収防衛策の売り込みはけっしてアンチョクなものではない、といったイメージを上場企業の役員さん方に印象付ける必要があると思います。
役員をその気にさせる「買収防衛策」の売り込み方(その2)
金融機関特有の無形資産を「企業価値論」と結びつける必要があると思われます。普通、シナジー効果というものは100と100のパフォーマンスが、統合効果として200以上のパフォーマンスとなることを指すものと理解しております。しかしながら、事業再編型のM&Aというのは少し前提が異なる場合もあるのではないでしょうか。たとえば王子製紙が100として北越製紙が50のパフォーマンスを有していたとします。普通、企業価値の向上が見込める統合、という場合、王子の100というのは統合後も変わらない数値であって、統合によって170くらいになるものだと考えるのではないでしょうか。しかし、そもそも150→170のパフォーマンスを発揮するというのは、その紙業全体がまだまだ伸び盛りにある、ということが前提だと思われます。しかし業界全体の将来を検討した結果、輸入紙に押されたり、電子ペーパー化によって需要が減少するといったような「業界の先細り」が予想されるケースですと、「王子は100が80になってしまうのは間違いなく、北越も50が40になってしまうけれども、事業再編によって150のパフォーマンスを維持できる」という企業価値論も成り立つように思います。もし、こういった「やむをえない事業再編」型のM&Aに巻き込まれる可能性があるとすれば、そういった業界全体の将来像を把握できる金融機関の力を防衛策導入の前後にも生かすべきでしょうし、金融機関の情報力や判断力が大いに重宝がられることになりそうな気がします。(ということで、先日のAOKIとフタタの統合問題の際、フタタからの依頼でアドバイスを行った三井住友銀行は、紳士服業界の将来をどのように予想したのか、そのあたりがとても興味のあるところです)
自社の株主利益を毀損する強圧的な敵対的買収者から自社を守るということと、もし将来的に自社の株主にとって有利と思われる買収者が現れた場合には、株主の判断によって潔く経営権を譲り渡す、というための「防衛策」の導入が理想であるならば、そもそも平時から企業価値向上への施策を検討していることだけを宣言する「ダイキン工業型」の構えというのも、日本では正しい姿なのかもしれない、といったことを少し思いながら、次回への続きモノとさせていただきます。
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コメント
「企業会計10月号」の野村證券の方の論稿は、私も興味深く読みましたが、要は「経営の王道」に戻りなさい、という趣旨と捉えました。証券会社の方なので、市場というものを大事にする発想で至極真っ当な考え方と思います。
toshiさんの、いったいどんな企業であれば今後も敵対的買収防衛策を導入すべきか、という問いかけに対し、違う観点から考えてみたいと思います。
それは、今、密かに静かに進行しているように感じているのですが、ある国が国家戦略としてグローバルに買収戦略を展開し始めている事実からきている連想と推測・想像です。
わが国は、もう少し、国家安全保障や国民のライフラインの安全確保、それから軍事技術や軍事技術に転用される可能性のある技術を持っている企業、このような観点からの発想を持っての買収防衛策の検討も必要なのでしょう。特に、軍事に転用される可能性のある技術を持っている会社、これは当該会社にしか分からない技術なのかもしれませんが、国家的見地からは、海外企業からの買収を守るべき企業だと思います。
投稿: まほろば | 2006年9月12日 (火) 10時16分
はじめまして。コメント、ありがとうございました。
>toshiさんの、いったいどんな企業であれば今後も敵対的買収防衛策を導入すべきか、という問いかけに対し、違う観点から考えてみたいと思います。
そうですね。まったく違う観点からのご見解だと思います。そういえば、最近の経済同友会の代表幹事の方のコメントを思い出しました。また、明日の夜にでも、このまほろばさんのコメントを題材にしてエントリーをアップしたいと思います。
(書きたいことは山ほどあるのですが、ちょっと今夜は時間がなくなってしまいましたので)
投稿: toshi | 2006年9月13日 (水) 02時43分
>最近の皆様方のコメントがまた正論が多くて(笑)
多分、私の意見は少数派で、大多数は“市場原理主義”が正論と考えておいででしょう。世界は、何しろEuronextとNYSEが合併する時代であり、またLondon Stock Exchangeが敵対的買収の標的となったりするダイナミックな動きをしておりますので。
私が心配しているのは、市場原理主義の行き過ぎで、国家としての枠組みが壊れはしないか、あるいは、軍事国家に秘密技術が流出してしまいはしないか、密かに、忍びやかに動いている国がありますぞ・・・という平和主義国家日本への警告です。
投稿: まほろば | 2006年9月13日 (水) 11時28分