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2006年9月15日 (金)

不正会計の予防に向けて(その3)

ちょうど1年前の2005年9月16日に 不正監査防止のための抜本的解決策 というエントリーをたてまして、そのころから不正会計予防と公認会計士さんの役割といったことを真剣に考えるようになりました。カテゴリーの「不正監査防止のための・・・」をクリックしていただきますと、(赤面しそうな内容のものもありますが)これまでの関連エントリーがお読みいただけます。1年前に考えていたことが、よりいっそう現実的な問題になりつつあるようでして、概ねハズしてはいなかったんだなぁ、とホッと胸をなでおろしているところであります。公認会計士さん方の不正発見義務といいますか、積極的な不正調査権限というものにつきまして、またまた少し考えているところをまとめておきたいと思います。

金融相懇談会の東証に対する要望(自主規制部門を分離しての上場認容)ということが14日の新聞にも掲載されておりましたし、私が参加させていただいておりますIPO研究会でも話題になっておりましたが、今後の証券取引所や証券業協会における自主規制としての上場審査基準の厳格化が議論されるなかでの関心事は、どうやって持続的成長を実行できる企業を見抜くべきか、つまり上場準備段階において不正会計の兆候の発見方法と、その上場審査対象企業に本当の支配力のある会社(個人)はいったい誰なのか(特定できるのかどうか)、といったところだそうです。いずれの関心事につきましても、グループ経営が主流となっているなかで「選択と集中」をはかる企業グループ全体の現況を上場審査段階で把握したいでしょうし、また新興上場企業の寿命が早ければ3年から5年と言われているなかで、上場企業自体が健全に売買(企業再編)されるための会計の健全性が確保されているかどうか、といったところの問題が共通しているようです。取引所ルールと証券業協会の自主ルールとの関係がいったいどうなるか、といった問題も残るわけですが、ともかく審査基準の厳格化の実効性を確保するために「公認会計士さん(監査法人)に存分に活躍してもらいたい」といった方向での期待が高まりつつある(会計上のコンプライアンス実現への期待)ようですので、そこに「監査人への積極的な調査権限の付与」が検討課題として上がってくるように思われます。これは証券取引等監視委員会の権限が強化されるとしても、それと並行して自主ルールの一貫として浮上してくる問題のようですね。

投資事業組合とその会計基準の変更について

47826082 ライブドアの会計監査を担当された田中慎一さんと、著名ブロガーの保田隆明さん(ちょー・ちょー・いい感じ)による共著「投資事業組合とは何か」(ダイヤモンド社 9月1日発売)を興味深く拝読いたしました。私の友人(大阪弁護士会ではかなり有名な弁護士さん)が、「今度の堀江氏の刑事裁判はひょっとしたら無罪になるかも。投資事業組合の実体に焦点をあてて弁護したらおもしろい結果になるかもよ」などとおっしゃっておられたので、「ほんまかいな?」と思って、ちょっと勉強のために購入しました。会計専門家の方からすれば、当たり前のことかもしれませんが、私くらいのレベルの者にとりましては、投資事業組合の社会的有用性、経済的意義、運用実務などが非常にわかりやすくコンパクトに解説されたものとして、たいへん有意義な本であります。この本を読み、私自身の堀江氏の刑事事件に対する予想が変わる、ということはありませんでしたが、投資事業組合に対する会計基準の変更に関する記述は、とりわけ興味深いものでした。そもそも株式会社のような「組織法」ではなく契約法によって組織が出来上がっている投資事業組合の支配力(緊密者)の判定というものは、非常に曖昧な基準ではないかという気がして、これを監査人の方はどういった証拠に基づいて連結対象かどうかを判断するのだろうか、これはひょっとして監査人に相当な調査権限が存在しなければ「契約部分の真実性」まで合理的に認定することは困難ではないか、下手をすると、判断する監査人によって、結論がバラバラになってしまうのではないか、レビューする監査法人の上部審査の方々についてはどうか、と素直に思うところであります。ただ一方におきまして、積極的な調査権限を監査人に認めるということは、監査人自身に不正発見義務を認めることとなり、非常に広大な範囲において監査人の債務不履行(不法行為)が認定される余地が出てくるのではないか、まさに(この本のコラムにあるとおり)会計士受難の時代に突入するのではないか、といった危惧も残るところであります。著者はこういった調査権限を付与すべきである、といった立場のようでありますが、果たして公認会計士協会によるコンセンサスは得られる問題なのかどうか、そのあたりがとても関心のあるところであります。

そこで、私自身の見解としましては、やはり現行の監査人の報酬制度を前提とするかぎりにおきましては、監査人(公認会計士または監査法人)に積極的な不正発見義務というものを認めて、不正経理の証拠発見までを期待するのは、かなりしんどいのではないか、と思います。現実にお金をいただいている企業について、その監査のなかで「たまたま」不正を発見した場合には監査役に報告をする、というあたりまでは可能でしょうが、そもそも性悪説を前提とした不正発見作業を行うということは、うーーん、かなり現実感に乏しい気がします。ということでして、監査人に不正経理発見の権利と義務を付与することについてはいろいろとクリアすべき問題がありそうですんで、慎重を期すべきたと思います。そもそも「不正の発見」作業というものは、法律と会計の融合物だと理解しております。今後、法律家と会計専門家の共同作業が必要な場面だと思い、私自身も関心を寄せている分野であります。このあたりの議論はいろんな方々の意見をお聞きして、勉強したいところです。(ただこのたびの本における投資事業組合と会計基準の変更といったあたりを読んでおりますと、監査人にとってバイアスのかかった状態で、会計基準の解釈を行うことを防止する役割としましては「不正発見義務」といった概念も有効なのかもしれないなぁ・・・などとも考えたりしております。このあたりはまた「不正会計予防に向けて」(4)でまとめておきたいと思っております。)

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コメント

投資事業組合とその会計基準の変更について

企業会計基準委員会が9月8日(金)に公表した実務対応報告第20号の「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」は投資事業組合が連結対象とすべき子会社又は持分適用の関連会社に該当するかどうかをQ-Aにより記載していますが、会計士が、この実務対応報告で仕事をされる場合の大変さを私は感じてしまいます。

つまり、企業側から全ての資料の提出を受けなけば、会計士はチェックできない。一方、資料が提出された場合、組合契約を含め膨大な資料を読み込み内容を把握するために、相当の時間と労力を要する。会計士は投資残高の明細や期中の移動から企業に説明を求め、企業の説明に依存する部分が大きいであろうと思うのです。

一方、私は監査役の職務として企業が会計監査人に必要且つ適正な情報を提供しているかの監査は重要であると考えます。

ライブドア事件では取締役と会計士が起訴されたが監査役は起訴されていない。会計士に対してライブドアの投資法人からみの投資で、その資料がどこまで提供されたのだろうかと思うのです。企業か隠し通そうとしたならば、核心部分は隠せるだろうと思うのです。それを防止するのは、監査役に依存せざるを得ない部分があるだろうと思ったのです。

投稿: 売れない経営コンサルタント | 2006年9月15日 (金) 14時24分

こんにちは。コメントありがとうございます。
私も実務対応報告20号、商事法務のメルマガで知りまして、さっき読んだところです。連結原則は組織法による団体の支配力基準、影響力基準の判断には適していると思いますが、組合のような契約法による団体の場合にはそのまま適用できるのでしょうか。
たとえば労務出資を契約で定めている場合の出資比率とか、損益によって業務執行員と組合員との配分が変わる契約を結んでいるといったような、時間的な推移による支配力の変動をどのように支配力や影響力に持ち込むのでしょうかね?そのあたりは大いに判断の裁量の幅が広いように思いますし、コンサルタントさんのおっしゃるように、会社からの聴取内容に依存する部分も大きいように思います。
監査役の役割につきましては、耳がいたいところですが、そういったことも今度の会社法では監査役に期待しているところかもしれません。

投稿: toshi | 2006年9月15日 (金) 16時45分

ご紹介されている本、執筆者のお名前を見て目を丸くしましたが、ぜひ読んでみたいと思います。田中さんの著作「ライブドア監査人…」の中でも、休日のクライアントでこっそりキャビネットを開けて投資事業組合の実態の解明に努めるくだりがあって、私はそれを読みながら心臓が痛くなったのですが、わたしたちはマルサではないのでそこまでやっては「いけない」のだと思います(気持ちはわかるんですが)。会社の非協力な姿勢により十分な監査手続を実施できなかった場合は、会社に提供してもらえなかったものを無理に探すのではなく、意見表明を差し控えるというのが正しいやり方です、非常に難しいことですが。
監査人に不正経理発見の権利と義務を付与することについては、私は反対です。費用対効果という観点でみて、外部の人間が会社にすべての不正がないことを確認するという作業は時間とお金に比べ効果が少ないと思います。人間のやることに「不正」はどうしても付いて回ると思いますし、特に経営者サイドがかかわった不正は本当に発見が困難なものです。それよりは、罰則の強化、経営者サイドの教育に資源をを裂くべきだと思いますね。

日本の友人の話をきいていると、会計士受難の時代はすでに到来している気がします。。。

投稿: lat37n | 2006年9月15日 (金) 17時34分

おひさしぶりです。コメント、ありがとうございました。私も「ライブドア告白本」を読んでおりましたので、ご指摘の部分が連想されました。私も会計士さんの権利義務とか、職務の独立性といったものがどのあたりまでなのか、つい最近まで知りませんでした。おそらく一般企業の方々も、よく知らないのではないか、と思います。政府の事前規制がどんどん緩和されていくなかで、事後規制としての刑罰厳格化の道を選択するのか、それとも政府に変わる規制主体(監視委員会とか会計士さんとか)に期待をかけるのか、どっちの方向に向かっていくんでしょうか。
また、いろいろとご教示ください。

投稿: toshi | 2006年9月17日 (日) 01時24分

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