株主代表訴訟と監査役の責任
ダスキン控訴審判決(問題の整理編)に、監査役サポーターさんから、コメントをいただきまして、私も勉強のために少しばかり調べてみました。(コメント、ありがとうございます)
1 株主代表訴訟で監査役の責任が認定されたのは、おそらくこれが初めてのケースではないかと思いますが、どうなんでしょうか?(破産会社について、破産管財人が提起した訴訟では前例があったように思いますが。)
監査役も会社に対して善管注意義務を負う立場にあるわけですが、その責任が認められた判例というのは(すくなくとも上場企業という限定でいいますと)非常に少ないように思います。破産管財人が提起した訴訟とおっしゃっているのは、会社更生手続中の会社に関して、更生手続開始前3年間に違法配当を行ったにつき、取締役、監査役の責任が問われた事例(判例時報854号43頁)のことではないか、と思われます。(東京地裁決定昭和52年7月1日)いわゆる粉飾決算の内容について、適法適正なものと報告したことが監査役の任務懈怠と認定されたもの(35億円を取締役と連帯して支払う)です。
ただ有名な大和銀行事件につきましても、ニューヨーク支店に往査に出かけた監査役に対して、大阪地裁の判決は当時の会計監査人の財務省証券の保管残高確認方法が不適切であったことは、往査に出向いた監査役は当然に知りえたものであって、その検査方法の不備を看過した点においては当該監査役は任務懈怠の責を負うものと判示されております。(ただし、任務懈怠による損害の範囲が証拠上確定できないとして請求は棄却されておりますが)
2 この訴訟では、社内・常勤監査役は、何故被告とされなかったのでしょうか。この社外監査役は、弁護士で事件の調査にもあたったから被告とされたのでしょうか。(つまり、監査役として、というよりも、関係した弁護士がたまたま監査役で、代表訴訟の土俵に乗っかった、ということに過ぎないのでしょうか。)
判決文を原審、控訴審と読み直しましたが、いずれも「なぜ常勤監査役が被告に含まれていないのか」を裏付ける事実関係は掲載されておりませんでした。これは裁判所の判断とは関係ありませんので(もともと被告として選定されていない。代表者に不祥事の即時公表を強く勧めた当時の社外取締役さんもそうですが)、原告株主の意思を推測するしか方法はないわけでありますが、おそらく監査役サポーターさんと同趣旨の見解からではないでしょうか。代表訴訟を提起する時点における株主の方々の情報は限定されていると思いますが、積極的に不祥事を隠蔽することに加担した人は誰か、といったあたりから、当該社外監査役が被告としての地位に立つべしとされたのではないかと思われます。そもそも、社内で違法添加物混入肉まんが売られていた、といった噂が蔓延していたころに、社外取締役のおひとりの提言で調査委員会が発足し、当該社外監査役の方は、その調査の中心的役割を果たされたようです。その調査において判明した事実からすれば、当時、公表を遅らせることに関してのリスク判断は十分可能であったとみなされたのではないでしょうか。ただ、取締役会で正式に調査報告がなされたのが、匿名による不祥事通報がなされる半年も前ですから(事実認定は控訴審判決内容に基づく)、当該取締役会に出席していた他の監査役にも、経営判断を行う立場にはないにしても、なんらかの責任が生じるようにも思えますね。このあたりは、判決のなかで判断が示されているわけではございませんので、これ以上はなんとも申し上げようのないところではございますが。(もし、このブログをご覧の方で、詳細経緯をご存知でしたら、差しさわりのない範囲でご示唆いただけますと幸いです。)
先の大和銀行事件におきましては、なかなか厳しいものがございますが、一般的にはこれまでの監査役に対する判例の立場というのは比較的寛容だったのではないでしょうか。(ひょっとすると、代表訴訟において提訴請求の関係などから、監査役が被告に選定されにくかった、という問題もあるかもしれませんが。事実、ダスキン訴訟におきましても、原告株主は当初、提訴請求の相手方を間違っていたようです)それはやはり、現実の会社における監査役の立場だとか、現実の職務などからして、「経営判断に監査役自身が関与している」と同視しうるような場合以外にまで、監査懈怠というのを真正面から問うことはしなかったんじゃないか、と思います。ただコーポレート・ガバナンスの開示(監査役の資質の情報開示)や、内部統制システム構築論の進展(相当性判断)、会計監査人との連携強化の必要性など、最近の監査役を取り巻く監査環境の変化から考えますと、これまで同様、監査役の責任について裁判所は寛容であるかといいますと、そういうことはないような気がします。
また、社外監査役に弁護士とか公認会計士など、いわゆる法務財務の専門職の人間が就任しているケースでは、その責任が認められる確率というのは高まるのかどうか、これも重要な問題ですね。(予測可能性が一般の常勤監査役よりも高まるわけですから、注意義務違反というものも認定されやすくなるような気がします)さらに今回は、代表訴訟と監査役の責任ということで論じましたが、代表訴訟と社外取締役の責任という点でも、また別個の論点を提示することが可能かと思います。たとえば、ダスキン事件のケースでは、先の「公表を強く勧めた」社外取締役は被告に含まれておりませんが、社外取締役としては、どこまでのことをやっておけば善管注意義務違反に問われないのか、本件のように文書で代表者に反対意見を送っておけばいいのか、取締役会の議事録にきちんと反対意見を留めることが必要なのか、辞任しなければいけないのか、自ら進んでリスクを背負って公表しなければいけないのか・・・・などなど。
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コメント
先日は私どもの愚問に対しご丁寧にご回答下さり、ありがとうございました。大変遅くなり失礼ではありますが、一言お礼申し上げます。
投稿: 監査役サポーター | 2006年10月 6日 (金) 23時47分