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2006年9月11日 (月)

飲酒運転と企業コンプライアンス(補足)

昨日は休日にもかかわらず「飲酒運転と企業コンプライアンス」のエントリーにたくさんのアクセス、ありがとうございました。m(_ _)m 社会的な関心事でありますし、今後の各企業の対応はいったいどうなるのか、かなり興味深いところではありますね。ただ、あれからいろいろと考えてみたんですが、飲酒運転で刑事処分→→解雇処分といった具合に直ちに結論付けていいものかどうか、ちょっと悩ましい問題もありそうなので、補足として記しておきます。最近の世論の傾向としてはそういった結論に導くほうが非難を受けずにすむような気もいたしますが、もう少し「企業のコンプライアンス」といった見地から検討を加えたほうがよさそうな感じがいたします。

社会的制裁と刑事的制裁との関連性

たとえばある企業の社員が飲酒運転で人身事故を起こし、未だ刑事処分は確定していないものの本人は飲酒運転であったこと、過失行為が存在していたことは認めている、といったケースを考えてみましょう。(おそらくほとんどの飲酒による交通事故はこのケースにあてはまると思われます)このようなケース、企業としては刑事処分以前においても解雇処分を下すこともできると思われますが、この解雇処分は事故を起こした社員にとってみると立派な「社会的制裁」にあたります。ここから先は、一般の方はご存知ないかもしれませんが、「勤め先から解雇処分を受けた」という社会的制裁は、社員の刑事裁判におきましては社員に有利な情状事由に該当いたします。たとえば実刑となるのか、執行猶予がつくのか「極めて微妙」な場合ですと、この「すでに解雇処分を受けた」という事由は、裁判官が執行猶予を付ける方向に限りなく近づける材料となります。事故に至らない単なる飲酒運転だけ、というケースの場合ですと、もし解雇処分が先行した場合には検察官による正式起訴→略式起訴(罰金のみ)、もしくは起訴猶予といった方向にまで刑事処分が甘くなることも考えられます。つまり、刑事司法の世界では、おそらく「会社を辞めさせられた」という事実は、かなり被疑者、被告人への社会的な制裁の度合いは強いものと認識されておりますので、刑事処分の寛大化へ大きな影響力を有していることだけはご理解いただいたほうがよろしいかと思います。

やはり刑事処分が確定した後に会社の対応も検討しよう、という選択が無難かもしれませんが、これもすこし問題はあります。交通事犯ですから、通常は在宅事件でありまして、事故を起こした人が起訴されるのは(正式起訴の場合)、事故発生から1年後、というのも珍しくありません。飲酒事故を起こしておきながら、企業はなんらの対応もせずにそのまま雇用している、といった印象で周囲から企業の対応を評価されるリスクは残りますね。

いずれにしましても、飲酒運転と企業コンプライアンスの問題も、いろいろと考えてみますと各企業がいったいどんな社訓をもち、どんな行動倫理をもって経営活動を日々継続しているのか十分検討したうえで、諸問題をクリアしながら最終判断を下していかなければいけないと思われます。単なる社会的な風潮や、周囲の会社の反応を参考にするだけで自社の対応を決めるべき問題ではなさそうですし、私自身もいろいろと思い悩むところであります。ただし、企業は「飲酒運転に関する社会的風潮を真剣に検討することなく、自社利益を優先して単に社員をかばっているだけ」と決して思われないように、きちんと説明責任が果たせるような対応をとる必要があります。

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コメント

toshiさん、おひさしぶりです。
自動車保険については飲酒運転においても被害者保護の観点から支払われるみたいですね。しかし、保険契約者からみると、飲酒運転のような危険な行為をあえておこなう人の保険料をなぜ負担しないといけないのかよくわかりません。とくに任意保険に関しては納得がいかないですね。

投稿: halcome2005 | 2006年9月11日 (月) 10時51分

今回のテーマ、社労士の中でも極めてホットな話題ですね。私のほうでも、正に相談が多く寄せられているところです。

ただ、個人的な見解としては、そもそも解雇というのが、その人個人だけでなく、周囲の家族の生活基盤をも失わせる程の極めて重い処分であることを考えると、「飲酒運転をしたから、即懲戒解雇」というのは、「社会通念上相当」であったとしても、「合理性に欠く」とされる可能性が否定できないと思っています。少なくとも労働者側の代理人なら、必ずこの点で争いに持ち込むことになるのかなと思います。(もちろん飲酒運転を許容するわけではありませんが・・・・)

特に業務外で通勤・帰宅中でもない「プライベートな時間」に行った飲酒運転の場合、そもそもこのことを会社として処分の対象に出来るかどうかという問題があります。逆に言えば、企業活動と従業員個人の生活を混同することの方が「労働基準法の遵守」という視点から企業コンプライアンスを問われてしまう場合すらあるのではないかと考えています。

私見ですが、プライベート時間での飲酒運転で処分を受けた場合の「会社での制裁」については、まずは一定期間(年単位)の自家用車による通勤の禁止や社用車の使用禁止、状況によってはこれに伴う配置転換を絡める程度の話が限界ではないかと思います。ただ、勤務時間中の飲酒運転については服務規律違反+職務専念義務違反+コンプライアンス違反として、「一発アウト=即懲戒解雇」まで視野にいれても差し支えないと思います。帰宅途中の飲酒運転については、この中間というあたりでしょうか?

長くなってしまいましたが、この問題については「風評」が先行している分大変悩ましい問題ではありますが、「企業コンプライアンス」としては、まず企業として守らなければならない「労働基準法」の精神が先に立つのではないかと感じました。

投稿: Swind@立石智工 | 2006年9月11日 (月) 23時25分

>ただ、個人的な見解としては、そもそも解雇というのが、その人個人だけでなく、周囲の家族の生活基盤をも失わせる程の極めて重い処分であることを考えると、「飲酒運転をしたから、即懲戒解雇」というのは、「社会通念上相当」であったとしても、「合理性に欠く」とされる可能性が否定できないと思っています。

私は自動車部品会社(上場)2社に勤めておりましたが、出張・通勤規程はこうでした。
(1)出張は特別な場合以外自動車を使用しない。
通勤は認める。このときの運転時飲酒は勤務時間帯と同様とみなし依願退職とする。
(2)出張は出来るだけ社有自動車を相乗りで使う。
   会社が掛けている団体生命保険に加入を必要とする
   自家用車での出張も可能で団体生命保険に加入を条件とする

合理的配慮以下にも別の理由があります。自動車メーカーは部品メーカーの社員の事故に結構気を使ってみており、場合によっては営業に「社員教育の不備」を建てに値引き要請を飲まざる得ないように仕向けることがあるからです。(具体例は自粛します)

投稿: デハボ1000 | 2006年9月12日 (火) 11時56分

みなさま、コメントありがとうございます。
立石さんがおっしゃることがまさに正論だと思います。懲戒解雇処分を受けた公務員の方が、やはり処分が重すぎるとして異議申立を開始した、とのニュースもありました。公務員の場合は酒気帯び運転の刑罰厳格化によって、また懲戒処分の是非に関する状況が変わってくるものと思われますが、一般の民間企業においては、今後も会社の対応が分かれてくるのではないか、と思います。
たしかに基本的には、業務上過失致死傷という結果を招来しないかぎりは「解雇」とまではいかないところもあると思いますが、会社のカラーによっては十分な手続を経たうえでの解雇処分というのもありえるのではないかな・・・と考えております。このあたりは、いろいろなご意見をさらに伺いたいところですね。

デホバさん、参考情報のご提供ありがとうございました。企業の従業員に対する規律の問題ともおおいにからむところですね。一般企業において、今後はどういった対応をとられるのでしょうか。

投稿: toshi | 2006年9月13日 (水) 02時39分

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