« 不正会計の予防に向けて(その3) | トップページ | コンプライアンス経営はむずかしい(判決編) »

2006年9月16日 (土)

Eメールと堀江氏の刑事裁判

堀江貴文被告人の刑事裁判に宮内氏が証言を行ったというニュースがあちこちで掲載されておりました。(たとえばライブドアニュース)投資事業組合が実体のあるものかどうか、といった論点につきましては、ちょっと弁護側に不利ではないか・・・とも考えているのですが、きょうの宮内氏の証言内容を報道内容だけから判断しますと、けっこう堀江氏にも勝算がありそうな気がしてきました。共謀を裏付けるためには、宮内氏と野口氏の詳細な証言が不可欠だと思いますが、野口氏から証言をとれない今、宮内氏から具体的な堀江氏との共謀の事実が証拠として認定できるかどうか、非常に大きな争点となっています。弁護側として、闘いやすい土俵に持ってきたような感じです。そもそもスキーム自体が偽計取引や粉飾決算の構成要件に該当するかどうか、という土俵で戦うとしたら、公認会計士の資格まで保有するような優秀な捜査検事、公判検事に互角に戦うのはちょっとキビシイと思っていたのですが、「共謀」で闘う(関与、指示)のであれば、これは刑事裁判の伝統的な闘い方でしのげますから、被告人が完全否認している以上、弁護人にとってはこれ以上有利な条件はないほど闘いやすい土俵といえるでしょう。

根拠1 宮内氏の供述があまりにも曖昧ではないか?

なんといいましても宮内氏がスキームを知りすぎているのがマズイですよね。もし堀江氏のほうが全体のスキームに詳しい人であれば、ある程度宮内氏側があいまいな供述であっても「やむをえない」でしょうが、そもそも財務会計的な知見を有している宮内氏は、詳細に堀江氏にスキームを説明して、堀江氏の理解度まで認識できる立場にあったわけですから、違法行為の共謀関係にあることまでを詳細に証言できる立場にあります。そのような宮内氏が「・・・と堀江氏が理解していると思った」とか「要望か指示か、といわれれば指示だった」などと、ちょっと刑事弁護人からすると異議を出しても不思議でないくらいに信じられないようなあいまいな供述に終始しているとすれば、検察側としてもヤバイですよねぇ。(冷汗・・・)もし野口さんが主導的立場にあって、全体のスキームを統率していた、という組み立てが可能であれば、宮内氏が「ボク、わかんなぁい・・」状態で堀江氏の公判に臨むということもできますから、曖昧供述でも「やむをえない」と考えられますが、野口さんの証言がとれない以上は、検察も宮内氏の公判を維持するためには「ボク、わかんなぁい」状態にもできませんし、堀江氏立件のためには、どうしても「宮内氏はスキームに詳しい人」という構図は維持せざるをえないわけですね。

2 Eメールは刑事裁判の証拠になるのか?

前から気になっていたのですが、メールというものが果たして共謀共同正犯における「共謀」を基礎付ける事実、もしくは規範的な実行行為と捉える際の構成要件事実を立証できる証拠として役にたつのでしょうか?民事事件であれば、裁判官の心証が51対49でもシロクロをつけるわけですから、おおいにメールの証明力を認めても問題ないわけですが、刑事事件では検察官はほぼ100%有罪の確からしさを証拠で固めないといけないわけでして、メールがどこまで共謀を基礎付ける事実を証明できるのかおおいに疑問が残ります。(無罪推定原則)とりあえず事前にどういった指示があったのか、違法行為をどこまで認識していたのか、短いメールのやりとりだけではどうにも立証できないのではないか、といった懸念があります。つまり「共謀」というのは、人と人とが相対していた状況、いつ、どこで、誰と誰が、何を話して、その後どういう行動に出て、その利益はどう分配したか、といったところが客観的に認定されて「確からしさ」が基礎付けられるわけでして、むしろメールというのは、逆にあまり人と人との接触がなかったという客観的事実を基礎付けることにもなりますし、また堀江氏側が、自分の発したメールはこういう意味だった、と有利に援用することも可能になるはずです。よく考えるとメールというのは刑事裁判にとっては「両刃の剣」ではないか・・・と思ったりしております。

あくまでもニュース情報からの推測ですから、なんとも自信たっぷりには申し上げられませんが、この裁判、弁護人側としてはツッコミどころがけっこうあるんじゃないでしょうかね。

|

« 不正会計の予防に向けて(その3) | トップページ | コンプライアンス経営はむずかしい(判決編) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Eメールと堀江氏の刑事裁判:

» 留置 [不動産鑑定士半兵衛の権力との闘い]
平成16年2月7日、公務執行妨害罪の容疑で逮捕状が執行され、私は留置された。 [続きを読む]

受信: 2006年9月16日 (土) 09時32分

» あれこれ [Yousuke FURUSAWA weblog]
13:00 起床. 今日は Sunday。14:00 ドキュメント生成17:00 研究室19:00 買い物。マックでハンバーガーとチーズバーガーを買ってしまう。20:00 帰宅21:00 ワイルドスピードを見る22:00 ゼロヨンよりも、峠とかサーキットとかの舞台の方が好きだな (^^... [続きを読む]

受信: 2006年9月18日 (月) 04時38分

« 不正会計の予防に向けて(その3) | トップページ | コンプライアンス経営はむずかしい(判決編) »