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2006年10月 2日 (月)

監査法人の即時反論制度と守秘義務

昨年8月4日に会計監査人の守秘義務というエントリーを備忘録程度に残しておりまして(内容は証取監査に関するものでしたので、すこしタイトルが正確ではありませんが)、そのなかで、会計監査人も一般向けに辞任や解任に至ったときになんらかの説明をすべきではないか、といった問題を書き記しておりましたが、今朝の日経ニュースによりますと監査法人が上場企業から受任している業務について解任された場合の「即時反論制度」なるものを、金融庁が検討している、との興味深い記事がありました。(監査法人、解任反論即時に、金融庁検討)会社法上では、会計監査人には株主総会や監査役会によって解任された場合には、意見表明の機会が付与されておりますので、ここで問題とされている即時反論制度といいますのは、証取法上の財務諸表監査、内部統制報告における監査証明業務というところを指しているようです。(記事のうえでも、監査法人による即時反論は一般投資家保護のため、とあります。)そういえば、一昨日(9月29日)の日経新聞でも、上場企業と監査法人との間における(上場企業側からの)辞任要求による辞任や監査法人側からの辞任申出というものが最近増加している、との記事がありましたし、モノ言う監査法人の強化が、投資家保護につながる、といった考え方に基づくものなのでしょうかね。

法的に「解任」された場合に限られるのか、実質的に解任と等しい「辞任要求による辞任」や監査法人側からの「辞任」の場合も含むのかなど、細かいところまではまだわかりませんが、いずれにしましても、上場企業側は適時開示によって「なぜ監査法人を解任したのか」、その理由を説明できますが、監査法人側は「守秘義務があるためにお答えできない」といった回答がなされるケースがありましたので、投資家保護のための即時反論権といいますのは、「監査意見を述べる目的の範囲内においては、守秘義務違反とはならない特別の要件」のひとつになりそうです。

もし、この制度が実現するとなると、監査法人に対して上場企業側も意見を述べやすくなると思いますが、監査法人側としましては①上場企業による言われっぱなしを防止する、②守秘義務から解放される(ただし、限界はありますが)、③その企業とのおつきあいの初期段階から、自説を述べやすくなる、④(上場企業との主張合戦により)外部から、その監査法人の真の実力を把握しやすくなる(ディスクロージャー)などのメリットも考えられるところであります。昨日ご紹介いたしました新刊「粉飾の論理」の298頁以下におきましても、カネボウ事件の監査人であった元会計士の神田氏が、その証言として「カネボウの監査業務において、もし10年前にもっと会計上の問題を厳しく指摘していたならば、こういったことは起こらなかったであろう」といった言葉があります。監査法人がオフィシャルに堂々と反論する、といった制度の枠組みがあれば、いまよりも少しばかり上場企業と監査法人との関係もドライになるんじゃないか・・・と期待したいところであります。

ところで、監査法人の独立性を強化して投資家保護をはかる、といった理由のほかに、こういった即時反論制度を設ける理由として考えられるのが金融商品取引法上の「内部統制報告実務」の導入にあるのではないでしょうか。財務諸表監査の場合には、なにが公正妥当な会計慣行であるか、といった点について企業側と監査法人側で見解の相違があった場合、最終的には意見の一致をみて、過去1年間の項目や計算方式の修正をはかることが可能でありますが、経営者による内部統制評価の監査となりますと、過去に遡って修正をはかる、ということが理屈のうえでは苦しいように思います。内部統制の有効性評価というのは、1年間のプロセス評価でありまして、整備された内部統制システムが、同じ状態で一年間稼動していたかどうか、といった「運用」(時間軸を持ちます)評価であります。これは事実の積み重ねに関する評価でありますから、内部統制監査の段階で、経営者と有効性に関する評価に食い違いが発生してしまいますと、修正というものが効かなくなってしまうのではないでしょうか。財務諸表監査ということでしたら、やはり専門家意見による評価部分につきましては、企業側も尊重せざるをえないところが多分にあると思うのですが、内部統制監査というのは「事実認定」であり、要は「内部統制システムが1年間適正に稼動していた」という事実を、どういった証拠から導くかということでありまして、その証拠評価に関しては会計専門家と企業とは五分と五分の関係にあるように思えます。まだ、このあたりは自論としてまとまってはいないのですが、今後詰めて考えておかなければいけないところだと思いますし、企業側と監査人側で見解が相違した場合の「逃げ道」として、こういった即時反論制度のようなものもあれば便利かなぁと思ったりしております。

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コメント

 細かいところではありますが、「内部統制の有効性評価というのは、1年間のプロセス評価」ではなく、「期末日現在」の内部統制の評価になると思います。(まるちゃん~参照: http://maruyama-mitsuhiko.cocolog-nifty.com/security/2006/08/post_ef3f.html )。
 丸山さんのBLOGにあるとおり、期中での是正を前提として期末日評価となっています。最終的に「証拠評価に関しては会計専門家と企業とは五分と五分の関係にある」ことはその通りだと思います。会計専門家によるダイレクトレポートを行わないということは、会社側自らが会計専門家に対して自らの主張を行うことが可能であると思います。専門家に対抗できるだけの人材を各社が揃えられるのか?という問題の方が大きいと思いますが。
 なお、個人的には「ある一時点の内部統制の評価」はあまり意味がないと思っています(丸山さんのBLOGにコメントしました: http://maruyama-mitsuhiko.cocolog-nifty.com/security/2006/09/itit_5ba6_1.html )。ご参考までに。

投稿: Mulligan | 2006年10月 2日 (月) 04時26分

はじめまして。
詳細な検討材料とご意見をご提供いただき、ありがとうございます。1年間というのがあまり意味がないとしても、ある一定期間のプロセスを評価する、といったものではないのでしょうか?私もそうでなければ、あまり内部統制評価としては意味がないと考えますが。期末日現在の内部統制評価といいましても、それは年間の積み重ねの結果が反映されての期末日評価ということにはならないのでしょうか?うーーーん、なかなか頭で理解するのは難しいですね。
まだ丸山さんのブログを拝読しておりませんので、いちど検討させていただいたうえで、当職の意見も書かせていただきたいと思います。

投稿: toshi | 2006年10月 4日 (水) 02時42分

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