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2006年10月22日 (日)

刑事裁判と即決和解(のようなもの)

最近は企業法務的なお仕事が多くなったことで、あまり刑事裁判の面白さに触れる機会も少なくなってしまいましたが、新人弁護士の倫理教育のなかでも題材とされているものでありますが、「刑事公判調書の民事執行力付与の制度」というものがあります。いや実は私も若い先生から教えてもらうまでは全く知りませんでしたので、倫理研修のなかでは、「弁護過誤」をやってしまう一人になっていたようです。「刑事公判調書の執行力付与申立」の制度といいますのは、平成12年の被害者保護に関する一連の刑事手続改正の際に採り入れられた制度ということでして、刑事裁判の公判中に、被害者と被告人との間におきまして、民事賠償に関する示談が成立した場合に、その損害賠償債務の執行力を付与することの申立を双方が行った場合には、その旨を公判調書に記載する、そうしますと、その損害賠償債務には執行力が付与されて、改めて公正証書による合意をしたり、民事裁判を提起しなくても「判決をもらったのと同じ」効果が発生する、というものであります。被害者と被告人だけでなく、たとえばその損害賠償債務を連帯保証する人につきましても、その申立に参加すれば、執行力が付与されるようです。以前は刑事弁護人をやっておりまして、被害者から示談の条件として「公正証書による執行許諾文言付の合意書」を作成することを要求され、よく公証役場に伺うことがありましたが、時間や費用もかかりますし、こういった制度で代替できるということはかなり利用価値の高いものだと思います。

刑事裁判の公判調書で民事賠償の執行力が付与されるわけですから、この制度は一見しますと、現在法務省で議論されている「附帯私訴」制度に似ているように思えます。(交通事故や暴力事件などの刑事裁判の裁判官が、被害者と被告人間における民事損害賠償請求訴訟の審理も合わせてできる、といった制度)しかしながら、附帯私訴のケースでは、実際に損害賠償の範囲などを法廷で争うような事案も考えられますし、純粋な口頭弁論期日が開催されることが前提ですから、どうも根本的に違うもののように思います。附帯私訴の場合には、被害者側代理人の弁護士さんもおつきになるでしょうが、先の執行力付与の申立の場合には、あまり代理人による申立が予定されていないもののようです。むしろ刑事裁判に即決和解の制度がくっついたようなもの、と考えたほうがいいのではないでしょうか。即決和解制度といいますのは、あまり一般の方にはなじみが薄いかもしれませんが、我々弁護士にとりましては、比較的よく利用する制度であります。紛争当事者間で財産的問題で紛争が発生した場合に裁判所以外の場所で交渉を重ね、最終的に合意に至った場合、その和解条項について簡易裁判所に起訴(提訴)前の和解に関する申立をして、その和解条項に強制執行力を得るという制度です。たとえば建物賃貸借に関する家主と借家人との紛争について、もし合意が得られたとしましても、公正証書で金銭債務については執行力を付与することはできましても、明渡に関する執行力は付与されません。その点、即決和解制度によりますと、裁判所で公権的に和解条項が調書化されますので建物や土地の明渡に関しても執行力を得られます。

実際に執行力付与の申立をされた弁護士の方が、裁判所もどういった運用をすべきかよく理解していないところもあった、とおっしゃっておられましたので、実際にもこの執行力付与の制度というものが頻繁には利用されていないのかもしれません。被害者保護の問題は今後、小さくなることはありませんので、これをご覧になっていらっしゃる同業者の方も、一度ご検討されてはいかがでしょうか。

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