監査役と信頼の権利(信頼の抗弁)
祝日(9日)にもかかわらず、朝から共同執筆の最終原稿読み合わせの会合に出てまいりました。公認会計士グループと弁護士グループによる「社外監査役実務指針」に関する出版に関するものであります。来年の株主総会の参考書としてに間に合うように、出版予定日から逆算してみますと、もうあんまり締め切りまで時間的な余裕がない、ということで、なかなかハードな作業です。ここ数日間に最初から最後まで目を通しましたが、なかなかいい出来栄えになっておりまして、上場企業の常勤監査役、非常勤社外監査役、法務、内部監査担当者の方にはかなり参考になるものではないか・・・と勝手に想像したりしております。(また、出版の時期になりましたら、このブログでも広報させていただきたい、と思います)
いろいろと議論しているなかで、最後まで共同執筆本の調整がむずかしい論点がございまして、ひとつは「監査役に信頼の抗弁は成立するか」といったものがありました。大和銀行事件や、ダスキン事件など、監査役の責任追及がなされた事案を参考に、いろいろと検討しているところでして、果たして監査役会設置会社において、監査業務を各監査役間で分担しているケースでは、その分担された業務をきっちりとやっておけば、監査役は信頼の権利によって免責されるものであるか、といった論点であります。つまり、3人以上で監査役会を構成する監査役が、被告として株主代表訴訟を提起された場合に、監査の任務懈怠責任というものが、その分担業務ゆえに、その責任の程度・範囲が異なるケースはあるか、といったものであります。監査役制度自体が日本に独特のガバナンス体制でありますから、そもそも海外の判例理論として形成され、取締役会を構成する取締役の責任免除問題に適用される「信頼の抗弁」が、そのまま監査役にも適用されるであろうか・・・といった疑問を素直に抱いてしまうところですよね。ただ、研究会の大方の意見としては、監査役という職務が独任制の機関であるとしても、監査役会において監査計画をたてて、それぞれの役割分担をはっきりと決めて、他の監査役の監査業務に十分な信頼をおける状況が認められた場合には、監査役にも信頼の抗弁は認められていいのではないか、といったところでした。このほかにもMSCBの発行に関与する監査役の対応等についても議論がなされましたが(最初はMSCBの発行など、経営判断の問題であってあまりにもマニアックやな・・・と考えていたのですが、引受審査が受けられなかったり、かなり小規模な上場企業であって資金調達手段が限定されるようなところもあるようですんで、そういった企業における監査役にはけっこう現実的な問題かもしれません)、こういった議論の内容につきましては、またご紹介させていただきます。
PS きょう、お昼に会計士の先生と食事をしましたが、その折に「会計士資格者以外の人達も監査法人の社員持分を保有する」ことができるようになる、といった最近の話題に話が及びました。(監査法人への出資、会計士以外にもーー日経ニュース)私は、この問題はニュースで報道されておりますように、どちらかといいますと、監査法人の内部統制や品質管理の問題と密接に関係していて、「監査法人の経営管理」の一環である、と認識していたのですが、どうも理由はそれだけではなく、監査法人の経営多角化とも密接に関係しているようですね。監査法人がいろいろなサービスをクライアントに提供していきたいところですが、会計士以外の職業の方をヘッドハンティングしたとしても、これまでは出資が認められておらず社員たる身分を有していないために、その監査法人内部における出世の道が閉ざされており、インセンティブが生まれない、といったところを改善することも、また大きな理由のようです。存じ上げませんでした。
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コメント
こんばんは。
「社外監査役実務指針」の共同執筆本、大変期待しており、待ち遠しい限りです。
さて、監査役と「信頼の権利(抗弁)」ですが、肯定的意見が多数とのこと、大変意外な印象を持ちました。個人的にはこういった理屈が認められるの結構なことだと思っていますが、遠い将来のことではないでしょうか。「信頼の抗弁」は免責のための理屈ですから、「有責」という事態が(観念論としてではなく)現実問題として発生しない限り、機能しないはずです。ところが、過去および現在の「監査役界」はそういう前提を欠いています。
株主代表訴訟でバンバン監査役が訴えられ、提訴請求に対し不提訴を決め込む監査役は更に訴えられ、また、企業不祥事に対しては、真っ先に監査役に非難・批判が集中する(メディアの姿勢としても)、世の中がそんな風になっていかないと、この理屈はなかなか成熟していかないのではないかと思ったりしています。
(とりとめのない書込みで恐縮です。)
投稿: 監査役サポーター | 2006年10月11日 (水) 00時37分
監査役サポーターさん、いつもご意見ありがとうございます。
いえいえ、これはたいへん示唆に富むご意見だと思います。信頼の抗弁が取締役の責任論で発達した経緯からみれば、サポーターさんのおっしゃるほうが正論だと思います。
ただ、先日のダスキン事件におきましても、積極的な経営判断への関与をされた監査役のみが被告として訴えられましたが、監査役が積極的に行動を起こすことを後押しするためにも、こういった「自由保障機能」をもった理論を検討しておくことも必要ではないでしょうか。いまの風潮からして、「なにも行動を起こさない」監査役に対しては、今後もバンバン責任が認められる風潮にはならないような気がします。むしろ、内部統制構築論と同じく、監査役が積極的に行動を起こすような体制を整えて、そのうえで行動の可否を問われることにより、あるべき監査役の姿が企業社会に出現するのかもしれません。卵が先か、ニワトリが先かといった議論かもしれませんが・・・
また、ご意見をお待ちしております。
投稿: toshi | 2006年10月11日 (水) 03時17分