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2006年10月 5日 (木)

不正会計の予防に向けて(その4)

昨日の「通行手形としての日本版SOX法の意義」には、たくさんのアクセス、そして非常に質の高いコメントを頂戴しまして、本当にありがとうございました。会計ネタは、このブログでもっともアクセス数が伸びるエントリーでして、先日の日経新聞でご紹介いただいたときに次ぐほどのアクセス数を記録いたしました。もちろん、皆様方のコメントの厚さに依拠するところが大きいわけでして、元記事の内容が薄いぶん、皆様方の厚いコメントで補っていただけますと幸いです。また、熱いコメントに対して、きちんとお返事をさせていただこうかと考えております。

さて、本来ならば昨日のエントリーの続編をすぐにでもアップすべきところではございますが、またまた気になる金融審議会ニュースが出ておりまして、いつも拝見させていただくブログでもあちこちで話題になっているところですので、すこしだけ私のブログでも採り上げておきます。またまた企業会計モノではございますが、金融審議会におきまして、会計士の独立性を確保することを目的として、企業不正を発見した会計士さんに、金融庁(証券取引等監視委員会?)への通報義務を課そう、といった提案が(金融庁より)出されたそうであります。これは朝日ネットニュースだけが記事として掲載しておりまして、同日の日経ニュースでは、会計士(監査法人)のローテーション期間の短縮化が議論されたことを記事として掲載しておりますね。

ニュースはこちら でありますが、その内容を少しだけ要約いたしますと「ライブドアやカネボウの粉飾決算事件などにより、会計監査制度の見直しを進めている金融庁は、監査人が企業の重大な不正行為を発見した場合には、当局への通報を義務付ける仕組みの導入を、公認会計士制度部会で提案した。会社と監査人との癒着防止、独立性確保のためのものであり、審議会で意見がまとまれば公認会計士法などの改正に盛り込む方針。この提案に対しては賛成意見も出たが「監査の検察化を招きかねない」との慎重意見も出ている。(その他、監査報酬の決定権を取締役会から監査役に移すことも検討課題とされている)」といったところでしょうか。このブログで再三、問題としてきました「監査人の不正発見義務」「監査人の不正調査権限」といったところとダイレクトに結びつくような(金融庁による)提案かどうかは、ちょっと上の記事では明らかではないようです。たまたま監査業務のなかで不正経理を発見することは監査人にとっても起こりうるところでして、会社法監査におきましても、法397条におきまして、会計監査人の監査役に対する不正行為報告義務が規定されているところであります。もちろん、会社が「贈賄」や「株主への利益供与」など、不正行為の会計処理について「使途不明金」などで処理しているケースなどでは、(違法行為は存在しても、会計的には適正と認められますから)そもそも違法行為を報告する義務など監査人にはありえないのではないか、といった理論的な問題(いわゆる「期待ギャップ」問題)もあるわけですが、実務慣行としては日本公認会計士協会の実務指針においても追認されているところですし、例外的に会計監査人に認められる「業務監査」のひとつとして考えられるところであります。この会社法監査の考え方を、証取監査にも採用して、(監査役ではなく)金融庁への報告義務を課す、といった制度変更が問題となっているだけであれば、「職責」という意味におきましては、それほど会計士さんのこれまでのお仕事と大きく異なることはないようにも思えますがいかがでしょうか。(業務監査権限を持つ監査役への報告義務というのは、そもそも監査役の職務遂行を適正なものとするために会計監査制度に当然に含まれるものであって、いっぽうの金融庁への報告義務というのは、監査人が会社から付託された義務の範囲外の特別の行為規範ではないか、といった理論上の問題は残るかもしれませんが。)

ただ、もしこういった制度の導入が、公認会計士法の改正によって、会計士さん方の職責の変更にまで及ぶとしたら、これは大きな問題でありまして、「不正発見義務」「不正調査権限」の問題と結びつく可能性も否めないように思われます。私の理解するところでは、そもそも公認会計士さんの監査業務における職責といいますのは「財務諸表の適正性監査」のみではなかったかと思います。このあたりは昨日のエントリーに対するコメントとも関連するかもしれませんが、内部統制報告実務に関する監査業務というものも、はたして本来の公認会計士さんの職責からみるとかなり異質なものではないでしょうか。(これまでも内部統制監査というものは実際に行われていたのですが、それはあくまでも財務諸表監査に付随するもの、もしくはその適正性を補完するもの、として行われていたものですよね)そういった異質なものがなし崩し的に会計士さんの職責として含まれていくとすれば、その延長線上に「コンプライアンス経営維持に貢献する」職責といったものも、くっついてしまう可能性も出てくるように思います。いわば、「期待ギャップ」を埋めてしまうような政策を金融庁が考えることもあながち否定できないようにも思えます。ただ、そこまでいきますと、これはもう会計士さん特有の専門家責任の範囲が拡大することは自明のこととなりますし、「不正」「重大な違法」「立証責任」などの言葉が「法律用語」として仕事のうえに乗っかってきますので、おそらく監査人という仕事がとんでもないことになってしまうはずであります。ここのところは、以前と同様、私は慎重な議論が必要だと思いますし、監査人の検察化などは到底ありえない話だと考えております。

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コメント

私も、監査人の検察化はありえない話と考えるのですが、現実には証券取引法上の監査人と会社法上の会計監査人が同一であることがほとんど全てであり、他の役員同様に株主代表訴訟のリスクを負う。
会計監査人のみに、検察的な義務を負わせることが出来るか、妥当かと思ってしまったのです。

投稿: 売れない経営コンサルタント | 2006年10月 5日 (木) 10時43分

ご意見ありがとうございます。
私も監査人の検察化はないだろうと考えてはいるのですが、私が資格をもっております公認不正検査士というお仕事は、会計士さんと弁護士を足して二で割ったような職種でありまして、こういった制度がもし発展するようであれば、たとえば監査人が不正の疑いを抱いたときに、外部専門家として雇用する、といった道もありうるわけですね。今後の動向次第とは思いますが、なし崩し的にこういった方向に向かうことへの是非につきましては、理論的にも詰めていったほうがいいのではないかな、とも思ったりしております。

投稿: toshi | 2006年10月 6日 (金) 03時08分

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