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2006年10月18日 (水)

東芝のソニーに対する損害賠償請求

あちこちのニュースで「東芝が株主の目を意識して、ソニーに対する損害賠償請求を検討中」と報道されています。(読売ニュース 株主の目を意識し賠償検討中)以前、「経営の自由度って?」のエントリーの際にも申し上げましたが、この「株主代表訴訟のおそれがあるので、・・・」とか「株主に対する説明責任がつかないので」なるフレーズも、昔の「バブルがはじけて・・・」と同じもので、なんとなく聞き手が納得するのを期待しながら、実は問題を深く掘り下げて解明することを放棄するフレーズなのであまり好きになれません。もし私が東芝の株主だったら、「実損(バッテリー交換に要する費用全て)はソニーが負担するって言ってるんだし、どこもソニーのバッテリー使ってたんだから市場占有率もブランド価値毀損も知れてるんじゃないの?それよりも、今後同様の事態に陥ったときに、経済産業省の情報とどうやってリンクさせて、どうやって製品の安全性を公表すべきか、そのリスク管理方法を説明してよ」と強く要望したいですね。とりわけ、株主の目を意識するほどの事態でありましたら、来年度の事業報告のなかにおきまして、東芝の社外取締役の方々が、この問題についてどのように発言をされたか、ガバナンス的発想からぜひ知りたいところであります。

もちろんこの問題をフォローしているわけではございませんので、これは場末の弁護士による、単なる「外野席からのつぶやき」にすぎませんが、そもそも「株主の目を意識した提訴」というのは、どういうことなんでしょうか?このまま実損だけをソニーに負担してもらう、という解決方法では、取締役は株主から「責任追及を怠った」として訴えられる可能性がある、ということなんでしょうか。でも東芝はソニーを提訴することによって「やぶへび」にはならないんでしょうかね?9月1日の時点では、東芝は「たとえソニーのバッテリーを使っていてもうちの製品は安全です」と安全宣言を出していたのではないでしょうか?(ノートパソコンのソニー製バッテリー対応記録)たとえば、現時点ではソニー側が実損については負担します、という状況にありますが、もし東芝が正式にソニーを訴えた場合、ソニーのほうも「それならうちだって、おたくと完全に争いますよ。おたくも9月1日の時点では、他社パソコンのシステム設計に問題があると考えていたわけですから、うちもおたくの製品のシステム設計との共同責任と主張します」とか言われてしまう可能性はないのでしょうか?ともかく東芝としては(ソフトローの世界において)実損についてはソニーが負担するとしているわけですから、もし提訴した場合には(ハードローの世界において)最低限度、ソニーの債務不履行、もしくは過失(もしくは瑕疵)が認められて、実損部分については勝訴しなければならないわけです。(その場合にも時間と紛争費用を要します)そのうえでブランド毀損や市場占有率の低下による損害との因果関係が問題となるわけですが、もしソニーの債務不履行や過失が一部しか認められないような場合には、おそらく現状よりも認容金額が低くなってしまう可能性もあるんじゃないでしょうか。つまり裁判を起こすことによって、ぎゃくに株主から責任を追及されるケースもあるのではないか、と思いますがどうなんでしょうかね。このあたりは暗黙の了解の世界(内々の取引の世界)から、とつぜん裁判による「シロクロつける世界」へ移行するときのとっても怖い領域だと思いますし、みずほ証券が東証を訴える事案とは少し様子が違うところではないでしょうか。

あまりよく前提事実がわかっていない状況で書いておりますので、事実関係についての誤りがありましたらまたご指摘いただければ幸いです。ただ、提訴するといっても、実損以外の損害を、どういった法的根拠で構成するんでしょうかね。債務不履行による損害賠償請求でしょうか、製造物責任でしょうか、商事売買における瑕疵担保責任でしょうか、それとも基本取引契約の解釈問題なのでしょうか。いずれにしましても、東芝のこれまでのリリースが、今後の法的紛争に大きな影を落とすような気がしますが。

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コメント

大変興味深く読みました。

一般論として言えば、会社に損害が発生しているのであれば、その原因を追求した上で可能なかぎりその回復を図るべきなのは当然ですよね。その上で賠償請求権の行使が可能というのであれば、それを行使すべきであるのも当然でしょう。訴訟経済的に無意味とかそう言うのでない限り。

権限を有している以上、その行使ないし不行使について説明責任を負うのはごく当たり前のことだと思います。会社法で機関設計や株式の種類など経営裁量の幅が格段に広がりましたから、今後はその行使の在り方について十分な説明がさらに求められるでしょうね。

今回のケースだと交換にかかる費用以外にも「リコールによる製品イメージの悪化や、販売などへの悪影響など、間接的な損失」が無いとは言えませんので、賠償請求にも意味があろうかと思います。ただお話しを伺っている限りでは東芝にも責任がありそうですよね。あの安全宣言はなんだったのかと。

投稿: とーりすがり | 2006年10月18日 (水) 15時33分

特定の会社がどーのこーのではなく、あくまで一般論ですが…

①訴の提起というのは、時間稼ぎになるんですよね、しかもポジティブな意味で。つまり、座して待つ、という受身ではなく、「我々はかくかくしかじかの権利がある、それを正当な手続きをふんで主張している。」という宣言的な効果(対外的に露出すれば、宣伝効果)があるんじゃないでしょうか。これは、当座我が身を安全域に置くことができます。とりわけ「人の噂も○○日」みたいな状況にあるときは、結論(判決)が出る頃には、みーんな忘れているかもしれないという期待効果も狙える訳です。訴訟費用(弁護士費用を含む)をあまり気にする必要のない大企業には、こういうメンタリティがあるような気がします。一種の「戦略法務」かもしれませんね。

②「株主を意識して」という点は、株主代表訴訟を提起するような人たち(個人株主)ではなく、機関投資家を気にしているんじゃないでしょうか。更に言えば、アナリストかもしれませんが。

③最近は、こういう問題に関して、会計監査人(公認会計士)がうるさいんじゃないでしょうか。

④「この経営判断は誰を向いたものなのか」という問題を感じざるを得ません。かつてはやった「コーポレートガバナンス」論ではありませんが、企業にとって最大のステークホルダーは誰?という問題です。お客様(消費財メーカーでしたら、一般ユーザーですよね)が第一、という思想が企業風土として根付いた会社であれば、少し対応は違うかもしれませんね。

くどいようですが、あくまで一般論ですので。

投稿: 監査役サポーター | 2006年10月18日 (水) 22時57分

はじめて投稿させていただきます。
企業法務に携わる身といたしまして、本ブログは日々実務に直結するブログであり、大変有意義かつ有用であり感謝いたします。
今回の東芝の提訴問題は電機機器メーカー等と部品納入側との関係に一石を投じる問題であり注視に値します。従来は製品瑕疵などの問題で、メーカー間のお互いの責任負担は日本型の企業間取引におけるしきたりのようなものがありまして、とりあえず消費者被害を最小限に抑えることを最優先し、責任負担の問題は後回しにし、あとで内々で話し合いで解決してきた事例が殆どであると考えます。
その意味で、今回の東芝さんの提訴によってメーカー間の製品瑕疵の責任負担について判決が出れば先駆的事例になるのではと注目しております。

PCや家電製品などは、あまたある部品製造業者がメーカーの「仕様」に基づき部品を納め、まさにその部品の集積が製品として市場に出るのが現実です。
製造物責任の問題は別として、部品納入業者は部品の瑕疵について一体、何処までメーカーに対して責任を負うのが法的には妥当なのでしょう。
従来は、リコールとなると回収やら消費者への通知に要する費用、はたまたコールセンター対応に要した費用等の出費が余儀なくされ、これら費用の総計は膨大になり軽く部品価格の総計や場合によっては製品価格の総計すら上回るケースが出てきます。
商事売買の原則からすれば、最終的な製造メーカーにも検収、検査義務があり、受け容れている訳ですからその範囲で当然、責任が問われてくるものと考えます。
今回の東芝さんの提訴は先生ご指摘のとおり、却ってやぶ蛇になりはしないでしょうか?
東芝さんもソニーさんもお互いプロの商人なのですから、むしろ、検収時になぜ、プロの受入側である東芝さんで不良が発見出来なかったのかという点が問題になってくるのではないでしょうか?むしろ、私だったら原則に立ち返って、ソニーはバッテリーの交換や修補義務だけを負えば済むという理屈も十分展開可能と考え、それだったら、ウチは東芝さんに対してはあくまで商法上の瑕疵担保責任だけ負いますと主張しますが、ご覧の皆様のご意見はいかがでしょうか。

投稿: ヨシチカ | 2006年10月19日 (木) 17時59分

>とーりすがりさん
いつもコメントありがとうございます。
責任追及の訴えの場合に、不提訴理由通知制度なんかが出来たことで、経営者による株主への説明責任というのも(機関投資家向け、ということも含めて)かなり難しくなるように思えますね。たとえば5年かかってどれほどの損害回復がはかられるのか、そんな5年も先の不明瞭な損害回復に興味を持つ株主がどれほどいるのか、またそんな不明瞭な損害回復を現在の企業価値にどのように反映させるのか、株主によっても利益と感じる人、感じない人、様々だと思います。
>監査役サポーターさん
いつもコメント、ありがとうございます。
私のブログは「ヒマつぶし」でも全然かまいませんよ。
株主の目を意識して、という意味は監査役サポーターさんのおっしゃるとおりかもしれませんね。現実の代表訴訟のおそれというよりも、株主総会での取締役の評価を気にしての行動と捉えてもいいのかもしれません。ただ、それにしましてもやはり疑問は残りますね。あと、たしかに戦略訴訟的なところもありますが、長年裁判を継続していても、なんだか信用を落とす方向に一般消費者のイメージが残ってしまうような気もしますが、いかがでしょうかね(笑)
>ヨシチカさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
実は私はこの「検収」問題などは、当然のこととして基本契約のなかに詳細に規定されていると思っておりました。商事売買の範囲ですから、任意規定があればそれだけで解決がつくもんだと考えておりました。しかしながら、実際にはこうやって解釈問題になってしまうわけですから、企業法務的にみると取引リスク管理の範囲外と認識されていたのでしょうね。もしこういった問題が軽々に契約書条項として詳細に規定することによるリスク管理ができない、ということになれば、ヨシチカさんの言われるとおり、「判決をもらうことで実務指針を形成する」ということにも意味があるかもしれません。
皆様、有益な意見ありがとうございます。もうすこしこの問題の進展を見守りたいと思います。

投稿: toshi | 2006年10月20日 (金) 02時03分

遅ればせながら。どの会社も法務などを担当されている人は技術にはちょっとという部分から、IBMを除いてソニーの言動に曖昧なんでしょうね。技術的にみれば、ソニーの大チョンボなんですよ。リチウムというのは化学をちょっとでも知っていればわかることなですが、発火性のつよい金属材料です。昔のストロボ(これはマグネシュームですが。)をイメージしていただければいい。この電池に、発火装置になる不純物の金属片が紛れ込むというのはまさに、ストロボの玉をつくっているようなもので。
で、ソニーの見解は、電池を使うノートパソコンの設計が悪いときたので、東芝の技術屋が怒った(私でも怒りますですね。)のが真相ではないでしょうか。
さらに、納品の検収時点では、こんな不純物が入ってことは電池の構造から絶対に見つけることができないわけで。

投稿: 胡桃 | 2006年10月21日 (土) 23時13分

胡桃さん、おひさしぶりです。
コメントどうもありがとうございます。
この問題は、技術的な面とともに最近アメリカだけでなく、日本でも話題になっている「製品事故の公表」という企業コンプライアンスにかかわる部分にも関連しているだけに、私は非常に興味をもっております。とりわけ、様々なメーカーの公表事実を時系列的に整理しながら検討できるのが有益だと思っております。できればそこに、胡桃さんのご意見のように「本当は技術的にはどうだったのか」「技術に関する公表はかけひきなのか、ホンネで消費者のほうを向いた発言なのか」など、製品技術に関するある程度の客観的なニュースが入り込んできたら、今後の検討に有益だと思います。東芝の技術屋さんが怒ったからといって、それがそのまま東芝という企業の提訴という選択に結びつくのかどうか、そのあたりも私は非常に興味がありますね。そこにはまた別の力のモーメントが働くような気もします。また、ご意見お待ちしております。

投稿: toshi | 2006年10月23日 (月) 02時42分

東芝そのものは明治にできた江戸末期の有名な田中久重(からくり「弓射り(曵)童子」)が芝浦製作所というので創業した会社ですので技術指向ではソニーと同等でしょう。実際、ノートPCを最初に日本、でつくったのは東芝ですから。それは、さておき、先生のご興味はかなり広い範囲で、コメント欄だけでは書ききれない部分が多くあります。ただ、言えているのは、今回の問題は、瞬間湯沸しや、FFファンヒーターのような単純な装置構造ではなく、電池という化学変化を伴う世界であるがため、報道関係が正確に追跡できていない点がかなり消費者に混乱を与えていると思います。
正直いえば、ソニーにしろ東芝にしろ、消費者の方を向いているとはいえないお粗末な訴訟が現在の日本でのこの電池の問題でしょう(東芝がもっと原理にふれた部分での話をすればいいのですがね。NHK教育TVでの教材プログラム程度--電池に関する3分番組--で説明すればいいのですが。)製品構造で話がでているのは、(1)ソニーのセルに不純物が混入されていたということと、一番のソニーのえげつなさは (2)この問題は電源回路設計の問題で防げると切り出した点ですね。(1)は米国でもDELL等から報告されているのですが、(2)については日本国内だけに報道があったという点、日本の経済関係の新聞報道等のレベルの低さ(企業からの低レベル情報を流している点)が混乱を与えていると思います。日本での特許をふくめ技術原理の内容に立ち入る裁判は、ほとんど前例がないがためどうなるか私も興味深々です。

投稿: 胡桃 | 2006年10月24日 (火) 14時26分

胡桃さん、ご教示ありがとうございました。
コメントのやりとりをしているうちに、案の定、ソニーから製品事故に関する公表がありましたね。
どうも消費者のほうを向いていないのではないか、といった見方がすこしずつ出てきたときのタイミングだったようです。
こういった技術原理に関するメーカー間の裁判にも興味がありますが、裁判外での紛争解決方法の面白さというところもなかなか関心のあるところです。

投稿: toshi | 2006年10月25日 (水) 02時46分

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