« 不正会計の予防に向けて(その4) | トップページ | 相場操縦に対する逆転有罪判決 »

2006年10月 6日 (金)

内部統制と真実性の原則(1)

ここのところ、金融商品取引法上の重要論点である「内部統制報告実務」について、皆様方よりいろいろなご意見を頂戴しているわけですが、私自身もよくわかっていない部分がありまして、今後少しずつでも交通整理をしていきたいと思っております。そんななかで、会計士さん方とお話していて、法曹の私によく理解できないのが「内部統制と真実性の原則」との関係であります。これは何か関係しているのか、それとも内部統制報告実務と会計の大原則である真実性の原則とは、そもそも無関係なのか、そのあたりがひとつめの疑問であります。

会計学で言われるところの「真実性の原則」というものは、ある目的、つまり証券取引法による財務会計を例にとれば、投資家が健全な投資判断をなしうる程度の正確性が保証されていること、つまり相対的な真実性が認められれば足りる、ということですよね。(そうでなければ減価償却とか、繰り延べ税金資産といった概念が出てこないですよね)したがいまして、まず監査人(公認会計士または監査法人)が監査の対象としているものは、ある一定の期間におけるある企業の経済活動を、会計慣行というお約束によって数字で反映したもの、ということであって、つまりは(真実性が担保されている)数字の正確性が対象になると考えられます。しかしながら、内部統制報告実務における監査の対象というものは、経営者の出した「有効性に対する評価」であって、「内部統制の有効性」そのものではありませんよね。そもそも内部統制監査に「真実性の原則」が適用されるものかどうかも私にはよくわからないのですが、もし適用されるとしましても、ダイレクトレポーティングをしない監査において「他人の評価」の真実性という概念は果たして成り立ちうるのでしょうか?それとも、ダイレクトレポーティングは採用されないけれども、監査人独自で証拠を採取して、内部統制の有効性評価を別途監査人で行い、最終的に他人の評価と突き合わせるので、財務諸表監査の手法と同じである、とするのでしょうか?私にはどうも、この会計原則である「真実性の原則」という概念をもってきた場合、「過去の事実があったかなかったか」という意味で考えるならば、財務諸表監査にはなじむ概念ですが、「会社のシステムが有効かどうか」といった「評価」を問題とする内部統制監査は、かなり異質な業務が監査人に付与されるような気がするのですが、いかがでしょうかね。

それともうひとつの疑問でありますが、この内部統制監査における「適正意見」というものは、なにを目的とみたときに「内部統制の有効性がある」と評価できるのか、ということです。もちろん金融商品取引法上の内部統制報告実務は「財務報告の信頼性確保」を目的としているわけでありますが、ほかの3つの目的(業務の有効性効率性確保、コンプライアンス、資産の保全)とも密接に関連している、というのが八田教授の見解であります。(八田進二著・「内部統制の考え方と実務」51頁以下 日本経済新聞社2006年)そうしますと、監査人としては、たとえば法令遵守という視点からみて有効だ、とか、資産の保全という目的からみて有効とは言いがたいとか、いろいろな視点から判断すべきなのか、逆にいいますと、経営者の有効性評価の際に、4つの目的の総合判断として、自社の内部統制システムの有効性を評価すべきなのか、そのあたりはどう整理されればよいのでしょうか?このあたり、実施基準や監査基準が公開されることである程度、煮詰まってくるのかもしれませんが、もうすこし今後の議論の進展のためにも整理が必要ではないか、と思う次第であります。

10月 6, 2006 内部統制と真実性の原則 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/12168344

この記事へのトラックバック一覧です: 内部統制と真実性の原則(1):

コメント

toshiさん
はじめてコメント差し上げます。いつも勉強させていただいております。経営者の目からみて、内部統制の問題についてはたいへん議論が錯綜している感があり、私もぜひ交通整理をしていただきたいと思っております。自身にいままできちんと内部統制管理をしてきた自信もありますが、まったく異質なものを導入しなければいけないのではないか、といった不安感ばかりが煽られているような感を持っております。ITシステムの統制環境といったものがありますが、あれは果たして経営者がどういった観点から有効性を評価できるのか、なにが有効でなくて、なにが有効なのか、本当にそういったことまで経営者が確認して「まちがいない」と宣誓をしなければいけないのでしょうか。努力はしますが、結果責任まで負わなければいけないのでしょうか。2008年4月から始まる事業年度より適用される、とのことでありますが、先生のおっしゃるとおり、何の目的をもって内部統制を整備すればいいのか、そのあたりが非常に気になるところです。toshiさんのブログは、そのあたり深く掘り下げて解説していただけますと、たいへん参考になりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: 山野@RKU | 2006年10月 6日 (金) 11時18分

すいません。何度も送ってしまったみたいで、重複してしまいました。削除しておいていただけますとありがたいです。

投稿: 山野@RKU | 2006年10月 6日 (金) 11時21分

 雑駁な意見ですが…。
 「真実性の原則」はベースとなる考えであって、内部統制監査とは直接的な関係はないものと思います。
 「『真実性の原則』というものは、ある目的、つまり証券取引法による財務会計を例にとれば、投資家が健全な投資判断をなしうる程度の正確性が保証されていること、つまり相対的な真実性が認められれば足りる、ということですよね。」とありましたが、相対的と言っている意味は、企業会計原則(もしくは一般に公正妥当と認められる会計原則会計処理の基準)の範囲内で作成されなければならない、という意味だと思います。真実性の原則は「投資家が健全な判断をなす」等の「目的」を問うていないと思います。
 また、真実性の原則からは直接的に「減価償却とか、繰り延べ税金資産」の会計処理は導かれないと思います。「減価償却とか、繰り延べ税金資産」は費用収益対応原則から導かれるのではないでしょうか?

 前にもコメントしましたが、外部監査人による「財務諸表監査の監査意見:財務諸表の適正性への意見表明」「内部統制監査の意見:会社が実施している内部統制監査の有効性への意見表明」だと思います。
 内部統制監査の意見(有効意見?)を言い換えると、「会社が自ら行っている内部監査の手続は、外部監査人からみても適切に実施されていると判断しました」というだけで、会社の内部統制そのものに対する意見ではないと思います。
 真実性の原則と内部統制監査の関係は、まず、企業自らが作成する財務諸表が、真実性の原則によって求められる”企業会計原則で認める範囲での正しい会計処理”のもと作成され、正しい会計処理を担保するために内部統制(とりあえず財務報告目的に限定しておきます)が構築され、それが有効に機能していることを会社自らチェックし、その結果が「内部監査人による内部統制監査報告書」として提示され、内部監査の内容が一定水準以上だったことを外部監査人がチェックし、その結果が「外部監査人による内部統制監査報告書」に提示される、という流れになると思います。<長い文章!

 外部監査人たる公認会計士・監査法人は、財務諸表監査において会社が構築した内部統制(当然、財務報告目的のみ)の有効性判定を自ら実施しており、財務報告目的の内部統制に関するノウハウを十分に持っていると思います。で、内部監査人が行った財務報告目的の内部統制監査について、そのノウハウに照らして、有効であったかどうかの判定を行うことは可能だと思います。

 以上は外部監査人によるダイレクトレポーティングを前提としていません。もし、ダイレクトレポーティングを行うならば、「会社が実施している内部統制監査の有効性への意見表明」ではなく、「会社が実施している内部統制の有効性への意見表明」になると思います。なお、「会社が実施している内部統制」には、内部監査も含まれるはずなので、いずれの場合も会社の実施している内部監査も検証対象になるかと思います。

 二番目の疑問への個人的考えですが、<あまり深く考えていないので根本的に間違っているかも知れません、「金融商品取引法上の内部統制報告実務は『財務報告の信頼性確保』を目的としている」ので、その目的を達成するための内部統制を構築することが求められているものと思います。他の3つの目的(業務の有効性効率性確保、コンプライアンス、資産の保全)は、「財務報告の信頼性確保を目的とした内部統制」を構築すれば、結果として他の3つの目的にも資するけど、あくまで本筋は財務報告の信頼性確保であり、極論すればコンプラ違反に対する内部統制が不十分であっても(例えば内部通報制度が構築されていなくても)、意見形成は可能だと思っています。 会社法での内部統制では4つの目標を充足する必要があるのかもしれませんが。

 以下脱線です。
 昨日、八田先生の講演を聴いたのですが、個人的印象では腰が引けた意見に思えました。うろ覚えですが、「US-SOXレベルだと、コストがかかりすぎており見直しを迫られるであろう」「日本では上場会社に必要とされる最低レベルの内部統制をまず求める」<いわゆる通行手形?「財務報告への一番のリスクは粉飾であり、粉飾は通常、売上・売上原価・棚卸資産で行われる。」<本当?「なのでその3つのプロセスが最低ライン」と言っていました。
 資料に「内部統制の4つの目的」はあったのですが、話は「財務報告に係る内部統制」中心だったように記憶しています。今月~来月は実施基準作成で忙しくなる、でも実施基準にハウツーは期待しないように、とも言っていました。

 長文コメント失礼しました。

投稿: Mulligan | 2006年10月 6日 (金) 23時55分

こんばんは。
横レスですいません。

>Mulliganさん

①金商法が求める内部統制は、あくまで「財務報告の信頼性確保」を「目的」とするもので、他の3つの「目的」は基本的に関係ないと、私も思います。ただ、「財務報告・・・」目的で構築すれば、「結果として」他の3つの目的に資するとは必ずしも言えないと思います。資することもあるし、そうではないこともある、ということではないかと思います。例えば、「法令遵守」との関係で言えば、「財務報告・・・」目的できっちりやれば、多分、独禁法や下請法違反は予防できるでしょうが、景表法や個人情報保護法、著作権法違反などはあまり予防効果があるとは思えません。

②私も最近八田先生のご講演を聴きました。最近書き物などでも盛んに「日本発のデファクト・スタンダードを」と威勢のいいことをおっしゃっていますが、どうなんでしょうか。「先発の米国は失敗した。わが国はその轍を踏まず、きっちりいいもの(制度)を作り上げるぞ。」という気概は結構なのですが・・・。私の周囲(企業において内部統制(評価・監査)実務を担うべき立場の人々)は結構シラケテいるような印象です。

投稿: 監査役サポーター | 2006年10月 7日 (土) 00時41分


失礼しました。
HMの記入を失念しておりました。
お詫び申し上げます。
(「監査役サポーター」と申します。)

投稿: 監査役サポーター | 2006年10月 7日 (土) 00時45分

 監査役サポーターさんへ
 ①は全くその通りです。判り難い文章すいませんでした。
 ②八田先生は、米国:最初が厳しく今、緩くしている最中、日本:実務に耐えうる最低限を示し、徐々に厳しくする、みたいなことを言っていました。かなり「実務」に配慮した発言のように思えます。私は、一度「緩い基準」で導入してしまうと、後から厳しくするのは困難だと思っています。

投稿: Mulligan | 2006年10月 7日 (土) 07時44分

山野さん、Muliiganさん、監査役サポーターさん、詳細なご意見ありがとうございます。とりわけ、真実性原則やCOSOフレームの目的と内部統制報告実務との関係など、ご意見検討させていただきます。
なお、議論の整理のためにMulligunさんにお聞きしたい点があります。

>前にもコメントしましたが、外部監査人による「財務諸表監査の監査意見:財務諸表の適正性への意見表明」「内部統制監査の意見:会社が実施している内部統制監査の有効性への意見表明」だと思います。

ダイレクトレポーティングを前提としない場合ですが、ここにいうところの「会社が実施している内部統制監査の有効性」という言い回しは、「内部統制評価の有効性」と言い換えることは可能なのでしょうか?ちょっと「会社の実施する監査」という表現はあまり聞いたことがありませんので、すこし疑問を持ちました。
それから「外部監査人の意見表明」という表現ですが、これは「意見表明」を「監査証明」という言葉で置き換えることは可能でしょうか?なにか意見表明という言葉には、内部統制報告実務に独特の意味がこめられているのでしょうか?
また、お時間があるときにでも、ご教示いただければ幸いです。

投稿: toshi | 2006年10月 8日 (日) 02時27分

 雑駁な意見に丁寧にコメント頂きありがとうございます。
 一点目の「内部統制評価の有効性」について
 これは私が間違いでした。「内部統制”評価”の有効性」の方が正解ですね。会社の内部統制の一環として内部監査が必要なものの、内部監査人が意見表明するのではなく、経営者が意見表明するのが正しいですね。
 ダイレクトレポーティングを前提としない場合、外部監査人は「経営者の内部監査の評価過程」を見ることになると思いますが、その多くは「内部監査人による内部監査手続」になると思っています。<経営者の内部統制の評価を内部監査人が意見表明するものと思ってしまい、混乱してしまいました。

 二点目の「意見表明」について
 これも「監査証明」に置き換えることが可能と思います。外部監査人の意見が監査報告書によって表明されるのであって、これは従来の会計監査と比較して、意見表明の手段として変わらないと思います。特に内部統制監査だからといって特別な意味を込めていません。
 と書いておきながら、ダイレクトレポーティングを前提としない場合、監査人の意見は「経営者の内部統制報告書が適正に作成されていること」であり、これは一点目に記載したように「内部監査人による内部監査手続」の再実施(reperformanceで良いのかな?)によって行われるであろうから、外部監査人自ら「内部統制評価の監査手続」を行っていないのに”監査意見”と言うのは違和感がありますね。<再実施が「経営者の内部統制報告書が適正に作成されていること」への監査証明を行うための監査手続であるのは重々判っていますが、再実施だと「手続きを実施した」という実感に乏しくなりそうです(隔靴掻痒と言うか)。
 日米の外部監査人による内部統制監査の相違は、まるちゃん~のBlog(http://maruyama-mitsuhiko.cocolog-nifty.com/security/)の2006/10/05記載分に詳しいです。

投稿: Mulligan | 2006年10月 8日 (日) 11時05分

ご教示どうもありがとうございます。>Mulliganさん
丸山さんの論稿は、先日の「財務経営」にも出ておりましたよね。お寄せいただいた情報をもとに、監査論としては素人ではありますが、整理したうえでの見解をアップしたいと思います。今後とも、どうかよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2006年10月11日 (水) 03時07分

コメントを書く