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2006年10月 7日 (土)

相場操縦に対する逆転有罪判決

本来ならば、私はいまごろ釧路人権大会に出席している予定でありましたが、父の病状が芳しくなく、「帰りたくても帰れない」場所にいることがなんとも無謀な状況となりましたので、大阪にとどまっております。(世話役として、いろいろと準備をしてまいりましたので、お伴できないことはなんとも申し訳ないのですが、こればっかりはいたし方ありません。)

お昼からの看病疲れのため、まともにブログをしたためるだけの気力が乏しい状況ではありますが、ひとつだけ気になったニュースがございましたので、備忘録程度に留めておきます。ホリエモン、村上ファンドと証券犯罪に関する貴重な判例が形成される予感がいたしますが、きょう大阪高裁でも、相場操縦行為(仮想売買、馴れ合い取引)に関する逆転有罪判決が出されたようです。(大証の相場操縦、元副理事長に逆転有罪判決ー読売ニュース)いわゆる証券取引法159条の相場操縦の禁止条項違反ということですね。

第159条 何人も、他人をして証券取引所が上場する有価証券(以下この条において「上場有価証券」という。)、有価証券指数又はオプション(以下この条において「上場有価証券等」という。)について、上場有価証券の売買、有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引又は上場有価証券若しくは上場有価証券の価格に基づき算出される有価証券店頭指数(以下この条において「上場有価証券店頭指数等」という。)に係る有価証券店頭デリバティブ取引のうちいずれかの取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもつて、次に掲げる行為をしてはならない。
1.権利の移転を目的としない仮装の上場有価証券の売買をすること。
2.金銭の授受を目的としない仮装の有価証券指数等先物取引又は上場有価証券店頭指数等に係る有価証券店頭指数等先渡取引若しくは有価証券店頭指数等スワップ取引をすること。
3.オプションの付与又は取得を目的としない仮装の有価証券オプション取引又は上場有価証券店頭指数等に係る有価証券店頭オプション取引をすること。
(中略)
9.上場有価証券店頭指数等に係る有価証券店頭指数等スワップ取引の申込みと同時期に、当該取引の条件と同一の条件において、他人が当該取引の相手方となることをあらかじめその者と通謀の上、当該取引の申込みをすること。
10.前各号に掲げる行為の委託等又は受託等をすること。

1990年代の後半から、株券オプション取引が、東証と大証で開始されたわけでありますが、大証における人気が「イマイチ」だったために、平成15年7月ころから、大証の元理事長さんが、客寄せの目的で(ほかの数名と共謀して)株券オプション取引の仮想取引や馴れ合い取引を多数回やって出来高を人為的に増やしてしまった、という行為が相場操縦に該当するということで起訴された事件であります。そして、原審(大阪地裁)は、①オプション取引の新規自己両建取引は、現物株の仮想売買とは実質的には仕組みを異にするので、権利の付与・取得を目的としない159条1項3号に該当する取引とはいえないこと②159条は全体として相場操縦によって価格を操作し、投資家が不測の損害を被ることを防ぐために定められたものであるが、本件の自己両建取引はもっぱら大証における取引高が東証の取引高に勝つために行われたもおであって、価格の変動を目的としたものではなく、投資者の被害も微々たるものである、といった理由から、大証元理事長に対して無罪判決を言い渡しております。

上記のニュース記事しかみておりませんので、詳細はわかりませんが、大阪高裁の判決では、オプション取引の両建取引の実質的な仕組みを検討して、ということよりも、特定銘柄の価格変動を目的とするような場合以外にも、つまり価格変動を目的とせず単に出来高の大きさを変える目的の行動であったとしても、それは「相場操縦」に含まれる、としたことが争点とされたようです。これまでの相場操縦事犯に関する判例では、いずれも不公正な取引方法を用いて、価格変動を企図し、その結果として利得を得ていたような事案がほとんど全てでありますが、本件のように価格変動をかならずしも目的としていないような場合でも相場操縦罪が認められる、とした判例の意義は、今後の実務の参考になりそうですね。証券取引法は「投資家保護」という目的を謳ってはおりますが、ダイレクトに保護法益としているものではなくて、市場の公正をはかることを通じて、結果的に投資家保護に資する、といった考え方を重視しますと、この高裁判断のような結論に至るのかもしれません。ただ、この事案につきましては、原審判断が正しい、とする著名な学者さん方もいらっしゃいますので、今後も最終結論までは予断を許さない争点かもしれません。

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コメント

こんにちは。初めて知ってびっくりしました。有罪が相当だと思います。既に論じられていることでしょうが、出来高(流動性)は値動きの大きさ(ボラティリティ)に関する重要な情報で、特に大口の参加者にとっては目先の細かな値動きより重要な情報なんじゃないでしょうか。

投稿: bun | 2006年10月 7日 (土) 12時04分

bunさん、こんばんわ。
コメントありがとうございます。
保護法益の問題に帰着するように思います。
価格変動による投資家の損失(投資家保護)というものに具体的な危険性を及ぼしているかどうか、というところですかね?出来高が大きくなるとしても、オプション取引において、それが仮想取引を行った者の意図する方向に価格が変動して損失を与えるのかどうか。投資家の具体的な損失の危険性が保護法益とすると、そのあたりが論点になろうかと思います。
いっぽう、市場の公正といったことが主たる保護法益であるとするならば、(抽象的にでも)投資家の判断に誤りを与える危険性があれば、それだけで相場操縦の罪が成立するように思います。
ちょっと、この一般投資家に及ぼす仮想取引の影響度というところが、私の専門ではありませんので、また誤解等ありましたら、ご教示ください。
私も、判例タイムスなどで、原審の事実についてあたってみたいと思います。

投稿: toshi | 2006年10月 8日 (日) 02時01分

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