内部統制の限界論と開示統制
金曜、土曜と59期の新人弁護士さん(10月登録)の研修合宿に参加してきました。大阪と奈良の県境にあります山の中のセミナーハウス(アイアイランド)だったもので、パソコンの通信(エッヂ)もできず、帰ってきてやっとコメントなどを拝見させていただきました。やはり「世界史未履修問題」については文部科学省だけでなく内閣自体も緊急の課題として扱っているようですね。また、今週中には政府としての解決案を公表する予定とのことですから、続きのエントリーも書き上げる予定にしております。
さて、本日は「内部統制と情報開示」のシリーズ第二弾であります。「内部統制の見える化」といったもの、つまり内部統制(ここでは金融商品取引法上の内部統制評価報告実務、いわゆる日本版SOX法に関する内部統制)と企業情報の開示につきましては、私はあくまでも「財務情報」自体が開示の対象であって、内部統制そのものが開示の対象ではない、といった見解を述べましたが、これにはYOSHIさんや とくめいきぼう さんより異論若干のご意見を頂戴いたしました。最初に申し上げておきますが、最近の内部統制関連の新聞記事や、HPでの特集などを見ておりましても、「内部統制の見える化」は日本版SOX法と関係がある、企業活動の透明性を促す、といった立場(解釈?)が主流のようであることは間違いございません。私の意見は「本当にそうなのかな?」といった問題点を指摘させていただいているものですから、そのつもりでお読みいただきますと幸いです。
エントリーのなかでも少し触れておりますが、私は「会社法における内部統制システムの構築」論につきましては、「見せる内部統制」といった概念は成立するものであると考えておりますが、いわゆる日本版SOX法といわれるところの「金融商品取引法における内部統制評価報告実務」におきましては、やはり「みえる化」(見せる化)とは関係ないものと思っております。(文書化やフローチャート、情報の記録保管といった要請は当然にございますので、これも「見せる化」になるといわれればそうかもしれませんが、これらは経営者自身による客観的評価を担保したり、監査人による監査のための証憑にすぎないものでありまして、やはり一般投資家に対して内部統制の仕組みを理解してもらう、といったものではありません。)金融商品取引法における企業情報の開示という概念につきましては、自己責任を負担してもらうために必要な一般投資家への正確な情報開示、ということが基本になるはずです。したがいまして、この内部統制報告実務が金融商品取引法によって規定されている以上は、「開示」という概念も、どうしても投資家への情報提供といった意味合いが強いのではないでしょうか。そうしますと、どうしても詳細な内部統制システムそのものが「見せる」(見える?)対象とは考えにくいように思われます。もちろん、監査役や内部監査人におけるモニタリングということも「見える化」のひとつである、といった意見もあるかもしれませんが、私の理解では、それは会社法における内部統制、つまり(そういったモニタリングの制度も含めて)コーポレートガバナンスの状況として、株主による評価の対象となるものと考えれば足りるものであって、金融商品取引法のなかに採り入れる必要はないのではないか、と考えておりますが、いかがでしょうか。
そもそも日本版SOX法と企業開示をくっつけてしまいますと、「それでは目に見えないものは評価されないの?」といった問題にぶつかってしまいます。けっしてそんなことはないわけでして、たとえばYOSHIさんが指摘しておられる「監査役は株主に代わってモニタリングをしているから、開示にあたるのではないか」といったところも真実ですから、こういった監査役や内部監査人の努力といったものは「全社的内部統制」や「統制環境」への評価として取り込むべきだと思います。内部統制評価報告実務の制度と代表者確認制度というものを財務諸表の信頼性確保のために「本当に役立つもの」として日本の法務会計制度に根付かせるためには、できるだけ「内部統制の限界範囲を狭くすること」と経営者自身が評価したと「擬制する」根拠をしっかりと考えることでしょうから、その工夫は、会社法上は別として金融商品取引法上では、あまり「見せる化」「見える化」にこだわらないことです。
金融商品取引法の制度趣旨と内部統制評価報告実務との関係を図示すれば、以下のようになる、と私は理解しております。
本来、金融商品取引法は「投資サービス法」として成立したものでありますが、最近の不正会計事件や、有価証券報告書の訂正問題が極めて投資家の市場への信頼を低下させるものであるために、「企業情報の信頼性向上」といった要請も取り込んでいるものと理解されます。そういった理解のともで、金融商品取引法の制度趣旨との整合性を考えますと、上記のような図式化が成り立つのではないでしょうか。なお、確認書制度は現在は取引所ルールでありますが、内部統制評価報告実務がスタートする時点で同時に施行される予定であります。確認書制度は、有価証券報告書や四半期報告書の全般に及ぶものですから、その開示情報全体において経営者の記載事項の確認書が要求されることとなりますが、内部統制は「財務諸表等の計算書類」の信頼性確保ということになり、具体的な範囲におきましては今後の実施基準によって決まるものと考えられます。「その他の企業情報」というところにつきましては、内部統制システムによって正確性が確保される、というものではありませんので、そこには別途「開示統制」を各企業に要請することになります。(この開示統制問題と適時開示ルールにつきましては、また明日にでも続きとしてアップいたします)
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コメント
異論ではありません。
Yoshi様のご主旨も管理人様のご見解への異論ではなく
内部統制報告実務は「内部統制の見える化」ではありませんが
それでも企業情報開示の信頼性向上に資するものですよ、
という内容であったと解釈しております。
投稿: とくめいきぼう | 2006年10月29日 (日) 21時10分
早々にご指摘恐れ入ります。m(_ _)m
さっそく修正いたしました。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2006年10月29日 (日) 22時32分
JICPA最新号(vol.18 No.11)に、蟹江教授の「内部統制監査期待ギャップ」という論文が掲載されております。金商法の「内部統制(評価)報告」あるいは「内部統制監査」の限界がよく判るように思います。
投稿: 監査役サポーター | 2006年10月29日 (日) 22時58分
突然で恐縮ですが、再販制度に詳しい先生を探しています。企業側ではなく、代理店など弱者の立場でアドヴァイスしていただける方には、なかなかめぐり合えません。地方では、専門とする方自体が少ないからでしょうが、・・・。探し方だけでも、ありがたいです。
投稿: 修 | 2006年10月30日 (月) 00時24分
>監査役サポーターさん
ご教示ありがとうございます。非常に興味がございますので、さっそく読んでみることにいたします。(それにしても情報が豊富ですね。専門職なのか、法務担当者の方なのか存じ上げませんが・・・)
>修さん
企業側ということでなければ、たとえば司法支援センター(法テラス)のご利用はできないのでしょうか。私もあまり深くは知らないのですが、とりあえず東京センターに電話がまとめられて、そこから問題ごとに登録弁護士へ振り分けられることになると思います。下請法や独禁法関連に関心のある弁護士さんを紹介してもらえるのではないかと思いますが。(もし間違っておりましたらたいへん失礼ですが)
投稿: toshi | 2006年10月30日 (月) 03時20分