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2006年11月30日 (木)

「公正ナル会計慣行」と長銀事件(その5)

ちょうど1年前から、このブログでも「公正ナル会計慣行と長銀事件」というカテゴリーで「私のつぶやき」を綴ってまいりましたが、(これまでのエントリーは こちらのカテゴリーでご覧になれます。)この11月29日に、東京高等裁判所におきまして、旧日本長期信用銀行(現新生銀行)旧経営陣に対するRCC(長銀の損害賠償請求権を承継)の損害賠償請求を棄却する高裁判決が出された、とのことであります。(朝日ニュース)この高裁判断により、この長銀事件につきましては、高裁段階におきましても、刑事と民事で違法配当に該当するかどうか、判断が分かれたことになり、非常に珍しい裁判結果となっております。

原審(民事)裁判の判決書は110ページ(判例時報の頁数)に及ぶ長文でありまして、読むだけでもたいへんではありますが、要は違法配当とされる配当手続の時点において、いったい何が公正なる会計慣行だったのか、その認定された会計慣行が「唯一の」会計慣行だったのか、という点に対する裁判所の見解の相違に帰着するところであります。商法監査の会計監査人に公認会計士監査が採用されたことにより、会計基準が実質的には「法律」として扱われるような体裁になっているわけでありますが、それでは会計基準が変更された場合には、いつからその会計基準が一般に公正妥当と認められる会計慣行となるのか、また会計慣行と認められた場合には、それが唯一の会計慣行となり、従前のものに従った会計処理は違法となってしまうのか、これは非常に大きな問題を含む論点であります。ASBJ(企業会計基準委員会)が策定した会計基準そのものが「法」とは言えないわけですから、斟酌されるべき「会計慣行」になるためには、なんらかの「法化現象」が必要になってくるわけであります。私も基礎法学については詳しくないものですから、ここは少し自信のないところでありますが、いわゆる「事実たる慣習」は法源になる、ということから、会計基準が策定され、それが会計に携わる人達一般に周知徹底され、それに従う会計書類が作成されるような社会が認められたときに、はじめて「会計慣行」になる、というのが一般の理解ではないでしょうか。このあたりは、解釈のうえでも、だいぶ「擬制」が働いておりまして、たとえ周知徹底されている事実が認められなくても、周知徹底されることはほぼ確実な状態において公表されたとき、と解する学説もあるようです。この長銀事件の民事裁判におきましても、こういった「会計基準」の法化現象自体は認めるものの、問題はそれが「唯一」の会計慣行であるとは言えないとされているようです。つまりは、それまでの会計基準にしたがって会社の計算を行ったとしても、それ自体は違法とは言えないとされております。

私はこの民事事件に関する裁判所がお出しになられた判決のほうが筋が通っているように思います。もし企業会計基準委員会が出した「会計基準」が唯一の公正なる会計慣行になる、ということですと、ある基準の施行日(もしくは事実たる慣習として認められた日)を境にして、一瞬のうちに適用されるべき会計基準が変わるわけですから、これはまったく「法律」と同じ社会規範になってしまいます。しかしながら、「法」が社会規範として効力を有するためには、とりわけ強制力を伴うような法であるならば、法律を制定する正当性(国会による審議、もしくは法律による委任など)その中身が明確で特定性を有するものであり、しかもその施行日までに国民に広く周知徹底される必要があります。そういった厳格な手続が、果たして会計監査における会計基準の施行の場面においてとられているかといいますと、おそらく自信をもってイエス、とは答えられないのではないでしょうか。そのあたりが、この長銀事件の民事裁判所の一番思い悩むところではないか、と思った次第です。

もちろん法が会計慣行を斟酌する、とある以上は、会計原則の適用には柔軟な対応が必要であることを認めているからこそでありまして、なにも会計基準を策定する機関が、法の制定と同様の手続を経ることまで要求しているわけではありません。しかしながら、法と会計基準をまったく同レベルに置くことはできない、といった根本的な法思想に起因して、上記のような判断理由に至ったのではないでしょうか。法と会計の狭間にある非常に深い問題・・・、この問題への司法機関としての意見表明のムズカシサが、この刑事と民事の各裁判所における判断分立を物語っているように思います。

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2006年11月29日 (水)

内部統制報告制度と刑事処罰の「現実性」

そもそも「内部統制報告制度と刑事処罰」など、こういったマニアックなブログ以外、どこで扱う問題だろうかと自問自答してしまうほど、ほとんどアクセス数を無視したテーマなのでありますが、やっぱり深く考えてみますと、いろいろと疑問点が湧いてくるわけであります。きょうは、軽めのエントリーでありますので、サラっとお読みいただき、また皆様方にもいろいろとご意見もあろうかと思いますので、「内部統制フェチ」の方にはお教えいただこうかと。

1 なんで懲役5年なのか?

金融商品取引法の施行によって、あらたに罰則付きで行為規範となるものを中心に紹介いたしますと、四半期報告書の虚偽記載と内部統制報告書の虚偽記載については「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科」(個人の場合)、経営者確認書の虚偽記載については罰則なし、となっておりまして、これは有価証券報告書等の不提出や大量保有報告書への虚偽記載と同等とされております。このうち、四半期報告書の虚偽記載は、そもそも半期報告書の虚偽記載が5年レベルとされているので、これに合わせたことは理解できますし、また経営者確認書の虚偽記載につきましては、有価証券報告書の虚偽記載とほぼ同様の構成要件に該当することになりますので、「二重処罰禁止」の思想によって罰則が賦課されないことも理解できるところであります。それでは、新設される内部統制報告書の虚偽記載については、なぜ5年なのでしょうか?巷間、いろいろな金融商品取引法の解説書が出ておりますし、そういった解説書や、とりわけ私の手元にあります立案担当者の方が執筆された「一問一答金融商品取引法」(商事法務)を詳細に読んでおりますが、その理由はどこにも記載されていません。有価証券報告書等の虚偽記載が懲役10年以下(個人の場合)とされているのは、証券被害者を多数発生させることにおいて詐欺的犯罪(詐欺罪は10年以下)であり、また会社経営者の立場からみると、株主や一般投資家のために果たすべき役割にそむくことにおいて特別背任罪(懲役10年以下)に近いものであるためと解説されていますが、そうであるならば内部統制報告書の虚偽記載も同様の性質をもつものとして10年以下の懲役、とすればいいのではないでしょうか。

いっぽうで、別の見方もできるように思われます。たしか先日公表されました実施基準におきまして、財務報告の信頼性を確保するための内部統制システムに「重要な欠陥」が存在する場合には、そもそも財務諸表監査はできないといった表現があったと記憶しております。そうしますと、重要な欠陥があるにもかかわらず内部統制報告書に「有効」と虚偽記載した場合におきまして、そのまま有価証券報告書が適正証明を受けて提出されていれば、これは有価証券報告書の虚偽記載に該当することになりますよね。これはさきほどの経営者確認書制度において罰則が付されなかったのと同様、二重処罰禁止の原則に該当するのではないでしょうか。もしそうだとするならば、内部統制報告書の不提出については罰則の適用はありえても、内部統制報告書の虚偽記載といった違反行為に刑事罰を付加することは、経営者確認書制度との均衡を失することになりそうです。「なぜ、内部統制報告書の虚偽記載が5年以下の懲役なのか・・・」けっこう、じつは立案担当者の方もよくわからない理由で、このようなレベルに落ち着かせたのではないか、とも考えますが、いかがでしょうか。ただ、いずれにしましても、有価証券報告書の虚偽記載とはその違法性においては半分程度の価値だと法律は捉えているわけですから、このあたりも世間一般における内部統制ルールへの関心と、立案担当者との「温度差」のようなものが垣間見える気がいたします。

2 「内部統制報告書の虚偽記載」で本当に立件できるの?

うーーーん、これもよくわからないですね。「虚偽を記載した」という場合の被告人の「故意」はいったいなにを認識することになるのでしょうか。「経営者の意見表明」といった点におきましては、有価証券報告書の虚偽記載と変わらないのですが、有価証券報告書の場合では「正しい数字を記載していないことを認識しつつ、粉飾した」ということは立件できても、内部統制報告書のおきまして「内部統制が有効でないことを知りつつ、有効と評価した」というのはとても難しい認識ですよね。とりわけ、有価証券報告書に関しては立件しないで、内部統制報告書の虚偽記載だけを立件するといったことは現実に起こりうることなのでしょうか。経営者は「有価証券報告書は正しいものを作った」と考えているし、それを否定する証拠もないにもかかわらず、「内部統制には重要な欠陥があった」と認識していたことなど、実際にありえないのではないでしょうか。そもそも具体的な数字の信憑性とは異なり、「内部統制の有効性評価」といったものは、多分に規範的評価概念であって、罪刑法定主義(刑法の大原則)とは相容れない判断基準ではないかと考えます。「お飾り的」に罰則を付加したもの、とまでは申し上げませんが、果たしてどんな場面を想定して、内部統制報告書の虚偽記載の立件を考えておられるのか、このあたりは具体例を挙げていただき、どなたか詳しい方のご講義を拝聴してみたいと思っております。

いずれにしましても、この10年と5年の差というものにつきましては、法律家の立場から内部統制ルールを検討する場合に好きこのんで「解釈のための材料」として利用(援用?)するはずですから、法律施行に先立って、この「差」をどう合理的に解明すべきか、一度真剣に議論したほうがいいと思いますね。

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2006年11月28日 (火)

証券犯罪とペナルティの実効性

「貯蓄から投資へ」を合言葉に、市場の活性化策をいろいろな機関が検討しているところでありますが、どんなに健全化をはかってみましても、(私を含めまして)「証券投資に関する知ったかぶりのできる素人連中」がどんどん参画してくるわけですから、今後は当然のごとく証券犯罪は増えるでしょうし、証券被害者も増えるはずです。自己責任を負担できる一般投資家の数が飛躍的に増えるということは、そういった「知識と経験のある素人」を騙す人達も出てくるでしょうし、また「知識と経験のある素人」さんだからこそ、今度は騙す側、法律を犯す側に回る人も増えることは間違いないと考えます。国策としての「貯蓄から投資へ」という世界が実現された暁には、おそらくインサイダー取引や不正な手段による相場操縦、証券詐欺事件など、いまでは想像もできないほどたくさんの証券犯罪事件が(摘発されるかどうかにかかわらず)増えることは確実だと思われます。さて、そういった犯罪増加を抑止する方法というものが、まさに刑事罰や課徴金制度に期待されているところでありますが、果たしてその実効性はどうやって確保されていくのでしょうか。これまで同様、証券取引等監視委員会によるピンポイント作戦で摘発する、といった方向性は変わらないとは思いますが、ただそれだけですと一件あたりの摘発までの証券取引等監視委員会の労力を考えますと、増え続ける証券犯罪への抑止力というのも限定的なものにならざるをえず、「捕まったほうが運が悪かっただけ」という風潮になってしまって、そもそも証券犯罪を思い留めさせる動機付けにはならないのではないでしょうか。

おそらくこのへんの事情につきましては、有識者の方々も十分承知されていると思いますので、最近の報道されているニュースなどを総合してみますと、増え続ける証券犯罪に対して、ペナルティの実効性をどう確保するか、という点に関する基礎作りが始まっているように感じています。たとえばいつも愛読させていただいているKOHさんのブログで「東日本ハウスに課徴金、虚偽記載で、証券監視委員会」というニュースに触れておられますが、KOHさんがご指摘のとおり、それほど悪質とは思えない事例においても監視委員会は積極的に課徴金処分の勧告を出す風潮が今後は目だってくるのではないでしょうか。これはまず、先日私がブログで申し上げましたように、大きな犯罪を適時的確に調査できるように、「広く浅く、グレーゾーンを敷く」ことにつながります。大きな犯罪の匂いがする場合に、その立証は困難でも、比較的容易に軽微な違法状態が存在すれば、まずその軽微なほうで強制的に調査をして中身を精査して、首尾よく主目的の犯罪証拠を探索する、といった手法であります。こういった手法が健全かどうかは別として、「巨悪は逃がさない」という取締側の有効な手段であることは間違いないものと思います。

また、昨日、インサイダー取引の取次ぎ行為を対象に、監視委員会が大和證券に対する処分勧告を行ったというニュースが報じられておりますが、取次ぎ行為への処分勧告は初めて、ということのようです。東証におきましては、インサイダー取引への監視を強めている、とのニュースが報じられておりました。こういった報道で興味深いのは、刑事罰もしくは行政処分という「ハードロー」の世界のルールの実効性を確保するために、「ソフトロー」の世界を利用するところであります。普通、ソフトローといいますと、自主ルールや社会規範としての「法に強要されない」ルールをいかに実行させるか、といった点が論点になるはずですし、そこに「事実上の強制力」なる概念が用いられることになりますが、ここでは国家権力による強制にもソフトローの世界が利用されることがおもしろいところですね。おそらく証券取引等監視委員会としましては、証券取引所や証券会社による自主的な監視活動の結果を情報として取り込むことで、効率的に犯罪情報を入手したり、また犯罪立件に不可欠な証拠を収集することを検討しているのではないでしょうか。おそらく、今後証券市場における犯罪捜査のための土壌つくりがすこしずつではありますが進むものと予想しておりますし、これは何年もかけて構築されていくものだと思われます。

ただ、業界団体の自主ルールや民間企業の取引マニュアルなどの民間規制に刑事罰や課徴金賦課の対象行為の特定を期待することは、証券市場という特殊な世界のことであるために非常に効果的である反面、その適用場面は曖昧となるために、市場参加者の証券市場活性化のための行動を萎縮させてしまうことも確かだと思います。(事なかれ主義といいましょうか)とりわけエンロン、ワールドコム事件においても揺らがなかったアメリカにおける証券取引所の信頼感と、日本の証券取引所のそれとは大きく異なるものがあるでしょうし、その自主規制部門による判断が果たして刑罰の実効性を高めるために有用なものとなりうるのかどうか、そのあたりはまた続編にて検討してみたいと思っております。

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2006年11月24日 (金)

内部統制監査の「品質管理」

金融商品取引法上の内部統制評価報告制度に関する「公開草案」も公表され、いよいよ草案自体に対する議論も始まるものと思われます。第一法規出版社主催の「緊急内部統制セミナー」では東京、大阪、名古屋で内部統制部会のメンバーの方々が実施基準の解説をされる、ということでして、おそらく満員盛況のセミナーになるんでしょうね。(ちなみに、私も大阪会場分につきまして、早速申し込みましたが・・)

大きな枠組みで申しますと、この制度は金融商品取引法上の「流動性の高い事業型有価証券」に関する企業情報開示制度のひとつ(制度の柔構造化)という位置づけでありますので、金融商品取引法の制度趣旨との整合性を常に考えておく必要があると思います。あたりまえのことかもしれませんが、内部統制を有効と評価するための水準とか、内部統制監査における適正意見表明の最低水準という概念(線引き)をどう考えるのか、これはおそらく実施基準を一読しても明確な回答は出てこないはずです。そういった場合に、やはり法律の制度趣旨とか、金融商品取引法の企業情報開示制度の中に、内部統制評価報告制度を導入した経緯などを参照しながら検討していく作業は今後のステップとしては不可欠だと思います。

たとえば、内部統制評価に非常に厳格に対応する上場企業があったとします。この企業の経営者は、一般に公正妥当と認められる内部統制評価基準に従うと、自社の内部統制には不備があると認められ、その後の不備解消の努力もむなしく事業年度の最終日までその欠陥は補正できず、「内部統制は不備がある」と評価したとします。しかしながら、内部統制監査を担当する監査人は、会計基準にしたがえば有効と判断していい、と考えている、としましょう。この場合、内部統制監査を担当する監査人(監査法人もしくは公認会計士)は、経営者の評価は間違っている(つまり、この企業については、他社の内部統制評価と比較しても、一般に公正妥当と認められる内部統制評価基準によれば内部統制は有効である、と判断される)と意見表明する(つまり、経営者意見について不適正意見を述べる)ことは十分ありうることなのでしょうか?理屈のうえではありうると考えられるでしょうが、さて財務報告の信頼性を確保するための開示情報という観点からみますと、一方で企業が「信用性に問題あり」と述べて、もう一方では監査人が「信用性には問題なし」と述べているわけです。財務諸表監査の場合には、経営者が数字によって意見を表明し、これに監査人が「信用性あり、なし」と意見を出すわけですから、これは投資家の自己責任で判断する材料としては、わかりやすいですね。しかし、数字を出した企業自身が「信用性はない」と言いながら、監査人が「信用性あり」と意見を表明したとしますと、そもそも投資家は開示情報のどれを信用していいか混乱するだけであって、投資家の自己責任の根拠となる企業情報開示制度としては、おそらく不適切なものになってしまうのではないでしょうか。もし今後、証券取引所が、この内部統制評価報告制度の運用を「上場基準」に反映させることになるとしたら、上記のようなケースではどういった取扱をするのか、非常に興味のあるところです。(企業側が信用性に問題あり、といいながら監査人が問題なし、と意見表明した場合に、もし粉飾決算や不正経理問題が発覚しますと、監査人の責任問題はクローズアップされる可能性も高くなりそうですね)

普通に考えてみましても、内部統制監査をされる監査人の方の監査スキルというものは、どこまで信用性があるのでしょうか。これは経営者による内部統制評価報告書に監査証明をつける、というものですから、「開示情報の適正性」に関わる問題として無視できないところだと思います。ある監査人は「甘い」けどある監査人は「厳格である」といった事態が発生する可能性というものは、いくら会計基準の適用のプロとはいえ、これまでの長い歴史を持つ財務諸表監査の場合とは大きく異なるところではないでしょうか。そこで、内部統制監査における「品質管理」を誰が担保して、開示情報としての適正性を確保するのか、といった問題にぶつかるような気がします。たとえば実施基準には「監査人は内部統制監査を行うに当たっては、本基準のほか、監査基準の一般基準および監査に関する品質管理基準を遵守するものである」と記述されております。したがいまして、いわゆる監査基準における「品質管理基準」に監査人が従うことで内部統制監査の品質管理はなされている、とも言えそうです。しかしながら、会社法におきましては、会計監査人の内部統制を監査役が報告を受ける、といった制度が会社法規則において定められております。これは会計監査人への監査役の監督手続を経ることで、第三者に公表される計算書類の適正性が担保される、との考えに基づくものでありまして、事後チェックである品質管理制度だけでは公表数字の適正性は担保できないことを物語っているように思います。これと同様、金融商品取引法における企業情報開示に関する手続の適正を重視するならば、やはり評価報告書が開示されるまでの手続の中で、こういった監査人の内部統制監査のチェックというものも(理屈のうえでは)考えておかなければいけないのではないでしょうか。たとえば、監査役は、その内部統制監査を担当する監査人のスキルについて、監査法人の研修制度や、監査経験などからみて問題なし、と判断する必要がある、といった議論をどこかでしておく必要があるかもしれません。

この実施基準の公開草案を読んでおりますと、全社的内部統制評価と業務プロセス評価の関係とか、IT統制の基本的枠組みとか、内部統制監査とか、いたるところに会社法や金融商品取引法の制度趣旨、導入経緯との整合性から由来する疑問点が浮かび上がってくるようですね。

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2006年11月22日 (水)

内部統制報告制度(実施基準公開草案)公表される

(追記 質問回答コーナーを設けております。今回かぎり、ということですんで、著名な「会社法であそぼ」と比較なさらないでください 笑)

金融庁企業会計審議会より、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準~公開草案~」が11月21日、公表されました。

公開草案はこちらです

12月20日午後5時までパブリックコメントを受け付けるそうですので、皆様たくさんコメントを出されたらいかがでしょうか。たしかにコメントをお出しになったからといって、実施基準の中身がガラリと変わるということはないかもしれませんが、解釈指針には影響を与えるかもしれませんし、ひょっとすると皆様のコメントが「実施基準Q&A」のガイドラインの内容に影響を与えるかもしれません。もちろん、私もわからないところがたくさんございますのでコメントを提出いたしますが、これだけ世間で「日本版SOX法」と称され、騒がれてきた基準案ですから、たくさん出せば出すほど、わかりやすいものになるかもしれませんよ。

第14回内部統制部会の資料として提出されていた「公開草案資料」と、第15回部会で確定した「公開草案」とを比較いたしますと、まず「Ⅲ財務報告に係る内部統制の監査」につきましては、資料こそ14回部会で提出されていたものの、監査基準に関する実質審議は15回部会で行われたようですので、まったく変更点はございません。また「Ⅰ 内部統制の基本的枠組み」と「Ⅱ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」部分につきましては、段落整理記号の付記部分を含め合計17箇所の変更点(削除や追加付記など)がございます。変更点のほとんどが前後の文章との整合性を維持するための字句の修正や、趣旨が不明確な部分の明確化など、あまり大きな変動はみられないものの、2点ほど留意すべき点があるように思います。

そのひとつが、内部統制の基本的要素とされている「統制環境」に含まれる「経営者の意向及び姿勢」であります。経営者不正が最も財務報告の信頼性毀損に影響を与えるという趣旨からでしょうが、財務報告の信頼性確保のための内部統制整備運用に関して、経営者はその重要性を認識する意向を示し、その整備運用の基本方針や基本原則を明確にし(おそらく文書化するということだと思われます)、これを組織の内外に適切に伝えることが要求されています。会社法上も内部統制システムの整備運用に関する基本方針の決定義務が会社法上の大会社には要求されておりますが、上場企業の財務報告に係る内部統制評価報告制度におきましても、同様の開示が要求される、ということになるのでしょうか。ちなみに、「公開草案資料」(財務報告に係る内部統制構築のプロセス部分)の段階では「経営者が定めるべき基本的計画および方針」として、「組織にとって構築すべき内部統制の範囲及び水準」とされておりましたが、ここの文言も「適正な財務報告を実現するために構築すべき内部統制の方針、原則、範囲、及び水準」と訂正されております。この経営者による内部統制構築における基本方針、原則の明確化の意味につきましては今後いろいろと議論されるのではないかと推測いたします。

もうひとつが、このブログでも何度か議論してきました(基本的枠組みのなかにおける)「内部統制の限界」に関する記述追記部分であります。第14回資料に掲載されていた公開草案資料のこの部分を読みましたが、「内部統制を無視ないし無効ならしめることと、正当な権限を受けた経営上の判断により内部統制を逸脱することとは明確に区別される必要がある」との部分は、いったい何を記述しているのか理解困難だったのですが、この部分が「すなわち」として解説が施されておりまして、以前よりは少しだけ理解が進むようになりました。(ただ、付記されたといいましても、これだけでは内部統制の限界がいったいどこにあるのか、明確になったとは言いがたいようです)

なお、IT統制に関する基準についてはほとんど変動はないようです。コンプロさんもおっしゃっているように、今後いろんなコメントが出されて、金融庁からどのような回答が出されるのか、私も楽しみにしております。

(11月22日深夜 追記 質問コーナー)

ある法学部の学生の方よりご質問を受けました。(以下質問内容)

会社法の内部統制と金商法の内部統制について2つ質問したいことがあります。ブログのコメントで書こうと思っていたのですが、話題が変わってしまっていて書きそびれたのでメールで質問しました。

 まず、金商法の内部統制の根拠規定についてです。金商法の内部統制は会社法の内部統制の一部というのが実施基準に書かれていたと思うのですが、とすると金商法の内部統制構築義務の根拠規定は362条4項6号となるのでしょうか。このように考えると、大会社でない上場会社は会社法の内部統制義務がないので金商法の内部統制義務もないということになると思うのですが。
 次に、仮に金商法の内部統制の根拠規定が362条4項6号とすると、金商法の内部統制は会社法施行規則100条1項のどの号にあたるのでしょうか。
 突然の質問で失礼極まりないのですが、どうかご教授お願い致します。

そもそも会社法における内部統制の構築(会社業務の適正を確保するための体制整備)義務というものにつきましては、362条4項6号に求めるというのがすこし違うのではないでしょうか。(4項6号は、もし会社が内部統制の基本方針を定める場合には、いわゆる専権事項として、これを取締役会で定めなければならない、つまり個々の取締役に委任してはいけない、ということを明らかにしたものですね。これは大会社に限られるものではありません。なお、大会社が基本方針の決議をする義務は5項となりますが、これもなんらかの決議をする義務であって、内部統制構築義務とは異なりますね。)大和銀行事件の判決は旧商法のもとで取締役、監査役らに対して(一般論ではありますが)内部統制システムの構築義務があるとしておりますように、内部統制の構築義務そのものにつきましては、取締役、監査役の会社に対する善管注意義務の一貫として認められると考えるのが筋だと思います。ちなみに362条4項6号につきましては、大会社の場合には内部統制システムの基本方針について決議する義務と考えられておりますので、大会社以外の株式会社におきましても、やはり内部統制を構築すべき義務、というもの自体はその善管注意義務の範囲内において認められるものと考えられます。

たしかに、このたびの実施基準におきまして、会社法上の内部統制と金商法上の内部統制評価報告制度との融合についても「ある程度」の配慮がなされているとは思いますが、一方は企業情報開示に関する制度であり、一方は企業の効率性やコンプライアンス経営、リスク管理のための制度として作られたものですから、金商法が完全に会社法上の内部統制制度の一部である、とまではいえないものと思います。(もし完全な一部であるとすれば、監査役における相当性の判断が、この内部統制評価報告制度すべてに及ぶということになりますが、このたびの11月20日公表の資料→公開草案における若干の訂正部分のなかに、「会社法上では」と付記して、監査役の相当性判断の及ぶ範囲が会社法上の内部統制に関するものに限定されることをあえて明文化している箇所があります。そのことからも、両制度が完全には包摂関係に立たないことを示していると考えられます)ただ、私自身、このあたりはまだ十分整理された議論がなされていないと思っておりますので、またエントリーのなかででも、触れていきたいと思っています。

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2006年11月21日 (火)

社外取締役の辞任と適時開示

きょうは皆様方より、いろいろなご異論を頂戴しております。(どうもありがとうございます)とりわけコンプライアンス・プロフェッショナルさんのご意見につきましては、「マスコミの反応、もしくはマスコミの誘導と企業のレピュテーションリスク」といった新たなクライシスマネジメントに関連するものですし、問題の性質上、報道機関はあえて論点としては採り上げないものでありましょうし、これは私もかなり興味のあるところですので、また別の機会にきちんと検討したいと思います。(たしかに先日の郷原教授の講演におきましても、この点を教授が問題にされていましたよね)

さて、先週来、ちょっと気になっておりましたのはカタログ販売で有名な株式会社ニッセンの社外取締役2名が(来年2月9日付けにて)辞任する、といった開示情報が11月17日に公表されたわけでありますが、この情報を受けて、かなりニッセンの株価が下落しております(11月20日現在)。ニッセンの公表情報によるとおふたりとも「一身上の都合により」辞任する、というものでありますが、日経ニュースなどによりますと、ニッセンの子会社である信販会社の引当金問題(過払い金訴訟へ備える)や、業績不透明な時期における自己株買い推進への意見対立などが噂されているようです。(日経関西ニュースその1 その2)今年に入って「社外役員」がニュースとして話題になりましたのは、太陽誘電の社長追及、村上ファンドによる阪神電鉄社外取締役の続投指名、北越製紙社外監査役らによるポイズンピル発動勧告などございましたが、それらに次ぐ話題かと思われます。おひとりは投資ファンドの代表者の方ですし、もうおひとりは企業法務で著名な法曹でいらっしゃいますから、上場企業における社外取締役の役割というものは私なんかより、よほど精通していらっしゃると思いますが、あえて同じ「社外役員」としての立場から申し上げれば、たとえ「一身上の都合」であったとしましても、株主、一般投資家への説明責任というものは果たす必要はないのでしょうか?これは適時開示ですよね?適時開示の性格上、巷で辞任に関する憶測が流れたり、株価が急に動き出したような場合には、せめて憶測を否定したり、ノーコメントを貫く理由を説明したり、といった対応は必要ないのでしょうか。(ちなみに東証の適時開示に関するガイドラインによれば、社外取締役が辞任する場合の対応というものは掲載されていないようですが)このブログでは過去にも社外取締役の説明責任ということを検討いたしましたが、おおむね①経営者のアドバイザーとしての役割②専門家としての株主への説明責任を果たす役割③株主意思の代弁者としての役割、といったところでして、この経営アドバイザーという立場を重視するものでありましたら、「一身上の都合」程度の説明で辞任する、というのもごくあたりまえのようですが、②もしくは③の役割を重視する立場からしますと、おふたり一緒にお辞めになる、ということもあわせ考えますと、なんらかの説明が必要になるのでは・・・と(すくなくとも私は)考えてしまいます。

ニッセンの業績の急上昇を支えた功労者である方がお辞めになること、将来の収益向上が不透明な時期に自社株買いを続けること、引当金計上に関する経営陣の意見対立が生じたこと、10月19日に元従業員らが大阪地裁に「売上不足を理由に呉服を買わされた」としてニッセンと子会社である信販会社を提訴したこと等、株価に影響を与えそうな事実がいくつも存在するわけでして、こういった時期に社外取締役を辞任される場合には、なるべく株価に影響を与えないように「沈黙を守る」べきなのか、それとも様々な憶測によって株価が乱高下しないようになんらかのメッセージを公表すべきなのか、そのあたりはどう考えるべきなのでしょうか?(そもそも、功労者退任という事実以外の情報からすれば、社外取締役が辞任するといった事実とは関係なくニッセンの株価が動いている、ということも考えられますが)今後も社外役員は日本の上場企業には増加することが予想されますし、社内の経営陣と意見対立した場合の社外取締役の会社に対する善管注意義務、もしくは忠実義務の履行方法としては何が正しいものなのか、(辞任という方法も含めて)考えるべき問題ではないか、と思います。以前、ある社外取締役に関する研究会に参加した折、私が「企業不祥事を発見して、その不祥事の処理方針で経営陣と対立した場合、その会社と長くお付き合いしてしまったら、辞任はするけれども、不祥事を自ら世間に公表するのはちょっとなあ」と意見を申し上げたところ、現任の社外取締役のおひとりから「キミ、そんなこと言うなら社外役員になる資格はないよ!」とエラク怒られた経験がございます。というわけで、私個人の意見としましては、せめて「ノーコメント」を貫く理由もしくは、どういった一身上の都合なのか、もう少し説明が必要なのかな、たとえ会社側の適時開示だとしても、辞任する社外取締役の意向を盛り込んだ情報開示が必要なのではないか、と思いますがいかがでしょうか。(現にこれだけ株価が急落しているわけですから。)もう少し、適時開示に関するルールが進んでいくと、逆にノーコメント自体が、なにかのサインとして受け取られる時代が来るような予感もしますが。

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2006年11月20日 (月)

企業コンプライアンスを支える高裁判断

いよいよダスキン社も12月12日に東証・大証に上場されるそうですが、ダスキン社にとりましてホッと胸をなでおろしたくなるような判決が11月17日に大阪高裁で下されております。先の違法添加物混入の「大肉まん」の株主代表訴訟につきましては、皆様方も記憶に新しいところと思いますが、その「大肉まん」に違法添加物が混入していることを自らつきとめ、その事実を「口止め料」的に利用して、ダスキンに対して自社に有利な継続的取引契約を締結していた業者への「継続取引解除」の通告が正当な理由があるものとして、業者側の損害賠償請求を棄却した逆転判決であります。(朝日関西ニュースはこちら

スラっと記事を読んでしまいますと、「口止め料でゆすった業者に対して、企業が毅然とした態度をとるのはごくあたりまえ」と考えられますが、ダスキン株主代表訴訟の長い判決文を一度は読んだ方ならおわかりのとおり、そんな簡単にこの業者とダスキンとの関係を整理することはできないように思います。事実、原審はダスキン側の解除通告には「正当理由なし」として、業者側の損害賠償請求を認めているわけでありますし、高裁と地裁でまったく結論を異にした理由というものは、この二つの判決を読み比べますと、かなり興味深いところがあるのではないでしょうか。そもそも、ダスキンが「飲茶」事業における起死回生のヒット作として事業化をはかっていた「大肉まん」になぜ「違法添加物」が混入することになったのか、実はこれも企業の内部統制を考えるうえで非常に重要なポイントなのですが、意外にそこのところが話題になっておりません。ダスキン株主代表訴訟を議論するときも、「違法添加物」が混入していることを承知のうえで(一部取締役の指示で)販売した、というところから「全社的隠蔽に関する公表義務」までが大きく問題として取り上げられておりますが、それ以前のところが注目されることは今までなかったように思われます。(もちろん、代表訴訟の原告は、内部統制構築義務違反という争点を提起しておりましたが、「取締役に責任を認めるまでの統制義務違反があったとは認められない」として、それほど詳細な検討もなかった争点でした)

しかし、一生懸命に「ダスキンの取引業者にしてもらおう」と思って、大肉まんの試作品を作っていたこの業者が、ライバルの取引業者の製品化されたものを調査して、すぐに「なんで安価に製造できるのか、と思ったら、これは日本では使用してはいけないものが使われているからではないか」と探り当てたようですから、これをダスキン側に通告するのは当然ですよね。もしこの業者が違法添加物混入の事実を探り当てていなければ、そもそも誰もわからないままに「大肉まん」の販売が継続されていたでしょうし、企業規模の大小で判断するならば、たとえ「口止め料的な契約締結」に至ったとしましても、違法行為継続による利益は、そのほとんどをダスキン側が享受することは間違いないところでして、その違法性の大きさはダスキン側に強く認められる、と考える立場もありそうな気がします。また、どうしてこのような小さな取引業者が見つけることができた「違法添加物」を、大企業であるダスキン(こちらの製品化されたほうの下請企業も、かなり大きな企業です)側が見つけることができなかったのか、そこに内部統制構築に関する規範的な意味での要因があるように考えられますし、いわゆる「統制環境」を見直すべき原因があるものと私は考えております。(なおここから先はブログとはいえ、あまり推定によって事実を決め付けることはできませんので、ここで議論することは差し控えさせていただきます)

それでも、高裁判断が「解除を正当」としたのは、やはり違法行為への企業の決別の姿勢を強く求める態度からではないでしょうか。これは本件に限らず、談合にしても、反社会的勢力の利用にしても、大企業は、自らの手を汚さずに取引先企業を介して自らの欲する状況を実現する傾向にあります。そういった取引先企業への利益供与すら司法は許さない、といった強い意思を示すことによって、今後の企業社会におけるコンプライアンス経営を支持しようといった目的があるのではないか、と、このニュースを読んで感じたところであります。(判決を読んでまた後日、若干意見が変わるかもしれませんが、現時点におきましてはとりあえず備忘録として記述しておきます)

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2006年11月19日 (日)

企業結合規制(独禁法)と企業価値

たいへんありがたいことに、最近は法学部や法科大学院の先生方にも、このようなブログを閲覧していただいているようでして、一昨日の「内部統制と談合問題」(注記部分)のように、ちょっとしたご意見やご指摘をメールで頂戴する機会も増えました。証券取引法(金融商品取引法)分野なども、よく論稿を紙ベースで出しておられる先生や実務家の方にご意見を頂戴しておりまして、とりわけ「大証副理事長」さんの刑事事件のエントリーなども、高裁判決が公表された時点におきまして、またそういったご意見などをもとにもう少し深く掘り下げて検討してみようかと思っております。

さて、きょうは昨日に続いて独占禁止法関係のエントリーになってしまいますが、もともと独禁法は信託法と並んでとてもムズカシイ法律学だ、という印象を持っておりまして、あんまり勉強もしたことがないのですが、いよいよ来年からは新司法試験にずいぶんと多くの合格者を輩出している法科大学院の兼任教員をさせていただくこととなりましたので、関連法もある程度は勉強しとかないとマズイよなぁ、と思っております。(あっでも、大阪地裁の商事部で独禁法関係の訴訟はけっこうやってたりはしておりますが・・・、結局、体系的に勉強したことがないんですよね、これが。)他の実務家教員の顔ぶれをみましても、関西の大きな法律事務所の「プリンス」みたいな人ばっかりで、個人事務所の弁護士というのは私ひとりみたいでして、「つとまるかなぁ」と一抹の不安もよぎります。ただ年間にたくさんの授業料を払って真剣勝負で通学されている方々に恥ずかしくないプロの演習(ゼミ)をさせていただくようこちらも真剣勝負でやっていきたいと思っていますので、また来年あたり、このブログでもロースクールネタが増えるかもしれません。

長い前フリのわりには、本論はたいしたことはないネタなのですが、今朝の日経新聞の記事に「企業合併審査 シェア基準50%に緩和を」という見出しで、経済産業省が企業結合規制に関するガイドライン独自案を策定して、これを公正取引委員会に提出する、とのことが書かれておりました。合併の場合と株式保有による企業提携の場合とでは、公正取引委員会の現行指針も異なるわけでありますが、いずれにせよ、自民党が「企業統治に関する委員会」を立ち上げる予定のようで、経済産業省案はそこに「企業結合審査指針独自案」を提出して、それが政府与党のたたき台になる予定とのことです。私はこういった独禁法の専門家ではありませんので、いつもながら素人的な疑問しかわいてこないのですが、またまた「企業価値」との関係で非常に素朴な疑問を抱いております。たとえばこのたびの明星食品に対する日清食品の友好的TOBが予定されておりますが、なんとコントロールプレミアムが31%ということでして、一株870円で買い付けを行うとのこと。日清食品の社長様は、記者会見において「カップめんという一定の取引分野におきまして、51%の占有率となりますが、独禁法違反にはならないのでしょうか」との質問に「インスタント麺類全体で考えれば占有率は14%だから違反にはならない」と回答されておられました。うーーん、たしかに理屈はそうかもしれませんが、そんな厳しい競争が待っているのであれば、明星食品と資本提携(子会社化)しましても、そんなに企業価値(シナジー効果)が上がるというわけではないのでは?競争は確保されているのに、なぜ支配プレミアムを30%以上も乗せた価格で買収できるのでしょうか?これ、私ではなくても、日清食品の株主であれば、普通に発想される疑問ではないでしょうか。こういったケース、明星食品社以外の場合でも同様だと思うのですが、シナジー効果を株主に説明しなければいけない一方で、公正取引委員会には「競争状態は変わりません」と説明することに二律背反の関係は成り立たないのでしょうかね。

ちょうど「旬刊経理情報」の最新版(11月20日号)におきまして「クローズ・アップ M&Aのシナジーを実現させる事前検証の留意点」という記事が掲載されておりまして、ビジネス・デューデリジェンスのプロセス図をみてみますと(62頁)、まずは外部環境に関する調査が前提になっております。その外部環境に関する調査事項として、市場・業界に関する調査、競合状況に関する調査、顧客動向に関する調査、調達市場に関する調査とありまして、これはいずれも「競争制限」に関わる調査内容だと思われます。こういった調査をもとに内部要因に関する調査や投資回収に関する検討に進むものと解されますが、そうであるならば、やはり市場寡占状態になって、利益独り占めがある程度可能になるからこそ、企業価値アップ(シナジー効果の向上)につながる、というように読めます。しかしながら、そもそもそんな独り占めによる企業価値アップ、ということであれば、やはりシェアが50%を超えるような資本提携はかなり独占禁止法上で問題になると思いますし、輸入品が多く参入している市場であって、国内寡占だけで独禁法違反状態と認定されることがないとすれば、やはりそのこと自体が将来収益には大きな影響をもたらすはずでありましょうから、安易にシナジー効果が発生する、ということもいえないような気がします。もし市場での競争制限とは無関係に30%のプレミアムを支払うだけの企業価値向上の要因があるとすれば、むしろそのところを強調して株主に説明すべきでしょうし、先の経済産業省の独自案策定にあたりましても、競争を制限しないけれどもおおいに企業価値を向上させるのはどういった企業結合を指すのか、明確にしていただけたら・・・と思います。このあたり、日常のお仕事でM&Aに関わっていらっしゃる方がおられましたら、また(私を含め)素人衆にもわかるようなご説明をいただけたら幸いです。

(11月19日追記)

最新号の旬刊商事法務(11月20日号)に、実務家の方によるデラウエア州におけるポイズンピル最新事情が紹介されていますが、これめちゃオモシロイですね。「アメリカでは・・・」といった一括りの議論はできないようですね。たしかにピルが発動するケースというのは希少かもしれませんが、ピルをめぐってこれだけ関係者が動くわけですから、まさに防衛策は身近な存在ですね。著名な学者さんが原告になって提訴する、ということはけっこうあるのでしょうか?司法と市民との距離というのは、各国によって違うのかもしれません。そう考えますと「裁判員制度」は本当に日本に根付くのかなぁと、少し不安になってきますが・・・

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2006年11月17日 (金)

内部統制と談合問題

(11月18日夜 注記つけました)

ある新聞社の記者さんから、川崎重工社の「ごみ焼却炉入札における談合を裁判所が認定した事件」に関するコメントを求められました。11月16日、神戸市に対して13億6000万円(入札価格の5%)の返還を命じる判決が神戸地裁で下されたようです。和歌山に続いて、宮崎でも官製談合が摘発され、最近の新聞ではほとんど毎日、談合関連のニュースが途切れずに報道されていますね。これは「談合事件が増えている」とみたらいいのか、それとも改正独占禁止法によるリーニエンシー(談合を自主申告した企業の課徴金適用、刑事告発を見送る制度)が有効に機能している(つまり、談合の数は増えているわけではないが、以前なら見つからなかった談合が簡単に見つかるようになってきた)結果とみるべきなのか、そのあたりは未だよくわかりませんが、いずれにしましても、何度も同じ企業が登場することもありますし、日本の社会においては、談合というものはなくならない仕組みになっているのかもしれませんね。

今年は何度か「企業コンプライアンス」に関する講演をさせていただきまして、いつもお話させていただくのですが、企業不祥事というものは、どんなに企業が精緻な内部統制システムを築いても絶対にゼロにはならない、ただし不祥事を減らすことは可能なのであるから、その努力を怠らない企業活動こそ評価すべきである、と私は考えております。つまり企業不祥事も企業にとっては(絶対になくなることのない)「リスク」でありますから、「リスク」の企業経営に及ぼす影響度を把握して、リスク回避、リスク対応策を平時より構築しておくべきです。とりわけ何度も同じ過ちを繰り返している上場企業の場合には、内部統制システムの開示が要求されるべき、と思います。通常、金融商品取引法において議論される内部統制ルールというものは、財務報告の信頼性確保のための評価対象であって、内部統制の仕組みそれ自体が開示対象となることはありませんが、むしろここではコーポレート・ガバナンスの仕組みのひとつとして、内部統制そのものが開示の対象とされるべきであります。

なぜ「内部統制を開示すべきなのか」その理由は以下のとおりであります。それは公正取引委員会が談合摘発に動き出した時点、マスコミが報道を開始した時点で、対象企業はきまって「現在事実関係を調査中であり、コメントはできない」とリリースし、その後は他社の動き(勧告に応じるか、談合の事実を一切否認するか)を注視する姿勢に転じます。これを繰り返していること自体、企業が談合を容認している、つまり企業コンプライアンスを軽視していることを物語っております。そこで談合事件で法人が処罰された場合であれば、企業はこの「現在事実関係を調査中」なる対応をやめる方策を検討し、談合関与の噂が出た一両日中には「談合をトップが認めるか、それとも一切否認するか、その企業としての回答を出す」体制を作る必要があります。なぜなら、事前に評価可能なリスクである以上、自社のどの部署で談合が発生する可能性があるかを平時に検討し、もし談合の噂がある場合には、どの担当者の責任において、どういったシステムで何を調査すればいいのか、そのシステムを整備しておくことは可能だからであります。つまりリスク管理方法をあらかじめ開示して、有事(公取委の動き)の際には、そのシステムの運用によって企業としての情報を開示する必要があります。こういったシステムを社会に開示して、平時より運用し、そして談合発生との噂が流れたときの瞬時の企業トップの表明があれば、たとえ悲しいかな現実に談合に当該企業が関与していたとしても、その企業の談合根絶への姿勢だけは評価されるべきものと思いますし、なによりそのような内部統制システムの運用自体が、談合発生可能性を低減し、「企業ぐるみの談合容認」と評価されないための防波堤になるものと思います。上記川崎重工社にしても、いろいろと談合に関与している企業でも「最高益」をひねり出す時代ですから、談合事件への関与発覚ということが、それほど企業コンプライアンスという視点からみて重要度が高くないのかもしれませんが、談合発覚のたびに、役員がそろってマスコミ記者のまえで謝罪をして、社会的非難が弱まるのもじっと待つ・・・といった意識だけはそろそろ変えるべきではないでしょうか。「談合」と金融庁内部統制ルールとの関係はそれほど大きいものではないかもしれませんが、そういった企業の対応自身が「法令遵守を無視する経営者の態度」と受け取られ、内部統制監査の基本である「統制環境」「全社的内部統制」の評価ポイントが厳しくなることはまちがいないものと思います。

もうひとつの重要な点は、「談合根絶のためには刑罰の適用だけでは機能しない」というところです。法によるサンクションとは別に、一般社会による監視とルール無視への評価にさらす(開示する)ことも有効ではないか、という視点であります。そもそも談合によって経済的利益が企業にもたらされる以上は、その罰則が金銭的に過少なものであれば、その効用には限界があります。また、ひょっとすると時代が変わって、談合根絶による品質低下を一般社会が嫌う時代がくるかもしれません。コンプライアンスの内容は、その時代によって変容します。「談合社会をどうみるか」その時点における社会常識にさらしてみて、社会が厳しく制裁を求めるのであれば、談合に寛容な企業に対する社会的信用は毀損されることになるでしょうし、時代が談合に寛容であれば、談合規制のあり方のほうが改正されるかもしれません。談合回避のためのリスク管理を各企業がどのように考えて対応しているのか、その仕組みを開示することの重要性を十分認識され、それをIR活動としても機能させるべきだと思います。

(注記)

ある法科大学院の先生からメールをいただきましたので、付記しておきます。本件川崎重工の事件は平成12年に申し立てられたものですが、平成14年の法改正(地方自治法242条の2、1項4号)により、現在では住民自身が直接、談合に関与した企業を相手に訴訟を提起することはできなくなりました。そこで最近では独禁法25条もしくは民法上の不法行為に関する規定(もしくは不当利得に関する規定)により、発注機関である地方公共団体自身が損害賠償請求訴訟を提起しているようです。また、民事訴訟法248条(損害の性質上、その額を立証することが極めて困難である場合の裁判所による損害額算定)を利用して、談合による損害額は5%から10%と認定されるケースが多い、とのことです。(フォローしていただき、ありがとうございました)

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2006年11月16日 (木)

内部統制監査の相当性判断(2)

会計監査人設置会社におきまして、監査役が会計監査人より計算関係書類を受領した際に、会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めたときはその旨およびその理由を内容とした監査報告を作成しなければならない、とされています。(会社計算規則155条2号、156条2項2号)もちろん、これは会社法監査における監査役の「会計監査人の監査方法、結果に対する相当性」を判断することの根拠条文でありますが、それでは証券取引法(金融商品取引法)上の財務諸表監査、内部統制監査に対する監査役の相当性判断、という概念は成り立つのでしょうか?これまで、金融商品取引法における企業情報開示の問題と監査役の役割との関係、という論点はあまり議論されてこなかったように思います。筑波大学大学院の弥永真生教授も、「現在の証券取引法の下で、監査人と監査役・監査役会・監査委員会との連携がどの程度要求されると解すべきか、監査役・監査役会・監査委員会が有価証券報告書などに関連してどのような職務を行うべきかについては、必ずしも、十分に議論がなされてきたとはいえないように思われる」と述べておられます(月刊監査役11月号№519 14頁)。したがいまして、先日の酔狂さんのご意見のように、「内部統制監査について、その方法や結果の相当性を監査役が判断することはできるのだろうか」という疑問は、よく考えてみますと検討に値する論点ではないか、と(現在は)思ったりもしています。なお、誤解のないように申し上げておきますが、今回の検討の目的は、内部統制監査を監督する権限が監査役にあるのか、といった優劣を決めたいといった趣旨からではなくて、先の弥永教授が指摘されているような、金融商品取引法上の監査人監査と監査役との連携はいかにあるべきか、といったところをマジメに考えてみたい、といったところにあります。

そこで、こっから先は弁護士でありながら、会計士さんの「監査論」の領域に踏み込んで、オリジナルな考えを展開することになりますので、おおいにツッコミが入ることを承知のうえで検討したいと思うのですが、とりあえず財務諸表監査と内部統制監査というものを、概念図で示したものが以下のとおりであります。勝手に自分で作成したものですから、完全なオリジナルですが、「監査論」をきちんと学んだ経験がありませんので、ひょっとするとそういった教科書のどこかに似たような図式があるかもしれません。

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いちおう、監査態様と監査の対象を分けて考えてみました。会計士監査としての財務諸表監査については、原則としては「意見表明監査」つまり、上場企業が一般に公正妥当と認めることのできる会計基準にしたがって、算出した企業情報が正しいと合理的に保証できるかどうかを監査する、というものだと思います。「不正摘発監査」というのは私が勝手につけた名前ですが、違法な献金があったり、下請いじめなどの不当目的で得た利益など、その収入支出に違法性があった場合に、その不正に関する発見(摘発)まで認めることを目的とした監査態様であります。通常、財務諸表監査におきましては、たとえ違法な政治献金などの支出があったとしましても、また重要性が認められるほどのものであったとしましても、「使途不明金」として正しい数字が表示されていれば、それは財務諸表としては「適正である」と監査証明がなされることになると思われます。ただ、企業が情報として提出した数字自体が投資家の判断対象になりますから、その数字およびその根拠情報が監査の対象となるはずであります。いっぽう内部統制監査といいますのは、企業の内部統制システムを開示させて投資家の判断にするための「独立した監査」とすることもできますし、財務諸表監査を補強するための「財務情報の信頼性確保のための監査」と位置付けることも可能であります。とりあえず、金融商品取引法では、上場企業に内部統制システムを開示させて、その監査を行うといった態様は採用せず、あくまでも財務報告の信頼性確保のための監査としています。そして「不備がある」「重要な欠陥がある」といった意見は、あくまでも経営者が表明するわけで、監査人による監査結果は「適正かどうか」といったものに限られておりますので(もし監査人の意見として、不備がある、欠陥があるというものが存在するならば不正摘発監査とも結びつく可能性があるわけですが)、やはり財務諸表監査と同様、意見表明監査に分類されることになります。

さて、ここから先の問題でありますが、金融庁の内部統制ルールにおける監査が、経営者の意見表明に対する監査だとしましても、論理的にはアメリカのSOX法404条(これも意見表明に関する監査です)と同様に、ダイレクトレポーティングを採用することによって、情報監査も業務監査も可能となるわけです。しかしながら、日本の内部統制ルールはダイレクトレポーティングを採用しなかったのですから、ここで意見表明監査→業務プロセス監査といった関連性は消えてしまい、意見表明監査→情報監査という流れが、いわゆる会計士監査のあり方といえそうです。つまりは、経営者が内部統制の評価基準として、一般に公正妥当と認められた会計ルールにしたがって評価しているかどうか、その「あてはめ」に関して精査することが本義であって、「内部統制ができている」「できていない」ということを検討するのではなくて、会計ルールにしたがって経営者が評価しているかどうか、つまり「経営者が有効と評価するには、その判断要素として、まだこれとこれが足りないですよ」といった判断こそ、監査人に求められることになるのではないでしょうか。つまり、内部統制評価報告制度におきまして、経営者がその評価にあたって考慮すべき事項以外に、監査人も独自に調査すべきことがあるのならば、それは上記のとおり「この企業において、内部統制の有効性を経営者が評価するためには、こういった要素を判断材料にしなければいけない」といった監査人の意見形成のためであって、監査人自らが「内部統制が完璧かどうか」「内部統制に不備があるか」を判断するためのものではない、というのが論理的ではないかと思われます。

ところで監査役監査でありますが、金融商品取引法における内部統制評価報告制度も、法令に基づく制度であるために、違法性監査の領域に含まれますし、また内部統制ルールがダイレクトレポーティングを採用しなかったためにできたポケット、つまり業務プロセスに関する監査につきましても、これは経営者から独立性を保持している立場上、業務監査の一貫として可能になってくると思われますし、会計士監査とは競合しないところであります。もし本来、内部統制監査というものは、アメリカSOX法で示されているとおり、業務監査が基本であるところ、会計士責任の低減や、費用低減といった目的からダイレクトレポーティングが採用されず、情報監査で収めることとした、というものであるならば、そもそも監査人による「経営者評価の適切性を判断する重要ポイントの指摘」に問題があるとするならば、業務監査を行っている監査役がその指摘の相当性を判断したとしましても、上記の監査図式と日本の内部統制評価報告制度からみて、なんら矛盾はしないと思いますし、もっとも重要なことは、経営者による財務報告の信頼性を高めるための内部統制ルールを前提とするならば、個別企業の業務を熟知した監査役と、その内部統制監査を担当する会計士が、「評価ポイントの重要性」について協議することにあるのではないでしょうか。

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2006年11月15日 (水)

「ふぉーりん・あとにー」2.0待望論

私がこの「Weblog」という媒体に関心を抱くきっかけとなりましたのは、(日経新聞で紹介されたときにも記者さんに申し上げたのですが)おなじみ47thさんの「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」ドリコム版との出会いでありました。当時の私は、HPの更新はしておりましたが、「ブログ流行の兆し」にはあまり関心はもっておらず、西村ひろゆき氏(あの頃はまだ私が東京地裁で提訴した事件で、きちんと裁判に出廷されておられましたが)や、私の大学時代からの友人である紀藤正樹弁護士(あいかわらず、よくテレビに出演していらっしゃるようですね)のブログなるものをチラっとみて、「こんなもんがなんで流行ってるんやろか。ブログなるものを批判するためには、とりあえず自分でやってみて批判しないと説得力がないよなぁ・・・」という思いから、自分でもブログを始めた記憶があります。特別に「見てくれる人」もいないだろう、と思い、いわゆる日記風の記事と雑駁な感想で綴るものでした。ところで、なんかの検索にひっかかったんでしょうか、「ふぉーりん・あとにー」に出会ったのがブログへのイメージが変わる転機となりました。最初に47thさんのブログを読んだ感想としましては、

「なんだかコムズカシイことばっかで、ようわからんなぁ・・・」

ところが、M&A関連のエントリーを読んでいるうちに、日経新聞の内容なんかが、けっこう頭に入りやすくなりまして、そのうちエントリーのない日には寂しさを感じるようになったりしました。公認コンプライアンス・オフィサーの試験で、はじめて「ポイズンピル」なる用語に出会い、「これなんやねん?正露丸みたいなもんやろか・・」とマジメに考えていた私にとりましては、同じ法曹でも、こういった専門分野の最先端で活躍している人がいる、ということを知った衝撃ははかりしれないものでした。私にとって幸運だった(長く続けることができた、という意味で)のは、最初から「こういった人は頭の筋肉が違うなぁ」と自覚し、いわゆる「論壇系ブログ」をまねしようとは思わなかったことでありました。(これはneon98さんが登場してきたときにも思いましたねえ・・・)

そんな私のブログ歴1年半のなかで、もっとも大きな影響を与えてくれた「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」ワールドが、あと数週間ほどで終わろうとしています。(最新エントリーを拝読して、ついにきたか・・・と悟りました)三角合併論議ではありませんが、おそらく来年あたりの日本の企業におきましては、47thさんのような法曹が当然活躍してもらわないと困るわけでして、いつまでも「ふぉーりん・あとにー」でいることは所属する巨大法律事務所が許すわけもないでしょうから、個人的には「やむをえないもの」を割り切るしかないですよね。ただ、アクセス数ではひけをとらない法曹ブログは数あれど、「ローエコ」なる一種マニアックなワールドを形成できる人材はちょっとブログ界では見当たらず、一抹の寂しさを感じる方も多いのではないでしょうか。今後のご活躍はおそらく日本のメディアを通して拝見することになるでしょうから、とくに47thさんにありきたりなメッセージを送ることはいたしませんが、ブログに興味をお持ちの法曹の方々から、ぜひとも「第二のふぉーりん・あとにー」氏が登場されることを切に待望しております。(ふぉーりん の意味を今になって初めて知りました。あと2週間ほどでコメントやTBを受け付けない設定にされるそうなんで、なにかコメントをおつけになりたい方がいらっしゃいましたら、早めに対処されたほうがよろしいようです。なお、今夜は特別版とさせていただきました。またまた有益なコメントをいただきました こうじまちさん、酔狂さん、明日にでもまたお返事させていただきます。)

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2006年11月14日 (火)

インサイダー規制とコンプライアンス

先のエントリーでも少し触れましたとおり、先週土曜日に郷原教授の関西講演会に参加させていただいたのですが、そのお土産に季刊誌「コーポレート・コンプライアンス」のバックナンバーから最新号までいっぱい頂戴してきました。最新号の第8号では「証券取引法から金融商品取引法へ」というテーマが特集になっておりまして、そのなかで郷原信郎教授の「村上ファンド事件を通して考える金融商品取引法(証券取引法)」なる講演録が掲載されております。(関西講演のなかでも、この話題について解説しておられました。講演内容をあまり詳細に紹介するのはマズイかなぁと思っておりましたが、こうやって文書で公開されておられるようですので大丈夫のようですね)

この村上ファンドのインサイダー疑惑が毎日のように報道されている頃から、郷原教授は村上氏の一連の行動についてはインサイダー規制に関する構成要件(証券取引法166条)を適用するのではなく、むしろ証券取引法上のバスケット条項である157条1項で規制(捜査、公判維持)すべきである、といったスタンスで新聞に意見を述べておられました。

第157条  何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一  有価証券の売買その他の取引又は有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等について、不正の手段、計画又は技巧をすること。

今回の村上氏の行動をインサイダー取引に関する166条で網をかぶせようとしている捜査手法への意見として、郷原教授は「重要事実の決定の時期」に関する構成要件該当性に疑問を投げかけておられ、これはかなり説得的な内容であります(詳しいところをお知りになりたい方は、前記コーポレート・コンプライアンス第8号をご覧ください)ただし、だからといって村上氏の行動が刑事処罰の対象とならない、というのではなく、堀江氏をそそのかして高値でニッポン放送株を売り抜けた行動全体を捉えて、先の157条1項を適用すべし、というものであります。ただ、私のような一般の刑事弁護の経験が長い弁護士からしますと、構成要件があいまいなうえに、被告人の故意を間接事実のみから立証しなければならない経済犯罪としては、157条1項を適用するのはかなり公判維持がキビシイのではないか、と思われますし、もっと端的に166条を維持しようとする捜査機関の真意はほかにあるのではないか(つまり村上氏を157条1項で有罪にしてもおもしろくない理由がある)と考えております。

「虚偽の風説・偽計取引」と「インサイダー規制」の2点セットの有用性

ライブドア刑事事件では「虚偽風説、偽計取引」で立件し、村上ファンド事件では「インサイダー規制」で立件して、いずれも有罪に持ち込むことができるとしますと、取締機関側からすれば(誤解をおそれずに言えば)、証券市場における関係者の行動を「一般的な違法状態」に陥れることが可能になります。つまり「うさんくさいことをやっていると思われる人達」が、原則的には偽計取引やインサイダーなど、基本的には違法なことを恒常的にやっている、という状態にしておくほうが(取り締まる側にすれば)のぞましいわけです。ただし、そういった違法状態すべてを取り締まるわけには(捜査体制には限りがあるでしょうから)いきませんので、投資家に大きな被害をもたらすような企業が出てきたり、市場機能の健全性を大きく損なわせるような行動が目に付く連中を「捜査機関の自由裁量によってピックアップして摘発できる」体制を整えることが本来の目的だと思われます。たとえば、本来の捜査機関の目的が、大型の粉飾決算事件だったり、企業トップの商法違反事件としての立件だとしますと、その前提として比較的立件が容易な証券取引法違反で強制捜査をかけて(つまり別件で身柄を拘束、捜索差押をして)本来の事件の捜査へ持ち込む、とか、たとえそこまでいかなくても、捜査機関に対して挑発的な行動にでる市場参加者をみせしめ的に摘発する、といった手法をとりやすくしたい、というのが本当のところではないでしょうか。もし157条1項で村上氏を有罪に持ち込めても、この157条1項で起訴するためには、かなり大掛かりな捜査をしなければいけませんし、また無罪となるリスクを背負うということになりますと、そういった捜査機関による「立件すべき事件の選択」というに用いることは困難であります。できれば「摘発することで社会的に意義のある事件」をピンポイントに狙って捜査できるほうが、捜査する側からみても効率的なはずです。

捜査機関が「違法状態」を利用できる企業環境

私のように風俗関連企業の顧問弁護士の経験をもつ弁護士(注 いまは他の仕事で忙しくなってしまったんで、やっておりませんが・・・)からしますと、警察行政というのが、まさにこのピンポイント作戦を多用する舞台だと思いますね。たとえばちょっと目立った行動でマスコミや一般顧客に注目される「ファッションヘルス」が登場したとする。すると近隣住民や風俗産業撲滅グループより「なぜ警察は取り締まらないんだ!」と警察がお叱りを受ける。「ハイハイ、わかりました」ということで、行政処分、刑事処分でそのファッションヘルスに圧力をかけ、業務停止60日(実質的には廃業)とする。もともと(全部とは言いませんが)風営法や旅館業法、消防法その他行政法規のどっかにひっかかって、違法状態を抱えつつ営業をしている業界ですから、警察としては、「あれ、オタク裏口の階段の踊り場の面積がすこし足りないよ。じゃあ行政処分ね」「あれ、従業員名簿の形式が警察指定と違うみたいよ。じゃあ行政処分」みたいなところから始まるわけです。ほかのお店も似たり寄ったりであるにもかかわらず、ピンポイントで摘発をして、「ハイ、このとおり社会の害悪を摘み取りました」として一件落着となるわけであります。これは風俗の話とは別ですが、たとえば先日のイーホームズの藤田氏や、木村建設の篠田氏の刑事裁判におきましても、耐震偽装とはまったく別の「見せ金」(電磁的記録不実記載罪)や「粉飾決算」(建築基準法違反)で捜査しておき、最終的には耐震偽装に関する立件をめざす、といった手法も同様であります。明らかな別件による捜査であったものの、検察側はそれぞれの公判において見せ金や粉飾が「耐震偽装事件につながっていった」と論告しておりましたが、裁判所からは見事に「見せ金」や「粉飾」と耐震偽装とは「因果関係がない」と指摘されておりました。「見せ金」や「債権者に信用してもらうための粉飾」が「業界のどこもやっているほどの違法状態に至っている」とまでは申しませんが、なかには内心ドキっとされていた経営者の方もいらっしゃるのは事実であります。

おそらく、「規制緩和」「事前規制から事後規制の社会へ」「小さな政府」といった世の中の流れから考えますと、今後とりわけ証券市場の規制におきましては、こういったピンポイント作戦による市場規制はさかんになるものと思われます。一般企業におきましては、まずこういった「恒常的な違法状態」の網にひっかからないこと、これが企業コンプライアンスの要諦であると考えております。先の郷原教授のご講演における言葉をお借りするとすれば、日本の企業不祥事の特徴は「カビ型」であり、構造的なものだそうであります。会社のため、組織のため、そして業界慣行のため、といった名目のうえで倫理に悖る行動に出るということで、その環境を変えなければ企業不祥事はなくならない、とのこと。そうであるならば、なおいっそう、企業の構造的な違法状態の存否について、全社あげて一掃するくらいの気概を持たねば、ピンポイント作戦には抗えないのではないでしょうか。

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2006年11月13日 (月)

「三角合併論争」について

ここのところ、金融庁の内部統制ルールに関連するエントリーが続いておりましたし、日曜日には経済産業省も内部統制関連の情報セキュリティ対処方法を検討・公表する、とのたいへん気になるニュースもありましたので、続編を書こうかとも思いましたが、企業再編に関連する「三角合併」問題につきましても、ここ1週間ほど疑問に感じているところがありますので、そちらについて触れておきたいと思います。

13日(日曜日)から日米財界人会議が開幕した、とのことでして(東京新聞ニュース)、そのなかで争点のひとつになりそうなのが、いわゆる「三角合併」問題のようです。(外国企業が、日本子会社を利用して、株式交換による日本の企業を買収するための手法、この手続規制のあり方について、現在議論されているところです。なお法律上の問題だけでなく、株式交換に関する税制上の問題も残っております)

この三角合併問題につきましては、皆様方もご承知のとおり、株主による承認条件を厳格にすべきかどうか、ということで論争がなされており、日経新聞の11月10日朝刊では経団連副会長、在日米国商工会議所(対日直接投資委員会委員長)の双方が、それぞれ賛否両論を展開されておりました。ただ、この問題につきましては、どうも議論がかみあっていないように感じたのは私だけでしょうか。まず経団連副会長さんのご意見は、(そもそも三角合併については敵対的買収では利用できない、という意見があるが・・・との質問に対して)「敵対的買収に(三角合併が)使われることが100%ないとはいえない。たとえば発行済株式の3分の2を現金で買収した後に取締役を送り込み、残りの3分の1は株式を対価とすることもありうる」とされておられますが、そんなに心配であるならば、発行済株式の3分の2を現金で買収されない方法を考えるべきでして、そこはまさに公開買付ルールと敵対的買収防衛策をどうするか、会社を支配する株主のあり方について企業はどう考えるか、という問題に帰着します。したがいまして、三角合併の要件厳格化のための理由付けとしては説得力に乏しいように思われます。

さて、要件厳格化に反対する立場の有力根拠である「三角合併はいわゆる合併契約が必要であり、法律上、友好的買収にしか使えない(株主総会に提案するには取締役会の承認が必要)ので、三角合併自体に対する外国企業による脅威というのはありえない」との主張についてはどうでしょうか。たしかに私はこれは筋が通っており、同友会の代表理事の方も要件厳格化に反対する個人的意見を述べられたことも、正当な判断かなぁと思っておりました。しかしながら、スティールパートナーズが明星食品に対してTOBを仕掛け、これに対抗して明星食品がいろいろとホワイトナイトを探して難渋している様子をみておりますと、もし三角合併の容易化が進めば、外国企業もホワイトナイトとして手を差し伸べる余地が増えてきて、結果的には海外ファンドも、事業規模拡大を狙う外国企業も美味しい思いができる可能性が高まるのではないでしょうか。あまりこんな発想はどこの新聞にも書かれていないようですので、どっか根本的な誤りがあるのかもしれませんが、もしこういった図式が本当に予測されるものであるならば、「三角合併は敵対的買収には使えない」とは一概には言えないものと思います。今年に入ってアメリカでは大型のM&Aが急増しておりますし、海外ファンドでは金余り状態。そのうえ最近の日本の上場企業では、業績見通しへの経営者の慎重姿勢を反映して「好業績でも株価が上がらない」状態が続いているとのこと(金曜日の日経朝刊)。こういった情勢のなかで、やはり三角合併の承認手続きの厳格化という要請は(特殊決議の要件とする、ということは法制度上かなり困難だとは思いますが)、すくなくとも気持としてはわかるような気がいたします。

それにしても「好業績でも株価低迷」というのはどうなんでしょうか。よく買収防衛策を導入しないと宣言する経営者の方が、記者発表の折に「うちの企業は業績を上げることが最良の防衛策と考えている」とかっこよくおっしゃっておりますが、業績を上げても株価に反映されないのであれば、それは将来収益力を持ちながらお買い得な企業、といった評価につながってしまって、むしろ格好の買収ターゲット企業になってしまうんじゃないでしょうかね。四半期開示が恒例になり、短期の下方修正をおそれるあまり慎重な業績見通しになってしまうのが仕方ないのであれば、やはり買収防衛策を導入して、ともかく株主利益の最大化のための施策を十分検討できる体制を整えておくことも、そういった時代背景であればやむをえないのかもしれませんね。

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2006年11月12日 (日)

「酔狂さん」の疑問に答える(内部統制監査の相当性判断)

きょう(11月11日)は、お昼から郷原信郎先生(桐蔭横浜大学法科大学院教授)によるコンプライアンスと企業法に関する講演(関西講演)を拝聴してまいりました。フルセット・コンプライアンスに関する郷原先生のお考えにつきましては、かねてよりたいへん興味を持っておりまして、何点が意見交換もさせていただき、非常に有意義な3時間半でありました。とりわけコンプライアンス経営における「環境整備」につきましては、日本の企業の抱える問題などをどう払拭していくべきか、そのあたりのヒントなども頂戴しまして、またエントリーの中でいろいろと考えてみたいと思っております。(あっ、そういえば、このブログに登場されるコンプライアンス・プロフェッショナルさんもお越しになっておられたような気がしましたが・・・)

さて、私よりも大先輩の(恐縮してしまいますが)監査役でいらっしゃる「酔狂さん」より、内部統制監査に関しまして、コメントを頂戴しました。(たしか2回目ですよね。先日は叱咤激励のコメントを頂戴した、と記憶しております)また藤野正純先生(システム監査にたいへん造詣の深い会計士の先生です)からも、たいへん貴重なアドバイスを頂戴しました。(藤野先生の事務所に、システム監査の方法についてお教えいただくために伺ったのは、もう1年半ほど前のことになりますね。当時なんの面識もなく伺ったにも関わらず、いろいろとご指導いただき感謝いたしております。また、システム監査に関する藤野先生作成にかかる冊子を頂戴し、何度も読み返しておりました。ちょうど内部統制評価報告実務の実施基準が出たところで、またIT統制に関してお教えいただくためにご連絡をしようかと思っておりましたところです。どうもコメントありがとうございます)藤野先生のご指導の点につきましては、また平日の「その2」のエントリーのなかでさらにご質問させていただくとして、監査役という立場からの「酔狂さん」のご質問に対して考えてみたいと思います。

1 内部統制監査の相当性判断について

酔狂さんの第1のご質問は以下のとおりです。

第1は、内部統制監査の相当性判断は誰がするのか、しないのか、ということです。私自身は、単純に、会計監査の相当性判断は監査役に委ねられていますので、会計監査の補助監査である内部統制監査についても、監査役が相当性判断をするものとばかり思っておりました。ところが監査案を見ても、そういった記述はどこにも見当たりません。あるいは、内部統制監査は会計監査の一部であり、会計監査の相当性を監査役が判断するのであれば、そこでまとめて判断すればいいのではないか、との趣旨とも受け取れます。本当にそういう解釈なのか、どなたか、ご存知の方がおられましたら、ご教示ください。

監査役による会計監査の相当性判断の根拠条文は会社計算規則155条2号によるところだと思われます。おそらく会社法上の会計監査につきましても、その補助監査として、試査の範囲を確定するために、これまでも内部統制監査がなされてきたのではないでしょうか。しかしながら、このたびの内部統制評価報告制度における内部統制監査につきましては、あくまでも証券取引法(金融商品取引法)上の(投資家のための)財務諸表監査の一貫(もしくはこれと一体となった監査)として創設された制度だと認識しております。いちおう公開草案(資料)のなかでも、「財務諸表監査人と内部統制監査人は同一監査法人における同一の担当者によるものでもいい」と記述されておりますし、また会計監査人と財務諸表監査人とは通常は同一の監査人が務められるでしょうから、(実質的には)会計監査人の内部統制監査という概念も考えられるのでしょうが、形式的には無関係であるために、金融商品取引法上の内部統制評価報告制度のなかでは「監査役の相当性判断」については検討されていないものと思われます。

2 日本版SOX法と監査役の立ち位置

さらに第2のご質問は以下のとおりであります。

もう一つは、内部統制監査の中で、圧倒的に重要なことは、経営トップの業務執行が内部統制に反していないかどうかをチェックすることと考えています。評価報告案で、全社的内部統制が有効であれば高く評価されるとのことですが、取締役会の有効性よりも、経営トップの有効性のほうがはるかに大事ではないかと思います。この点、日本監査役協会では、監査役監査基準において、それはまさしく監査役の職責である、と宣言しています(第2条)。いろんな専門家がばらばらに活動するよりも、集積効果を発揮するほうがはるかに強力ではないかと思います。

証券取引法(金融商品取引法)上の財務諸表監査にせよ、新設される内部統制監査にせよ、それらはいずれも経営者による意見表明への監査、というスタンスがとられています。(経営活動を計算書類として表した経営者の意見への監査、その計算書類が出てくるシステムがある一定水準の正しさを確保している、という経営者の意見への監査)したがいまして、「経営トップの業務執行が内部統制に反しているかいないかのチェック」という概念が、もし業務執行監査という意味でしたら、それは監査人(もしくは公認会計士)としての職務範囲を越えたものになってしまうと思います。たしかに、経営者が企業の内部統制を無視もしくは逸脱した行動に出ていることを内部統制監査人が知りえた場合の対処ということも考えられますが、そういった場合には経営者のそういった態度自体が「全社的内部統制の重要な欠陥」と「評価」される場合もあると思いますが、その行動チェックということにつきましては、あくまでも取締役会に報告する、監査役に報告する等、差止の権限と職責を担う監視部門へ委託することが基本になるのではないでしょうか。このように考えますと、日本監査役協会の監査基準の内容とも整合性があると思われますが、いかがでしょうか。ただし、会社法上の会計監査についてでありますが、会計監査人の監査については監査役がその相当性を判断するとされていながら、金融商品取引法の世界においては監査役による代表者の業務執行のチェック機能について「統制環境」もしくは「全社的内部統制」の評価対象とする、となっておりまして、この監査人と監査役との上下関係(指揮監督関係でみた場合の優劣関係)には理論的にみたところの曖昧さが残っていますよね。バラバラに活動するよりも、集積効果を発揮できるようにすべき、とのご指摘は私も同感でございます。このあたり、企業実務のおいて大きな混乱をもたらすほどのものでもないと考えておりますが、やはり監査役から見た会計監査人、金融商品取引法上の監査人との協力関係のあり方を考えるにあたりまして、ちょっと今後の理論的整理を必要とするところかと思います。

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2006年11月11日 (土)

知的財産の客観的評価の必要性

PS3が発売と同時に売り切れてしまったというニュースがにぎわっておりますし、12月2日には任天堂のWiiが発売予定ということでありまして、ゲーム市場は相変わらずのブームのようですね。私はPS2と少しばかりの「F1ソフト」くらいしか持っておりませんので、ゲーム業界のことを語る資格はございませんが、ゲームソフトの開発から販売に関連する契約に若干携わっておりますので(もちろん、内容につきましては高度な守秘義務がございますので、ここでは申し上げられませんが)、この業界における開発には「スピードが命」ということはよく存じ上げております。

昨年8月のエントリーで「無形資産の時代」というものをアップしましたが、そのときに京大と大和證券さんが、産学連携で無形資産の市場価値に関する共同研究を開始した、との報道について書かせていただきましたが、その後どうなってるんでしょうか?実はこういったソフト開発に関する契約(開発から広告、製造、販売に至る契約関係)というのは、ずいぶんと最先端の法律関係で組み立てられていると思いきや、実は旧態依然なんですね。なかなか金融機関から開発費用がおりない。過去にヒット作をとばした企業であっても、その会社の信用力というものが乏しい場合には、融資がおりないのです。そこで中間に大手企業の関連会社をかませて(つまりゲーム業界に関する素人集団)、信用力を補完したり、金主(ファンド)を別に用意して共同開発に近い形にして開発にとりかかる。ところで、スピードが命である一方で、ゲームソフト開発というのは非常に世に出るまで時間がかかるものなんですね。α版、β版を経て約1年、つまりこういった法律関係が形成されるのは、実際に1年先を見越してとりかかる必要があるわけです。PS2の人気ソフトがイタリアでは(その残虐性のために)発売中止になるとの報道(毎日新聞ニュース)がなされておりますが、そういった問題が開発途中で発生した場合には、開発サイドとしては大きな痛手を被ることになりますし、ましては似たようなソフトが先に発売されてしまいますと、大きな損失を受ける可能性もあるわけです。

ということで、スピードこそ命ではありますが、先のとおり中間に大手企業の関連会社などが入っておりますと、役員会で承認を得るまでに1ヶ月待たなければいけないとか、(私と同様)素人なもんですから、開発会社側にへんな要求が返ってきたり、ということでなかなか先に進まないということになってしまいます。こういった現実にぶつかりますと、やはり「無形資産の客観的評価」という世界ができないかなぁと痛感しますね。そういった世界があったら、金融機関からの融資も現状よりはもうすこしスムーズになりますし、信用補完のための中間会社は不要になりますから値段も下がりますし、なんといっても開発のスピードが上がるでしょうし。ただ、昨年の関連エントリーの際に、数名の方からご指摘を受けましたように、税務上の問題や、市場形成の要素がそもそも欠落している、といったことから、こういった市場形成のムズカシサはなんとも容易にクリアできないところだと思いますし、産学連携の共同研究というものが、どういった進展をみせているのか、なんとも将来の知財取引の可能性のために気になるところであります。とりわけ開発作業の近くでみておりますと、ゲーム素材を見つけてくる天才や、ゲーム化のための天才達が存在していたとしても、それを商品化するまでのチームスタッフの共同作業がなければ完成版に至らないわけでして、この「共同作業」もおそらく大きな企業価値を構成する部分だと思います。こういったところが無形資産のなかでどう評価されるのか、そういった関心もございます。

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2006年11月10日 (金)

続・上場企業からみた内部統制ルール(実施基準)

皆様、昨日のエントリーには、たくさんのコメントありがとうございます。「井戸端会議をしましょう」と言いながら、お寄せいただきましたコメントはかなりハイレベルなものでして、私がすぐにツッコミを入れることができるものでなく、たいへん勉強になりました。またこの公開草案(資料)につきまして、多くの関心が寄せられていることを再認識した次第であります。また、各コメントに対しましては別途、お返事させていただきますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします。なお、grandeさんの「SBIの負ののれん」解説(これはなかなか力作ですね)や、ligayaさんの「日本版SOX法は監査法人対策?」なるエントリーは、さすがに内部統制コンサルをされていらっしゃる会計士さんだなぁと関心させられるものでして、興味をそそられるところですね。会計士さんのブログはたくさんございますんで、またご自身のブログで、この日本版SOX法(金融庁内部統制ルール)関連のものをお立てになった折には、ぜひともTBやコメントなどでお教えいただけますと幸いです。

さて、昨日は公開草案(いまだ資料ですが)の印象(その1)でして、きょうは(その2)を書こうかと思っておりましたが、「そもそも論」のところをすこし整理したいと思い、「続」としておきました。何度も申し上げますが、私のブログは経営者サイドからの視点で内部統制ルールをどうみるか、というところに関心がございますので、あまり会計専門家的な視点ではないかもしれません。どうか、そのあたり「値引き」して考えておいてください。

1 そもそも現在、「内部統制に不備がある上場企業」は存在するのか?

公表されている公開草案(資料)の有効性評価の基準(一般に公正妥当と認められる評価基準)に基づいて、経営者が「内部統制に不備がある」と評価できる上場企業というのは、そもそも現時点で存在するのでしょうか?現時点で「存在する」と考えた場合、これまでの監査法人による財務諸表監査は果たして有効なものであったといえるのでしょうか?たとえば、これまで財務諸表監査を担当していた監査法人の担当者としては、内部統制の構築に関するアドバイスを企業側に行い、「こんなんじゃ内部統制としては不備ですよ。これを有効と評価されたら、うちは不適正意見しか書けませんよ」と指摘したときに、企業側からは「じゃあ、いままで不備な統制のうえにオタクらは適正意見を書いていたんかいな?」と突っ込まれることはないのでしょうか?監査法人側は、こういった上場企業側のツッコミに対して、どのように回答されるのでしょうか?

私は「枠組み案」26頁以下の「財務報告に係る内部統制の構築」の部分を読んでおりまして、どうも「構築」という言葉に違和感を覚えます。これは「ITの利用」というところを読んでおりましても、同様の違和感を覚えているのですが、世間の理解と、この実施基準にいうところの「構築」の意味にズレがあるんではないかと思えてしかたありません。「構築」というのは「今よりももっといいものを整備する」という認識を持つわけですが、本当は「とりあえず今の状態を正常と考えて、これから不正が発生するような状況に陥らない方策を整備する」というのが、ここでいうところの「構築」である、と理解するほうがいいのではないでしょうか。枠組み案の26頁以下の構築の要点を読んでみますと、いかにして、現状の仕組みが適正に運用される方法を整備するか、という視点で書かれておりまして、どのような仕組みを新たに作るべきか、というところはほとんど記述されていないわけであります。おそらく内部統制に不備がある場合には、財務諸表監査において無限定適正意見は書けない、というところから出発するのであれば、とりあえずは現状では内部統制は有効性に問題がない、ということを前提に考えないとおかしなことにならないだろうか・・・と、会計学には素人ながら、疑問を持つところであります。

2 そもそも「内部統制構築」ではなく「内部統制運用」ではないのか?

IT統制といいますか、ITの利用といいますか、世間でもっともヒートアップしている話題が、この「日本版SOX法とIT統制」の関係だと思うのですが、この公開草案(資料)では、とくに上場企業がITを利用していなくても「情報システム」は手作業でまかなえる(つまりは内部統制の有効性は評価できる)というところから出発している点ですよね。(「情報システム」という用語とITはまったく関係ない、ということが書かれてあります)これ、以前私が「コンピューターを利用していなくても、電話とファックスさえあれば、理論的には内部統制が有効と評価できる」という(いわばアンチテーゼとして)ことをエントリーで書きましたが、基本的にはこの公開草案も同様の視点から出発しているようです。もし、現在、パソコンを使わずに、売掛金も棚卸資産も電話とファックスと手帳だけでまかなっている上場企業があるとしたら、その企業はいちおうそれで持続的成長を果たしてきたわけですから、現状は内部統制が有効に機能していると評価してもいいわけです。ただ、「不正会計の発生するおそれ」とか「虚偽記載の発生する可能性」ということを考えますと、一事業年度にわたって(もしくは比較可能性を保証するために多年度にわたって)、ずっと同じ運用がなされるべきシステムとか、間違いが発生したときに、最小限度の虚偽記載の発生で抑制できるシステムというのは、「今後のリスク低減の目的」のためには検討する必要性はあるわけです。つまり「いまある仕組みはそれでいいけれども、運用にあたってミスや経営者不正を発生させるリスクはありますよ」ということは監査人としては堂々と言えるんじゃないでしょうか。ひるがって、IT統制以外の点について考察してみましても、内部統制の構築といっても、結局は「運用が安定するために必要な整備」こそ「構築」と表現されているだけであって、とりあえず現状の体制を見直して、その体制の理想的な運用に必要な部分だけを整備すれば足りるのではないか、それが日本版SOX法が金融商品取引法に導入された目的とも合致しますし、それで日本版SOX法の役割は果たせるのではないか・・・と考えたりもしておりますが、いかがでしょうかね。こんなことを申し上げますと、日本版SOX法を「ビジネスチャンス」と捉えていらっしゃる方々に、ものすごーく怒られてしまいそうな気もしますが。でも、経営者サイドからしますと、この公開草案(資料)を読んだ後に、そういった疑問が素朴にわいてくると思うのですね。株主からの評価対象となって、ガバナンスと結びつく会社法上の「体制整備」とは異なり、この金融商品取引法における内部統制というのは、財務諸表監査と関連しており、「財務報告の信頼性」と結びつくものであるがゆえに、こういった疑問が発生してくるのかもしれません。また、日本版SOX法(内部統制ルール)というものを、上場企業すべてにヨーイドン!で同じルールを適用しようと決めたときから、こういった問題点を内包せざるをえない運命にあったと考えてもいいんじゃないでしょうか。

(追記)昨日は、私の所属する弁護士団体の幹事会関係で飲食の後、帰宅してからエントリーを書きましたので、朝読みますとかなり不明瞭な文章がありました。ちょっとだけ手直しいたしましたので、念のため。

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2006年11月 9日 (木)

上場企業から見た内部統制ルール(実施基準)

(11月9日追記あり)

TBをいただいたligayaさんをはじめ、もうすでに監査に携わっていらっしゃる方々はご承知のことと思いますが、11月8日、金融商品取引法上の内部統制評価報告実務に関する実施基準(案、とりあえずまだ資料の段階)の内容が明らかになりました。(金融庁のHPに6日の内部統制部会の資料としてPDF形式にて掲載されております。正確には、11月20日の内部統制部会で確定してパブコメ案公開ということでしょうが、報道では6日の部会ではあまり異論が出なかった、ということでしたから、そのまま公開草案となるのではないでしょうか)ついに内容が判明しましたね。待望の「実施基準」の全貌が明らかになりました。みなさま、もう一読されましたでしょうか?どんな印象をお持ちでしょうか?今後私のブログでは、この内部統制ルール(実施基準)の内容につきまして、いろいろと検討していきたいと思っておりますので、内部統制の基本的枠組み(案)=「枠組み案」、「財務報告に係る内部統制の評価及び報告(案)=「評価報告案」、財務報告に係る内部統制の監査(案)=「監査案」そして昨年12月に出されました「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」=「あり方案」と称しまして、話を進めていきたいと思っております。(できれば、あまり高尚なものではなく、井戸端会議的なコメントを頂戴できれば・・・と思っております。せっかくのブログですから、楽しくやりましょう)

ほぼ100頁ほどの実施基準の内容を、ザーッとですが読み終えました。まず、この実施基準を上場企業の役員という立場から一言で申しますと、「内部統制、金があるなら金を出せ、金がなければ人を出せ、人がいなけりゃ知恵を出せ、知恵もなければ汗を出せ」といったところです。要は営業ばかりに目が向いている企業ではなくて、管理部門からマジメに企業価値を考える企業が報われるような評価体系になっているのではないか、お金がなくったって、誠実に会計不正なき社内体制の整備に取り組む企業は報われるのではないか、というのが第一印象です。ガチガチのマニュアルでない分、各企業の創意工夫によって財務情報の正確性を高めることを期待されたものと言えるのではないでしょうか。いろいろと申し上げたいことがございますが、とりあえず第1回目ということで、以下の点のみ指摘させていただきます。どうか、公開草案へのコメントを検討されている方を含めまして、またご意見なども頂戴できましたら幸いです。

まず、私のブログで予想していたところと大きく「はずれていた」部分がございます。評価報告案の2ページ以下です。ここのところ、ブログで「内部統制ばかりに目を向けていてはいけない。これからは内部統制と同様、開示統制についても検討しなければ」などと申しておりましたが、経営者の財務報告の評価範囲として、連結財務諸表、財務諸表のほかに「財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等」としまして、「提出会社の状況」や「コーポレート・ガバナンスの状況」など、多くの財務諸表以外の開示事項が含まれております。私はこのあたりは適時開示情報と同様、経営者の確認書によって正確性が担保されるもんだと思っておりまして、内部統制評価報告制度とは無関係だと認識しておりましたが、内部統制評価の範囲に含まれておりました。(どうも失礼いたしました・・)しかし、そうなりますと、こういった財務諸表以外の開示情報につきましても監査法人(もしくは公認会計士)によります監査証明の対象になるということでしょうね。こういった開示情報が正確に開示される仕組みといいますのは、これまでの会計専門職の方々の監査のお仕事にあったのでしょうか?それとも新たに公正妥当と認められる監査の方法が検討されるということになるのでしょうか?投資家が非財務情報(と一般に言われているところ)をこれまで以上に重視するようになれば、こういった開示情報の重要性はますます高いものになるでしょうし、何を開示するか、開示するまでの情報管理はどうするかなど、とても重要な手続になると思いますし、今後の大きな問題点だと思っております。

この財務報告の範囲に関するところ以外には、さほど大きく「はずした」と思われるところはございませんが(そういえばQ&A方式の100問になってる・・・と噂されておりましたが、どこにもそんな体裁はありませんよね?誰がそんな噂たてたんでしょうか?これは私も信じておりましたけど・・・笑)、「企業実務に大きな影響が出る」と思われる部分は多々見られるところであります。まずは「内部監査人」の存在ですね。予想どおり実施基準におきましても、内部監査人制度の充実が不可欠な要件とされております。経営者による「恒常的なモニタリング」も必要ですが、それとは別になによりも独立性を維持した内部監査人の存在を要求されています。これ、大きな上場企業であれば当たり前の話でしょうが、中小の上場企業において、兼業でなく、身分的にも他部署からの独立性を保証された、しかも財務報告の信頼性を評価するための「内部監査人」という存在は、かなりキツイのではないでしょうか。内部統制監査人と同等に連携できる知識と能力が必要でしょうし。ということで、この内部監査人の存在価値は「評価」でも「監査証明」でもかなり重要なポジションになるような気がいたします。

また、内部監査人や監査役と内部統制監査人との連携ということとの関係で申し上げますと、基本的に内部統制監査人(監査法人、公認会計士)による非監査業務、つまりアドバイス業務はオッケーと説明されていますね。もちろん内部統制の整備運用に関する有効性評価の最終決断は経営者に委ねられておりますが、以前ブログで疑問を呈しておりましたように、後で経営者と監査人で「評価範囲にくいちがいがあると困る」ということになってしまいますので、やはり内部統制監査人のアドバイスについては監査基準に反するものではない、ということを明記されたものと思われます。したがいまして、企業側としましては、できるだけ早期の段階で監査人にアドバイスをもらう必要がありますね。とりあえず、どんどん疑問点は担当の監査法人と膝すり合わせて解消していくほうが現実的ではないかと思います。

あと企業側としての考えドコロは「金融商品取引法上の内部統制と会社法上の内部統制との融合」つまり、別々に対処するのではなくて、一挙に対処する方法はないものか、と思い悩んでいらっしゃる部署も多いのではないかと思います。たとえば枠組み案の26ページ以下におきまして、財務報告に係る内部統制の構築に関する記述がございますが、そのなかで内部統制構築のプロセスの一例としまして、会社法による内部統制の基本方針の決定からスタートする「基本的計画及び方針の決定」が提示されております。これは部会の委員の方が、かなり「融合」を意識された結果ではないかと思います。また上場企業の業種や組織のあり方によりましては、全社的内部統制の有効性が高く評価される場合におきましては、業務プロセスにおける評価範囲は狭く解することも可能になっておりますので、経営者レベルでのガバナンス(たとえば取締役会、監査役制度など)がしっかりしていれば、それだけでかなり高い確率で監査証明に好印象を与えることになると思われますので、こういった部分におきましても「融合の知恵」を発揮する余地はあるのではないか、と考えております。

なお、全社的内部統制の評価に関する一例が評価報告案の末尾に添付されておりますが(財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例、なる部分)、これもブログで以前ご紹介いたしましたCOSOの「中小上場企業向けガイダンス」の内容に極めて近似しております。ガイダンスではこの項目をもう少し詳細に記述した「属性」が掲載されておりますので、そういった属性部分を自社の全社的内部統制の構築および運用方法に応用することも有益ではないかと思いますね。またIT統制につきましても、とても興味深い内容になっておりますが、これは別の機会に検討してみたいですし、他のご専門の方々のブログなどを拝見させていただきたいと思っております。とりあえず、第一印象をとりとめもなく書かせていただきました。(つづく)

(11月9日お昼 追記)

そういえば二つ前のエントリーにも書きましたが、報道では「企業に内部統制上の不備、重要な欠陥に関する公表義務」なる記事内容がありましたが、これはいったいどこを指しているんでしょうか。ひょっとして評価報告案24頁最終行からの「④不備の報告」のところのことを指しているのでしょうかね?これは年度内における不備発見時の対応方法をごく普通に記述しているところでしょうから、とりわけ重要な部分ということもないような気がします。(もし、他に監査法人への公表、報告義務といった記述がありましたら、どなたかご教示いただけませんでしょうか)しかしこの「不備の報告」の記述はわかりにくいですね。7行にわたっていますが、一体誰が報告するのか、主語がはっきりしていない文章になっていて、誤解を招くおそれ大だと思います。

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2006年11月 7日 (火)

金融庁内部統制ルール公開間近(その3)

昨日はコメントを一件も頂戴しておりませんが、こんな「場末のブログ」におきましても、日経にご紹介いただいたとき以来の4500アクセス(PV/日)を頂戴いたしまして、さすがに内部統制評価報告制度の動きがあることへの社会的関心の高さというものを感じました。(どうもありがとうございます)ただ、ご覧の通り、会計専門家の方々のブログに比べますと、はるかにレベルは低いものであります。おもに「企業価値」に関わる問題を「社外役員」という視線から考える姿勢につきましては、ブログ開設当初から一貫しているつもりでおりますので、この「内部統制」ネタにつきましても、そういった観点からの意見としてご理解いただけますと幸いです。なお、先日、監査役サポーターさんよりご教示いただきましたJICPAジャーナル11月号の「内部統制監査期待ギャップ」(北大大学院の蟹江章教授)、読ませていただきました。これ、お勧めの論稿です。といいますか、眠い目をこすりながらブログを更新しているもので、どことなく表現に不明瞭なところがある私のブログと違い、蟹江先生の「内部統制への社会の期待と、実際の内部統制についての経営者評価および監査の現実、とのギャップへの警鐘」は問題点をズバリ整理されており、私が言いたいところを、さすがに学者の先生、キレイに指摘されておられます。今後、公表されます内部統制評価報告制度の実施基準の具体化、といったところにおきましても、非常に参考になるのではないかと思います。

さてさて、すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますし、また明日(11月7日)の日経朝刊あたりでは詳細な記事が掲載されているかもしれませんが、少しずつではありますが、11月6日の金融庁企業会計審議会内部統制部会に提示されました内部統制に関する経営者評価とその監査に関する実施基準の中身が判明しはじめたようです。私は「審議会委員」などとは縁遠い存在ですので、はっきりしたことはわかりませんが、おそらく審議委員の方への取材などによって、少しずつ内容が判明していくのでしょうね。次回内部統制部会の開催は11月20日が予定されており、おそらくその週に公開草案が公表される、ということになりそうですね。HPの性格上、IT統制関連の話題が中心になっておりますが、11月6日時点におきましては、以下のような記事がアップされております。

日本版SOX法「実施基準案」がついに登場、IT統制に関して例示

日本版SOX法実施基準案がついに公表、正式決定は1月か

「売上高3分の2以上を目安に業務を選定」、内部統制基準案を公表

どの記事におきましても、IT統制に関する基準を中心に紹介されておりますが、記事をお読みになっておわかりのとおり、どれも「経営者からみて、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準とは何か」を意識しながら基準が策定されている、ということであります。ITに関しては数値を記載して厳格な対応を求めるようなことはなく、企業の主体性に任せること、組織に新たなITシステムの導入を要求したり、既存のITシステムの更新を強いるものではない、と記事に掲載されておりますのは当然のことだと思われますし、むしろ実施基準は、企業活動から出てくる数字が正確に財務諸表に反映される仕組みを構築するためにはITシステムが重要であること(便利であること)を経営者に喚起させるところに本旨があるものでしょう。たとえば既存のシステムを再検証してみて、そこで不足しているところは、外部専門家を活用して、経営者と外部専門家が既存のITシステムの効率的な活用を検討することでも、「内部統制の有効性を評価する方法としては、一般に公正妥当と認められる基準である」と考えていいのではないでしょうか。金融商品取引法における内部統制評価報告制度の導入は、もともと経営者不正を防止するところに目的があるわけでして、その「不正」に故意犯だけでなく「過失犯」まで含めるとしますと、現実の経済活動から発生する数値が、正しく財務諸表に反映されないプロセスを経営者が放置することが「過失犯」にあたるわけですよね。(なお、誤解のないように申し上げておきますが、この「過失犯」なる表現は、刑罰に該当するもの、という意味ではなく、責任を問われてもしかたないほどの不注意、という意味で用いております)「まちがったプロセスが放置されていること」を経営者の「不正」に結びつけるには、そこに結果回避可能性が存在しなければ責任を問うことはできません。これは有価証券報告書に経営者の「確認書」を取り付ける趣旨と同じだと思います。故意に虚偽記載をする場合だけでなく、「虚偽とは知らなかった」なる経営者の態度についても責任を問えるようにするために「確認書」の法制化が図られるわけですね。つまり「経営者が内部統制を構築する場合、ITシステムは便利だけれども、もしITシステムを使うんだったら、その短所の修復方法までしっかり管理できることが前提ですよ」ということですね。したがいまして、上記の記事では「経営者はIT基盤の概要を把握することが求められる。具体的な例としては、ITに関与する組織の構成、ITに関する規程、手順書、ハードウエアの構成、基本ソフトウエアの構成、外部委託の状況など」と実施基準案の内容が紹介されていますが、どれもITの有効的活用を考えるのであれば、それが学習機能をもった「人間」ではない以上、自立的回復は期待できないために修復への経営者による統制まで求められるのは当然のことと思われます。いっぽうで、ITに頼らなくても財務諸表の正確性を確保できるだけの人的組織を具備している上場企業であれば、その人的組織そのものが一般に公正妥当と認められる有効性評価の基準になるのではないかと思います。なぜなら、ITと違って入力エラーなどの発生する可能性は高いかもしれませんが、システムの支障によって間違った操作が継続する、という可能性はぎゃくに低いわけで、経営者が内部統制上の不備を放置する、といった可能性にも乏しいわけです。

リスクコントロールマトリックスを含めた「文書化3点セット」につきましても、これはごく基本的なもの(私が社外監査役を務める企業におきましても、すでに構築済であり、運用テストの段階に入っております)ですし、内部監査人の独立性が重要視されていることなども抽象的ではありますが、内部統制評価の基本であると考えられますし、全体を見てみないとはっきりとしたことはわかりませんが、やはり日本版SOX法は「経営者による評価のためのもの」「監査は業務プロセスには及ばず、あくまでも経営者の意見表明に対するもの」といった基本スタンスは貫かれているのではないか、という感じがしております。

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2006年11月 6日 (月)

金融庁内部統制ルール公開間近(2)

すでにご承知の方も多いと思いますし、いくつかのブログでもコメントが出されておりますところですが、日経新聞の日曜朝刊の一面と三面に「金融庁が2008年度決算から上場企業に義務付ける内部統制制度について、監査のガイドラインをまとめた」として、そのガイドラインの内容が少しばかり紹介されています。取締役会の承認を経ない重要取引など手続が不備な場合に純利益が5%以上変動するおそれ(業績悪化の場合だけでなく、業績拡大の場合も含む)があれば企業には公表義務がある、粉飾の起こりやすい売上高、売掛金、棚卸資産を監査の重点項目とする、(西武鉄道事件で問題となりました)株主偽装のように、株主の状態に問題がある場合などは5%の基準にあてはまらない場合であっても公表を求める等となっております。このほかにも、たしかQ&A形式で100項目程度の評価指針が規定されるとか、いくつかの情報が得られているところです。昨年12月に「基準のあり方」が策定されているところですが、この「基準」と、それを具体化するはずのガイドライン(実施基準)の関係はどうなっているのでしょうか。少し情報として聞いているところですと、経営者評価の部分は別々で、監査人による監査基準については一体化している、というものらしいのですが、まだ公表されるものを見てみないとよくわかりません。

新聞報道だけでありますので、また公開草案がリリースされた段階で詳しく検討してみたいと思いますが、とりあえず私の印象だけを掲示しておきます。まず第一点は(監査役サポーターさんもすでに触れておられますが)監査法人に対する事業会社の公表義務を認めている点です。これはかなり驚きですね。(もし、新聞報道が正確だとすれば・・・)そもそも金融商品取引法24条の4の4では、経営者が内閣府令で定めた体制について、府令に定める方法によって評価に関する報告書を作成することが規定されておりますし、同法193条の2ではそういった報告書に関する監査証明制度が規定されているわけでして、そこには事業会社の法的な「公表義務」なる実体的な権利義務関係については触れられておりません。「そもそも」論になってしまいますが、法律で規定されていないことを政令で規定するということにはならないのでしょうかね?公表義務というのは、一般企業に義務を課すものですから、法律の実施規定というもので規定できるものではないと思いますので、政令委任がないと規定されにくいのではないか、と考えましたが、私の理解は間違っていますでしょうか?ただ、こういった公表義務を課すという趣旨はよく理解できるところであります。すでに私のブログでも2回にわたって(内部統制の限界論と開示統制 内部統制の限界論と開示統制その2 )、このままですと内部統制の限界論によって、内部統制評価報告実務を導入した趣旨が限定的になってしまうので、開示統制についても今後検討していく必要がある、と述べてきましたが、一般に内部統制の限界論とされている「異常取引」についても、なんとか内部統制制度に取り込み、監査法人への公表といった開示統制方法によって内部統制の限界というものをなるべく狭く解釈していこう、といった趣旨ではないか、と考えられます。また、ガイドラインのなかで「公表義務」なる概念がでてくるとしますと、非常に興味深いのは「監査法人の立ち位置」です。金融庁に近い立場と考えますと、これまで以上に監査法人の独立性や、監査人の職務とは?といった問題を生じさせますし、事業会社に近い立場(このほうが法律との親和性は高いと思いますが)と捉えますと、いちおうアドバイス的なこともできる反面、虚偽記載への共同責任論の問題を生じさせる可能性も出てくるように思われます(どちらかというと会社法の会計参与のような考え方になるのでしょうか)

第二点としましては、重要な手続違背によって、純利益が5%変動する「おそれ」のある場合に公表義務を認めたり、「重大な虚偽」があれば「公表を促す」制度、ということですが、そうしますと、監査法人側に事業会社に対する「公表を求める権利」なるものを認めることになるのでしょうか?いままでも会社法において、会計監査人が「不正」を発見したときの報告義務なるものが規定されておりますので、「不正」なる法律概念を職業会計人の方々が解釈することは必要とされているのですが、この公表を求める権利が監査人に付与されるということは、その権利行使にあたっては相当法律的な解釈まで要求されることになりましょうし、その責任も負担しなければならないのでは・・・と思われます。果たしてこういった職責が、もはや「監査」の範囲の仕事といえるのかどうか、かなり疑問に感じるのですが、どうなんでしょうかね?

第三点は、(これは第二点とも関係するものですが)もし重大な手続不備の取引について、監査法人への公表義務を認めながら、かつ監査法人の内部統制監査に関する責任が相当程度限定的なものである、と考えるならば、これは会社内部の監査体制、つまり監査役の内部統制に対する責任とか、取締役会の監督機能、内部監査人の統制評価に関する信頼性などに大きな期待をかけた制度である、と考えられるところであります。これは私が以前のエントリーでも述べたところでありまして「開示統制」として重要と考えているものでありますが、経営者が財務諸表の正確性について確認書を提出する、というのは(どんなにキレイごとを述べてみても、現実に会社の社長さんが数字の正確性を検証する、ということは不可能でありますから)どっかに「間違いないものと確認したよ」と言えるだけの「擬制」が必要となります。その擬制のひとつが社内の監査体制の充実にあると思います。つまりうちの会社ではこれだけしっかりとした監査役の監査があって、内部監査人の評価を受けているんだから、私は自信をもって数字が正確である、といえます、といったことですね。昨年12月の「あり方」案でも提示されていますが、「監査人と監査役、内部監査人との一体的な連携強調」というあたりは、モニタリングの充実というところもあるでしょうし、またそういった社内における監査体制の充実ということが「統制環境」や「全社的内部統制」の有効性評価にとって非常に大きな意味をもつことになるのでは、と考えております。

そもそも金融庁内部統制ルールは大きなジレンマを内包していると考えています。導入の要因となった「経営者不正」の防止を効果的に抑止しようと思えば、どうしても内部統制の限界を狭くする必要がありますので、基準は曖昧なものにならざるを得ない、そうすると明確な基準を求める経営者や監査人にとっては不評をかってしまう。いっぽうで経営者や監査人に受け入れられやすい基準の明確なルールを策定しようとすれば、当然のことながら(制度の限界というものは広範に認められることになりますので)内部統制評価報告実務がライブドア事件やカネボウ事件、西武事件などの再発を防止できる可能性が薄れてしまう、といったところであります。この「ジレンマ」を承知のうえで、どこかで調和点を見出すこと、これが制度設計の上で一番重要なところではないでしょうか。ただ、いずれにしましても、この内部統制評価報告制度というものにつきましては、監査法人(もしくは公認会計士)の職責が非常に大きなウエイトを占めるものであることは間違いありませんが、それとともに、企業経営者や役員の地位にある方々にとっても、「公表義務」なる概念が登場してきた以上は極めて真剣に不正経理防止のための枠組みをどうするべきか、検討する必要があると思います。監査重点項目の検討も含めまして、また公表された段階で会計士さん方のご意見なども参考にしながら詳細に考えてみたいですね。

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2006年11月 4日 (土)

企業法務で「戦う弁護士」雑感

(土曜の深夜 追記あります)

ネット情報による新聞離れ・・・と言われる昨今ですが、今週の日経新聞は、私的には非常に面白い特集がてんこもりでした。ネットニュースのような速報性がないぶん、やはり特集記事はじっくり読めます。とくに記事の紹介というものではありませんが、火曜日から金曜日までの「経済教室(企業価値を考える)」と、三宅伸吾記者の連載「法化社会(日本を創る)」は新聞紙に穴があくほどに何度も読み直したりしておりました。

こういった記事を読んでおりまして、そこに登場してくる日本の著名な弁護士さん方の姿や思想というものは、非常に迫力があります。(北越製紙側についた)牛島先生がクレディスイスの大楠さんを説得するために「哲学の話を朝までしよう」と誘って口説いたこと、藤縄先生の敵対的買収防衛策に関する基本的な考え方などは、日本の経済立国としての将来への長期的ビジョンに裏付けられていることなど、とても粋(いき)に感じました。(もちろん、おそれながら疑問に思うところもいくつかあるのですが)牛島先生と大楠さんは、以前社外取締役ネットワークのご講演のときに、いろいろとご意見を拝聴いたしましたが、おふたりとも非常に論理的な物言いが印象的でして、このおふたりが朝まで「哲学の話」を交わされた、というのは、いったいどんな話だったんだろうか・・・とまた興味も湧いてまいります。

弁護士という商売は、たしかに法律的センスというものが必要でしょうし、また交渉に動じない(ケンカに動じない)胆力も必要でしょうが、もうひとつ勝負に欠かせないものがあります。それは「勝ちたいと思う動機」ですね。有体(ありてい)に言えば「ぶらさげられたニンジン」です。「べんべんネット」(弁護士専用の会員制BBS)のほうでは、よく書かせていただきましたが、この「ニンジン」によって、弁護士の頭の回転も速くなり、また思いもよらないような奇策も浮かんでくるから不思議です。たとえば刑事弁護ですと、その「ニンジン」は高額な成功報酬のこともありますし、「この被告人をなんとか救ってやりたい」という衝動的な正義感の場合もあります。刑事裁判の法廷で、ときどき「私は(バカじゃないんで)有罪だと思っていますが、どうしてもこの被告人が無罪を主張してくれっていうんで、しかたなく、この主張を維持しているんですよ」と裁判官や検察官に態度で表明する同業者の方をみかけます。私にもプライドがありますので、そういった態度を表明したくなる気持は理解できます。しかしながら、そういった態度が少しでも裁判官に見えた瞬間、もはや無罪の可能性はゼロです。刑事弁護の鉄則は「バカになれる胆力」だと思いますね。(まぁ、もちろん「この人のためにバカになってやろう」と思えるほどの信頼関係がないと、なかなかムズカシイ面もあるのですが)過去の著名な「違法捜査に基づく無罪事件」の記録を見れば明らかなとおり、その弁護人の態度やすさまじいものがあります。そういったバカになれるところから、捜査の矛盾点や、自白の信用性の欠如というものが垣間見えたり、被告人に有利な証言をしてもらえる証人への説得が可能になったりします。また、バカになって「失敗」するからこそ、そこで得た経験が「知識」ではなく「知恵」になって蓄えられますね。「やっつけ仕事」と思って国選事件をやるのと、私選と変わらぬ情熱をもって国選事件をやるのとでは、5年も経過しますと刑事弁護のセンスに雲泥の差が出てきます。

私は企業法務の世界に足を突っ込んで、それほど年月を経ているわけではありませんし、またこの企業法務の世界はとても優秀な先生方が集まっているところでしょうから、テクニカルな法律的素養によって、その「仕事の出来、不出来」の優劣が決まるのではないか・・・・と認識しておりましたが、こういった日経記事を読んでおりますと、あまり刑事弁護人とは?といったところと変わらない世界なのではないかな、と思い直したりしております。ご自身方の資本主義に対する考え方、経済立国日本の将来像、会社は誰のものか、司法は経済社会とどう向き合うべきか等々、法律家としての素養のほかに、ひとりの経済人としてのバックボーンと、社会を変えたいと思う熱情(パッション)を持ち合わせていなければ、ケンカに勝つための知恵も、法律的見解も生まれてこないのではないだろうか・・・と思いますね。とくに詳しい金融工学や、会計知識というものとは違うでしょうが、この日本の企業社会がどこへ行こうとしているのか、どんな力学が作用することで大きく変容してしまうのか等、その根元の部分を探す興味といいますか、探究心といいますか、そんなところを常に持ち合わせながら、日々法律ビジネスと向き合っていかなければ、「知識は増えても知恵はない」弁護士のままでいつづけるような、そんな気がいたします。来年3月までは、弁護士団体の役職に就いている関係から、なかなか外の世界の方と「朝まで」お話をする機会もありませんが、「任期明け」となれば、私もそういった探求心をもって外の世界に飛び出してみたいですね。(あっ、今は今で楽しいですよ>○○先生)もちろん、自戒をこめての「つぶやき」であります。

(11月4日深夜 追記)

上記のような思いにかられたから・・・というわけではなく、以前から少しお話があったのですが、来年早々から「経営者のためのコーポレート・ファイナンス」なる個人レッスン(みたいなもの)が少人数制で開講されることとなりましたので、1月10日ころより参加させていただくことになりました。また開講後にはエントリーのなかでいろいろとご紹介いたしますが、某著名教授のもと、ロースクールよりももっと少人数(受講生は年齢40才くらいから65歳くらいまで・・・かな?)での英才教育(?)になるんじゃないでしょうかね。経営学的な発想で企業価値を考えることが主たる目的のようですから、また会社法の理解などに参考になれば・・・と非常に楽しみにしております。

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2006年11月 3日 (金)

原点に立ち返る内部統制(公開草案リリース間近)

11月2日、大証ビル3階北浜ホールにて、内部統制関連のセミナー(エス・ピー・ネットワーク主催 大阪証券取引所 後援)の講演をさせていただきました。東京や静岡などからも、関西のセミナーにご参加いただいた企業もいらっしゃいまして、本当にご静聴ありがとうございました。またまた(毎度のことながら)、しゃべっているうちに、時間の経過を忘れてしまい、最後のほうを一部簡略化してお話してしまいました・・・、申し訳ございません。何度講演をさせていただいても、この習性は直らないようです。

きちんと最新ニュースまでフォローしたうえでお話させていただいたつもりだったのですが(ここまでフォローしておりませんでした)、金融庁の内部統制部会作業部会の会合が11月1日に開催されたそうでして、その会合を踏まえて、八田進二(青山学院大学)教授が「個人的な意見ではあるが、公開草案は11月中には陽の目を見る」と講演でおっしゃったようですので、いよいよ公開草案リリース目前というところのようですね。本日のニュースによれば、いよいよ週明けの11月6日に内部統制部会が開催されるということでして、(その後何回か内部統制部会が開催されるでしょうから)ひょっとすると11月下旬あたりに実施基準の公開草案が出るかもしれません。私の次回内部統制関連の講演は11月10日ですので、もしそれまでに公開草案が出るようなことになりますと、また講演内容もガラっと変わるかもしれませんのであしからずご了承ください。「アメリカのSOX法実務に携わった人ほど違和感を感じるかもしれない」「内部統制の原点に立ち返る」・・・・とのこと。四半世紀、八田先生は内部統制に携わってこられたのですから、ひょっとすると25年前の内部統制理論に戻るということか?まさかそんなことはないですよね。(@ ̄∇ ̄;)/

きょうも数名の方より「ブログ、読んでますよ!」とお声をかけていただき、先日のオフ会に参加いただいた法務担当者の方にも応援にかけつけていただき、さらに大証の役員の方からも「ブログ読んでますよぉ。あの元副理事長の事件のも・・・・・・・・・」と激励をいただき、ホント楽しい講演でございました。また企業の皆様に、「参考になった」といわれるようなモノをお聞かせできるよう精進するつもりですので、また応援よろしくお願いいたします。m( _ _ )m  

以下公開草案リリース関連のニュース

日本版SOX法「実施基準」公開か?金融庁が6日に部会開催

日本版SOX法「実施基準」公開近づく 金融庁内部統制部会6日開催

今月草案公開の公算大 八田教授発言

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2006年11月 1日 (水)

ソフトバンク社のコンプライアンス

ちょっとここのところ、内容の濃いエントリーが続きましたんで、今日は軽めのお話とさせていただきます。ソフトバンク社のナンバーポータビリティの手続障害が続いたということで、いろいろと物議を醸し出しているようですが、そんななか、例の「電話代、メール代、0円」や「店頭お持ち帰り価格0円」なる広告表示が景表法における「不当表示」に該当するのではないか、という疑いでソフトバンク社が公正取引委員会よりヒヤリングを受けた、とのこと。私は独禁法関連の行政法規にはあまり詳しくないものですから、これが他社と比較して(実はそれほど有利とはいえないにもかかわらず)有利なサービスであると消費者に誤認させるものに該当するのかどうか、行政処分の要件該当性についての判断は不明でありますが、とりあえずソフトバンク社の広報のお話では、きちんと広告内容については事前に弁護士と相談のうえスタートを決めたと述べておられるので、それなりに法に抵触するものではない、との自信をもっての「予想外」公表だったものと思います。

あの4年か5年ほど前のADSL騒動を思い出された方も多かったのではないでしょうか。あれ、ひどかったですよねぇ。私もずいぶんと苦情を申し立てましたが、2週間ほどで開通するといいながら、なかなか工事に来てくれないし、開通が困難となるとマンションの特殊性に責任転嫁をするといったようなもので、ずいぶんと腹の立つ思いをしました。ただ、あの頃のソフトバンク社といいますのは、ブロードバンド市場の先駆者であり、失敗を糧にして、より安定した市場を形成することが使命でしたから、ある程度市場拡大のためにはコンプライアンスを犠牲にしてでも・・・といったところがまだ許容されていたのではないでしょうか。しかしながら、今やソフトバンク社は「携帯電話」といういわばネットとは到底比較にならないほどの現代市民の「ライフライン」を扱う企業となりました。関西電力や大阪ガスとほぼ同じレベルの業務を取り扱う企業といっても過言ではないと思いますし、以前とは比較にならないほど「コンプライアンス」や「CSR」に気を遣わなければならない企業になってしまったはずであります。したがいまして、公企業に等しい立場で要求されるコンプライアンスの中身も、以前のものとは違うはずであります。いくら電波の世界に価格競争の旋風を巻き起こすことが有意義であることを前提としましても、若者の世代の理解力を基準に考えるネット社会とは異なり、その基準は「おじいちゃん」「専業主婦」の理解力であります。ネット社会ではセーフのものも、携帯電話の世界ではアウトです。

講演をさせていただくときに、私はよく「コンプライアンスの中身は企業によって異なるし、企業の成長過程によって変わる、まるで生き物のようなもの。いま自社のコンプライアンスとは何か、全社的な意思確認が常に必要である」と表現いたします。ソフトバンク社という企業がもし、日本を代表する企業となるのであれば、たとえ結果的になんらの行政処分に至らない結果となるとしても、「グレーゾーン」を渡る経営方針が携帯電話の成熟市場においても許容されるものかどうかは、非常に不安の残るところであります。ましてや、今回、ソフトバンク社は1兆4500億円という携帯電話事業(ソフトバンクモバイル)の買受資金を「証券化」によって資金調達しているのではなかったでしょうか?(関連ニュースはこちらです。このあたりの証券化スキームにつきましても、私はあまり詳しくありませんので、誤解がありましたらご指摘いただきたいのですが)そのような証券化までして、いきなり「グレーゾーン」を渡り歩く、といった経営手法は、まさに投資家にとっても「予想外」のこととなるのではないでしょうか。(ちなみにポータビリティのフタを開けてみると、いきなり契約者数が減少しておりますが、これって格付けに影響はしないのでしょうかね?)日本の法体系は、おそらく今後「ハードローからソフトロー」へと、社会規制の枠組みを変容させていくことは間違いありません。そんなソフトローが押し寄せる企業社会において、「関連法に反していないので、今後も同様の広報を続けていく所存である」というソフトバンク社の法務担当者のリリースが空しく響かないことを祈念しております。

go2cさんも、どちらかというと契約変更手続の支障について焦点をあてておられますが、今回のソフトバンク社の問題はかなり影響が大きいのではないか、といったご意見のようです。積極的なプレーとエラーは紙一重・・・、まさにそのとおりだと思います。

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