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2006年11月 6日 (月)

金融庁内部統制ルール公開間近(2)

すでにご承知の方も多いと思いますし、いくつかのブログでもコメントが出されておりますところですが、日経新聞の日曜朝刊の一面と三面に「金融庁が2008年度決算から上場企業に義務付ける内部統制制度について、監査のガイドラインをまとめた」として、そのガイドラインの内容が少しばかり紹介されています。取締役会の承認を経ない重要取引など手続が不備な場合に純利益が5%以上変動するおそれ(業績悪化の場合だけでなく、業績拡大の場合も含む)があれば企業には公表義務がある、粉飾の起こりやすい売上高、売掛金、棚卸資産を監査の重点項目とする、(西武鉄道事件で問題となりました)株主偽装のように、株主の状態に問題がある場合などは5%の基準にあてはまらない場合であっても公表を求める等となっております。このほかにも、たしかQ&A形式で100項目程度の評価指針が規定されるとか、いくつかの情報が得られているところです。昨年12月に「基準のあり方」が策定されているところですが、この「基準」と、それを具体化するはずのガイドライン(実施基準)の関係はどうなっているのでしょうか。少し情報として聞いているところですと、経営者評価の部分は別々で、監査人による監査基準については一体化している、というものらしいのですが、まだ公表されるものを見てみないとよくわかりません。

新聞報道だけでありますので、また公開草案がリリースされた段階で詳しく検討してみたいと思いますが、とりあえず私の印象だけを掲示しておきます。まず第一点は(監査役サポーターさんもすでに触れておられますが)監査法人に対する事業会社の公表義務を認めている点です。これはかなり驚きですね。(もし、新聞報道が正確だとすれば・・・)そもそも金融商品取引法24条の4の4では、経営者が内閣府令で定めた体制について、府令に定める方法によって評価に関する報告書を作成することが規定されておりますし、同法193条の2ではそういった報告書に関する監査証明制度が規定されているわけでして、そこには事業会社の法的な「公表義務」なる実体的な権利義務関係については触れられておりません。「そもそも」論になってしまいますが、法律で規定されていないことを政令で規定するということにはならないのでしょうかね?公表義務というのは、一般企業に義務を課すものですから、法律の実施規定というもので規定できるものではないと思いますので、政令委任がないと規定されにくいのではないか、と考えましたが、私の理解は間違っていますでしょうか?ただ、こういった公表義務を課すという趣旨はよく理解できるところであります。すでに私のブログでも2回にわたって(内部統制の限界論と開示統制 内部統制の限界論と開示統制その2 )、このままですと内部統制の限界論によって、内部統制評価報告実務を導入した趣旨が限定的になってしまうので、開示統制についても今後検討していく必要がある、と述べてきましたが、一般に内部統制の限界論とされている「異常取引」についても、なんとか内部統制制度に取り込み、監査法人への公表といった開示統制方法によって内部統制の限界というものをなるべく狭く解釈していこう、といった趣旨ではないか、と考えられます。また、ガイドラインのなかで「公表義務」なる概念がでてくるとしますと、非常に興味深いのは「監査法人の立ち位置」です。金融庁に近い立場と考えますと、これまで以上に監査法人の独立性や、監査人の職務とは?といった問題を生じさせますし、事業会社に近い立場(このほうが法律との親和性は高いと思いますが)と捉えますと、いちおうアドバイス的なこともできる反面、虚偽記載への共同責任論の問題を生じさせる可能性も出てくるように思われます(どちらかというと会社法の会計参与のような考え方になるのでしょうか)

第二点としましては、重要な手続違背によって、純利益が5%変動する「おそれ」のある場合に公表義務を認めたり、「重大な虚偽」があれば「公表を促す」制度、ということですが、そうしますと、監査法人側に事業会社に対する「公表を求める権利」なるものを認めることになるのでしょうか?いままでも会社法において、会計監査人が「不正」を発見したときの報告義務なるものが規定されておりますので、「不正」なる法律概念を職業会計人の方々が解釈することは必要とされているのですが、この公表を求める権利が監査人に付与されるということは、その権利行使にあたっては相当法律的な解釈まで要求されることになりましょうし、その責任も負担しなければならないのでは・・・と思われます。果たしてこういった職責が、もはや「監査」の範囲の仕事といえるのかどうか、かなり疑問に感じるのですが、どうなんでしょうかね?

第三点は、(これは第二点とも関係するものですが)もし重大な手続不備の取引について、監査法人への公表義務を認めながら、かつ監査法人の内部統制監査に関する責任が相当程度限定的なものである、と考えるならば、これは会社内部の監査体制、つまり監査役の内部統制に対する責任とか、取締役会の監督機能、内部監査人の統制評価に関する信頼性などに大きな期待をかけた制度である、と考えられるところであります。これは私が以前のエントリーでも述べたところでありまして「開示統制」として重要と考えているものでありますが、経営者が財務諸表の正確性について確認書を提出する、というのは(どんなにキレイごとを述べてみても、現実に会社の社長さんが数字の正確性を検証する、ということは不可能でありますから)どっかに「間違いないものと確認したよ」と言えるだけの「擬制」が必要となります。その擬制のひとつが社内の監査体制の充実にあると思います。つまりうちの会社ではこれだけしっかりとした監査役の監査があって、内部監査人の評価を受けているんだから、私は自信をもって数字が正確である、といえます、といったことですね。昨年12月の「あり方」案でも提示されていますが、「監査人と監査役、内部監査人との一体的な連携強調」というあたりは、モニタリングの充実というところもあるでしょうし、またそういった社内における監査体制の充実ということが「統制環境」や「全社的内部統制」の有効性評価にとって非常に大きな意味をもつことになるのでは、と考えております。

そもそも金融庁内部統制ルールは大きなジレンマを内包していると考えています。導入の要因となった「経営者不正」の防止を効果的に抑止しようと思えば、どうしても内部統制の限界を狭くする必要がありますので、基準は曖昧なものにならざるを得ない、そうすると明確な基準を求める経営者や監査人にとっては不評をかってしまう。いっぽうで経営者や監査人に受け入れられやすい基準の明確なルールを策定しようとすれば、当然のことながら(制度の限界というものは広範に認められることになりますので)内部統制評価報告実務がライブドア事件やカネボウ事件、西武事件などの再発を防止できる可能性が薄れてしまう、といったところであります。この「ジレンマ」を承知のうえで、どこかで調和点を見出すこと、これが制度設計の上で一番重要なところではないでしょうか。ただ、いずれにしましても、この内部統制評価報告制度というものにつきましては、監査法人(もしくは公認会計士)の職責が非常に大きなウエイトを占めるものであることは間違いありませんが、それとともに、企業経営者や役員の地位にある方々にとっても、「公表義務」なる概念が登場してきた以上は極めて真剣に不正経理防止のための枠組みをどうするべきか、検討する必要があると思います。監査重点項目の検討も含めまして、また公表された段階で会計士さん方のご意見なども参考にしながら詳細に考えてみたいですね。

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コメント

今回公表されている案を見てもわかりますが「経営者不正抑止」効果については、やはり限界があるなと感じてます。
普通に法律対応レベルで構築した場合には、「経理のミス防止」「現場の不正防止」には一定の効果があるとは思いますが、大型粉飾につながる「経営者不正」には不十分だろうなという印象です。
全社的な内部統制の例示項目を眺める限りでは、しっかり構築されるのであれば少しは効果があるのかもしれませんが、コーポレートガバナンスの面がそれでも弱いのかなと。

経営者としては、自らの粉飾可能性がないことを宣言するつもりであれば、全社的な内部統制のチェックの箇所にてコーポレートガバナンスの視点を敢えて織り込んでもいいのかもしれません。
そしてこれらの評価結果については、「内部統制報告書」の添付資料として概要をまとめたもの(全社的な内部統制のチェック項目とその評価結果など)を開示するという方向性もありえるかなと、うっすら考えていたりもします。
積極的に開示することで、新興市場などでは一味違う会社を標榜できますから、選択肢としてはありえるのかなと思ったりしています。(非現実的ですかね)

投稿: grande | 2006年11月10日 (金) 00時42分

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