内部統制報告制度(実施基準公開草案)公表される
(追記 質問回答コーナーを設けております。今回かぎり、ということですんで、著名な「会社法であそぼ」と比較なさらないでください 笑)
金融庁企業会計審議会より、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準~公開草案~」が11月21日、公表されました。
12月20日午後5時までパブリックコメントを受け付けるそうですので、皆様たくさんコメントを出されたらいかがでしょうか。たしかにコメントをお出しになったからといって、実施基準の中身がガラリと変わるということはないかもしれませんが、解釈指針には影響を与えるかもしれませんし、ひょっとすると皆様のコメントが「実施基準Q&A」のガイドラインの内容に影響を与えるかもしれません。もちろん、私もわからないところがたくさんございますのでコメントを提出いたしますが、これだけ世間で「日本版SOX法」と称され、騒がれてきた基準案ですから、たくさん出せば出すほど、わかりやすいものになるかもしれませんよ。
第14回内部統制部会の資料として提出されていた「公開草案資料」と、第15回部会で確定した「公開草案」とを比較いたしますと、まず「Ⅲ財務報告に係る内部統制の監査」につきましては、資料こそ14回部会で提出されていたものの、監査基準に関する実質審議は15回部会で行われたようですので、まったく変更点はございません。また「Ⅰ 内部統制の基本的枠組み」と「Ⅱ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」部分につきましては、段落整理記号の付記部分を含め合計17箇所の変更点(削除や追加付記など)がございます。変更点のほとんどが前後の文章との整合性を維持するための字句の修正や、趣旨が不明確な部分の明確化など、あまり大きな変動はみられないものの、2点ほど留意すべき点があるように思います。
そのひとつが、内部統制の基本的要素とされている「統制環境」に含まれる「経営者の意向及び姿勢」であります。経営者不正が最も財務報告の信頼性毀損に影響を与えるという趣旨からでしょうが、財務報告の信頼性確保のための内部統制整備運用に関して、経営者はその重要性を認識する意向を示し、その整備運用の基本方針や基本原則を明確にし(おそらく文書化するということだと思われます)、これを組織の内外に適切に伝えることが要求されています。会社法上も内部統制システムの整備運用に関する基本方針の決定義務が会社法上の大会社には要求されておりますが、上場企業の財務報告に係る内部統制評価報告制度におきましても、同様の開示が要求される、ということになるのでしょうか。ちなみに、「公開草案資料」(財務報告に係る内部統制構築のプロセス部分)の段階では「経営者が定めるべき基本的計画および方針」として、「組織にとって構築すべき内部統制の範囲及び水準」とされておりましたが、ここの文言も「適正な財務報告を実現するために構築すべき内部統制の方針、原則、範囲、及び水準」と訂正されております。この経営者による内部統制構築における基本方針、原則の明確化の意味につきましては今後いろいろと議論されるのではないかと推測いたします。
もうひとつが、このブログでも何度か議論してきました(基本的枠組みのなかにおける)「内部統制の限界」に関する記述追記部分であります。第14回資料に掲載されていた公開草案資料のこの部分を読みましたが、「内部統制を無視ないし無効ならしめることと、正当な権限を受けた経営上の判断により内部統制を逸脱することとは明確に区別される必要がある」との部分は、いったい何を記述しているのか理解困難だったのですが、この部分が「すなわち」として解説が施されておりまして、以前よりは少しだけ理解が進むようになりました。(ただ、付記されたといいましても、これだけでは内部統制の限界がいったいどこにあるのか、明確になったとは言いがたいようです)
なお、IT統制に関する基準についてはほとんど変動はないようです。コンプロさんもおっしゃっているように、今後いろんなコメントが出されて、金融庁からどのような回答が出されるのか、私も楽しみにしております。
(11月22日深夜 追記 質問コーナー)
ある法学部の学生の方よりご質問を受けました。(以下質問内容)
会社法の内部統制と金商法の内部統制について2つ質問したいことがあります。ブログのコメントで書こうと思っていたのですが、話題が変わってしまっていて書きそびれたのでメールで質問しました。
そもそも会社法における内部統制の構築(会社業務の適正を確保するための体制整備)義務というものにつきましては、362条4項6号に求めるというのがすこし違うのではないでしょうか。(4項6号は、もし会社が内部統制の基本方針を定める場合には、いわゆる専権事項として、これを取締役会で定めなければならない、つまり個々の取締役に委任してはいけない、ということを明らかにしたものですね。これは大会社に限られるものではありません。なお、大会社が基本方針の決議をする義務は5項となりますが、これもなんらかの決議をする義務であって、内部統制構築義務とは異なりますね。)大和銀行事件の判決は旧商法のもとで取締役、監査役らに対して(一般論ではありますが)内部統制システムの構築義務があるとしておりますように、内部統制の構築義務そのものにつきましては、取締役、監査役の会社に対する善管注意義務の一貫として認められると考えるのが筋だと思います。ちなみに362条4項6号につきましては、大会社の場合には内部統制システムの基本方針について決議する義務と考えられておりますので、大会社以外の株式会社におきましても、やはり内部統制を構築すべき義務、というもの自体はその善管注意義務の範囲内において認められるものと考えられます。
たしかに、このたびの実施基準におきまして、会社法上の内部統制と金商法上の内部統制評価報告制度との融合についても「ある程度」の配慮がなされているとは思いますが、一方は企業情報開示に関する制度であり、一方は企業の効率性やコンプライアンス経営、リスク管理のための制度として作られたものですから、金商法が完全に会社法上の内部統制制度の一部である、とまではいえないものと思います。(もし完全な一部であるとすれば、監査役における相当性の判断が、この内部統制評価報告制度すべてに及ぶということになりますが、このたびの11月20日公表の資料→公開草案における若干の訂正部分のなかに、「会社法上では」と付記して、監査役の相当性判断の及ぶ範囲が会社法上の内部統制に関するものに限定されることをあえて明文化している箇所があります。そのことからも、両制度が完全には包摂関係に立たないことを示していると考えられます)ただ、私自身、このあたりはまだ十分整理された議論がなされていないと思っておりますので、またエントリーのなかででも、触れていきたいと思っています。
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