上場企業から見た内部統制ルール(実施基準)
(11月9日追記あり)
TBをいただいたligayaさんをはじめ、もうすでに監査に携わっていらっしゃる方々はご承知のことと思いますが、11月8日、金融商品取引法上の内部統制評価報告実務に関する実施基準(案、とりあえずまだ資料の段階)の内容が明らかになりました。(金融庁のHPに6日の内部統制部会の資料としてPDF形式にて掲載されております。正確には、11月20日の内部統制部会で確定してパブコメ案公開ということでしょうが、報道では6日の部会ではあまり異論が出なかった、ということでしたから、そのまま公開草案となるのではないでしょうか)ついに内容が判明しましたね。待望の「実施基準」の全貌が明らかになりました。みなさま、もう一読されましたでしょうか?どんな印象をお持ちでしょうか?今後私のブログでは、この内部統制ルール(実施基準)の内容につきまして、いろいろと検討していきたいと思っておりますので、内部統制の基本的枠組み(案)=「枠組み案」、「財務報告に係る内部統制の評価及び報告(案)=「評価報告案」、財務報告に係る内部統制の監査(案)=「監査案」そして昨年12月に出されました「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」=「あり方案」と称しまして、話を進めていきたいと思っております。(できれば、あまり高尚なものではなく、井戸端会議的なコメントを頂戴できれば・・・と思っております。せっかくのブログですから、楽しくやりましょう)
ほぼ100頁ほどの実施基準の内容を、ザーッとですが読み終えました。まず、この実施基準を上場企業の役員という立場から一言で申しますと、「内部統制、金があるなら金を出せ、金がなければ人を出せ、人がいなけりゃ知恵を出せ、知恵もなければ汗を出せ」といったところです。要は営業ばかりに目が向いている企業ではなくて、管理部門からマジメに企業価値を考える企業が報われるような評価体系になっているのではないか、お金がなくったって、誠実に会計不正なき社内体制の整備に取り組む企業は報われるのではないか、というのが第一印象です。ガチガチのマニュアルでない分、各企業の創意工夫によって財務情報の正確性を高めることを期待されたものと言えるのではないでしょうか。いろいろと申し上げたいことがございますが、とりあえず第1回目ということで、以下の点のみ指摘させていただきます。どうか、公開草案へのコメントを検討されている方を含めまして、またご意見なども頂戴できましたら幸いです。
まず、私のブログで予想していたところと大きく「はずれていた」部分がございます。評価報告案の2ページ以下です。ここのところ、ブログで「内部統制ばかりに目を向けていてはいけない。これからは内部統制と同様、開示統制についても検討しなければ」などと申しておりましたが、経営者の財務報告の評価範囲として、連結財務諸表、財務諸表のほかに「財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等」としまして、「提出会社の状況」や「コーポレート・ガバナンスの状況」など、多くの財務諸表以外の開示事項が含まれております。私はこのあたりは適時開示情報と同様、経営者の確認書によって正確性が担保されるもんだと思っておりまして、内部統制評価報告制度とは無関係だと認識しておりましたが、内部統制評価の範囲に含まれておりました。(どうも失礼いたしました・・)しかし、そうなりますと、こういった財務諸表以外の開示情報につきましても監査法人(もしくは公認会計士)によります監査証明の対象になるということでしょうね。こういった開示情報が正確に開示される仕組みといいますのは、これまでの会計専門職の方々の監査のお仕事にあったのでしょうか?それとも新たに公正妥当と認められる監査の方法が検討されるということになるのでしょうか?投資家が非財務情報(と一般に言われているところ)をこれまで以上に重視するようになれば、こういった開示情報の重要性はますます高いものになるでしょうし、何を開示するか、開示するまでの情報管理はどうするかなど、とても重要な手続になると思いますし、今後の大きな問題点だと思っております。
この財務報告の範囲に関するところ以外には、さほど大きく「はずした」と思われるところはございませんが(そういえばQ&A方式の100問になってる・・・と噂されておりましたが、どこにもそんな体裁はありませんよね?誰がそんな噂たてたんでしょうか?これは私も信じておりましたけど・・・笑)、「企業実務に大きな影響が出る」と思われる部分は多々見られるところであります。まずは「内部監査人」の存在ですね。予想どおり実施基準におきましても、内部監査人制度の充実が不可欠な要件とされております。経営者による「恒常的なモニタリング」も必要ですが、それとは別になによりも独立性を維持した内部監査人の存在を要求されています。これ、大きな上場企業であれば当たり前の話でしょうが、中小の上場企業において、兼業でなく、身分的にも他部署からの独立性を保証された、しかも財務報告の信頼性を評価するための「内部監査人」という存在は、かなりキツイのではないでしょうか。内部統制監査人と同等に連携できる知識と能力が必要でしょうし。ということで、この内部監査人の存在価値は「評価」でも「監査証明」でもかなり重要なポジションになるような気がいたします。
また、内部監査人や監査役と内部統制監査人との連携ということとの関係で申し上げますと、基本的に内部統制監査人(監査法人、公認会計士)による非監査業務、つまりアドバイス業務はオッケーと説明されていますね。もちろん内部統制の整備運用に関する有効性評価の最終決断は経営者に委ねられておりますが、以前ブログで疑問を呈しておりましたように、後で経営者と監査人で「評価範囲にくいちがいがあると困る」ということになってしまいますので、やはり内部統制監査人のアドバイスについては監査基準に反するものではない、ということを明記されたものと思われます。したがいまして、企業側としましては、できるだけ早期の段階で監査人にアドバイスをもらう必要がありますね。とりあえず、どんどん疑問点は担当の監査法人と膝すり合わせて解消していくほうが現実的ではないかと思います。
あと企業側としての考えドコロは「金融商品取引法上の内部統制と会社法上の内部統制との融合」つまり、別々に対処するのではなくて、一挙に対処する方法はないものか、と思い悩んでいらっしゃる部署も多いのではないかと思います。たとえば枠組み案の26ページ以下におきまして、財務報告に係る内部統制の構築に関する記述がございますが、そのなかで内部統制構築のプロセスの一例としまして、会社法による内部統制の基本方針の決定からスタートする「基本的計画及び方針の決定」が提示されております。これは部会の委員の方が、かなり「融合」を意識された結果ではないかと思います。また上場企業の業種や組織のあり方によりましては、全社的内部統制の有効性が高く評価される場合におきましては、業務プロセスにおける評価範囲は狭く解することも可能になっておりますので、経営者レベルでのガバナンス(たとえば取締役会、監査役制度など)がしっかりしていれば、それだけでかなり高い確率で監査証明に好印象を与えることになると思われますので、こういった部分におきましても「融合の知恵」を発揮する余地はあるのではないか、と考えております。
なお、全社的内部統制の評価に関する一例が評価報告案の末尾に添付されておりますが(財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例、なる部分)、これもブログで以前ご紹介いたしましたCOSOの「中小上場企業向けガイダンス」の内容に極めて近似しております。ガイダンスではこの項目をもう少し詳細に記述した「属性」が掲載されておりますので、そういった属性部分を自社の全社的内部統制の構築および運用方法に応用することも有益ではないかと思いますね。またIT統制につきましても、とても興味深い内容になっておりますが、これは別の機会に検討してみたいですし、他のご専門の方々のブログなどを拝見させていただきたいと思っております。とりあえず、第一印象をとりとめもなく書かせていただきました。(つづく)
(11月9日お昼 追記)
そういえば二つ前のエントリーにも書きましたが、報道では「企業に内部統制上の不備、重要な欠陥に関する公表義務」なる記事内容がありましたが、これはいったいどこを指しているんでしょうか。ひょっとして評価報告案24頁最終行からの「④不備の報告」のところのことを指しているのでしょうかね?これは年度内における不備発見時の対応方法をごく普通に記述しているところでしょうから、とりわけ重要な部分ということもないような気がします。(もし、他に監査法人への公表、報告義務といった記述がありましたら、どなたかご教示いただけませんでしょうか)しかしこの「不備の報告」の記述はわかりにくいですね。7行にわたっていますが、一体誰が報告するのか、主語がはっきりしていない文章になっていて、誤解を招くおそれ大だと思います。
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コメント
toshi先生、おはようございます。
しかし反応が早いですね(笑)
私は朝、会社で知りました。かなりコンプライアンスを全社的内部統制のなかに意識した内容になってますね。社内に「悪しき慣行」が存在する場合には有効性評価に影響するんでしょうかね?談合体質なんかも財務報告の信頼性評価と関係あるということなんでしょうか。なかなかおもしろいところですが、先生の言われる「枠組み案」における内部統制と、実際の評価報告実務や監査実務との関連性がいまひとつわかりません。枠組案はなんとなく総花的なイメージがあって、評価報告の方法がわからないときに、そのままフィードバックして枠組み案に記載された内部統制のあり方を参考にしていい、ということなんでしょうか。そのあたりがちょっと疑問に思ったところです。実はまだ全部は読んでいないのでわからないところだらけですが。
私もボチボチ読み進めていこうかと思っています。
投稿: sara.onji | 2006年11月 9日 (木) 10時38分
内部統制やコンプライアンスに関する記事をいつも興味深く拝見させていただいております。
> 「内部統制、金があるなら金を出せ、金がなければ人を出せ、
> 人がいなけりゃ知恵を出せ、知恵もなければ汗を出せ」
内部統制を構築・運用・評価するには、結局先立つものがなければ..ということですね。お金がなければ人も出せませんし、知恵も汗も結局は人が出すものですから。大企業でも本体(単独ベース)まではまだなんとかなりますが、その子会社・関連会社となると急に小規模になり、数も増えてきますので、対応に苦慮するところかと思います。
重要な欠陥に関する公表義務についてですが、「評価報告案」の25ページに「重要な欠陥が期末日に存在する場合には、内部統制報告書に、重要な欠陥の内容及びそれが是正されない理由を記載しなければならない。」「提出日までに有効な内部統制を整備し、その運用の有効性を確認している場合には、是正措置を完了した旨を、実施した是正措置の内容とともに記載する。」とありますので、「公表」とは内部統制報告書への記載のことを指しているのではないかと思います。「経営者、取締役会、監査役又は監査委員会及び会計監査人に報告する必要がある」とも書いてありますが、これは「公表」とは意味合いが異なるように思いますので。
投稿: こしあん大福 | 2006年11月 9日 (木) 19時04分
こんばんは。
今日の昼間、「実施基準案」をざぁーと読みました。しかし、眠くなりますねぇ。退屈な内容です。先生のお言葉をお借りすると「パッション」が感じられません。あの「日本発のデファクト・スタンダードを」は、一体どうなったんでしょうか?これだけのボリュームがある割りには余り具体性もありません。
とにかく今日は気合が入っていないせいか、このような感想しか持てません。来週あたりからもう少し気合を入れて、読み込もうと思います。
あと、まことにつまらぬ感想ですが、「アサーション」とか「ウォークスルー」とかの妙チクリンな言葉を使用していない点は大変好感が持てます。判り易い日本語で表現する(営業)努力を怠ってきたその道のプロフェッショナルの方々、是非見習って頂きたいと思います。
それにしても、日経記事の不正確さには困ります。先生もご指摘の「公表義務」もそうですし、「上場廃止」だとか、「不備や重要な欠陥を是正することができる」とか・・・。どこにそんなことが書いてあるんでしょうね。あと、「連結税前利益の5%」とか「売上の2/3」とかの定量的な基準も、あくまでも例示であったり、一応の目安でしかないですよね(読み方が浅すぎるのかも?)。一般メディアでは、日経しか記事化しないニュースなんですから、もっと正確な記事にして欲しいものです。
今日はこの辺で・・・
投稿: 監査役サポーター | 2006年11月 9日 (木) 22時54分
「井戸端的なコメントを」に意を強くした訳ではありませんが、もう一言(勿論「井戸端ネタ」です)。
今回の実施基準案、会社法(の求める内部統制)と意識的に結びつけた箇所が何箇所かあります(「会社法との融合を図った」と解説する向きもあるようです)。
しかし、これは、私のように、会社法の求める内部統制と金商法の求める内部統制は、(制度的には)別物であると得心している者には大変困ります。せっかく別物と割り切って、対応(準備)を始めたのに・・・。えっ、やっぱり結びつけちゃうんですか。そうだったら、中途半端なことは言わないで欲しいなぁ。
少なくない会社で、別々の部署がそれぞれに対応を始めているとも聞きます。会社法の内部統制はやっぱり主に弁護士のアドバイスを受けたいと思う訳です(監査法人や同系コンサル会社ではちょっと心許ない、と思ったりする訳です)。
関連して疑問に思うのは、金融庁のこの審議会(企業会計審議会内部統制部会)には、何故弁護士がメンバーに入っていないのでしょう? 会社法との融合を多少なりとも考えるのなら、弁護士を最低でも1名入れるのはマストかと思いますが。確かに商法学者は入っていますが、実務の感覚からすると、ちょっと違うんですよね。
更にいうと、同部会傘下で実施基準案を策定した「作業部会」。結構実務レベルの企業関係者がメンバーに入っていますが、見事に経理・財務系の方々ばかりです(肩書からの判断なので、間違っているかもしれません)。
こういう状況下で、「会社法との融合」と言われてもちょっとねぇ・・・。
(審議会メンバーは金融庁HPで見ることが出来ます。)
投稿: 監査役サポーター | 2006年11月10日 (金) 00時12分
toshi先生、ご無沙汰しておりますgrandeです。
内部統制コンサルタントの仕事が最近忙しくて、IRウォッチャーのブログの更新が大変滞っていたりします(汗
今回のテーマが当然に興味深かったので、久しぶりにコメントさせていただこうかなと思った次第です。
>>財務諸表以外の開示事項について
当然のように財務報告としての範囲に入ってきたなぁという感想です。
財務諸表のみならず「財務諸表の表示等を用いた記載」の箇所が入ってきているわけですが、従来からの証券取引法監査においても、この箇所も会計士がチェックだけはしていたんですよね。
ですから、内部統制評価の範囲に入ったところで、違和感はまったくないというのが正直な感想です。(旧商法監査においては、営業報告書のうち会計に関する部分については監査対象だったりしましたし)
むしろ、従来は財務諸表の数値や表現と整合性が取れていないことも多かったりしたので、むしろ内部統制を構築するよう要請されたというのは、個人的には投資家にとってはいいことなのではないかなと。
また、今後は金融商品取引法監査においても、有価証券報告書のうち財務諸表+財務情報の箇所が監査対象になってくるのかもしれません。
>>経営者と監査人で評価範囲にくいちがい
おっしゃるとおり、担当監査人とのすり合わせはどんどんやったほうがいいでしょうね。
コンサルさせていただいている会社さんでも、定期的に会合を持つようにしています。
ある意味では、会社側の立場で監査人と調整するという役割も外部コンサルは担っているわけでして、その需要も相当程度あると思います。
(一方的に監査人のいいなりになるというのも、会社側にとっては負担増になりかねないわけですから)
>>金融商品取引法上の内部統制と会社法上の内部統制との融合
会社法の基本方針をスタートに据えているというのが確かに特徴的ですよね。
それを基礎として金融商品取引法の内部統制を配置するという形にしており、両制度の融合を考えたなぁと感じます。
実際に会社法対応を行っていく過程で、全社的な内部統制の改善につながるケースも多く、別の制度が同時に走っているという印象はあまりないですね。
(損失危機の管理がリスクマネジメントに関係しているなどありますから)
久々でしたので、ついつい長くなってしまいました。
またお邪魔させていただきます。
投稿: grande | 2006年11月10日 (金) 00時25分
>sara.onjiさん
こんにちは。いつもコメントありがとうございます。
早いだけがトリエといわれておりますんで(笑)
>枠組案はなんとなく総花的なイメージがあって、評価報告の方法がわからないときに、そのままフィードバックして枠組み案に記載された内部統制のあり方を参考にしていい、ということなんでしょうか。
私はいちおう「枠組み案」3頁に「本基準におけるⅠ内部統制の枠組みは、金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制の評価および報告ならびに監査の実施にあたって、前提となる内部統制の基本的な枠組みを示したものである」とありますので、当然のこととしてフィードバックして検討するための材料だと認識しております。したがいまして、財務報告の信頼性確保といいつつも、法令遵守とか業務の有効性効率性を実現する目的に資する統制活動などについても検討対象になるものと考えております。
また、全部読み終えられましたら、ご意見などお寄せください。
>こしあん大福さん
はじめまして。どうもコメントありがとうございます。
なるほど、大福さんのおっしゃるとおりのようですね。「報告」そのものを「公表」として用いているようですね。私は名宛人が監査法人とばかり思っておりましたので、「公表義務」の内容について少し誤解があったようです。ご教示どうもありがとうございました。
(監査役サポーターさん、grandeさんにつきましては、別途お返事を書かせていただきます。それぞれの内容につきましては、いま考えておりますエントリーに関係するものですんで・・・・)
投稿: toshi | 2006年11月10日 (金) 16時19分