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2006年11月20日 (月)

企業コンプライアンスを支える高裁判断

いよいよダスキン社も12月12日に東証・大証に上場されるそうですが、ダスキン社にとりましてホッと胸をなでおろしたくなるような判決が11月17日に大阪高裁で下されております。先の違法添加物混入の「大肉まん」の株主代表訴訟につきましては、皆様方も記憶に新しいところと思いますが、その「大肉まん」に違法添加物が混入していることを自らつきとめ、その事実を「口止め料」的に利用して、ダスキンに対して自社に有利な継続的取引契約を締結していた業者への「継続取引解除」の通告が正当な理由があるものとして、業者側の損害賠償請求を棄却した逆転判決であります。(朝日関西ニュースはこちら

スラっと記事を読んでしまいますと、「口止め料でゆすった業者に対して、企業が毅然とした態度をとるのはごくあたりまえ」と考えられますが、ダスキン株主代表訴訟の長い判決文を一度は読んだ方ならおわかりのとおり、そんな簡単にこの業者とダスキンとの関係を整理することはできないように思います。事実、原審はダスキン側の解除通告には「正当理由なし」として、業者側の損害賠償請求を認めているわけでありますし、高裁と地裁でまったく結論を異にした理由というものは、この二つの判決を読み比べますと、かなり興味深いところがあるのではないでしょうか。そもそも、ダスキンが「飲茶」事業における起死回生のヒット作として事業化をはかっていた「大肉まん」になぜ「違法添加物」が混入することになったのか、実はこれも企業の内部統制を考えるうえで非常に重要なポイントなのですが、意外にそこのところが話題になっておりません。ダスキン株主代表訴訟を議論するときも、「違法添加物」が混入していることを承知のうえで(一部取締役の指示で)販売した、というところから「全社的隠蔽に関する公表義務」までが大きく問題として取り上げられておりますが、それ以前のところが注目されることは今までなかったように思われます。(もちろん、代表訴訟の原告は、内部統制構築義務違反という争点を提起しておりましたが、「取締役に責任を認めるまでの統制義務違反があったとは認められない」として、それほど詳細な検討もなかった争点でした)

しかし、一生懸命に「ダスキンの取引業者にしてもらおう」と思って、大肉まんの試作品を作っていたこの業者が、ライバルの取引業者の製品化されたものを調査して、すぐに「なんで安価に製造できるのか、と思ったら、これは日本では使用してはいけないものが使われているからではないか」と探り当てたようですから、これをダスキン側に通告するのは当然ですよね。もしこの業者が違法添加物混入の事実を探り当てていなければ、そもそも誰もわからないままに「大肉まん」の販売が継続されていたでしょうし、企業規模の大小で判断するならば、たとえ「口止め料的な契約締結」に至ったとしましても、違法行為継続による利益は、そのほとんどをダスキン側が享受することは間違いないところでして、その違法性の大きさはダスキン側に強く認められる、と考える立場もありそうな気がします。また、どうしてこのような小さな取引業者が見つけることができた「違法添加物」を、大企業であるダスキン(こちらの製品化されたほうの下請企業も、かなり大きな企業です)側が見つけることができなかったのか、そこに内部統制構築に関する規範的な意味での要因があるように考えられますし、いわゆる「統制環境」を見直すべき原因があるものと私は考えております。(なおここから先はブログとはいえ、あまり推定によって事実を決め付けることはできませんので、ここで議論することは差し控えさせていただきます)

それでも、高裁判断が「解除を正当」としたのは、やはり違法行為への企業の決別の姿勢を強く求める態度からではないでしょうか。これは本件に限らず、談合にしても、反社会的勢力の利用にしても、大企業は、自らの手を汚さずに取引先企業を介して自らの欲する状況を実現する傾向にあります。そういった取引先企業への利益供与すら司法は許さない、といった強い意思を示すことによって、今後の企業社会におけるコンプライアンス経営を支持しようといった目的があるのではないか、と、このニュースを読んで感じたところであります。(判決を読んでまた後日、若干意見が変わるかもしれませんが、現時点におきましてはとりあえず備忘録として記述しておきます)

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