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2006年11月29日 (水)

内部統制報告制度と刑事処罰の「現実性」

そもそも「内部統制報告制度と刑事処罰」など、こういったマニアックなブログ以外、どこで扱う問題だろうかと自問自答してしまうほど、ほとんどアクセス数を無視したテーマなのでありますが、やっぱり深く考えてみますと、いろいろと疑問点が湧いてくるわけであります。きょうは、軽めのエントリーでありますので、サラっとお読みいただき、また皆様方にもいろいろとご意見もあろうかと思いますので、「内部統制フェチ」の方にはお教えいただこうかと。

1 なんで懲役5年なのか?

金融商品取引法の施行によって、あらたに罰則付きで行為規範となるものを中心に紹介いたしますと、四半期報告書の虚偽記載と内部統制報告書の虚偽記載については「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科」(個人の場合)、経営者確認書の虚偽記載については罰則なし、となっておりまして、これは有価証券報告書等の不提出や大量保有報告書への虚偽記載と同等とされております。このうち、四半期報告書の虚偽記載は、そもそも半期報告書の虚偽記載が5年レベルとされているので、これに合わせたことは理解できますし、また経営者確認書の虚偽記載につきましては、有価証券報告書の虚偽記載とほぼ同様の構成要件に該当することになりますので、「二重処罰禁止」の思想によって罰則が賦課されないことも理解できるところであります。それでは、新設される内部統制報告書の虚偽記載については、なぜ5年なのでしょうか?巷間、いろいろな金融商品取引法の解説書が出ておりますし、そういった解説書や、とりわけ私の手元にあります立案担当者の方が執筆された「一問一答金融商品取引法」(商事法務)を詳細に読んでおりますが、その理由はどこにも記載されていません。有価証券報告書等の虚偽記載が懲役10年以下(個人の場合)とされているのは、証券被害者を多数発生させることにおいて詐欺的犯罪(詐欺罪は10年以下)であり、また会社経営者の立場からみると、株主や一般投資家のために果たすべき役割にそむくことにおいて特別背任罪(懲役10年以下)に近いものであるためと解説されていますが、そうであるならば内部統制報告書の虚偽記載も同様の性質をもつものとして10年以下の懲役、とすればいいのではないでしょうか。

いっぽうで、別の見方もできるように思われます。たしか先日公表されました実施基準におきまして、財務報告の信頼性を確保するための内部統制システムに「重要な欠陥」が存在する場合には、そもそも財務諸表監査はできないといった表現があったと記憶しております。そうしますと、重要な欠陥があるにもかかわらず内部統制報告書に「有効」と虚偽記載した場合におきまして、そのまま有価証券報告書が適正証明を受けて提出されていれば、これは有価証券報告書の虚偽記載に該当することになりますよね。これはさきほどの経営者確認書制度において罰則が付されなかったのと同様、二重処罰禁止の原則に該当するのではないでしょうか。もしそうだとするならば、内部統制報告書の不提出については罰則の適用はありえても、内部統制報告書の虚偽記載といった違反行為に刑事罰を付加することは、経営者確認書制度との均衡を失することになりそうです。「なぜ、内部統制報告書の虚偽記載が5年以下の懲役なのか・・・」けっこう、じつは立案担当者の方もよくわからない理由で、このようなレベルに落ち着かせたのではないか、とも考えますが、いかがでしょうか。ただ、いずれにしましても、有価証券報告書の虚偽記載とはその違法性においては半分程度の価値だと法律は捉えているわけですから、このあたりも世間一般における内部統制ルールへの関心と、立案担当者との「温度差」のようなものが垣間見える気がいたします。

2 「内部統制報告書の虚偽記載」で本当に立件できるの?

うーーーん、これもよくわからないですね。「虚偽を記載した」という場合の被告人の「故意」はいったいなにを認識することになるのでしょうか。「経営者の意見表明」といった点におきましては、有価証券報告書の虚偽記載と変わらないのですが、有価証券報告書の場合では「正しい数字を記載していないことを認識しつつ、粉飾した」ということは立件できても、内部統制報告書のおきまして「内部統制が有効でないことを知りつつ、有効と評価した」というのはとても難しい認識ですよね。とりわけ、有価証券報告書に関しては立件しないで、内部統制報告書の虚偽記載だけを立件するといったことは現実に起こりうることなのでしょうか。経営者は「有価証券報告書は正しいものを作った」と考えているし、それを否定する証拠もないにもかかわらず、「内部統制には重要な欠陥があった」と認識していたことなど、実際にありえないのではないでしょうか。そもそも具体的な数字の信憑性とは異なり、「内部統制の有効性評価」といったものは、多分に規範的評価概念であって、罪刑法定主義(刑法の大原則)とは相容れない判断基準ではないかと考えます。「お飾り的」に罰則を付加したもの、とまでは申し上げませんが、果たしてどんな場面を想定して、内部統制報告書の虚偽記載の立件を考えておられるのか、このあたりは具体例を挙げていただき、どなたか詳しい方のご講義を拝聴してみたいと思っております。

いずれにしましても、この10年と5年の差というものにつきましては、法律家の立場から内部統制ルールを検討する場合に好きこのんで「解釈のための材料」として利用(援用?)するはずですから、法律施行に先立って、この「差」をどう合理的に解明すべきか、一度真剣に議論したほうがいいと思いますね。

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