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2006年11月 1日 (水)

ソフトバンク社のコンプライアンス

ちょっとここのところ、内容の濃いエントリーが続きましたんで、今日は軽めのお話とさせていただきます。ソフトバンク社のナンバーポータビリティの手続障害が続いたということで、いろいろと物議を醸し出しているようですが、そんななか、例の「電話代、メール代、0円」や「店頭お持ち帰り価格0円」なる広告表示が景表法における「不当表示」に該当するのではないか、という疑いでソフトバンク社が公正取引委員会よりヒヤリングを受けた、とのこと。私は独禁法関連の行政法規にはあまり詳しくないものですから、これが他社と比較して(実はそれほど有利とはいえないにもかかわらず)有利なサービスであると消費者に誤認させるものに該当するのかどうか、行政処分の要件該当性についての判断は不明でありますが、とりあえずソフトバンク社の広報のお話では、きちんと広告内容については事前に弁護士と相談のうえスタートを決めたと述べておられるので、それなりに法に抵触するものではない、との自信をもっての「予想外」公表だったものと思います。

あの4年か5年ほど前のADSL騒動を思い出された方も多かったのではないでしょうか。あれ、ひどかったですよねぇ。私もずいぶんと苦情を申し立てましたが、2週間ほどで開通するといいながら、なかなか工事に来てくれないし、開通が困難となるとマンションの特殊性に責任転嫁をするといったようなもので、ずいぶんと腹の立つ思いをしました。ただ、あの頃のソフトバンク社といいますのは、ブロードバンド市場の先駆者であり、失敗を糧にして、より安定した市場を形成することが使命でしたから、ある程度市場拡大のためにはコンプライアンスを犠牲にしてでも・・・といったところがまだ許容されていたのではないでしょうか。しかしながら、今やソフトバンク社は「携帯電話」といういわばネットとは到底比較にならないほどの現代市民の「ライフライン」を扱う企業となりました。関西電力や大阪ガスとほぼ同じレベルの業務を取り扱う企業といっても過言ではないと思いますし、以前とは比較にならないほど「コンプライアンス」や「CSR」に気を遣わなければならない企業になってしまったはずであります。したがいまして、公企業に等しい立場で要求されるコンプライアンスの中身も、以前のものとは違うはずであります。いくら電波の世界に価格競争の旋風を巻き起こすことが有意義であることを前提としましても、若者の世代の理解力を基準に考えるネット社会とは異なり、その基準は「おじいちゃん」「専業主婦」の理解力であります。ネット社会ではセーフのものも、携帯電話の世界ではアウトです。

講演をさせていただくときに、私はよく「コンプライアンスの中身は企業によって異なるし、企業の成長過程によって変わる、まるで生き物のようなもの。いま自社のコンプライアンスとは何か、全社的な意思確認が常に必要である」と表現いたします。ソフトバンク社という企業がもし、日本を代表する企業となるのであれば、たとえ結果的になんらの行政処分に至らない結果となるとしても、「グレーゾーン」を渡る経営方針が携帯電話の成熟市場においても許容されるものかどうかは、非常に不安の残るところであります。ましてや、今回、ソフトバンク社は1兆4500億円という携帯電話事業(ソフトバンクモバイル)の買受資金を「証券化」によって資金調達しているのではなかったでしょうか?(関連ニュースはこちらです。このあたりの証券化スキームにつきましても、私はあまり詳しくありませんので、誤解がありましたらご指摘いただきたいのですが)そのような証券化までして、いきなり「グレーゾーン」を渡り歩く、といった経営手法は、まさに投資家にとっても「予想外」のこととなるのではないでしょうか。(ちなみにポータビリティのフタを開けてみると、いきなり契約者数が減少しておりますが、これって格付けに影響はしないのでしょうかね?)日本の法体系は、おそらく今後「ハードローからソフトロー」へと、社会規制の枠組みを変容させていくことは間違いありません。そんなソフトローが押し寄せる企業社会において、「関連法に反していないので、今後も同様の広報を続けていく所存である」というソフトバンク社の法務担当者のリリースが空しく響かないことを祈念しております。

go2cさんも、どちらかというと契約変更手続の支障について焦点をあてておられますが、今回のソフトバンク社の問題はかなり影響が大きいのではないか、といったご意見のようです。積極的なプレーとエラーは紙一重・・・、まさにそのとおりだと思います。

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コメント

こんにちは。
先生のご推察のとおり「0円」広告は見直しすることになったようですね。日経にニュースに出ております。
ところで、私も有利誤認表示については問題があることはわかるのですが、先日三井住友銀行が公正取引委員会から処分の対象とされたような「抱き合わせ販売」には該当しないのでしょうか?優越的地位の濫用という問題がそもそも消費者と携帯事業会社の間に存在しないといわれればそれまでですが、お得な契約を締結するためには、割賦販売による電話端末を購入しなければならなかったり、高額な違約金をもってシバリをかけたり、というのはかなり問題じゃないかと思うのですが。もし独禁法が無理だとしても、なんらかの形で消費者契約法にひっかかってくるのではないでしょうか。

投稿: あすくる | 2006年11月 1日 (水) 14時16分

私は販売戦略の問題の方かなと思うのです。波紋はよくも悪くも引き起こした。しかし、公正取引委員会が調査に乗り出すあたりまでは、想定外ではなかったのかと勝手に思うのです。

それと、何故この時期に出来たかは、巧妙に計画されていたと思います。即ち、番号ポータビリティーと同時にしたのですが、そうする為に、WBSによる1.45兆円のリファイナンスの貸付のコミットメントを10月20日迄に取得した。11月中旬契約調印、11月末リファイナンス実行の予定ですが、私は銀行側が後戻りできない状況と思います。この1.45兆円の資金はソフトバンクモバイルに入るわけではなく、直ちにそれまでのブリッジローン貸付銀行(ブリッジローンとリファイナンスの銀行は相当部分ダブっていると思います。)に充てられるわけですから。

WBSは、プロファイと同じで、コミットメントを過ぎたら実質後戻りできない恐ろしい世界と思います。金額も1.45兆円となると、もう怖くて誰も手が出せないと言える面もあると感じます。そんな状況を読んで、「0円」広告をソフトバンクモバイルは出したと想像するのです。

投稿: 売れない経営コンサルタント | 2006年11月 1日 (水) 22時47分

事実関係をよくフォローしていないので、見当違いかもしれませんが…。

①景表法というのは、公取委所管法令ですが、「競争法」というよりは「消費者保護法」ですよね。今回の一件、公取委の動きのきっかけは(消費者からではなく)競争事業者からの申告のようですが、ちょっとカタハラ痛しっていう感じです。尤もSB社は「最弱」事業者(更に言えば、「新規参入」とも言える?)ですから、「競争法」の土俵には少々載りにくいのでしょうね、申告する側もそれを受ける側も。

②とは言え、SB社の行為は問題ないと考えている訳ではありません。ただ、あすくるさんもご指摘のとおり、「消費者保護法」的なアプローチが筋であろうと思います。説明書の文字の大きさなどは、割販法に関連規定があったと思いますが、本件は割販法には乗っかりませんし。消費者契約法で行けるかどうか・・・ マス広告だけでなく、店頭での勧誘(商談)話法次第では行けるかも、という気もします。とすれば、改正消費者契約法(消費者団体訴訟制度)施行後だったらどうかな、という”ケーススタディ”的興味も湧きますね。

③この業界は、独禁法の分野でいうと、やや「確信犯」的なところがあるように思います。携帯端末の「再販売価格の拘束」に始まり、どの会社もここ10年弱くらいの間に、一度や二度は「勧告」や「警告」を受けているように記憶しています(SB社の前身会社も、他の競争事業者も)。「確信犯」の場合というのは、内部統制の限界とされる典型的ケースですよね・・・。

投稿: 監査役サポーター | 2006年11月 2日 (木) 00時38分

本筋とは関係ありませんが、もう一言。

>あの4年か5年ほど前のADSL騒動を思い出された方も多かったのではないでしょうか。あれ、ひどかったですよねぇ。私もずいぶんと苦情を申し立てましたが、2週間ほどで開通するといいながら、なかなか工事に来てくれないし、開通が困難となるとマンションの特殊性に責任転嫁をするといったようなもので、ずいぶんと腹の立つ思いをしました。

これと同じようなことが、いま、光ファイバーで起こっているようです(その手の話をときどき耳にします)。本当にこの業界、大丈夫なんでしょうか?

投稿: 監査役サポーター | 2006年11月 2日 (木) 00時47分

監査役サポーターさん、いろいろとご指導ありがとうございます。(いつも監査役サポータさんの見解にはおもしろい論点があって、実に勉強になります)
私も競争法的な発想よりも、消費者契約法的な発想のほうが、toshi先生の言われる「コンプライアンス」に近いものがあるように考えていました。ソフトバンクは広告表示を見直したようですが、ひょっとするとどっかで公取委と合意のような形で終わらせたんではないかな・・・と思ったりします。ちょっと明らかに違法とまではいえないと思いますし。

投稿: あすくる | 2006年11月 2日 (木) 01時13分

拙blogを引用いただきありがとうございます。
私自身はソフトバンクはまだベンチャー企業で「当たらぬも八卦」程度の信頼度なのではないかと思っているのですが(逆に中途半端にキャッシュフロー重視の「IPOしちゃったけどお金が余って」系の優等生よりは相変わらず勝負をかけているところが好ましいとも思っています)、加入者数を考えるとそうも言っていられないかもしれませんね。
ただ、ここまで注目を浴びると料金体系のわかりにくさもクローズアップされるわけで、そこをあえて公取が事情聴取するというのは状況の後追いであって、一罰百戒にはなるかもしれませんが消費者保護にはなってないような気もします。
世の中にはほかにも目立たないところでとんでもないミスってあると思うんですが、公取の機能として状況への追随を重視するのがいいのかどうかはちょと疑問に思います。表示の大きさ云々でなく、もし摘発するならあすくるさんの指摘のように料金体系自体の違約金の重さも含めた誤認惹起的なところに焦点をあてるのが筋のように思います。
逆に「出る杭は打たれる」風な話であれば、まだソフトバンクはマイナーなので消費者への影響も小さいということでしょうし・・・

(PS 不当表示にからんで昔の小ネタをTBさせていただきました)

投稿: go2c | 2006年11月 2日 (木) 02時35分

toshiさんへ
今週号の週刊文春に今回の件がとりあげられてますね。
(11月9日号31頁以下)
今回の件に限らず、実は携帯業界の約款って、大なり小なり、消費者契約法の枠組みからしても、業者側の免責の内容と消費者契約法第8条との関係とか解約手数料の件と消費者契約法第9条との関係とか、条文の内容自体の消費者契約法第10条との関係とか、ツッコミどころがあるのではないかとろじゃあは以前から感じておりまして、ちょこちょこ書いてたんですけど、あとでまとめてエントリーしておきますね。
また遊びこさせてもらいます。

投稿: ろじゃあ | 2006年11月 2日 (木) 12時56分

皆様、コメントありがとうございます。
ソフトバンク社関連のエントリー、タイミングよく、いろいろな動きがみられますね。やはりソフトバンク社は、広告表示を見直しましたようです。ただ、あすくるさんがご指摘の公取委との「手打ち式」はなかったようですね。公取委は「広告を見直したからといって、行政処分を検討しないわけにはいかない」と発表して、今後も調査を継続する意向のようです。また、KDDIは景表法違反の事実に関して公取委に申告書を提出されたそうですね。これはかなり驚きですね。「一人勝ち」しているKDDIとしましても、やはり問題は看過できないということで厳格な対応を決断したようですね。コンプライアンス問題を様々なところから見ることができる材料になってしまったようです。
なお、皆様方のコメントに対します私からの意見につきましては、もうすこし事情の確認をさせていただいてから、といたします。

投稿: toshi | 2006年11月 3日 (金) 02時25分

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