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2006年11月13日 (月)

「三角合併論争」について

ここのところ、金融庁の内部統制ルールに関連するエントリーが続いておりましたし、日曜日には経済産業省も内部統制関連の情報セキュリティ対処方法を検討・公表する、とのたいへん気になるニュースもありましたので、続編を書こうかとも思いましたが、企業再編に関連する「三角合併」問題につきましても、ここ1週間ほど疑問に感じているところがありますので、そちらについて触れておきたいと思います。

13日(日曜日)から日米財界人会議が開幕した、とのことでして(東京新聞ニュース)、そのなかで争点のひとつになりそうなのが、いわゆる「三角合併」問題のようです。(外国企業が、日本子会社を利用して、株式交換による日本の企業を買収するための手法、この手続規制のあり方について、現在議論されているところです。なお法律上の問題だけでなく、株式交換に関する税制上の問題も残っております)

この三角合併問題につきましては、皆様方もご承知のとおり、株主による承認条件を厳格にすべきかどうか、ということで論争がなされており、日経新聞の11月10日朝刊では経団連副会長、在日米国商工会議所(対日直接投資委員会委員長)の双方が、それぞれ賛否両論を展開されておりました。ただ、この問題につきましては、どうも議論がかみあっていないように感じたのは私だけでしょうか。まず経団連副会長さんのご意見は、(そもそも三角合併については敵対的買収では利用できない、という意見があるが・・・との質問に対して)「敵対的買収に(三角合併が)使われることが100%ないとはいえない。たとえば発行済株式の3分の2を現金で買収した後に取締役を送り込み、残りの3分の1は株式を対価とすることもありうる」とされておられますが、そんなに心配であるならば、発行済株式の3分の2を現金で買収されない方法を考えるべきでして、そこはまさに公開買付ルールと敵対的買収防衛策をどうするか、会社を支配する株主のあり方について企業はどう考えるか、という問題に帰着します。したがいまして、三角合併の要件厳格化のための理由付けとしては説得力に乏しいように思われます。

さて、要件厳格化に反対する立場の有力根拠である「三角合併はいわゆる合併契約が必要であり、法律上、友好的買収にしか使えない(株主総会に提案するには取締役会の承認が必要)ので、三角合併自体に対する外国企業による脅威というのはありえない」との主張についてはどうでしょうか。たしかに私はこれは筋が通っており、同友会の代表理事の方も要件厳格化に反対する個人的意見を述べられたことも、正当な判断かなぁと思っておりました。しかしながら、スティールパートナーズが明星食品に対してTOBを仕掛け、これに対抗して明星食品がいろいろとホワイトナイトを探して難渋している様子をみておりますと、もし三角合併の容易化が進めば、外国企業もホワイトナイトとして手を差し伸べる余地が増えてきて、結果的には海外ファンドも、事業規模拡大を狙う外国企業も美味しい思いができる可能性が高まるのではないでしょうか。あまりこんな発想はどこの新聞にも書かれていないようですので、どっか根本的な誤りがあるのかもしれませんが、もしこういった図式が本当に予測されるものであるならば、「三角合併は敵対的買収には使えない」とは一概には言えないものと思います。今年に入ってアメリカでは大型のM&Aが急増しておりますし、海外ファンドでは金余り状態。そのうえ最近の日本の上場企業では、業績見通しへの経営者の慎重姿勢を反映して「好業績でも株価が上がらない」状態が続いているとのこと(金曜日の日経朝刊)。こういった情勢のなかで、やはり三角合併の承認手続きの厳格化という要請は(特殊決議の要件とする、ということは法制度上かなり困難だとは思いますが)、すくなくとも気持としてはわかるような気がいたします。

それにしても「好業績でも株価低迷」というのはどうなんでしょうか。よく買収防衛策を導入しないと宣言する経営者の方が、記者発表の折に「うちの企業は業績を上げることが最良の防衛策と考えている」とかっこよくおっしゃっておりますが、業績を上げても株価に反映されないのであれば、それは将来収益力を持ちながらお買い得な企業、といった評価につながってしまって、むしろ格好の買収ターゲット企業になってしまうんじゃないでしょうかね。四半期開示が恒例になり、短期の下方修正をおそれるあまり慎重な業績見通しになってしまうのが仕方ないのであれば、やはり買収防衛策を導入して、ともかく株主利益の最大化のための施策を十分検討できる体制を整えておくことも、そういった時代背景であればやむをえないのかもしれませんね。

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コメント

toshiさん、
ご無沙汰しております。しばらくの間多忙でしたのでコメントする余裕もありませんでした。敵対的買収と買収防衛策も新しい角度から見直す必要が出てきているようですね。日本ではあまり報道もなされていませんが、敵対的買収は、EUでは金額にして米国のおよそ倍ぐらいの量で行われております。言われるように買収ファンドに資金があつまり過ぎていることも背景にあります。EU各国とも買収防衛策の法律化を進めているようです。フランスのポイズン・ピルの合法化はすでに報道されていますので皆さんご承知のことでしょう。フランスの色々な企業がすでにポイズン・ピルを導入したようです(この報道はあまりなされていないようですが)。フランスでは、さらに「日産アメンドメント」と言われる法律改正も行われました。これはフランス企業へ敵対的TOBをかけるならば、当該フランス企業の保有する上場子会社へもTOBをかけなければAMF(金融市場委員会)は当該TOBを承認しないというものです。その上場子会社は、国内がを問わないという規定になっています。つまり、ルノーへ敵対的買収をしかければ日産自動車に対してもTOBをかけなければいけない、ということで「日産アメンドメント」といわれているわけです。国家主導による買収防衛策が導入されたとも言えるわけです。「経済愛国主義(ア・ラ・フロンセーズ)」という批判もなされているようですが・・・
企業業績を向上させることが最大の買収防衛策というのは、あまりにもナイーブな議論でしょう。荒々しい市場原理を利用した敵対的買収は、やがてEUから日本に移ってくるのは必然でしょう。
それから、以前投稿したときに書きましたが、スティールパートナーズの真の怖さを日本企業は忘れてしまっていたようですね。明星食品のチャートと日系ダウのチャートを並べて比較すれば、いかにスティール・パートナーズが絶妙のタイミングでTOBをしかけてきたかよく分かります。ホワイトナイトは、toshiさんが言われるように外国企業に上手に利用されることになるかもしれませんね。

投稿: こうじまち | 2006年11月13日 (月) 09時27分

こうじまちさんのコメントは非常に鋭い点を突いておられると感心しました。

私も、三角合併のみで、議論すると間違ってしまう恐れを感じます。三角合併は、キャッシュでTOBをすることと、本質は同じであり、M&Aの一つの手段でしかないと思うのです。FortressというファンドマネージャーがNYSEに上場しようとしています。これからファンドの活躍舞台は広がると思うのです。ファンドはボーダレス・グローバルの世界ですから、日本の商習慣では及びも付かないことを仕掛ける可能性があると思います。NYSEよりはアムステルダムの方が、より上場が容易であり、魅力的との話しもありますし、狭い視野で考えてしまうと失敗する恐れがあると思っております。

投稿: 売れない経営コンサルタント | 2006年11月13日 (月) 11時55分

>こうじまちさん
おひさしぶりです。コメント、ありがとうございました。
海外の事情については精通していないもので、たいへん勉強になりました。このM&Aモノのエントリー、三角合併の件だけでなく、適時開示との関係でも明星食品のケースは関心あるテーマがありそうですんで、またその節はご意見ください。今後ともよろしくお願いします。

>経営コンサルタントさん
いつもコメントありがとうございます。
海外ファンドとの御し方については考えさせられるところが多いと私も思います。MBOでも儲けられるし、ホワイトナイト出現でも儲けられるし、またTOBが成功しても、大もうけの可能性が出てくるとなると、現経営者の善管注意義務の履行方法としては、やはり防衛策導入という選択肢も十分考えられるかな・・と最近思考するところであります。

投稿: toshi | 2006年11月14日 (火) 02時45分

toshiさん、ご無沙汰しています。
怖がりすぎるのもよくないのですが、「時価総額をあげればいい」式の無邪気さも違うかなというのは同感です。
ただ、もっと広い文脈でみれば、敵対的買収論は保護貿易的な流れと密接に絡んでいるので悩ましいところです。
EUは、域内ではリベラルな資本移動制度を志向していますし、アメリカは元々巨大経済圏を抱えているわけで、そういう国際的な資本移動の中での実質的な境界線の設定に関わる問題という視点も必要なのかなと漠然と思っています。

投稿: 47th | 2006年11月14日 (火) 04時01分

EU域内は、ユーロへの通貨の統一が為替リスクをなくすということで国境をまたぐ敵対的買収が企業間で頻発するようになりました。統一通貨ユーロは諸刃の剣となっているようです。小国が国内の企業を買収されてしまうと、果たして国内のコントロールができるのだろうか、国としての体をなさなくなってしまうのではないだろうかと懸念されるほどです。すでにオランダはあらゆる買収防衛策が可能でありますし、ベルギーでは複数議決権株の復活を真剣に議論し始めていると聞いています。既報のとおり、フランスはさっさと国家主導による買収防衛策を導入しました。
企業間の敵対的買収が活発化する中で、資金が過剰に集まり始めたファンドが動きはじめたようです。ファンドへの資金は、従来は年金や各種財団からが多かったようですが、原油高からくるオイルマネーの増大した資金が流れ始めているという観測もあります。一説には、オイルマネーには50兆円の資金が入ったと言われています。
買収ファンドの動きはさらに活発化していくでしょう。

投稿: こうじまち | 2006年11月14日 (火) 07時33分

47thさん、こうじまちさん、ご意見ありがとうございます。
これまでは敵対的防衛策というもののミクロ的視点に注目が寄せられていたようですが、こういったマクロの視点からも導入の可否を検討しなければいけない時代になってきたということなのでしょうか。
とりいそぎ、関連した情報のみアップしておきますと
日米財界人会議では、この三角合併問題についてはほとんど議論されずに閉幕したとのこと。
また、本日、日清食品が明星食品に株式公開買付を行うことを取締役会議で決定する予定であり、明星側もこれに賛同する予定である、との報道がされております。今後のスティールの動きがまた注目されるところです。

投稿: toshi | 2006年11月15日 (水) 12時35分

はじめまして。いつも楽しく拝読させていただいております。
私は法律家ではないのでよくわからない点があり、教えていただきたい点があり、コメントさせていただきました。

>「三角合併はいわゆる合併契約が必要であり、法律上、友好的買収にしか使えない(株主総会に提案するには取締役会の承認が必要)ので、三角合併自体に対する外国企業による脅威というのはありえない」

個人的には上記の観点で、「敵対的買収」と「三角合併」の議論は基本的には切り分けて考えるべきだと思っています。すなわち、「敵対的買収」とは手法的には敵対的TOBが主であり、いわゆる買収防衛策はTOBを前提として策定され、「三角合併(意味合いとしては敵対的株式交換ということだと思いますが)」に対して防衛策うんぬんという議論はそもそもなじまないのではないか、と考えています。

一方で、本日日経新聞に「スパークスがペンタックスの現行経営陣の退任要求を株主提案する」という記事がありましたように、例えば大株主が統合(「三角合併」を含む)に反対する現行経営陣に対して退任要求をしたり、「三角合併」に対する議案を提出したりする可能性はあるのではないか、とふと思いました。

つまり、現行経営陣が反対している場合(すなわち取締役会が合併に賛成していない場合)においても、例えば定時総会前に外国企業が大株主に対して「三角合併による買収提案」を持ちかけ、「三角合併」を株主提案させる、という方法を用いれば、(面倒くさいながらも)「三角合併」を用いた「敵対的買収」の可能性はあのではないか…

これによって買収案件が著しく増えるとは思いませんが、買収対象企業の取締役会の意向に関わらず、「敵対的」に買収する手法は増えたのではないでしょうか?

投稿: 風街ろまん | 2007年4月25日 (水) 17時07分

>風街ろまんさん

はじめまして。コメント、ありがとうございました。
いったんコメントをお返ししたものの、昨日の日経記事や、本日日経夕刊の「ペンタックス問題は三角合併の試金石」という記事を読んでみて、いったん抹消させていただきました。
ただ、法律家としては、やっぱり「株式交換を提案する」「三角合併を提案する」といった言い回しは抵抗感がありますね。株主としては、取締役の選任、解任を通して、三角合併や株式交換を実現する、といったほうが適切かと思います。(日経記者も「株式交換を提案する」と書いておられましたけど)こういったケース、三角合併に反対する取締役はやはり敵対的TOBに対する対抗策に出るのではないでしょうか。(ペンタックスの事例では、6月総会で決着がつくことになりますが)いずれにせよ、ホワイトナイトが登場しやすくなるのと同じで、買収が容易化することに寄与するのは間違いないと私も思います。

投稿: toshi | 2007年4月27日 (金) 02時00分

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