« 2006年11月 | トップページ | 2007年1月 »

2006年12月30日 (土)

内部統制(実施基準)パブコメへの感想その2(予告編)

昨日は日本監査役協会の意見書について採り上げてみましたが、つぎに是非検討させていただきたいのが(どなたかが、コメントで書いていらっしゃった)CIAフォーラムガバナンス研究会 内部統制監査制度分科会による意見書であります。(経営法友会による意見書も興味あるところでありますが、話題性という点からすると、やはりこっちが先ではないかと・・・・・)いゃいゃ♪、この意見書は私の魂を揺さぶるものでありまして(笑)、私と同業の方にはぜひ、この監査制度分科会の意見書をご一読いただきたいお勧めの一本であります。(CIAフォーラムからはガバナンス研究会J-SOX分科会からも意見書が公表されておりますが、そちらは非常に実務的な内容への要望が中心となっております)

この監査制度分科会による意見書、公開草案のどこがおかしい、どこを修正せよ、といった普通の体裁ではございません。問題点を多数含んでおり、本来の財務報告の信頼性確保のための内部統制としては機能しない、とバッサリと切り捨てて、代替案を提示する、といった大胆な(?)構成になっております。まさに内部統制に精通していらっしゃる座長さまの自信に満ち溢れた内容であり、読んでいてまことに「ごもっとも」であります。(新会社法の解説セミナー華やかななりし頃の、あの気骨ある発言をされておられた稲葉威雄教授を想い起こしました・・・・・って、失礼があれば謝ります・・・・・(^^;))もし、今後内部統制評価報告制度が実務として定着するとなると、こういった視点から我々弁護士は、内部統制評価や内部統制監査の違法性につきまして、訴訟の場に持ち込むことができる・・・といったヒントをたくさん与えてくださってます。(ただし「監査証明」のレベルが、「監査」→「レビュー」に変更されてしまいますと、そういった可能性も薄れてきてしまうのですが・・・・)この意見書につきまして、金融庁内部統制部会としましては、真正面から反論は可能なのでしょうかね?どんなコメントがこの意見書の内容に対して付せられるのか、いまから非常に楽しみにしております。私の公開草案に対する疑問の数々も、この意見書のなかに含まれておりまして、年明けにでも、きちんと内容をフォローしてみたいと思っております。(ということで、本日は予告編のみとさせていただきます。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年12月29日 (金)

内部統制(実施基準)パブコメへの感想その1

(12月29日午後 内容を若干修正、追加しました)

「財務報告の信頼性に係る内部統制報告制度実施基準」の公開草案につきまして、各団体より、意見書が提出されているようでして、「意見書の内容について先生のご意見をお聞かせください」といったご要望がいくつかございました。そもそも意見書への対応は金融庁が行うものでありますので、私なんぞが意見書への賛否を申し上げることはたいへん畏れ多いのですが、ちょっと「年末年始スペシャル」といたしまして、日本監査役協会さんや、その他の著名団体さんのお出しになった意見書の内容について考えてみることも、私自身の考えの整理に有益と思い、採り上げてみることといたしました。(内部統制モノは、どちらかといいますと、普段の業務に関連するところでありますが、普段は具体的な対策を検討することが多いわけでありまして、あまり理論を詰めて考えることもありませんが、ともかく今回はいろいろと理屈について考えてみたいと思います)とりあえず、最初は日本監査役協会さんの意見書(PDF形式)についてであります。(実は日本監査役協会さんからは12月27日に「内部統制に関する社長アンケート結果」(PDF形式)も公表されておりまして、こちらもたいへんおもしろいですよ。)

A4で4ページの比較的短めの意見書でありますが、中身はいつもの日本監査役協会さんの意見書と同様、委員の方々が「あれこれ」と議論をされて、十分推敲されて提出されたものであろうと推測されます。金融庁内部統制実施基準への総括的な意見内容としましては、その3ページ下のほうに記載されておりますように、「監査役又は監査委員会はモニタリングを行う立場にないばかりか、監査役又は監査委員会が内部統制に関して及ぼしている影響等について、監査人から「考慮」される立場にもありません」というところに集約されているかと思われます。要はこの内部統制報告制度の実施基準は、内部統制に関係を有する各会社機関等の役割と責任について、経営者にやや力点を置きすぎているといった批判が妥当するのではないか、というものであります。以前、「酔狂さん」のご質問にお答えする形で、監査役と内部統制監査への相当性判断の可否についていろいろと検討いたしましたが、会社法上の権限分配の理論と内部統制制度との関連性という論点につきましても、以前からけっこう難問だなぁと私も感じておりました。私はこの日本監査役協会さんの意見書を読みまして、監査役さんと金融庁内部統制ルールとの接点として、以下のようなアプローチがあるのではないか、と考えております。本日はその視点だけを適示するにとどめておきます。(以下はあくまでも、私自身の個人的見解であります)なお、日本監査役協会さんの意見書の内容は、監査役監査基準の条文(現在公開草案が出されているものも含めて)との整合性にも留意して検討する必要があろうかと思われますので、本格的に検討したい方には、そちらもきちんと把握されることをお勧めいたします。

1 会計基準の「法規性」と監査役の違法性監査

会計基準というものが、果たして「法」としての強制力をもちうるのかどうか、という論点につきましては、以前からこのブログでも何度か続きモノで検討してきましたが、このたびの内部統制報告制度におきましても、この実施基準というものは「一般に公正妥当と認められる会計の基準」に該当するわけですから、他の会計基準と同様のレベルで「法規範」性を有するものかどうか、そのあたりを議論する必要があるのではないでしょうか。法規範性を有するものであるならば、経営者による評価基準や内部統制監査人による監査基準の適用につきまして、監査役による監査対象に含まれるでしょうし、たとえ違法性監査の内容に含まれないとしましても、その基準の適用が著しく基準の趣旨と異なる場合にはやはり監査の範囲に含まれてくるのではないか、と思われます。(このあたりは会社法監査の場合は「監査役の会計監査」の範囲内の問題でしょうが、証券取引法上の監査については別途検討されるべき問題だと思います)こういった監査役の監査の範囲と会計基準の法規範性の関係については検討されたのかどうか、というところがまず気になります。(なお、会計基準の法規範性の論点につきましては、江頭先生の「株式会社法」560ページ以下が詳しくて参考になります)

2 COSOフレームの位置づけ

監査役の「内部統制に関する独立的評価」というものが、全社的内部統制の評価要素のひとつとなることは理解できても、その監査役の内部統制に関する独立的評価そのものが、モニタリングの担い手と評価されることについて、疑問が呈されています。ここで検討すべきなのは、内部統制報告制度の実施基準におきまして、COSOフレームはいかなる役割を与えてくれているのか、ということであります。「監査人がモニタリングの担い手として位置づけられている」との表現からしますと、COSOフレーム自体を目に見える形でイメージされているのではないでしょうか。そもそも私の理解では、COSOフレームは経営者評価のための概念であって、あくまでも「モノサシ」にすぎないというものであります(COSOフレームとコーポレート・ガバナンスのあり方とは無関係であります)。したがいまして、もし経営者や監査人が監査役の内部統制評価へのかかわり方を「考慮」したとしましても、その後COSOフレームの構成要素を「いじる」、つまり監査役の独立的評価方法に経営者が変更を加えるような作業ができるかどうか、といったこととは別問題だと思います。つまり「いじる」ことが可能なのは、監査役(監査委員会)自身であるわけですから、監査役による内部統制の独立的評価とCOSOフレームを構成要素とした経営者評価、監査人監査とは会社法等の既存の法制度(つまり監査役の権限の問題)とは矛盾しないものと思うのですが、このあたりはいかがでしょうか。私自身は、監査役が独自の観点から「内部統制」を監査したり、その権限と職責をまっとうしている姿を、投資家保護という目的のために「モニタリング」という構成要素を通じて援用するにすぎないのであって、監査役の権限、職責を制限したり、そのあり方を変容させたりすることを意味するものではないと解しております。

そもそも、この会社法上の監査役の権限と責任の問題をここで取り上げるのであれば、金融商品取引法上の内部統制報告制度とコーポレート・ガバナンスの関係についても議論する必要があると思います。投資家保護のための企業情報開示制度の一貫である内部統制報告制度は、これまで会社法上のコーポレート・ガバナンスの議論とどういった関係に立つのでしょうか?企業の内部管理体制自体を株主に開示するものであればガバナンスの議論とは関係が深くなると思いますが、そもそも私は「経営者確認書制度」と同様、内部統制報告制度はあくまでも財務情報の信頼性担保のための制度と解釈しておりますので、コーポレート・ガバナンスの議論とはあまり関係がないと考えております。そもそもネーミングを「内部統制評価報告制度」と称すべきだと思っておりますが、ここでの議論におきましては、あまり会社法上の監査役の権限や責任との関係を重視する必要はないように思うのですが。たしかに、「モニタリング」の担い手として、取締役会や監査役(監査委員会)の監視機能が経営者評価の対象となる、ということは、経営者と監査役、取締役会との「上下関係」を連想させるものであることは否めないところですし、ここに監査役協会さんが異議を述べるのも「もっとも」のように思えます。しかしながら全上場企業への一斉適用を前提として、かつ、経営者不正防止を最大の目的とする制度設計を施し、そしてダイレクトレポーティングを採用しない監査制度を前提とした「内部統制報告制度」である以上は、実務的に内部統制監査人と、内部監査人、監査役、取締役会との情報共有を促進して、監査の実効性を高めるためには「やむをえないもの」として工夫されたところではないかのかなぁと。(ホンネのところでいえば)ただ、私はCOSOフレームの捉え方や、内部統制報告制度とコーポレート・ガバナンスの関係などからみて、かろうじて論理破綻は解消できるのではないかとみております。

3 会社法施行規則との関係は?

上場企業の場合を念頭に置きますが、会社法上の内部統制システムの構築(業務の適正を確保するための体制構築)にあたりましては、取締役会は監査役の職務の実効性を確保するための体制整備についても、会社法施行規則のなかで規定しております。(規則100条3項)一般に内部統制システムの整備と申しますのは、そのなかには、監査役の職務の実効性を確保するための環境整備もありますし、そういった体制がうまく運用されるような仕組みや運用状況を検証する仕組みも「システム構築」のなかに含まれるものと思われます。そのあたりも取締役会の専決事項でありますが、それは監査役の内部統制に関する独立的評価と矛盾しないのでしょうか、しないとすれば、金融商品取引法上の内部統制ルールとどこが違うのでしょうか、そのあたりも興味深いところでありますし、議論の整理が必要なところではないか、と考えております。

つい先日、監査役協会より監査基準の改訂(公開草案)がリリースされておりまして、そのなかに「監査役による内部統制監査指針」なるものの存在が明らかにされております。その監査指針というものの詳細はまだリリースされておりませんので、おそらくこのあたりの整理と、今後の内部統制実施基準の確定をまってリリースされるのではないか、と思われます(つづく)

| | コメント (7) | トラックバック (0)

2006年12月28日 (木)

ブログの1年を振り返る(少し早いですが・・)

私のブログは、アクセス数がほとんど午前8時から午後6時に集中しておりますので、おそらく皆様方は28日にご覧になるのが今年最後・・・・ということになろうかと思われます。そこで今年1年の私のブログを少しばかり振り返ってみます。

今年もアクセス数が異常に増えたネタがいくつかございました。第1位は「王子・北越事件」でした。「小僧さん」お元気にされているでしょうか?現役の王子社員の方のご登場は、やはりブログの「リアル感」を増幅させていただけたと思います。私自身も小僧さんのコメント登場に期待するところもありました。第2位は堀江氏逮捕、ライブドア強制捜査に関するエントリーでした。著名ブロガーの方々とのコラボを通して、ずいぶんといろいろな方に閲覧していただけるようになる「きっかけ」となりました。生まれて初めて生放送のラジオ番組に出演させていただいたのもこの頃でした。第3位は阪神阪急統合問題でした。連日、自論をブログで展開いたしましたが、少数派意見にとどまっておりました。私はいまでもこの統合は「?」と思っております。結論が出るのはいつになるのかはわかりませんが。

その他にも、村上氏逮捕関連のエントリー、内部統制解説セミナーに関連するエントリーなど、ずいぶんとたくさんの方にお読みいただきました。地方弁護士による「場末のマニアックなブログ」と自ら認識して、言いたいことを自由に書いてきたつもりでありますが、先日「みつたか」さんからご指摘のありましたように、どうも最近はそうも言っていられない状況になりつつあります。「弁護士」という肩書きと実名で記述していることから、その社会的な反響は自分で考える以上に大きなものになるときがございます。本当にいい加減なことを書きづらくなってきたように思います。ブログを修正することも多くなりました。しかし、だからといって、「書くのが億劫になる」ことは(私の場合)ほとんどございませんよ。もうすでに1年以上、このブログを書き続けてきまして、実力は閲覧されている方々に見切ってもらっておりますので(笑)、あまり「ええカッコ」する必要はございませんし、真剣にご批判や異論を唱えていただける温かい閲覧者の方との楽しい交流は、なによりもエントリーをアップするところから始まるわけですので、本当に刺激のある毎日でございます。

さて来年のトレンド予想でありますが、私のブログのテーマと関連するところでは、「課徴金制度の行方、行政処分と企業のレピュテーションリスク」「友好的M&Aの一貫としてのMBO(少数株主の締め出し)」「監査法人改革制度は、企業不正を防止できるか」「企業が自己申告する社会(公表義務と報告義務)」「内部統制の議論の更なる進展」あたりではないか、と予想しております。証券市場や一般事業会社を巻き込んで、これらのテーマが具体化する事例がいろいろと発生するのではないか、と考えておりますが、皆様方はいかがでしょうか。弁護士団体の役員の任期が切れる3月以降は、また本格的な訴訟事件が増えそうな気配ですし、ロースクールの教員にも就任が決定いたしましたので、果たして今年と同じようにエントリーをアップできるかどうかは未定でありますが、関心の高い分野を中心に、できるだけ議論の場をご提供していきたいと思っておりますので、またよろしくお願いいたします。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2006年12月27日 (水)

弁護士と「内部統制」の関係(1)

今年の日経新聞社「弁護士」に関する調査結果が26日朝刊の一面に出ておりました。企業アンケートで「今後弁護士への依頼が増えそうな分野」として「訴訟などの紛争解決」に続いて「内部統制・コンプライアンス」(61%)とありまして、いっぽう弁護士からみて企業の依頼が今後増えそうな分野としましては「内部統制・コンプライアンス」がトップ(68%)とのこと。第2位の「友好的M&A」(52%)につきましては、そもそも法務DDがこれまでの弁護士の業務と密接に関連しておりますので、とても納得できるところなのですが、「内部統制・コンプライアンス」分野が、同業者からみても「今後依頼が増えそうな分野」としての共通認識が出来上がっている、というのはとても意外であります。(ひょっとすると、「内部統制」なる言葉よりも「コンプライアンス」なる言葉のほうに、企業担当者や経営者の方は敏感に反応なさったのかもしれませんが。なお、アンケート対象とされている「弁護士」とは、主に企業法務に従事されている弁護士のことだそうであります)東京の大型法律事務所では、それぞれの事務所におきまして、内部統制分野に関する著名な論文や書物を出されている弁護士の方もいらっしゃいますが、あまり関西では「私は内部統制、コンプライアンスに特に関心があります」とおっしゃる先生は、ほとんどお見受けしないようです。

財務諸表監査において、常にこれまで「内部統制監査」に親しんでこられた会計士の先生方と違って、弁護士の場合、この「内部統制」との「出会い」といいますか、「なれそめ」といいますか、そういった出会うキッカケそのものがあまり存在しないのではないか、と思います。私の場合もいまから約5年ほど前に、総合病院のM&Aに何度か関与しておりましたが、たまたま経理担当者や理事長の業務上横領の「証拠固め」を依頼され、いわゆる「不正検査」の仕事に従事することがキッカケとなり、コンプライアンスや内部統制に関連するお仕事に関心を持つようになりました。「よし!これから内部統制を専門にするぞ」と宣言をして、専門知識を習得して、といったことではまったくありません。いまでも体系的に勉強した経験がないものですから、ときどき大きな誤解をしているのではないか、と不安になることもあります。そもそも「何を勉強したら内部統制の専門家になれるのか」よくわからない分野だと思いますし、非常に企業法務にとって大切な分野であることは理解しておりますが、地味でそれほど儲からない(^^;商売だと考えておりましたので、同業者の方々が「今後依頼される可能性のある分野のトップ」と評価されていることにつきましては、「ホンマかいな?」といった印象が素直なところであります。いろんなところで「内部統制」に関連するテーマの講演を今年一年させていただきましたが、会計士さんの視点、内部監査担当者の視点、監査役さんの視点、企業企画部の視点と、それぞれが共通認識のもとで一致しているというわけではありませんので、やはり弁護士からみた内部統制というものも、少し他業種の方からみたものとは異なるのも「あたりまえ」なのかもしれません。また、本来「内部統制」という用語そのものがはっきりとした外縁がなく、ぼやっとしたモノを表現していることは間違いなく、将来的にはもう少し細かく区分できるような体裁に変わっていくことも考えられます。

いずれにしましても、私的には「もっと内部統制に関心を持つ弁護士が増えてもいいのではないか」と感じておりましたので、関西において「企業価値向上を目的として内部統制を語れる弁護士」を育成しよう(もちろん私自身も含めて)との意識のもとで、大阪で研究会を立ち上げて、効率性向上やIPO支援、コンプライアンス経営に関する具体策の社内浸透などを図るための業務活動(単なる研究ではなく、金融機関さんや会計士さん、財務アドバイザーさん、ベンチャーキャピタリストさんなどのお力をお借りしてのお仕事の場)を準備しております。(といいましても、私は代表ではなく、副代表でありますが。。。)来年はいよいよ本格的な活動に入ることと思われますので、またこのブログでも、そういった活動を(もちろん守秘義務に反しない範囲で)ご紹介していきたいと思っております。本当にこういった分野に興味を抱いてくれる若手の弁護士さんが集まってくれるのかどうか、一抹の不安を抱いていたところでありますが、きょうの日経アンケートの結果をみて、すこしだけ明るい気分になりました。

「内部統制」と言われるものは、なにも「日本版SOX法」に限られるものではございません。弁護士の視点からの「内部統制」、企業にとって役立つリーガルサービスのあり方というものも、私なりにいろいろと検討しているところでありますので、またこのシリーズの次回以降、少しずつではありますが、オリジナルな見解としてご紹介していきたいと思っております。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2006年12月25日 (月)

日興コーディアルの役員会と内部統制

(12月25日深夜追記あり)

ブログの更新が進まなかったこの2週間ほどに、金融審議会から「監査法人制度改革報告書」がまとめられたニュースや、日興コーディアルグループによる(とされている)不正な会計処理に関する一連のニュースなど、このブログをお読みの方には関心のある話題が世間で賑わっておりました。なかでも、23日の日経朝刊では、社外役員による反対意見を押し切る形で2005年3月期の利益水増しに関する決算書が作成されていた、というニュースは、「社外取締役、社外監査役と企業コンプライアンス」をテーマの一つにしている当ブログとしても、たいへん関心のある記事でした。日興側が課徴金納付に応じる、ということのようですので、果たしてどこまで証券取引等監視委員会の把握している情報がオモテに出るのかは不明でありますが、これだけ「内部統制」に関する社会的な関心が高まっている時代ですので、ぜひとももうすこし内容が明らかになってほしいなぁと思っております。たとえばダスキン(大肉まん違法添加物混入に関する)株主代表訴訟におきましては、違法添加物混入の事実が調査委員会の把握するところとなった時点におきまして、おひとりの社外取締役の方が「いまならまだダスキンの信用低下を食い止めることができるから、ともかくも早く世間に公表すべきである」として当時の社長に書簡を送っておられたのでありますが、この方は代表訴訟の被告からははずれておりました。たとえば、今回の日興の事件におきまして、もし「企業ぐるみ」の不正会計処理、といった認識が正しいのでありましたら、取締役会における意思決定についても今後議論の対象になってくるものと思われますが、「粉飾ではないか」と疑義を表明していた役員の方々の責任というものについてはどのように考えればいいのでしょうか。軽々に意見を述べることもできないかもしれませんが、基本的には取締役会議事録に、その意見表明(最後まで反対の意思をもっていたことを示す)が記入されていない限りは、賛成されていた役員方と同様、「消極的ではあるにせよ、賛成の意思を表明していた」と評価されることもありうるのではないか、と考えます。

ただ、上記の取締役会におきましては、すでに監査法人による適正意見が述べられている、という事情があったようですね。社外役員の方々にどこまで財務会計的知見がおありだったのかは存じ上げませんが、公正妥当な会計基準の適用に関する問題点に関する意見の相違があったのでしょうから、ある程度は監査法人の意見にしたがって「やむをえず賛成した」ということが真実でありましたら、免責される可能性も高まるかもしれません。(このあたり、まだ真実がどのようなものであったのかは、報道されているところからは判明していないようですが)しかし、こういった重大な問題が、あいかわらず企業トップだけが責任をとって決着される、ということでありますと、内部統制ルールを導入したり、経営者による確認書制度が法制化されたり、といった制度改革も、これから先、どこまで有効性を持つのか、すこし不安になってしまうのではないでしょうか。とりわけ今回のように、証券取引等監視委員会が課徴金を課すための前提として、さまざまな調査をして、結論として対象企業の内部統制に問題あり、とした場合に、その企業の(経営者による)内部統制評価を適正とした監査法人は、その適正意見になんらかの責任が発生しないのでしょうか。金融商品取引法の成立に当たり、衆参両議院から附帯決議がなされておりますが、その決議によりますと、課徴金制度については、その運用をみて2年ほどで見直しをする、とあります。したがいまして、ここ2年ほどは、(運用実績を作る必要がありますので)積極的に課徴金賦課を前提とした調査や報告の徴求、さらには金融庁への勧告、建議がなされることは間違いないと思いますが、そういった活動のなかで、経営者の内部統制評価や内部統制監査人の評価と食い違う場面というものがいくつも出てくることが予想されます。「内部統制の限界」論で逃げてしまうことや、内部統制報告制度と課徴金賦課制度とは、その制度目的が異なるから、評価が異なることもあたりまえ、と主張することなども考えられますが、こういった場面で、内部統制報告制度が有効に機能しないことをはじめから認めてしまうといたしますと、ずいぶんと財務報告の信頼性確保という制度趣旨からすれば、魅力が半減してしまうようにも思います。

このたびの不正会計処理に関する事案におきましては、当時の監査担当法人の方々が、「どのように訂正報告書をまとめるか」苦渋されているとお聞きしておりますが、今後も課徴金制度と内部統制報告書制度や確認書制度との関係で、監査法人さんが苦労される場面というものがしばしば起きるのではないでしょうか。そういった意味で、金融審議会で話題になっておりました「監査役による監査人選任権、報酬決定権」など、会社法上の監査役の権限強化によって、監査人の独立性を強化する、ということも十分検討されるべきではありましょうが、そうなりますと今度は監査役の責任も現状よりも重いものになるような気もしますし、ここでもムズカシイ問題が発生してしまうことになりそうです。この論点につきましては、もう少し日興コーディアル問題の帰趨をみてからまた検討してみたいと思っております。

(追記)

日興コーディアルの会長、社長辞任会見の席で、特別調査委員会による解明がなされる予定であることが明らかになったようです。(毎日ニュース)記者会見では組織的関与があったことは認めるものの「利益かさ上げを目的としたものではない」と弁明されておられます。では、何のために監査法人と協議のうえ、SPCの連結はずしが行われたのでしょうか。

| | コメント (1) | トラックバック (2)

2006年12月23日 (土)

いよいよ本業復帰・・・

本来ならば、この時期「メリークリスマス」バージョンでありますが、今週私の父が逝去いたしましたので、今年はクリスマスも年始のご挨拶もご遠慮させていただきます。ブログをご覧の方はご承知のとおり、先週からほとんど新しいエントリーをアップすることができませんでした。すでに期日が入っていた裁判と、きょう(22日)を含め2本の講演をなんとかこなしましたが、ともかくタイトで厳しい毎日でした。2年半の父の闘病生活、そして私達家族にとりましては2年半の看病生活、病院の談話室で深夜ブログを更新していた時期もありましたが、悔いのない最後の数ヶ月を父とともに送れたことは、なによりも感無量であります。昨日の告別式も、泣かずに挨拶できましたし、無事、父を来世に送ることができました。

さて、いよいよまた元気に本業に復帰いたします。このブログも平常どおり更新していきたいと思っております。(本日はめずらしく私事を書かせていただきました。メリークリスマスとは申しませんが、皆様方におかれましては、どうか楽しい休日をお過ごしくださいませ。。。)

| | コメント (12) | トラックバック (1)

2006年12月20日 (水)

レックスHDのMBOと少数株主保護(4)

前回の(その3)には、皆様方より、たいへん示唆に富むご意見、本当にありがとうございました。みつたかさんや、カネボウ株主さんのご要望のお応えしまして・・・というわけではなく、やはり私自身もこのテーマには非常に関心がございますので、まだまだ続きモノとして議論の材料をご提供してまいりたいと思っております。ずいぶんと過分なお褒めの言葉を頂戴しながら、またご期待に添えないものかもしれませんが、お付き合いのほど宜しくお願いします。

弁護士であれば、もう少し高尚な議論を展開したほうがいいんじゃないの?といった自問自答もあるんですが、なにせ素直に考えて、そっから疑問点を浮かび上がらせることのほうがブログ的には面白いでしょうし、お読みになっている方と一緒に考えるほうが社会的意義はあるでしょうから、以下のお話はレックス問題のみならず「上場廃止に伴うTOB」一般に通じるものとしてお考えください。そもそも、unknownさんがおっしゃるとおり、MBOにおける少数株主保護の論点というのはかなり以前から米国でもドイツでも議論されているところのようで、それなりに明解な結論が出ているものでもなさそうですんで、簡単に回答が出るものでもないのかもしれません。ただ考えるのがムズカシイのは、会社法と証券取引法とが交錯するところに位置する論点であるところに起因すると思われますが、日本の会社法と証券取引法の解釈次第では、米国ともドイツとも違った考え方というのもアリ、のような気がします。

1 なぜ少数株主は保護されなければいけないのか?

「少数株主の保護」と一口で言いますと、とても耳に心地いい響きでありますが、そもそも「少数株主」とは何を指すんでしょうか?議決権の過半数を握る株主との比較においてでしょうか、それとも3%保有しているだけの支配株主に対比される(数のうえでは多数に属する)一般株主を指すのでしょうか?それと「保護」というのは何を指すんでしょうか?「売却の機会確保」を意味しているのでしょうか、それとも財産的価値の確保を意味するのでしょうか?とりあえず、上場企業の非公開化、という側面において「少数株主の保護」という問題を議論する場合において、この定義が論者の間できちんと共有できているかどうか、そのあたりが私にはよくわからないところです。たとえば今回のレックスHDのMBO事例におきまして、一般株主からみて著しく低いTOB価格が提示されていると仮定した場合、「なに?23万円?じゃあ、うちは25万円で競合TOBをかけましょう」と考えて、競合他社がTOBをかけてきた場合、一般株主の方はMBOに応じるのか、競合者に応じるのか選択の余地が出てまいります。アメリカにおきましても、競合者が出てきたときのMBOの成功率は80%から50%まで落ちる、といった実証研究の結果も公表されておりますが、経営者としても簡単に競合者に反対するわけにはいかなくなるんじゃないでしょうか。こういった場面でも、さらに一般株主は「保護」される必要はあるのでしょうか?閉鎖会社も含めた「会社法マター」の問題として考えるのであれば、株主の財産的利益の確保、という視点を重視することも納得できるのですが、上場企業の非公開化という、証券取引法にも関連する場面を想定しますと、そのあたりの定義をはっきりさせておかないと「少数株主を保護」する必要性といいますか、制度趣旨のようなところが明確はならないものと思っております。また「少数株主は被害者」ということについてでありますが、印象としては3%を保有している支配株主が、強圧的なTOBをかけて一般株主から「シブシブ」株券提供を応じさせる、という図式になろうかと思うのですが、誰がどのような行為によって一般株主の法的利益を侵害した、というのでしょうか?現に、カネボウの役員の方々は特別背任罪で「告発」されているわけでして、被害者から「告訴」されているわけではありませんし、また株主代表訴訟といいますのも「会社に損害が発生しているから、会社に賠償責任を履行せよ」というものでして、一般株主の方々が、第三者責任を追及しているものでもありません。したがいまして、こういった株主の方の行動からは「株主の被害」というものが明確にははってまいりません。会社法上の「株主保護」として考えればいいのか、それとも証券取引法上の「投資家保護」として考えればいいのか、あるいはその両方なのか、そのあたりの考え方次第でも、先の疑問への回答は違ってくるように思われます。

2 会社法における株式買取請求権

最近はレックスのようなMBOが次第に増えてきておりますし、成功例がいくつも誕生すれば、来年あたり上場企業の非公開化(一般株主の締め出しを伴う)が益々さかんに行われるかもしれません。そこで、経営陣やそこに資金を投入するファンドや事業会社のMBOリスクについて考えてみたいと思います。さてどのようなリスクがあるのかな・・・と考えてみますと、先にも書きましたが、同業他社によって競合TOBをかけられる、というリスクとか考えられますよね。経営陣としては、このリスクをどう回避すべきか。この点については、MBOに関する開示情報のなかで、短期的には業績は落ちることが予想されるが、5年10年の長期展望においては企業の将来は明るい、と説明することで、「上場のままで短期のシナジー効果を得ることはできませんよ」という意思表示をハッキリさせて、短期的利益を必要とする競合他社によるTOBを予防する、ということが考えられるでしょう。そしてもうひとつのリスクとしましては、会社法上、少数株主に付与されるべき株式買取請求権の「公正な価格」についてではないでしょうか。興味深いのは、この株式買取請求権の条文が旧商法と新会社法とでは大きく変わったことですよね。以前は「もし合併がなかったならば、得られたであろう株主の利益」と解釈されていたわけですが、新会社法においては「公正な価格」、つまり企業の結合を前提として、そのシナジー効果があった場合に、そのシナジー分もすべての株主に適正に配分されているかどうか、という視点から適正な価格を考える、というものであります。(これを「新会社法実務相談」(377ページ)風に申し上げますと「株主に公正な対価の合併があったら、合併後におかれたであろう立場を保障するもの」だそうであります。)会社法上の株式買取請求権は、立派な裁判規範であります。これは裁判所が適正価格を決めるモノサシであります。つまり、「公正な価格」というものを、先に上げたような定義といたしますと、裁判所が非訟事件手続におきまして、「公正な対価の合併であったか、なかったか」を判定しなければならないわけでして、対象企業が上場企業の場合でしたら、当然に市場における株価形成の経過も考慮せざるをえないのではないでしょうか。しかし、上場企業の非公開化の場面におけるTOB価格というのは、その是非を一般株主が判断できるほどの情報というものは公開されているのでしょうか?そもそも証券取引法において企業情報が株主に開示される趣旨といういいますのは、私が理解しているかぎりでは投資家保護よりも迅速、公正な価格形成のため、というのではなかったでしょうか。(金融商品取引法の立案担当者も、開示制度は透明性、公正性のところで分類されています。むしろ投資家保護は、迅速な価格形成が可能となることによる反射的利益に近い位置づけではないかと・・・)そうだとしますと、そもそも十分な情報開示がなされていない場面では、この株式買取請求権の「公正な価格」を算定する前提がない(つまり価格形成機能の不全)わけでして、少数株主の最大の武器である株式買取請求権の行使自体が阻害されているような状況になってしまってるんじゃないでしょうか?もし一般株主に権利侵害が発生しているとするならば、このあたりが説得力があるのではないかなぁ・・・との疑問が湧いてまいります。同時に、経営陣側からみますと、情報をなるべく開示しない、ということも、できるだけ少数株主対策費用を低減するためのリスク回避手段としては当然のことのようにも思われます。

と、いうことでして、とりわけMBOと少数株主との関係につきましては、市場内における価格形成に必要な情報が十分開示されていたのかどうか、(このあたりは政省令でルール化される以前においては、たとえグレーでもクロではない、といった別の論点もあるかもしれませんが)ということが最大の問題点になろうかと考えておりますが、少し長くなりましたので、この開示に関するお話はまた次回にさせていただきます。(会社法と証券取引法の基本に返って考えてみますと、私は素直に上記のように思ったりするわけでありますが、まことに勝手な意見でありますので、また反論、ご批判、大歓迎でございます。)

| | コメント (10) | トラックバック (0)

2006年12月18日 (月)

金商法と監査役実務対応セミナー

日本監査役協会関西支部における研修会(金融商品取引法と監査役の実務対応)に多数、ご参加いただきまして、ありがとうございました。年末のお忙しいなか、310名の監査役さんを前に3時間半の長丁場の講演をさせていただきまいしたが、ご理解いただけましたでしょうか?(監査役サポーターさんはお越しになっておられたのでしょうか?)日興コーディアルやミサワHDのお話しを交えて、課徴金制度がこれからの一般事業会社に及ぼす影響などについて力説させていただきましたが、予想以上に早い展開になっているようです。(証券取引等監視委員会、日興コーデへの課徴金納付を勧告)連結はずしや取引先との共謀、収益認識時期のズレなど、どれも売上計上に関する典型的な粉飾決算の論点が問題となっておりますが、内部通報制度や監査法人の審査対応の厳格化などによって、今後も同様の課徴金賦課を前提とした問題はいろいろな企業で出てくると思います。課徴金賦課のための調査体制が整備されつつあることや、金融商品取引法成立時における衆参両議院の附帯決議の内容からすれば、多少問題があったとしましても、「課徴金納付」を前提とした監視委員会の活動は益々積極的なものになることは十分予想されます。一般事業会社における監査役としましては、「課徴金」が「刑事告発」にまで及ぶかどうか、自主的に訂正することで株主代表訴訟のおそれが出てくるかどうかなど、企業の社会的信用をおとしめる事態への最大限の配慮をしなければいけないところです。

また、お越しになった監査役の皆様方の最大関心事は、やはり「金融商品取引法上の内部統制報告制度」でしたね。かなりオリジナルな見解(このブログですでに主張しているところです)を申し述べましたので、またいろいろとご批判もありますでしょうが、どうかコメントにて、ご批判、ご意見をお待ちしております。(なお、今週22日は名古屋支部での講演です。また鋭いご批判ご意見、お待ちしております)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年12月16日 (土)

更新ができておりませんが・・・

たくさんのコメントをいただきながら、また「少数株主保護」に関する続編を期待されていながら、更新がままならず失礼しております。雑誌の原稿、投資ファンドからのご相談、講演会の準備と、頭の中が混乱してしまうほど忙しい状況になっておりまして、ゆっくりパソコンの前で考える時間がとれておりません。忘年会のピークは越えましたので、なんとか隙間の時間を利用して更新していきますんで、もうしばらくおまちください。。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年12月13日 (水)

「内部統制の要点」は「買い」か?

忘年会や来週の講演の準備などで、かなり時間的制約がございまして、あまりブログをシタタめる余裕もありませんが、竹村さんより「内部統制の要点」はどうですか??というご質問がございましたので、すこしだけコメントさせていただきます。

4474022378_1 実は、昨日のエントリーに書かせていただきました「内部統制実施基準(公開草案)セミナー」に参加された方には、この「内部統制の要点」(国際会計教育協会 編、第一法規)が付いておりまして、私も昨日、初めて手に取ったような次第です。パラパラっと読みましたが、unkownさんご指摘のとおり、「あれ?これって、e-ラーニングの広報誌ちゃうんかいな?」というのが第一印象でありました。(待ち時間とか、プロジェクターでe-ラーニングのデモビデオ流してましたし・・・・(^◇^;)>)

私のような法曹にとりましては、第4章(新会社法における内部統制と企業法務)はまったく不要ですし、ある程度これまでに監査法人さん主催のセミナーなどに参加された方にとりましては物足りなさを感じられるかもしれません。ただ、どうでしょうか、すでに第3章(内部統制の構築と評価に関する実務対応「内部統制の構築を効率的に進めるために」)を読まれた方はいらっしゃるでしょうか?企業会計審議会の専門委員の先生が執筆されている部分でありますが、ここは秀逸だと思います。わずか48頁程度ではありますが、経営者からみた内部統制評価実務のイメージが、執筆者の内部統制実務への考え方とともに、かなり具体的に伝わってくるのではないでしょうか。きょう、家庭裁判所の帰りに立ち寄りました、天満橋松坂屋ビルのジュンク堂書店でも販売しておりましたので、東京あたりでは比較的容易に入手できるのではないかと思います。この第3章を立ち読みしていただいて、「あれ、これは使える」とお感じになられましたら、ご購入されてはいかがでしょうか。(ちなみに、e-ラーニングがいいのか悪いのか、そのあたりは、私は存じ上げませんが・・・)

この「内部統制の要点」を読んでおりましても、また昨日の多賀谷先生のご講演を拝聴さえていただきましても、ちょっと素朴な疑問として感じますのが、「経営者評価と内部統制の不備、重要な欠陥」についてであります。「不備」や「重要な欠陥」という概念はとても規範的な概念のように理解しておりまして、はたして「不備」や「重要な欠陥」というのは一個、二個・・・というように数えられるものなのでしょうか?公開草案の「Ⅱ財務報告に係る内部統制の評価及び報告」の「②重要性の判断指針」のところでは、「不備」がいくつか合わさって「重要な欠陥」になる可能性がある・・・と書かれておりますので「不備」に関しましては一個、二個といった個数が想定されているように思われます。それでは「重要な欠陥」につきましても、やはり個数の概念は想定されているのでしょうか?先の「要点」の第3章をお書きになっている専門委員の先生は、その記述のなかで個数を想定されているようです。しかしながら、経営者が評価報告のなかで「当社の内部統制には重要な欠陥がある」と表明した場合には、監査人は「いやいや、この会社には2個の重要な欠陥がありますよ」とは言わないわけでして、単に「経営者評価は適正である」とだけ意見表明することになるわけですよね。もし「重要な欠陥」にも個数の概念が想定されるのであれば、経営者評価に個数の誤りがあれば、それを示すのが本来の監査の役割ではないかと思うのですが、いかがでしょうかね?それに、個数を問題にするならば、経営者が「重要な欠陥」と指摘した部分とは異なるところで、(監査人は気づいていた)「重要な欠陥」によって投資家が被害を被った場合、監査人が責任を問われる可能性というのはないのでしょうか。

もし(重要な欠陥を表明した経営者への監査人の意見として)「経営者の評価は適正である」というだけが想定されているのであれば、そもそも重要な欠陥の個数は、財務報告の信頼性にとってはそれほど重要ではないと考えるのが筋のように思われます。むしろ重要な欠陥というのは、ほとんどの場合が「全社的内部統制」に関わるものでしょうし、あまり個数を気にすることはなく、もっと規範的な概念だと捉えてもいいのではないでしょうか。つまり、量的(税引き前利益の概ね5%程度)な部分と質的(投資家の判断に重要な誤りをもたらす可能性のある項目)を総合的に判断したうえで、全体として「重要な欠陥があるかどうか」を考えるべきであって、個数につきましては、経営者が個別に期末日までに「是正したかどうか」を逐一精査する際にだけ考えれば足りるように思われます。

こういった疑問点があと13個ほど私的には残っておりまして、こういった疑問をどう解決しようかと悩んでおります。また実務的に詳しい方にいろいろとご教示いただけますと幸いです。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2006年12月12日 (火)

内部統制実施基準解説セミナー

金融庁企業会計審議会内部統制部会委員でいらっしゃる多賀谷充先生(青山学院大学)の「内部統制実施基準(公開草案)解説セミナー」(第一法規、国際会計教育協会共催)に行ってまいりました。八田進二先生、橋本尚先生と3人で全国講演が開催されますが、第一回目が大阪会場ということなんで、「初日講演」を聴講させていただいたことになります。第一法規の講演ではいつも利用される会場でしたが、ものすごい数の参加者(!)、はっきり申し上げて「予想どおりの定員オーバー」状態でありました。3時間の講演が終了した後も、多賀谷先生に質問をしたいという聴講者の方々であふれ返っておりまして、20名以上が質問の順番に列を作っておられたようです。(おおげさでなく、ホントですよ・・・)札幌での追加講演というのも決定されたようですね。「内部統制ブーム」真っ盛りといったところでしょうか。

感想を一言で申し上げるならば、暮れの忙しいビジネスタイムを割いて、お話を聞かせていただくだけの価値はございました。これまでの知識以上の新しい発見というものはほとんどございませんでしたが、あの「実施基準」(監査役サポーターさん流に言わせていただくと、無機質な・・・とでも言いましょうか・・・)の「読み方」を、実際に策定された方から直接教えていただくことは、記述内容の「世評との温度差」「重要性の強弱」を感じ取るためにはたいへん貴重でした。また多賀谷先生の講演を拝聴させていただき、企業会計審議会が金融商品取引法の制度目的と「内部統制報告制度」との整合性に苦慮されていたこと、四半期開示法制化における「レビュー制度導入」と内部統制監査制度のあり方が連関しており、そこにある程度の政治的配慮があったことなど、「新しい制度を責任をもって世に出す」担当者の苦しみのような部分も垣間見えました。配布されたレジメ(これは今回の全国講演で一律に使用されるものです)におきましては、「実施基準案での個別論点」として10項目が解説されており、これらも(このブログではほとんどの論点をすでにエントリーで検討しておりますが)私自身の理解を整理するためには参考になりました。

「内部統制報告制度は統制環境に始まり、統制環境に終わる」多賀谷先生の示す制度内容を一言で申し上げるとこれに尽きます。企業改革法施行後も、多数の経営者によるストックオプションの起算点偽装問題で揺れるアメリカと、企業ぐるみでの不正に揺れる日本とでは、そもそも内部統制システムの法制化に関する社会的な要請のレベルは違うのでしょうし、また「縦割り社会」である日本企業特有の弊害を除去するためには「全社的統制環境」が内部統制の要になることも理解できるところです。(ちなみに「内部統制」というのは、日本では監査論で学び、アメリカでは経営学で学ぶそうです)つまり「日本人の企業観」を基本にすえた構築の要点や評価報告の方法を検討してきた結果がこのたびの基準案および実施基準案にまとめられたものと(少なくとも私は)理解をいたしました。「システムを構築するのはいいが、運用(モニタリング)するのは日本人はニガテではないか」「そういった意味で、いままでは経理担当者が講演に参加されることが多かったが、本日は内部監査担当者の方が多い。これはたいへん喜ばしいことである」といったご発言も印象的でした。

きょうの講演を拝聴させていただき、また新たに14ほどの疑問点が出てまいりましたが、またこれからのエントリーのなかでそういった疑問点を考えていきたいと思っております。たとえば、私がいままで、内部統制報告制度のなかで、それほど検討もしていなかった問題ではありますが、多賀谷先生が「非常に重要」と指摘されていたものとして「内部統制と社員の関係」があります。つまり「人」に焦点をあてた内部統制評価です。2009年問題、つまりあと3年ほどで、いわゆる「団塊の世代」の方々が大量に企業社会から退かれるわけですが、そうなりますと「紙ベースで計算書類を作成できる人がいなくなる」ことを非常に懸念されておられました。「経理はすべてパソコンの中で出来上がること」、このことに会社は今後どう対応していくつもりなのか、これがまさに「統制環境」の重要ポイントのひとつであります。また、経営者は現場社員に内部統制の重要性をどう理解してもらうのか、その浸透のための努力そのものが「統制環境」を形成するもののようです。講演におきましては具体例を援用して説明されておられましたが、「社員を不幸にしないために会社が責任をもって導入する内部統制システム」、そのことをどう説得的に現場社員に理解してもらうか、その実際の取組みこそ、業務プロセスにおける「統制環境」の評価ポイントになるのかもしれません。

きょうの講演では「経営者における内部統制評価の方法」までの解説でありまして、内部統制監査の部分については全く触れられませんでしたが、実務におきましては、実質的なエンフォースメントである「監査基準」の運用につきましても関心の高いところではないでしょうか。そういった監査の基準にも解説いただけたら・・・とも思いました。またIT統制につきましても、ほとんど解説はございませんでしたので、このあたり企業会計審議会と世間での「力点」との温度差はやはり否めないのでは・・・とも思ったりいたしました。要は証券取引所や金融機関のように、たった数秒で500億円がふっとぶような企業では、リスク管理の一環として、それなりのIT統制が必要であり、手作業による財務報告プロセスに信頼性を置ける企業の場合には、固定電話とファックスでも十分IT対応が可能である、というものであります。まずは自社の「人」と「物的設備」の現状を十分分析するところから始まる・・・ということが基本だと思います。

| | コメント (3) | トラックバック (1)

2006年12月11日 (月)

レックスHDのMBOと少数株主の保護(3)

私のブログでは、レックスHDの株式非公開化に関するエントリーをテーマにしまして、(できるだけ客観的に)関連問題を考えてみよう・・・という趣旨で記述しているつもりなのですが、この週末にも様々な方からメールにてご意見、ご批判を頂戴いたしました。私自身は大阪在住の弁護士ですし、事件的には、どちらにも加担する義理もございませんし、第一、私の意見自体が、本件の解決にそれほど大きな影響を与えるものともまったく思いませんので、どうかご意見、ご批判につきましては、このブログのほうでお願いをしたいと存じます。(まったくの匿名で結構でございますので。)

と言いつつも、そういったご意見ご批判に影響されてか、上場企業が株式非公開化を任意で進める場合、「通常はTOB直前3ヶ月の株価を基準として30%程度のプレミアム」をのせたTOB価格が妥当であるところ、なにゆえレックスの場合には直前1ヶ月の株価を基準として10数パーセントの上乗せ価格について容易に賛同しているのか、本来ならばそのあたりをもう少し検討することのほうが先なのかもしれません。そもそも会社法におきましては、(解釈に争いはありますが、法文のうえでは無制限に)少数株主の締め出し(スクイーズアウト)は認めるわけでありますが、そうであるならば、裏を返せば、元気な会社でも、ヘトヘトの会社であっても、多数派株主は少数株主を適正な対価を交付して排除することはできることとなり、当然ながらその「対価の適正性」が「企業価値」と絡んで問題になるわけであります。(会社法施行後1年より、交付金合併自体も解禁)レックスHDの公表情報を読みますと、きちんと第三者によるTOB価格算定を行い、法律事務所のお墨付きももらって23万円という数字を算出した、ということのようですが、その内容は明らかにされておりません。

私はファイナンス理論に関してはまったくの素人ですから、どうして直前1ヶ月の時価に14%のプレミアムを上積みした金額がTOB価格として適正と判断されるのか、その推論さえ十分できないのではありますが、やはり「元気な会社」のTOBと、このレックスHDでのものとは算定根拠が違う、というところに原因があるのでしょうね。つまり支配権を譲り受けるファンドにとってみれば、支配権プレミアムは一般株主から利益として受け取るけれども、「元気とはいえない企業」であるがゆえに、既存株主とは別に一方的にリスクをファンドが負担するというわけにはいかない、もしレックスHDが元気を取り戻した場合には、一般株主は利益を確保するわけであるから、その分最初にリスクも負担してもらわないといけない、といった「理論」が前提にあるのではないでしょうか。しかしながら、こういった考え方は、「元気がない」という評価が果たして正しいのかどうか、レックスHDの場合には、今年8月の「業績予想の修正」によって一気に株価が下落したわけでありますが、こういった業績修正による株価下落は短期的なものなのか、それとも今後の株価下落傾向に歯止めをかけないものなのか、そのあたりの説明も必要になってくるように思えるのですが、いかがでしょうかね。以前、産活法認可を受けたカネボウ株式の少数株主保護に関するエントリーの際、47thさんからご教示いただきました点(単純にMBO価格が問題となる場面と、カネボウのように事業精算もありうる状況での事業再生がからむ場面とでは、支配権プレミアムの移転についても考え方が多少異なる、という点)などを参考にしましても、やはり今回の場合におきましては、単純に事業再生プレミアムがファンドから一般株主に利益として移転する事案に該当するものとは言えないように思いますし、もし一般に低額と評価されるところの今回のTOB価格が適正とされるのであれば、やはりその算定根拠をもう少しきちんと株主に対して説明する必要があると(少なくとも私は)考えます。

そして、このTOB価格の合理性の論点をひとまず置くとしましても、やはり一般株主の利益確保のために、レックスHDが「賛同の意思表明の前に行っておくべき何か」が必要ではないかと考えております。これは複雑なTOB価格の妥当性ということよりも、低額の株価をTOB価格として提示された株主にとっての「納得」の問題だと思います。ここには公衆縦覧型の「開示制度」にとって何が大切なのか(迅速・適正な価格形成機能?それとも株主保護の要請?)という大きな論点が潜んでいると予想しておりますが、これはまた次回に検討してみたいと思います。(なんだか、この「任意に上場会社を非公開化する問題」というのは、あまりにもたくさんの法律上の問題点を含んでいるような気がしてきまして、なかなかシリーズが先に進みませんねぇ・・・・・・笑)

| | コメント (15) | トラックバック (1)

2006年12月10日 (日)

監査法人改革案「論点整理」

12月8日の金融審議会(首相の諮問機関)に、金融庁より「監査法人改革案・論点整理」が提出され、いろいろな改革案の是非が議論されたようであります。詳細は9日の日経新聞朝刊に掲載されておりましたが、一部朝日ニュースでも関連記事が掲載されています。今後も金融審議会で関係各団体と協議され、2007年の通常国会に改正法案が上程される、ということで今後の進展が注目されるところです。

とりあえず、監査役制度と関係の深いところからまとめてみますと、

(監査役の職責と関連のある部分として)
 ・監査法人への改善命令導入(ほぼ決定) ← 監査役と会計監査人との関係
 ・監査法人に対する刑事罰導入(未定)    ← 監査役と会計監査人との関係
 ・監査役による証取監査人選任権(未定)  ← 監査役の権限強化
 ・監査法人の不正報告義務化(未定)     ← 監査役との連携、協調問題
といったところのようです。

そのほか、朝日ニュースにもありますように、監査法人への課徴金制度導入についても、ほぼ異論なく認められそうな流れになっているみたいですね。今年の中央青山の業務停止命令による実務の混乱から、課徴金制度や業務改善命令といった「中間的」処分が必要とされる理由(社会的要請?)はなんとなく理解できるところです。ただ、こういった行政処分制度が導入されますと、刑事手続とは異なり、比較的緩やかなデュープロセスによって監査法人の調査受忍義務や報告義務が認められるでしょうから、今後は監査法人自身による内部統制がきちんと整備される必要がありそうです。

ただ、現首相による「再チャレンジ政策」というのは、直接金融制度の充実とも関係しているようですので、資本市場の健全性を推進するのはいいですけど、そのしわ寄せが監査法人の権限強化や責任強化につながる、というのもなんだか片面的にすぎるように思われます。私が現在、コンプライアンス調査として依頼を受けている業務におきましても、「循環取引(宇宙遊泳?)」のからくりにいち早く気づいたのは監査法人でしたし、疑惑のある顧問先に商品納入先の企業の「売掛債権の存在」を示す証憑を強く要求したのも監査法人です。かなり監査法人の監査対応が厳しくなっていることは間違いない事実です。監査法人が顧問先企業と向き合う姿勢を少し変えただけで、顧問先企業の不正会計への対応は大きく変わるところですし、あまり大きな監査制度の改訂まで進む必要はないように思われます。むしろ大きく変えなければいけないのは、不正会計防止へ向けての経営者の姿勢だと思いますし、たとえば財務報告の信頼性確保へ向けた内部統制システムの構築にしても、経営者が不正会計防止の重要性を認識しているのであれば、おそらくそんなに大きな費用を捻出しなくても評価報告書は作成できると思いますし、適正意見も監査人からもらえると思います。(いま企業にある人的、物的リソースを、どう使いこなすか、全社的に検討することが一番です)誰かにまかせっきりにしたり、監査法人のアドバイスに完全に頼ってしまう、ということになりますと、どうしても費用は高額になってしまうのではないでしょうか。

これからの公開株式会社法のソフトロー部分を実務で支えるのは、まちがいなく「会計士さん」方です。また改正信託法の実務運用を支えていくのも、おそらく会計士さん方だと予想しております。企業社会に対して「モノ言う会計士」さん方がたくさん増えるのを、これからも期待しております。(とりあえず、今日は備忘録程度に留めておきます)

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2006年12月 8日 (金)

レックスHDのMBOと少数株主の保護(2)

企業会計審議会内部統制部会長の八田進二先生が、この5日に実施基準の解説を中心としたご講演をされた、とのニュースがありましたので、そっちをコメントしようかと思ったのですが、やはりレックスHDの株式非公開化に関する論点が気になりましたので、前回の続きであります。(そういえば企業会計審議会の加古宜士早大大学院教授がご逝去されたのですね。謹んでお悔やみ申し上げます。)

前回のエントリーには、有益なコメントどうもありがとうございました。ひさしぶりのご登場の辰のお年ごさんの一般論的コメントにつきましては、今後のエントリーの参考にさせていただこうかと思っております。(とりわけMBOと開示規制に関する論点について)このブログでのMBOに絡む論点整理につきましては、私個人の思いつきによるものですので、基本的な誤りもあるかとは思いますし、どうかまたご意見お待ちしております。

ところで、前回のエントリーでは「レックスHDのMBO・・・」と書いておりますが、正確にはSPVが公開買付を行っているわけですから、レックスHD取締役による「TOBへの賛同」がレックス株主に対して具体的にどのような問題を投げかけるのか・・・と問題を立てるべきでしょうね。(ちょっとエントリーの内容が不正確だったようです)また、前回のエントリーにおきましては、今年8月の業績予測の修正に関する開示と11月のTOB賛同との時間的な近接を問題にしているのですが(いろいろ考えてみたのですが)、ここに証券取引法27条の22の3以下の規定との関係についても検討しておく必要がありそうです。

証券取引法27条の22の3以下の条文では、いわゆる証券発行企業自身がTOBを行う際には、インサイダー取引と同様の「重要事実」を事前に公表しなければ買付を行ってはならない、ということを規定しております。何がこの「重要事実」に該当するか、ということはインサイダー取引に関する証券取引法166条2項で規定されているわけでありますが、レックスHDの非公開化につきまして、たとえ今年8月ころからバイアウトファンド会社と検討を重ねていたとしましても、そもそもレックス自体が株価に重大な影響を与える事実を秘匿したままでTOBを行うことは、この27条の22の3以下の規定によってできないことになっておりますので、むしろ8月の公表は取締役の法令遵守行為とみていいのではないか、ということであります。この規定は、純粋に発行会社が株価低落の原因となる事実を抱えているときには、TOB価格がかなり下がること(つまり買い付ける取締役にとっては、かなりお安く自社の株式を取得できること)になり、非公開対象企業の一般株主にとってはやっかいな規定ですね。そもそも株価が上昇すべき「重要事実」につきましては、当然に公表しておかねばいけないわけですが、株価が下落する要因となる「重要事実」まで含むと解しなければいけないのかどうか、規定の趣旨との関係で問題となりそうですし、レックスの場合にはレックス社そのものが買い付けるものではないために、そもそもこの規定が適用される場面とは異なるともいえそうですので、どなたか詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示いただきたいところであります。(これは公開買付一般に関連する問題ではなく、あくまでも自社株買いのためのTOB特有の論点ではなかと思われます)

2 ソフトローと株式非公開化

公開買付に関する法的問題点ということで申し上げますと、この株式非公開化のためのTOB(自社株買い)特有の論点を指摘できるかと思います。少数株主保護、ということとの関係でも重要かと思われますが、取締役の行動の適否を判断するにあたって、ソフトローが使えない、ということであります。当たり前といえば当たり前ですが、取締役が自社の株主のために忠実義務を尽くしたかどうか、株主が自己の責任においてTOBの適否を判断する材料を提供したかどうか、そういったことは上場基準や株主行動によって(臨機応変に)適正性が担保されるべきところではありますが、そもそも非公開化をめざしている以上は、「上場廃止」というサンクションが使えないわけですし、総会で取締役の解任を求めるといった行動はとれないわけですね。ここがまず、とても重要な点ではないでしょうか。もしMBOの場面におきまして、カネボウやレックスHDの事例のように「少数株主保護」といった必要性があるとするならば(ちなみに、私は被害者=少数株主、のような図式をアプリオリに抱くことには懐疑的でありまして、あくまでも証券取引法の制度趣旨からみて、少数株主権を保護する必要性があるとすれば、という仮定での話です)その解消のためには、辰のお年ごさんのご指摘のように、法律や内閣府令など事前規制によってルール化してしまうか、司法判断によって積極的に是正するしか方法がないと考えられるわけです。つまり、MBO時における株主の利益確保と取締役の利益相反問題につきましては、ソフトローによる「バランス調整」が図れない以上は、そのまま放置しておいてはかなり取締役有利な状況になってしまう可能性が高いので、立法もしくは司法判断に頼る部分が大きいのではないか、と考えております。(株主の市場売却の機会喪失と取締役の損害賠償責任の問題について書こうかと思いましたが、まだそこまで行き着くまでに考えるべき法的問題があると思いましたので、また次回にさせていただきます。また私が「少数株主」=「被害者」ではないと考える理由などにつきましても、次回に書かせていただこうかと思っております)

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006年12月 7日 (木)

皆様、たいへんご迷惑をおかけしました。。。

53時間という「ココログ」の超ロングランメンテナンスにより、しばらくエントリーができない状態になっておりました。コメントもTBも全く不通となっておりましたので、長い力作コメントをお書きになって「さあ、アップするぞ!!」と思ってクリックされた方、

「・・・・・・・汗」

といった状態になっておられたかもしれません。(事前予告すべきでした・・( ̄◇ ̄)ゞ)

本来ならば、またココログへの文句タラタラ・・・と申し上げたいところではございますが本日、ニフティが東証二部上場ということですので、ご祝儀ということで文句は申し上げますまい。。。

今後とも、ブログ「ビジネス法務の部屋」をよろしくお願いいたします。m(_ _)m

※ 残念ながらニフティは初日公募割れとなってしまったようです。(ニュースはこちら)ブログ事業に注力する、とのことですが、ホンマかいな。。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年12月 4日 (月)

レックスHDのMBOと少数株主の保護

それにしましても、土曜日(12月2日)の読売新聞夕刊の一面記事には驚きました。投資会社主導で再建を進めているカネボウ社(実際には、3事業を別会社に移すというもの)の株主500名が、ファンド会社より派遣されてきた現経営陣5名を会社法上の特別背任罪で東京地検に告訴するとのことで、東京地裁はこれを「受理する公算が大きい」とのことです。(読売ネットニュースの記事は短いですがこちらにあります)法律に詳しい方ならご承知のとおり、告訴を「受理」するということは、けっこうたいへんなことでありまして、検察や警察が、思いつきで告訴状を受け取る、というものではございません。刑事訴訟法上、告訴の受理には法的効果(捜査報告義務)が発生しますので、なかなか告訴状は受理しないのが通常であります。(そのぶん、被害届であれば特別に捜査義務も発生しませんので、よく告訴を被害届けに切り替えるように要請されることもあります)おそらく、数ヶ月前から、告訴予定者と警察、検察との事前面談があり、告訴予定者側で相当の立証方法を検討、提出し、検察側と協議のうえようやく「受理」に至ったというのが真相ではないでしょうか。カネボウ株主による営業譲渡禁止の仮処分が11月30日に最高裁で却下されて、確定したことから、特別背任罪の構成要件の一部が認定しやすくなったことも、こういった受理との関連性があるかもしれません。(これは私の推測にすぎませんが・・・)もちろん、捜査機関が本腰を上げることと、特別背任罪が立件されることとはまったく別問題ですので、まだまだ今後の捜査次第ということになりますが、いずれにしましても、取締役の「利益相反行為」というものは、信託法や金融商品取引法の成立、改正とともに、来年あたりはかなりクローズアップされるテーマになるものと思いますし、また「取締役の利益相反取引」を企業コンプライアンス的な発想から考えますと、「社外取締役」「社外監査役」の有用性をもクローズアップさせるテーマになるわけであります。(このことにつきましては、また別の機会に詳述したいと思っております)

カネボウのような産活法からみの事例ではありませんが、ファンドと現経営陣による経営改革として、最近レックスHD(牛角、ampm、成城石井)がアドバンテッジ・パートナーズ社の支援を受けて、株式の非公開化(ファンドによるTOBへの賛同)に踏み切りました。こちらもTOB価格の低さのため、そして株主優待券の充実を前面に出して個人株主を歓迎するだけしておいて、突然「個人株主締め出し」(と一般的には受け取られる)策の一方的な決定のために、レックスの個人株主による「怒り」が次第に充満しつつあるようです。(12月2日に、こちらも第一回の「レックスHDによる株式強制収用に反対する会」が開催されたようです)いつも申し上げておりますとおり、私はM&Aの専門家でもございませんし、また個人株主の方々への思い入れ、というものもございませんので、あくまでも私の思いつきだけを記述させていただきます。ただ、先のカネボウ事例での取締役の立場同様、「もし、社外役員という立場であれば、こういったMBOの現場においてどう対応すべきか」ということに非常に関心がございますので、あくまでも役員という立場から問題点を検討してみたいと思っております。ただ、このレックスHDの株式非公開化(ファンドによる100%子会社化、ゆえに継続開示義務も免除される)に関する法的論点は多岐にわたると思われますので、きょうはその疑問点のほんの一部だけに触れておきます。

1 8月下旬の業績予想修正の意味

ご承知のとおり、レックスHDより、今年の8月21日に「業績予想、修正のお知らせ」が開示されております。この業績予想修正によってJASDAQ市場におけるレックスHDの株価が暴落しております。この業績予想修正のお知らせは、後に検討されるべき「TOBの適正価格の算出方法」に影響をしてくるわけでありますが、まずこの業績予想の修正は、なぜこの時期に、誰の主導で出されたのだろうかという疑問が湧いてきます。(これは普通にどなたでも同じ疑問が湧いてくるのではないでしょうか)フジサンケイビジネスアイの記事によりますと、レックスHDの代表者はアドバンテッジ・パートナーズ(AP)に8月ころに相談に行った、とのことでありますが、そうしますとこの業績予想修正の主導者は、レックスなのか、監査法人なのか、それともAPなのか、3つのうちのどれか、ということになろうかと思います。このお知らせ内容を読みますと、特別損失の発生と売上高、経常利益(引当金の積み増しと売上債権の繰越)の減少ということでありますが、まずこれらの修正要因となった項目につきましては、いずれも株式交換に関する税制改正によって、この10月から課税対象になるものばかりであります。(特別損失に関しては不振店舗の固定資産、固定資産除去損、ノウハウなど無形固定資産の評価換え)もし、これまでと同様の手法によって株式の非公開化を目指すのでありましたら、そういった課税対象となってしまう項目については評価を低くしておくことも十分ありうる話でしょうから、つまり、この8月の段階において、すでに株式非公開化の流れというものは経営陣のスキームとして成立していたのではないか、という推測が働きます。(なお、実際にはレックスは種類株式発行会社にしてから、全部取得条項付種類株式に転換する定款変更を行い、種類株式と交換に端数株式を少数株主に付与する、といった手法をとって税制改正に対応することになりますが・・・ただ、これはこれで、また別の法律上の問題点があるのではと。これはまた別の機会に・・・)

もちろん、レックス側からは「特別損失の発生については、当期から会計基準が変わったのだから、これを計上するのはあたりまえでしょ」と言われそうでありますが、不振店舗の固定資産の評価というものは、その店舗の最近の売上だけでなく、将来の店舗の収益見込みにも影響されるものでありますから、経営者による裁量の範囲はかなり大きいと思われます。これは無形固定資産の見直しでも、引当金の積み増しでも同様のことが言えるのではないでしょうか。そうだとしますと、監査法人から強く要請がなくても、経営陣側の主導によって、このような高額の特別損失を計上することも可能になってくるのではないでしょうか(このあたりは、ぜひ会計士の先生のご意見なども伺ってみたいところでありますが)このあたりの時期から、非公開化を射程においていたとすれば、こういった業績予測の修正を行うことは株価低落に繋がることは目に見えているわけですから、株価低落後の平均株価を基準として個人株主から株を譲り受ける金額、つまりTOB価格を決定することについては、取締役の忠実義務(株主の利益の最大化をはかる義務)との関係では、ちょっと問題が出てくるのではないかなぁと思ったりもしておりますが、このあたりはどうなんでしょうかね?とりわけレックスHDの代表者の方は、TOBをかけるSPVの3分の1を保有するわけですから、株主の利益を最大化しなければいけない義務を有しつつも、一方でできるだけ安い価格で株を買取ることに特別の利益を有する立場でもあるわけです。こういった立場にある以上は、その若干首をかしげたくなる行動に対しましては、「私利私欲のために動いたのではないか」と疑われてもしかたのないところでありまして、それがゆえに個人株主に対しての十分な説明が必要になるものと考えます。これがまずレックスHD事例における私の最初の疑問点であります。ここまではほとんど法律上の論点というものが出てきておりませんが、次回には一般株主による売却機会の喪失への責任とTOBによる免責の関係について、考えてみたいと思います。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2006年12月 1日 (金)

スティール対日清食品はあるのか?

スティール・パートナーズの明星食品に対するTOBが不成立に終わり、明星社もホワイトナイトの日清食品社もとりあえず一息・・・と思ったところに、スティール社による日清食品株の買い増し。スティール社が日清食品の筆頭株主となった模様、とのことであります(朝日新聞ニュース)スティール社が日清食品の大株主であったことは、私も存じ上げておりましたが、こういった展開になることは、正直予想もしておりませんでした。ただ、当事会社には財務アドバイザーがおつきになっておられるでしょうから、このような展開もいちおうは「想定の範囲内」ということになるのでしょうかね。いや、まだ日清食品のTOB期間(12月14日まで)でありますから、TOBの帰趨のほうに留意されていて、想定外、ということもあったかもしれませんね。

ホワイトナイトとしてTOBをかけた企業が直後に敵対的買収のターゲットになる、というのは、現経営陣にとっては厳しいところがありますね。たとえば日清食品社の経営陣は、明星食品社の株価に30%の支配権プレミアム(30%の株式取得を目指すときにも、このような高額の支配権プレミアムをつけるのが通常なのでしょうか?そこのあたりも株主への説明を要すると思うのですが)をつけてTOBをかけるわけですから、明星との企業提携が日清の企業価値を高めることになる、と説明をされているわけであります。つまり企業文化が異なっていても、同業者が手を結んで規模を大きくすることは、食品業界にとっては大きなメリットがあることを公言したことになります。ということは、もし日清社が同業他社から買収提案を受けたときには、現経営陣は同じ姿勢で臨まなければならない、ということになりますよね。手のひらを返したように「いやいや、わが社は従業員を大切にしているから、従業員の意向を無視して企業価値を考えることはできない」と言いながら、買収防衛策を導入することはできないように思います。独禁法の競争制限の関係で、日本の同業他社がホワイトナイトとして出現することはないと思いますが、外国企業が救済の手を差し伸べる・・・ということは考えられるでしょうし、三角合併解禁を前にして、そのあたりまでスティールパートナーズが考えているということも十分にあり得るのではないでしょうか。870円という金額でTOBが成立した後の日清食品社に、いわゆる時価総額が含み資産との関係で「割安」とは考えられませんから、さらに大きな再編を期待しての買い増し、とみることも十分予想されると思いますが、いかがでしょうか。

しかし、日清食品社の大株主に三菱商事社が控えています。先日の王子製紙・北越製紙の買収騒動のときと同様、三菱商事社がなんらかの動きをすることも予想されますね。事業再編型の買収問題が浮上したときには、それが友好的であろうと敵対的であろうと(短期的利益に大きな影響力を有する事業効率化のカギを握っているであろう)大手商社の役割というものが今後ますます大きくなるのではないでしょうか。今後の商社さんの動きに一番注目したいと思っております。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2006年11月 | トップページ | 2007年1月 »