内部統制実施基準解説セミナー
金融庁企業会計審議会内部統制部会委員でいらっしゃる多賀谷充先生(青山学院大学)の「内部統制実施基準(公開草案)解説セミナー」(第一法規、国際会計教育協会共催)に行ってまいりました。八田進二先生、橋本尚先生と3人で全国講演が開催されますが、第一回目が大阪会場ということなんで、「初日講演」を聴講させていただいたことになります。第一法規の講演ではいつも利用される会場でしたが、ものすごい数の参加者(!)、はっきり申し上げて「予想どおりの定員オーバー」状態でありました。3時間の講演が終了した後も、多賀谷先生に質問をしたいという聴講者の方々であふれ返っておりまして、20名以上が質問の順番に列を作っておられたようです。(おおげさでなく、ホントですよ・・・)札幌での追加講演というのも決定されたようですね。「内部統制ブーム」真っ盛りといったところでしょうか。
感想を一言で申し上げるならば、暮れの忙しいビジネスタイムを割いて、お話を聞かせていただくだけの価値はございました。これまでの知識以上の新しい発見というものはほとんどございませんでしたが、あの「実施基準」(監査役サポーターさん流に言わせていただくと、無機質な・・・とでも言いましょうか・・・)の「読み方」を、実際に策定された方から直接教えていただくことは、記述内容の「世評との温度差」「重要性の強弱」を感じ取るためにはたいへん貴重でした。また多賀谷先生の講演を拝聴させていただき、企業会計審議会が金融商品取引法の制度目的と「内部統制報告制度」との整合性に苦慮されていたこと、四半期開示法制化における「レビュー制度導入」と内部統制監査制度のあり方が連関しており、そこにある程度の政治的配慮があったことなど、「新しい制度を責任をもって世に出す」担当者の苦しみのような部分も垣間見えました。配布されたレジメ(これは今回の全国講演で一律に使用されるものです)におきましては、「実施基準案での個別論点」として10項目が解説されており、これらも(このブログではほとんどの論点をすでにエントリーで検討しておりますが)私自身の理解を整理するためには参考になりました。
「内部統制報告制度は統制環境に始まり、統制環境に終わる」多賀谷先生の示す制度内容を一言で申し上げるとこれに尽きます。企業改革法施行後も、多数の経営者によるストックオプションの起算点偽装問題で揺れるアメリカと、企業ぐるみでの不正に揺れる日本とでは、そもそも内部統制システムの法制化に関する社会的な要請のレベルは違うのでしょうし、また「縦割り社会」である日本企業特有の弊害を除去するためには「全社的統制環境」が内部統制の要になることも理解できるところです。(ちなみに「内部統制」というのは、日本では監査論で学び、アメリカでは経営学で学ぶそうです)つまり「日本人の企業観」を基本にすえた構築の要点や評価報告の方法を検討してきた結果がこのたびの基準案および実施基準案にまとめられたものと(少なくとも私は)理解をいたしました。「システムを構築するのはいいが、運用(モニタリング)するのは日本人はニガテではないか」「そういった意味で、いままでは経理担当者が講演に参加されることが多かったが、本日は内部監査担当者の方が多い。これはたいへん喜ばしいことである」といったご発言も印象的でした。
きょうの講演を拝聴させていただき、また新たに14ほどの疑問点が出てまいりましたが、またこれからのエントリーのなかでそういった疑問点を考えていきたいと思っております。たとえば、私がいままで、内部統制報告制度のなかで、それほど検討もしていなかった問題ではありますが、多賀谷先生が「非常に重要」と指摘されていたものとして「内部統制と社員の関係」があります。つまり「人」に焦点をあてた内部統制評価です。2009年問題、つまりあと3年ほどで、いわゆる「団塊の世代」の方々が大量に企業社会から退かれるわけですが、そうなりますと「紙ベースで計算書類を作成できる人がいなくなる」ことを非常に懸念されておられました。「経理はすべてパソコンの中で出来上がること」、このことに会社は今後どう対応していくつもりなのか、これがまさに「統制環境」の重要ポイントのひとつであります。また、経営者は現場社員に内部統制の重要性をどう理解してもらうのか、その浸透のための努力そのものが「統制環境」を形成するもののようです。講演におきましては具体例を援用して説明されておられましたが、「社員を不幸にしないために会社が責任をもって導入する内部統制システム」、そのことをどう説得的に現場社員に理解してもらうか、その実際の取組みこそ、業務プロセスにおける「統制環境」の評価ポイントになるのかもしれません。
きょうの講演では「経営者における内部統制評価の方法」までの解説でありまして、内部統制監査の部分については全く触れられませんでしたが、実務におきましては、実質的なエンフォースメントである「監査基準」の運用につきましても関心の高いところではないでしょうか。そういった監査の基準にも解説いただけたら・・・とも思いました。またIT統制につきましても、ほとんど解説はございませんでしたので、このあたり企業会計審議会と世間での「力点」との温度差はやはり否めないのでは・・・とも思ったりいたしました。要は証券取引所や金融機関のように、たった数秒で500億円がふっとぶような企業では、リスク管理の一環として、それなりのIT統制が必要であり、手作業による財務報告プロセスに信頼性を置ける企業の場合には、固定電話とファックスでも十分IT対応が可能である、というものであります。まずは自社の「人」と「物的設備」の現状を十分分析するところから始まる・・・ということが基本だと思います。
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コメント
はじめまして。現在、会社の内部統制プロジェクト事務局という部署で働いており、段々と死刑台に近づいている気分の毎日です。そんな中で、少しでも参考になるものが欲しいということで、個人的な質問なんですが、セミナーで使われたテキスト「内部統制の要点」という書籍は、参考になるものでしたでしょうか?それともただ、自分たちの印税を見込んだセット商法としてのテキストで、特に今まである内部統制の書籍と変わらないものだったのでしょうか?スケジュールとして、これからのセミナーに参加できそうにないため、勝手な質問で申し訳ございませんが、教えてください。(結構、今まで出ている八田氏の著書の書評が悪いもので)どうぞ宜しくお願い致します。
投稿: 竹村 | 2006年12月12日 (火) 10時03分
こんばんは。
第一法規の講演会、是非行きたいのですが、田舎モンの私はなかなか行けません。
考えてみれば、この情報化・IT化の現在でも、何百人もホールや大会議室に集めて、という形式が何故いまだに好まれるのでしょうか。しかも、決して安くはない価格で(今回の第一法規のは然程ではありませんが、2-3時間で3万円くらいは結構普通ですよね。私費=お小遣いで受講できる人が果たして何人いるのでしょう?)。
この手の情報伝達(講演会)のツールとして、IT化を是非推進し、あわせて低価格化も実現して欲しいものです。たとえば、ネット配信(音声または文字で)なんかは、簡単に実現できそうなものですが(権利関係が厄介なのでしょうか)。e-ラーニングという手法も全盛ですし。
その点、数は少ないながらもホームページ上でセミナーを音声配信している某監査法人のサービス精神には頭が下がります。
本筋とは関係のない、また下世話な書込みで大変失礼しました。
投稿: 監査役サポーター | 2006年12月12日 (火) 21時47分
監査役サポーターさんご推察のとおり、この講演は国際会計教育協会のeーラーニングのための宣伝広報であります。また竹村さんのおっしゃるとおり、「内部統制の要点」はこのe-ラーニングを受講するための解説本ですから、ネット受講をしなければ完結しないものと思います。
公開草案が11月公表にずれ込んだのは、この「要点」とe-ラーニング全編編集終了に合わせたのではないか、と疑心暗鬼になってしまったのは私だけでしょうか・・・・・・・・・
詳しくは国際会計教育協会のHPにて。
投稿: unknown | 2006年12月12日 (火) 23時24分