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2006年12月 8日 (金)

レックスHDのMBOと少数株主の保護(2)

企業会計審議会内部統制部会長の八田進二先生が、この5日に実施基準の解説を中心としたご講演をされた、とのニュースがありましたので、そっちをコメントしようかと思ったのですが、やはりレックスHDの株式非公開化に関する論点が気になりましたので、前回の続きであります。(そういえば企業会計審議会の加古宜士早大大学院教授がご逝去されたのですね。謹んでお悔やみ申し上げます。)

前回のエントリーには、有益なコメントどうもありがとうございました。ひさしぶりのご登場の辰のお年ごさんの一般論的コメントにつきましては、今後のエントリーの参考にさせていただこうかと思っております。(とりわけMBOと開示規制に関する論点について)このブログでのMBOに絡む論点整理につきましては、私個人の思いつきによるものですので、基本的な誤りもあるかとは思いますし、どうかまたご意見お待ちしております。

ところで、前回のエントリーでは「レックスHDのMBO・・・」と書いておりますが、正確にはSPVが公開買付を行っているわけですから、レックスHD取締役による「TOBへの賛同」がレックス株主に対して具体的にどのような問題を投げかけるのか・・・と問題を立てるべきでしょうね。(ちょっとエントリーの内容が不正確だったようです)また、前回のエントリーにおきましては、今年8月の業績予測の修正に関する開示と11月のTOB賛同との時間的な近接を問題にしているのですが(いろいろ考えてみたのですが)、ここに証券取引法27条の22の3以下の規定との関係についても検討しておく必要がありそうです。

証券取引法27条の22の3以下の条文では、いわゆる証券発行企業自身がTOBを行う際には、インサイダー取引と同様の「重要事実」を事前に公表しなければ買付を行ってはならない、ということを規定しております。何がこの「重要事実」に該当するか、ということはインサイダー取引に関する証券取引法166条2項で規定されているわけでありますが、レックスHDの非公開化につきまして、たとえ今年8月ころからバイアウトファンド会社と検討を重ねていたとしましても、そもそもレックス自体が株価に重大な影響を与える事実を秘匿したままでTOBを行うことは、この27条の22の3以下の規定によってできないことになっておりますので、むしろ8月の公表は取締役の法令遵守行為とみていいのではないか、ということであります。この規定は、純粋に発行会社が株価低落の原因となる事実を抱えているときには、TOB価格がかなり下がること(つまり買い付ける取締役にとっては、かなりお安く自社の株式を取得できること)になり、非公開対象企業の一般株主にとってはやっかいな規定ですね。そもそも株価が上昇すべき「重要事実」につきましては、当然に公表しておかねばいけないわけですが、株価が下落する要因となる「重要事実」まで含むと解しなければいけないのかどうか、規定の趣旨との関係で問題となりそうですし、レックスの場合にはレックス社そのものが買い付けるものではないために、そもそもこの規定が適用される場面とは異なるともいえそうですので、どなたか詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示いただきたいところであります。(これは公開買付一般に関連する問題ではなく、あくまでも自社株買いのためのTOB特有の論点ではなかと思われます)

2 ソフトローと株式非公開化

公開買付に関する法的問題点ということで申し上げますと、この株式非公開化のためのTOB(自社株買い)特有の論点を指摘できるかと思います。少数株主保護、ということとの関係でも重要かと思われますが、取締役の行動の適否を判断するにあたって、ソフトローが使えない、ということであります。当たり前といえば当たり前ですが、取締役が自社の株主のために忠実義務を尽くしたかどうか、株主が自己の責任においてTOBの適否を判断する材料を提供したかどうか、そういったことは上場基準や株主行動によって(臨機応変に)適正性が担保されるべきところではありますが、そもそも非公開化をめざしている以上は、「上場廃止」というサンクションが使えないわけですし、総会で取締役の解任を求めるといった行動はとれないわけですね。ここがまず、とても重要な点ではないでしょうか。もしMBOの場面におきまして、カネボウやレックスHDの事例のように「少数株主保護」といった必要性があるとするならば(ちなみに、私は被害者=少数株主、のような図式をアプリオリに抱くことには懐疑的でありまして、あくまでも証券取引法の制度趣旨からみて、少数株主権を保護する必要性があるとすれば、という仮定での話です)その解消のためには、辰のお年ごさんのご指摘のように、法律や内閣府令など事前規制によってルール化してしまうか、司法判断によって積極的に是正するしか方法がないと考えられるわけです。つまり、MBO時における株主の利益確保と取締役の利益相反問題につきましては、ソフトローによる「バランス調整」が図れない以上は、そのまま放置しておいてはかなり取締役有利な状況になってしまう可能性が高いので、立法もしくは司法判断に頼る部分が大きいのではないか、と考えております。(株主の市場売却の機会喪失と取締役の損害賠償責任の問題について書こうかと思いましたが、まだそこまで行き着くまでに考えるべき法的問題があると思いましたので、また次回にさせていただきます。また私が「少数株主」=「被害者」ではないと考える理由などにつきましても、次回に書かせていただこうかと思っております)

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コメント

山口先生のご指摘の、MBOでは上場廃止を目指してTOBをしているので、取引所規則で規律しようとしてもうまく機能しない、というのは正鵠を得ていると思います。

この分野での、MBOの利益相反については古典的な問題(70年代にアメリカで問題となり、79年だったか13e-3による開示強化などの規制が規定された古くからある問題)ですが、最近も事案が増えたからかまた新聞等でも時折議論されるようです。
英字新聞(Financial TimesやWSJなど)でもここ数ヶ月のうちに何回かMBOやGoing Privateをめぐる問題が取り上げられていますし、11月28日か29日の日経金融新聞でもこのMBOをテーマとした記事がありました。

やはり会社の内情に通じている者が買付者側に関与しているという意味で、情報の格差があるだけでなく、昨年の案件での業績情報修正の時期をめぐる問題に現れたように、開示のタイミングについても経営陣の行動について議論の余地があり、さらに会計処理についても、選択の余地がある場合に・・・とやはり、根源から考えないとだめでしょうね、性善説では。もう少し言うと、そもそもどの時期にTOBを開始するかを考えると、株価が下落した後でしかも数年で業績回復が見込める場合に非公開化することが一番儲かるんですよね。そういう時期の選択について、経営者自身でわかっているとしたら・・・という本質的な問題があることをまず理解したうえで話をしていかないとならないでしょう。
そのうえ、インサイダーの問題、また場合によっては相場操縦や風説の流布も検討される場面があるのではないか、とも考えられます(個別の事案について言及する意図はありません。)
先生ご指摘の部分は、発行者による公開買付けの規定ですが、経営陣が公開買付者と歩調をあわせている場面では、同様の問題があるわけですから、一般の公開買付けとは規制を分けて考えることに合理性があるのではないか、と思われます。問題意識としては、先生の視点に賛同したいところです(立法論だけでなく、解釈論でもそのような方向を志向する考えがあってもいいでしょうね)。
もちろん買付者がキャピタルゲインを独り占めする形ではなく、公開買付価格の設定や時期の選択において、投資者の利益に適切な配慮をしている場合には、問題があまり顕在化しないですし、常にダメとまでいうことはないのは当然です。現状では、投資者の観点から望ましくない事態が頻発してもおかしくないといえそうなので、苦慮しています。

公開買付・大量保有報告の改正部分に関する証券取引法施行令の改正が12月5日の閣議をうけて本日官報に掲載され、施行日が12月13日と正式に公表されています(大量保有報告の改正は、重要提案行為等が12月13日、特例報告制度の頻度にかかる部分が1月1日、また残りの電子的ファイルが4月1日と数回に分けて施行)が、公開買付内閣府令が未公表です。パブコメから2ヶ月も経過している点でかなり異例ですが、今回の改正は有価証券報告書における防衛策の開示や、株式交換等について臨時報告書での開示の強化なども同時になされるため、結構実務に大きな影響があると思われます。いよいよ次のステージが始まるところという夜明け前みたいな時期なんでしょうかね、今回のこのMBOも。問題については、多くの人が認識していくこと、それが第一歩でしょうね。

ちょっと長くなってしまい失礼しました。


投稿: 辰のお年ご | 2006年12月 9日 (土) 02時07分

>辰のお年ご さん
いつもコメントありがとうございます。
とりわけご専門分野での見識を惜しみなく開示していただき、
恐縮です。

>>やはり会社の内情に通じている者が買付者側に関与しているという意味で、情報の格差があるだけでなく、昨年の案件での業績情報修正の時期をめぐる問題に現れたように、開示のタイミングについても経営陣の行動について議論の余地があり、さらに会計処理についても、選択の余地がある場合に・・・とやはり、根源から考えないとだめでしょうね、性善説では。もう少し言うと、そもそもどの時期にTOBを開始するかを考えると、株価が下落した後でしかも数年で業績回復が見込める場合に非公開化することが一番儲かるんですよね。そういう時期の選択について、経営者自身でわかっているとしたら・・・という本質的な問題があることをまず理解したうえで話をしていかないとならないでしょう。<<

バイアウトファンドとしては、数年で業績回復の可能性が高いことや、切り売りによる資産価値が高いことがMBO支援の常道ではないか、と考えるのですが、そういった選択を株主抜きに考えることができるというところが大きな問題点かと思います。筋論で申し訳ありませんが、株式には本来的に譲渡自由の原則があるわけで、それが投下資本の回収確保の道ですから、もっと株式の非公開化とTOBの議論は進展していいと思いますね。会社法成立と証券取引法の大改正が行われた現在、この問題はそういった商事法制の制度趣旨に立ち返って、もう一度議論しなければいけないような気がします。
ということで、続編では少数株主保護の問題点や、「開示」の意味などについて、株式売却の機会喪失という「大問題」と絡めて考えることいたしますので、またご教示いただければ幸いです。(ちなみに、コメントの最後の部分は知識として非常に有益です。ありがとうございました)

投稿: toshi | 2006年12月 9日 (土) 11時43分

山口先生 いつも楽しく拝読しています。少数株主保護の問題では、カネボウの刑事告発は驚きました。マスコミの報道もかなりあったようです。

TBS系「個人株主がカネボウ社長らを告発」
http://news.tbs.co.jp/20061204/headline/tbs_headline3439402.html
日本テレビ系「個人株主533人 カネボウ経営陣らを告発」
http://www.news24.jp/72537.html
読売新聞「カネボウ経営陣を告発…個人株主533人」
http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_06120508.cfm
日経新聞「カネボウ社長らを特別背任容疑で告発、個人株主500人」
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20061205AT1G0401O04122006.html
朝日新聞「カネボウ個人株主、取締役5人を東京地検に告発」
http://www.asahi.com/national/update/1204/TKY200612040405.html
産経新聞「カネボウ社長ら告発 特別背任容疑で個人株主」
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/061204/jkn061204016.htm
東京新聞「カネボウ社長ら告発へ 特別背任罪で」
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2006120401000347.html

投稿: 東京弁護士 | 2006年12月 9日 (土) 20時04分

>東京弁護士さん

はじめまして。情報どうもありがとうございます。
参考にさせていただきます。
バイアウトファンドの活動は今年にもまして、来年は
もっと活発になるのではないか・・と予想しております。
なかなかタイムリーに司法判断が出ない領域だと思いますし、
いろいろなブログで、こういった経営陣の利益相反問題などが
議論されていけばいいなぁと期待しているところです。
そういった意味で、私のブログはできるだけ双方の言い分を
客観的に検証できるようなものにしたいと思っておりますので
また東京弁護士さんの有益なご意見を頂戴できましたら幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2006年12月11日 (月) 03時04分

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